フランス旅行記B 3月19日 ベルギーへ
この写真を見て何だと思うだろうか。旗や風船を振り回し、皆一様に何処かを向いている。 中央には囚人服を着たような人が数人固まっている。彼らは何処を見つめ、何をしているのだろうか。
時は3月19日、ところはベルギー・ブリュッセル。今日はヨーロッパ最大級の労働組合連盟、
ETUC(通称ヨーロッパ労連)の一大デモが行われた。
今回の私のフランス行きはこれを見に行ったと言っても過言ではない。ETUCのウェブサイトを
見ていると、ふと「3月19日にデモを行う」といった記述を見つけた。EU加盟各国の労働組合
が参加するETUCのデモ行進は、是非とも見ておきたかった。
さて。
朝8時55分パリ北駅発のタリスに間に合わせるべく、余裕を持ってホテルを出る。
北駅到着は8時20分。充分間に合った。
パリの駅には改札がない。つまり、ホームまで自由に入れるのだが、用のない人がホームに
入ることは、まず、ない。日本みたいな鉄ちゃんは少ないのかな。
また、改札がない代わりに刻印機というものがホームの前に設置されている。
鉄道を利用する人はこの刻印機に切符を入れ、自分で刻印しなければならない。し忘れると
検察の際にキセル乗車とみなされ、罰金を払うことになる。
自己責任という点では日本よりもシビアだが、その代わりとして、切符の払い戻しは
列車が出発した後でも可能である。つまり、刻印がされてなければ(30日以内だったかな。結構
猶予期間はある)列車が出た後でも払い戻しが出来るのだ。
そんなわけで私も切符を刻印しようとしたら、機会の周りには一種異様なオーラを放つ集団がいた。 よく見てみると皆が赤いベレー帽のようなものをかぶり、中には旗を持ってる人もいる。
「C・・・G・・・T」
CGTだ!フランス最大級の組織率を誇る労働総同盟、CGT(フランス労働総同盟)である。 戦間期は革命的サンディカリスム(労働革命により良き社会を実現するという思想)を掲げ、 過激にストなどの活動を行い、戦後もフランスの労働組合を牽引してきたCGTが、 今まさに同じタリスに乗り込むべく乗車手続きをしているではないか。
大舞台の前ということもあり、一行は何ともいえぬ緊張感を醸し出している。北駅に佇む彼らを 是非とも写真に収めておきたかったが、とてもそのような雰囲気ではなかった。
タリスには1等車と2等車があり、パリ側が1等車となっている。2等を買った私は、1等車を 過ごし、間にあるバーを経て、自分の乗る6号車に辿り着いた。CGTの一群は、1等に 乗る人もいれば2等に乗る人もいる。きっと1等に乗る人は幹部とか偉い人なのだろう。
そんなこんなで自分の席を見つけると、私の乗る6号車にも何人ものCGTの会員がいた。 これから彼らと90分、いや、一日を通して行動を共にすることになる。
タリスは最高時速300kmを謳っているだけあって、流石速い。出発後はならし運転のようにゆっくりと、 非常にゆっくりと走るのだが、ひとたび高速線に乗ると一気に加速する。さながらそれは飛行機のようだ。 そして一度加速するともう二度と減速することはない。只管走り続け、減速が始まったのは ブリュッセル駅を目前にしたときのことだった。
10時20分、定刻より5分ほど早くブリュッセル南駅に到着。EUが出来て以来、国境を越える際にパスポートを
提示する必要がなくなったので、フランスから国外に出たという感覚がまるでない。
ブリュッセルの国鉄駅は南・中央・北の3つがあり、距離にして渋谷〜新宿くらいと思えばよいだろう。そこを
中心として地下鉄・バス・路面電車が走っている。
デモのスタート地点は南駅を出てすぐのところ。しかし、開始2時間前とあって、まだ人はいない。しばらく
市内観光でもすることにした。
まずは中心ともいえるグラン・プラスへ。ベルギーの街並みもパリに負けず劣らず綺麗である。
インフォメーションでバス・地下鉄・路面電車載り放題の一日乗車券を買う。この方がきっと楽だろう。
ベルギーといえば小便小僧の発祥地らしい。ガイドブックで初めて知り、グラン・プラスからも近そうだったので 地図を頼りに歩いてみた。すると・・・居た。日によっては服を着ているようだが、今日は素っ裸だった。
さしたる感動もなく(笑)、次なる場所へ。ショッピング街が連なるルイーズ広場へと地下鉄で向かう。
ここはブティック街で、充分手の届く範囲から超高級店まで、多くの店が並んでいる。
ヨーロッパ圏のファーストフード・クイックで腹ごなしをし、行動開始。
高級店は・・・敷居が高かった。到底、無理だった。
手ブラで帰るのも癪だったので、何処かに良い店はないかと探す。結果、アラン・マヌカンという
ブランド店でシャツを購入する。66ユーロかぁ。ま、いいだろ。
その後フラリと入った喫茶店でクロワッサンとコーヒーをすすり、ルイーズを後にする。
時刻は13時。もう盛大に始まっている頃だろう。急ぎ地下鉄に乗り、南駅へ向かう。
南駅は・・・お祭だった。
鳴り響くスピーカーからの演説、喧騒。目に入ってくるは多数のバルーン。映る光景は、
お祭以外の何物でもなかった。
機関紙らしきものを持っている人がいたので、いくらか聞いてみる。1ユーロだと言うので、買う旨を告げる。
少しだけ英語で話した。「これが何だか知ってるか?」と聞くので「ETUCのデモだろう」と答える。
「何で知ってるの? 告知も何もしてなかったのに。」とまた聞くので、「ウェブサイトをみた」と答える。
機関紙を持った女性は、たいそう嬉しそうだった。なんだ、ノリは日本の左翼のエセデモそのものじゃないか。
本場と思い、敷居を高く構えていた私は、少しほっとした。
本会場の方へ進むと、何やら演説をしたり笛をならしたりしている。今まさにデモが始まろうとしている時で、
皆興奮していた。でもそれは朝方のCGTのような、近寄りがたい興奮ではなく、「お祭会場」としての
興奮だった。
安心した私は、ここから写真を撮り始める。
(暫く写真は多くは公開しません。現在動画を製作中で、撮った写真の全てはその動画の中で公開します。お楽しみに)
タバコをふかしつつ俯瞰していると、突如爆竹が鳴り出した。DGB(ドイツ労働組合総同盟)だ。後ほど 分かったが、ヤツらが参加団体の中で最も過激だった。菊青同みたいだな。
そうこうしているうちにCGTが動き始めた。少し先回りしつつ彼らの後を追うことにした。
その後、数多くの団体に遭遇したが、もう、凄いの一言に尽きる。車はないのかと思っていたが、そんなことは
全くなかった。大手団体は必ず車を帯同しており、中には歌手(青年)がラップを大音量で歌ったりと、
やりたい放題やっていた。
警察は1本外れた通りで大量に待機しており、何かコトがない限りは出動しない方針らしい。メインストリート
を歩いてる時に、警察の姿を見たことは一度もなかった。
先頭に追いつき、今度は見晴らしの良い場所を陣取り、流れゆく団体を見続ける。今まで見たどんな
デモ、パレードより、それは勇ましく、美しかった。
当初の予定では17時には全てのデモが終わるはずで、それを見越して私は18時40分発のタリスを
予約していたのだが、17時を回った今も、一向に終わる景色をみせない。結局、ギリギリまで見続け、
惜しくも会場を後にした。
帰りのタリスも一部のCGT、それからSUD(CFDT分派「連帯・統一・民主」)の面々と 一緒だった。感動に満ちた私はバーへ行き、ビールを呑みながら彼らの陽気な会話(といっても 内容は殆ど分からない)を聞いていた。皆、「やり遂げた」って感じの顔をしており、とても 楽しそうだった。
20時05分、定刻どおりパリ北駅到着。激動の一日が幕を閉じようとしている。今日も
ホテル近くの店でビールを買い、帰宅。
ベルギーはパリよりも綺麗で、静かで、店も楽しく、とても良いところだった。是非ともまた
訪れたい国である。
最後に写真。上からスタート地点での発炎筒、CGT(フランス労働総同盟)、 CSC(ベルギークリスチャン労働総同盟)青年支部、タリス、そして本日の戦利品。