ジリアス・レポート



3.第二次中間報告(GR事件概要)


ー事件経過ー

 ジリアス・ラボー正式名、ライフェス総合大学管轄、ジリアス海洋開発施設ダブリス・コネクション。
 惑星ジリアス人口 2,634名。その総人口は、首都エンテナード市民である。
 うち、正式ジリアス・ラボスタッフは632名。
 それ以外の市民は、同じ職員でも担当外職として区別され、一般市民として登録されている。

 ジリアス・ラボにおける各セクションの内わけは以下のとおりである。

 海洋プラントー141名
 資源プラントー232名
 農業プラントー259名

 各セクションごとに3名のチーフがそれぞれのセクションの監督、指導、指揮を担当している。


 ジリアス・ラボ、唯一の異星人スタッフ、浮翼人ティファナ。
 先史文明の生き残りといわれている彼女をウォル・グルップが“秘宝”の手がかりを握る人物として、誘拐・拉致する。

 その事件をきっかけに、ウイリアム氏が、付属民間調査機関ワールド・プライベート・アイ・センター(WPIC)に調査を依頼。
 WPICでは、その依頼を承諾。犯罪担当エージェント、ケイン・ユノアとユーリィ・ネイファの二人を派遣させる。

 ケイン・ユノアとユーリィ・ネイファ(コード名<リンクスエンジェル>、以下そのように呼称)は、ウイリアム氏に面会する前、要塞コード名<アドリス>と接触。攻略に成功している。

 その間、<アドリス>に身柄を確保されていた、浮翼人ティファナは<アドリス>からの自力脱出に成功。
 一時、スカラウに漂着したものの、無事、ジリアス・ラボに生還している。

 以上が「GR襲撃事件」の第一段階としての経過である。


<資料ー7>

ー事件後、浮翼人ティファナの証言よりー


 私は、ジリアス先史文明の生き残りだといわれています。


 以前、私は遊戯団の見せ物小屋にいたのですが、今のダブリスさんに助けてもらって、現在のラボでお世話になっています。
 私は、親子2代にわたって、その小屋に保護されていました。正直、とても辛かったです。
 私はオウルト人の人達からみたら、珍しい存在らしいけど、私は好きでこんな姿に生まれてきたわけじゃありません。


 ラボでは、海洋プラントのスタッフとして、おもにジリアスの生き物達の観察、研究に携わっています。
 見せ物小屋にいた時とは大違い。こんなに充実したのは生まれて初めて。すごくやりがいのある仕事です!
 ラボのみんなのチームワークもいいし、私自身、とってもハッピーです。


 そんな私に、ウォル・グルップっていう連中がいきなり襲いかかってきました。
 私は、その時、たまたま作業ロボットと一緒に海底調査に出向いていました。そして、ジリアスの衛生軌道を実験船で航行していました。
 そうしたら連中は、そんな私を実験船ごと捕獲しちゃったんです。


 でも、疑問点がいっぱいありました。私がラボに所属しているなんて、ラボの人達以外は知らないし、海底時間に出向く時間もラボの極秘事項なんです。常識では、外部の人間にわかるはずがありません。


 私はそこで「ジリアスの秘宝」について幹部らしき男から尋問を受けました。
 けど、私には何一つ答えられませんでした。
 噂は耳にしたことがあったけど、このことに関して、彼らのほうがとても詳しいんです。 どこで、この情報入手してきたのか、逆に疑いを持ったほどです。
 ええっと、尋問の内容は…。
 「オリハルコンという光るエネルギーのありかをいえ。」とか、「コントロールの方法を教えろ。」とかだったと思います。
 何のことだろうって逆に考えてしまったわ。


 私は、生かしてはもらえないだろうと諦めていました。だけど、なぜかその要塞で事件があって、運良く脱出できました。


 こう見えても、私の体長は30センチほどしかないし、流線型の4枚の羽も背中にあって、簡単に飛べるんだもん。結構、紛れるとわからなくなっちゃうんですよ。
 その後も、何度か連中の要塞に潜りこんだけど、全部脱出に成功しちゃいました。


 えっ? その後ですか?
 あの…、ものすごくいいにくいんだけど、作業ロボットと実験船が無事だったんで、それで脱出したんです。だけど、オート機能がいかれちゃって、私一人の力ではどうすることもできなくて、運良くスカラウに流れついちゃいました。


 そこで、コンタクトをとってくれたスカラウ人の若者達が、みんないい人達ばかりで、私をジリアスに送り届けてくれました。


 私、やっぱり処罰されちゃうんでしょうか?
 事件が解決したら、スカラウの人達は、無事、スカラウに帰還したんだけど…;;


<資料ー8>

ー事件後、WPIC所属<リンクスエンジェル> ユーリィ・ネイファの報告書より抜粋ー


 私達の当初の任務は、惑星アストリアへ、私達の依頼主であるライフェス総合大学の教授、ウイリアム氏に会い、彼の正式な調査内容を聞くことにあった。


 しかし、犯罪組織ウォル・グルップがいきなり急襲をしかけたことにより、任務遂行は不能に陥る。
 私達は、その時点でWPIC規定による職務妨害行為を適用。
 強制退去を執行し、組織一団と交戦。
 その際、要塞コード名<アドリス>の撃沈に成功。攻略を完了させる。
 ただし、幹部以下、重要人物の確保までは至らず、不覚にも逃亡を許す。
 同時に、私達の専用機<リンクスエンジェル>も致命的なダメージを負わされた。


 <リンクスエンジェル>は、航行不充分のまま戦闘区域を離脱。
 その後、偶然にもパストゥール太陽系第三惑星、ジリアスに不時着した。


 依頼人のウイリアム氏の息子、トリトン・ウイリアムは、ジリアス・ラボのスタッフである。
 先にその本人との対面を私達は予感したが、その中にトリトンの姿は認められなかった。


 私達がラボの職員と接触した直後、再び海賊の襲撃を受ける。
 まるで、私達の行動を先読みしたような手際の良さに大きな疑問を抱く。
 海賊達は、国家移民局の職員になりすまし、資材搬入を装って正面からラボに襲撃を開始した。
 この時、ラボの主催者、ドクター・ダブリスが彼らのVTOLの機銃攻撃により重傷を負う。
 このラボは非戦闘員が大半を占めていたため、その犠牲と被害は多大なほどに拡大してしまった。


 襲撃した海賊達は、あっさりとジリアス・ラボの中枢である管制センターを占拠。


 私達は、一時、生存したラボの青年達とともに、安全な地下シェルターに退避した。
 が、その間に不在だったトリトン・ウイリアムが帰還したという情報が飛び込んできた。
 そこで、私達は急遽方針転換をはかった。
 トリトン・ウイリアム保護のために有志のラボの若者達とチームを編成。
 管制センター奪回と取り残されたラボの職員の救出のために、白兵戦に挑むことを決意した。


 ただ、ここで驚くべき事実を知らされた。


 ともに手を組んだラボの職員の中に男女5名のスカラウ人が加わっているという。
 保護区の異星人との接触は、もっとも重い刑罰に相当する。
 だが、彼らはいずれも高い戦闘能力を有し、この困難なミッションを遂行させるのにどうしても必要な人材だった。
 私達は、異例ではあるが、あえて彼らの助力を求めることにした。
 その5名の男女の名を特に連記しておく。
 星野鉄郎、島村ジョー、倉川ジョウ、裕子、甲斐レイコである。


 他にもう一名、一条アキという少女がトリトン・ウイリアムと行動をともにしていることを、スカラウの青年達の証言より把握した。


 このスカラウ人の青年達と正規のラボの青年達、それに私達も含め、白兵戦に参加したのは40名である。
 しかし、敵の圧倒的な戦闘能力を上回ることができず、この作戦は失敗に終わる。
 40名のメンバーのうち、犠牲者は29名。
 行方不明者はスカラウ人、星野鉄郎と倉川裕子の2名。
 さらに私達は、最大の戦力となるはずのクァールを失った。


 結局、それだけの犠牲を払いながらも、トリトン・ウイリアムとの接触を果たすことができなかった。


 再び、シェルターに生還した私達は、生存者とともに、ジリアス外洋宇宙実験船<リヴィア>に搭乗し、屈辱のままジリアスを離脱。
 ジリアス・ラボの総職員のうち、生存離脱者32名。それにスカラウ人3名が加わる。
 この段階で私達の専用機<リンクスエンジェル>は廃棄。ただし、倒れたはずのクァールは完治し、ともに離脱した。


 スカラウ人の青年達の証言によれば、同じスカラウ人の少女、一条アキには特殊な能力があるという。
 ケインジマラニアフシュの猛毒性の汚水を浴びて、瀕死の状態だったクァールが、どうして短時間のうちに健全になれたのか、私達にはどうしても理解できなかった。
 しかし、そんなクァールを、アキは特殊な能力で完治させたとスカラウ人達は証言する。


 このことで、一つの憶測が成り立つ。


 アキとトリトン・ウイリアムは特殊な能力を有し、海賊達は二人が秘めているその能力と「秘宝」との関連を疑い、ジリアス・ラボの襲撃を敢行したのだ。
 しかし、残念ながらトリトン・ウイリアムと同行しているはずのアキの行方は、依然として不明のままであった。


 私達は、態勢の立て直しとドクター・ウイリアム氏と接触するために、そのまま進路をアストリアに向けた。


 後にジリアス・ラボの中に、海賊との内通者がいたという事実が発覚している。


   ー「GR襲撃事件」による被害報告ー

    推定死亡者   ー1,200名余り
    推定行方不明者ー1,400名余り
    負傷者      ー18名
    推定被害総額  ー約32兆クレジット

   エンテナード市は壊滅。ジリアス・ラボは機能停止。そして、閉鎖。

ー事件経過 その2−

 ジリアス・ラボ海洋開発部門のスタッフ、ルイズ・クラブシェラ。
 海賊行為の共犯者として、後に連邦宇宙軍より指名手配される。

 ルイズ・クラブシェラの内通により、ジリアス・ラボの動向、およびライフェス総合大学の研究事項が海賊側に流されていたとみてよい。
 海賊は勢力拡大のために、異文明の未知のエネルギー確保に乗り出す。
 その中で、目的のエネルギーをコントロールできる能力を有するといわれた、トリトン・ウイリアムの存在を確認。

 以後、トリトンの捕獲に狙いを絞り込んだと思われる。

 ジリアス・ラボが襲撃を受けた時、トリトン・ウイリアムは、行動をともにしていたと思われるスカラウ人の女性と浮翼人ともども行方不明となっていたが、後に海賊側に拉致されたとの情報あり。


 蛇足だが、ジリアス・ラボの莫大な損害は、WPIC所属<リンクスエンジェル>が原因ではないかとの噂が高いものの、彼女達は断固認めておらず、いまだに強く否定し続けている。