ジリアス・レポート



8.第七次中間報告
(引き続き<テスター>での攻防詳細と「秘宝」発動についての概要)


ー事件経過ー

 トリトンと一条アキ救出後も、<リンクスエンジェル>とスカラウ人のグループは、ウォル・グルップとの攻防を続行させる。

 巨人と突撃艇、両者の戦いから脱した一行は、そのまま要塞内をエアバイクで上昇。
 最終的に管制センターに到達。
 その時、トリトン・ウイリアムの短剣の力と一条アキのオーラの力が、オグマセシウス製のシェルター壁を容易に破壊した。
 この破壊力は、突撃艇のレーザー砲に匹敵していたはずだ。

 その後、一行は、主力砲のコントロールボックスの破壊に成功。
 中心的役割を果したのが、トリトン・ウイリアムと一条アキの二人だ。

 ただし、運悪く「秘宝」が作動をはじめる。

 トリトン・ウイリアムはウォルの人質となり、奪われたオリハルコンの剣で、逆に刺されてわき腹を負傷。危険な状態に陥った。
 ウォルは、<リンクスエンジェル>と他のメンバーによる総攻撃にあい、命を落とす。

 その後、怪現象を確認。

 トリトン・ウイリアムの手元に、剣の方から吸いつくようにトリトンの手の中に飛び込んだと<リンクスエンジェル>の証言にある。

 それは、独りでに剣が宙を飛び、トリトンの手元に握られた。
 トリトンには、その理屈が説明できなかったようだ。

 その後、剣の光の先端からジリアスの表面に向けて、光の帯が延びたという。
 これは、秘宝の位置を剣が指し示したらしい。

 この時、ジリアスに向けて、<テスター>が暴走
 未知の力によって引きつけられる。

 トリトン・ウイリアムに不可は見られず。
 物理的理論が成立しない現象が起きている。

 推測すると、トリトン・ウイリアムの剣と「秘宝」とが引き合ったと解釈するのが自然だろう。

 だが、オリハルコンの剣そのものには、動力源もなければコントロール装置もない。
 剣そのものが、トリトン・ウイリアムの手元にもどったという現象が謎である。
 一方、トリトン・ウイリアムが無意識のうちに、テレパシー的な力で引き寄せたとも考えられるが、「秘宝」の突然の暴走理由を考えると、それだけでは説明不十分である。

 それでは、何が原因なのか

 「中間報告の4」で説明ずみであるが、一つの可能性はトリトン・ウイリアムの精神力が起因しているものと思われる。

 しかし、トリトン・ウイリアムには意図的に引き起こしたという確証はない。

 本人ですら、この暴走は予想外の出来事だったようだ。
 詳しい原因は現在も調査中だが、依然、それは謎に包まれている


 「秘宝」の暴走は、銀河宇宙に深刻な事態を引き起こした。
 正常な時空軸が歪められ、恒星パストゥール、及び、その惑星がそれぞれの軌道を外れて、暴走を始めた。
 そのまま放置すれば、パストゥール太陽系は崩壊し、やがて銀河系全土を巻き込み、宇宙全体にまで波及する恐れがあった。

 その後、要塞<テスター>は、惑星ジリアスの重力による負荷に耐えきれず崩壊。
 中の人間は、一条アキの未知の力によって、救出されたようだ。

 一行は、「秘宝」暴走阻止のために、そのまま<シュメール>でジリアスに突入する。


 同時刻、深刻な事態の重さに危機感を募らせた連合宇宙軍は、宇宙時刻23時38分、非常事態宣言発令。
 警戒を呼びかける。

 しかし、この事態が民間の放送会社により、リアルタイムで中継されるという失態に及ぶ。
 以後、情報操作の甘さもこの1件により、強い指摘を受けることになった。

 我々、<ビローグGG>は、パストゥール太陽系外縁停船中、この異常に遭遇した。
 直後、<シュメール>から増援要請を依頼されるが、重力異常が激しい宙域に進むことはできず、苛立ちを募らせた。

 もはや人類に事態の沈静化を推し進める力はなかった。
 人類の歴史が途絶えてしまうのか、それとも否か、すべてを見定める以外、道が残されていなかったのである。



<資料ー17>

ー事件後、WPIC所属<リンクスエンジェル> ケイン・ユノアの証言ー


 サブリナが破壊されたときは、もう目まいがしたわ。
 医療惑星を破壊してくれるなんて、常識じゃありえない。
 もっとも社会的に弱い立場の人達が大勢いたっていうのに。
 それを、あたしら<リンクスエンジェル>のせいにしてるスカ連中がいるけど、すべて事故よ。それははっきりと断言するわ。


 それにしても、海賊どものやり方って、とことん汚い。
 アストリアを楯にしてトリの坊やの弱みにつけこむし、あたしらに麻酔を嗅がせて始末しようなんて、ふざけてるわ。
 トリの坊やと赤毛娘がどうなっていたかは、よく知らないよ。
 その頃、あたしらは宇宙空間に放り出されようとしていた。
 そっちの方がやばいじゃない。
 でも、ムギのおかげであたしらは助かった。それから、トリの坊やと赤毛娘救出のために行動を開始した。


 だけど、そこで信じられないものを見てしまった。
 エアバイクで区画まで昇りつめた時よ。
 わけがわからない巨人が、海賊どもとドンパチをやらかして、その間で、トリの坊やが楯にされちゃってるなんて。
 それってかなりヤバイ状況。
 先に赤毛娘は、スカラウ人の鉄郎が助けていた。
 だから、トリの坊やは、あたしらが助けることになった。


 しかし、その巨人のやることがまるで理解不能。
 一度目はそれで坊や救出にあたしらは失敗。
 トリの坊やは巨人の手の中でもがいて嫌がっていた。
 そのとき、トリの坊やと心中するんじゃないかって巨人のことをあたしは勘ぐった。
 しかし、2度目の時は、海賊の攻撃から坊やを守ってあたしらに戻してくれたの。
 トリの坊やも意外だったらしくって、それには驚いていたわね。
 敵か、味方か、今となっては説明できないよ。
 その後、巨人は海賊の攻撃で相打ちになっちゃって爆破しちゃったんだから!
 謎なのよ。あたしらに答えを求めても無駄よ。


 無事に赤毛娘とトリの坊やは救出できた。
 でも、その直後にトリの坊やが泣き出しちゃって、こっちが面食らったわ。
 やられた巨人に情が移ったのか、恐かったのかはわからない。
 ただ、坊やはそれまで相当無理して気を張り詰めてきたのは確かね。
 坊やがしだいに変わってきているのをあたしも実感した。
 ただし、そんなトリの坊やからは、何を聞いたってまともな答えなんか返ってこなかったわよ。


(中  略)


 その後、管制センターに通じるシェルターをトリの坊やの短剣の力と赤毛娘の力で破ったあたし達は、ボスのウォルを追いつめた。
 主力砲のコントロールボックスの破壊にも成功。まさに楽勝だったのに。
 よりにもよって、そんな時にいきなり「秘宝」が動き出した。
 でも、「動く」ったって、あたしらには何がどうなるのか、まったく見当がつかない。
 トリの坊やがそう叫んだから、あたしらはそうなのかと思ったのよ。


 そのとき、あたしらが最初に目撃したのは、ジリアスの地表が赤く輝きだしたこと。
 青い星が赤くなるなんて変だわ。でも、その光は坊やが持ってるオリハルコンの短剣の光とそっくりだった。
 それから地震。
 だけど、人工要塞の<テスター>に地震なんか起こるわけがない。
 明らかに宇宙空間に異常が生じていた。
 「時空間転移」と名がつくくらいだから、時空に歪みが生じていたはずよ。
 おまけに<テスター>も移動して、ジリアスに近づいていた。
 これは後からわかったこと。そのときは何がなんだか理解できなかった。


 地震は数分続いた。その間、みんなは立っていられなかった。
 このドサクサにボスのウォルがトリトンを捕まえて人質にしちゃって、あたしらに脅迫をしてきた。
 不覚よ。坊やはそれまで剣を使いすぎちゃって、体力を消耗させていた。
 あたしらはそれを解っていながら、守ってあげることができなかった。


 ボスの狙いははっきりしていた。
 トリの坊やを「ジリアスの秘宝」のある所まで無理に連れて行って、コントロールさせるつもりだったのよ。
 坊やが嫌がっても、あたしらは手が出せない。
 剣も奪い取られて、ボスがトリトンに逆に突きつけちゃうし…。
 あたしらも焦ったわ。
 それがトリの坊やに最悪の状況をもたらした。


 一度、隙をついて逃げ出そうとした坊やを阻止しようとウォルったら、坊やの腹に剣を突き立てちゃったのよ!
 オリハルコンの剣で刺されるなんてどうなるのか想像したくもないけど、トリの坊やの悲鳴は普通じゃなかった。
 怪我もひどかったわ。体の一部は完全に焼け焦げちゃったものね。
 あたしはもうぶち切れた! 
 坊やは怪我をしながらも逃げてくれたから、全員で銃の集中砲火を浴びせてやったわ!
 ただし、ウォルが倒れても、一度、狂った「秘宝」は簡単に収まってくれなかった。


(中  略)


 異常は連続して続いた。
 まず、ボスのウォルが取り上げて落ちたはずの短剣が、またトリの坊やの手の中に飛び込んだこと。
 トリックなんてありえない。
 剣が生きてるみたいに動いたとしかいいようがない。
 それから、いきなり輝いたと思うと、剣の先端から光が矢のようにのびてジリアスの地表を指した。
 トリの坊やが叫んだけど、その位置に「ジリアスの秘宝」があるといっていた。
 その直後に、ものすごいGを感じて、また全員、床に叩きつけられて転倒した。
 わけがわからないんだけど、<テスター>が未知の力で、ジリアスに引き寄せられて暴走をはじめた。
 その理屈は想像するしかないのだけど、トリの坊やの短剣と「秘宝」が引き合ったとしか考えられないわ。
 しかし、<テスター>ごと引っ張る力なんて説明できない。
 トリの坊やにすごい力がかかっているようには感じなかったもの。
 それは、超自然の力だったわ。物理的理屈なんてまったく成立しない。
 トリの坊やは、短剣が手から離れないなんて叫んでいたし。
 もう、はっきりいってお手上げよ。


 トリの坊やの状態も気が気じゃなかった。
 赤毛娘の不思議な治癒能力も受け付けないし、応急手当だけじゃ不充分。
 どうしても手術が必要だった。でなきゃ命に関わってきちゃう。
 せめて、冷凍睡眠装置に入れて保護してあげたかったけど、激しいGのせいで体が動かなかった。


 その頃の宇宙は、時空がさらに歪んで恒星パストゥールまで軌道からずれてしまった。 惑星も公転軌道からはずれちゃって、暴走しかけていた。
 当然、惑星の気象も地殻も異常をきたして、もうメチャメチャ。
 地震にハリケーンに津波に火山噴火と災害のオンパレード。
 確実なことはパストゥール太陽系は、必ず崩壊するということ。
 それを放っておいたら、これが銀河全体、いいえ、宇宙全体にまで波及するってことだった。


(中  略)


 トリの坊やは失神しちゃった。
 それでも、超状現象はいっこうに収まる気配がなかった。
 そのうち、<テスター>が崩壊をはじめた。
 無理な暴走が<テスター>の構造に負担をかけすぎたのよ。
 気がついたときは、<テスター>はジリアスの衛星軌道にまで侵入してしまった。
 そうなったら、重力に引っ張られてバラバラになっても不思議じゃない。
 しかも、そのときのGの激しさといったら、想像がつかないわ。
 通常なら体はボロボロ。よくても仮死状態。
 最悪の場合は、全身の血が逆流しちゃって、内臓もひんまがって間違いなく別世界にいってしまいかねないわよ。
 それでも、意識だけは保っていられた。
 多少、体がおさえつけられちゃって苦しかったし、自由もきかなかったけど、肉体への負担は軽かった。


 理由はただ一つ。赤毛娘のオーラの力よ。

 崩壊する<テスター>から私達を保護していたってことね。
 そのときはよく解らなかったけど。

 この力もオリハルコンと同じ、いまだにわけがわかんないわ。
 でも、彼女のそのパワーは大きかった。あたしらはそれにすがるしかなかった。

 完全に床まで崩れて奈落の底に落下しかけていたあたしらは、その力でぎりぎり助かった。

 そのうち、ムギが操縦する<シュメール>にあたしらは乗り込むことができた。
 生き残った海賊どもも、人道的立場からちゃんと救助してあげたわ。

 その時の海賊兵士は幹部も含めると16名。
 残りは<テスター>とともに心中させちゃったけど、これでも精一杯の働きがけをしたのよ。



  この「秘宝」の作動メカニズムは、「第六次報告」に挙げたとおり、現在も分析が続けられている。
 その調査結果は、今後の課題として継続される予定である。

 その<テスター>崩壊時にも、一条アキの力が見られたというが、それ以上の具体的なデーターは残されていない。
 オリハルコンや「秘宝」とは、まったく繋がりが見られないため、関連性はないという見方もある。
 その力の発生プロセスや、正体については追求は不可能である。


   ー<テスター>被害状況ー

   推定被害総額   約24兆クレジット
   推定行方不明者  約833名
     及び死者

    ーサブリナ被害状況ー

    推定被害総額  約83兆クレジット
    被害者       約380万人


 いずれも、一国家の総資産に相当する損害である。