ジリアス・レポート



6.第五次中間報告(「秘宝」と「オリハルコン」、トリトンとの関係の考察)


 <ビローグGG>から離脱し、故郷アストリアに帰還したトリトン・ウイリアムは、そこで、ようやく責任者のダブリス氏と<リンクスエンジェル>の二人に、自分が知る限りの事実を打ち明けたようである。
 このことは、<リンクスエンジェル>ユーリィ・ネイファの報告の中で詳細に語られている。

「秘宝」に関するトリトン本人による考察

 ここで、もう一度、注目していただきたいのは、先の報告で述べた「オリハルコンに関する内容」である。
 一部、前の内容と重複する記述も出てくるが、再度、考察していきたいと思う。
 まずは、ユーリィ・ネイファの報告文からの抜粋である。

<資料ー13>

ー事件後、WPIC所属<リンクスエンジェル> ユーリィ・ネイファの報告書よりー


 ようやく、トリトン・ウイリアムが私達に打ち明けてくれたオリハルコンの真実。
 それは、人類の英知を超えた驚くべきものだった。


 トリトンは、こう説明してくれた。
 ジリアスにある“秘宝”と呼ばれるオリハルコンは、10メートルほどの柱のような形をしたもので、その形は「エンタシス」と呼ばれる異文化そのものの姿を反映したものらしい。


 しかし、その柱のようなオリハルコンは、「時空間転移機構装置」なのである。
 我々人類の技術とは異なる技術を身につけた異文明が、その能力を駆使して今のジリアスに移動してきたのだ。


 現在の「ジリアスの秘宝」は、すでに遺跡となってしまったものである。
 しかし、装置そのものはまだ生きている。
 しかも、不完全なために、いつ、暴走してもおかしくない状態だという。


 まだ、証明されたわけではないが、異文明が滅亡し、ジリアスの惑星環境が崩壊してしまったのは、その「ジリアスの秘宝」による可能性が高いといわれている。


 ただし、トリトン自身にも秘宝について、幾つかの不明な点があった。
 装置そのものが、どのような構造で作動するのか、オリハルコンが、なぜ、トリトンのみに反応し、力を出すのか彼自身にもわからないのだ。


 ただ、トリトンがオリハルコンを使用する中で、証明はできないが、高い確率で確信が持てる点があるという。
 それは、オリハルコンが使用する人間の生体エネルギーと連動して、オリハルコンのエネルギーに転換しているのではないかという点である。
 つまり、オリハルコンは使用するものの精神力をエネルギー源とするのだ。


 この法則を踏まえた上で、「ジリアスの秘宝」について、次の仮説が成り立つことをトリトンは語ってくれた。


 当然、トリトンが持っている短剣よりも、「秘宝」の方が、より多くの生体エネルギーを必要とする。
 今回の一連の「秘宝」を巡る闘争をウォル・グルップ側から仕掛けて、オリハルコンの力を牛耳ろうという野望を巡らせている。
 オリハルコンは、強い精神力を感知して、その力を発動させる性質があるとトリトンは位置づけている。
 だとすれば、この一連のウォル・グルップ側の精神力を「秘宝」の方が感知してしまい、一人でに作動してしまうこともありえると教えてくれた。


 にわかに信じがたい話だと捉えがちだが、異文明の技術は、我々の想像をはるかに越えたものであることを認識しなくてはならない。


 トリトンは、遺跡の中に刻み込まれた文字を解読して、その内容を知ることができたそうだ。
 さらに、トリトンが手にしている短剣は、ただの短剣ではなく、「秘宝」と対をなすもので、作動してしまった「秘宝」を停止させるストッパーの役割を果たすものだとも教えてくれた。


 ただ、短剣そのものを、どのようにして「秘宝」と結びつけたらいいのか、トリトンにもわからないという。
 古代文字の解読だけで確証は持てないが、軽視もできない。


 これは重大な事実である。


 この一連の内容が、父親の研究チームとは別に、独自でトリトン・ウイリアムが「秘宝」を密かに調査し、導き出した結論だといえるだろう。
 「秘宝」の形状と特徴と異文明人が滅んだ要因は、ウイリアム氏の公式発表の内容と一致している。

 しかし、具体的にオリハルコンの働きの特定を位置づけたところが、新たな発見といえる。

 「第三次報告」であげた後のトリトンの公式発表において。
 この「秘宝」は、エンテナード市があるディレブ諸島沖の北西130キロ、水深3千メートルの海底洞窟で発見したと述べている。
 ジリアスの位置で示すなら、北緯46度30分、東経132度32分である。

 トリトンがこの秘宝に引かれたのは、偶然ではない。
 幼い頃のトリトンの話と、その両親の証言から、トリトンが幼少時代から見続けたという夢の話が大きく関係している。
 彼は、幼少の頃から異文明の世界に関した夢を見続け、そのことで自分が異文明に関係がある存在だと植えつけられ、ジリアスに導かれたと、心理専門家は分析している。
 これは、一種のマインド・コントロールに近い現象のようだ。

 幼い頃は、その夢の内容をしきりに周囲に語っていたトリトンは、成長ともにその夢の話を逆に否定しだし、しだいに黙秘していったという。
 これは、彼の性格によるものである。
 後に、トリトンは、ジリアスで異文明の夢が現実のものであったことを知る。
 夢の話を否定し始めたのは、その頃からだという。
 つまり、彼は真実を語らず、内に秘める傾向があるということだ。


もう一度、謎のポイント(彼がわからないといったポイント)を整理する。
  • ・オリハルコンという金属はどのような鉱石物質なのか。
  • ・トリトンのみが、どうしてオリハルコンを扱うことができるのか。
  • ・トリトンは異文明の関係をどのようにして認知できたのか。その繋がりはどのようにして生まれたのか。
  • ・オリハルコンの短剣で、「秘宝」と呼ばれた「時空間転移機構装置」を、いかに制御すればいいのか。
  • ・「時空間転移機構装置」の構造とは、いったいどういうものなのか。


 また、「資料―13」の中で、トリトンの「秘宝」の証言については、明らかに矛盾をはらむ証言もある。

 オリハルコンは、使用するものの精神力をエネルギーとするのなら、その能力を持たないウォル・グルップの精神力に、オリハルコンが果たして反応するであろうか

 いずれにしても、トリトンが、本当にこの事実を知らなかったのか、それとも故意に隠蔽しているのかは、非常に微妙なところだ。
 充分、後者の可能性も残されている。
 この点に関しては、トリトンの事情徴収を再開させる検討も視野に入れて、慎重に対処しなければならないポイントである。


「秘宝」に関する連邦調査委員会による考察

 さて、トリトンの主張とは別に、連邦側においても独自の調査が進行中である。
 こちらは、まだ調査が継続されているが、推察できるポイントが報告されている。
 まず、これまでの事実としてわかっている点は、以下のとおりである。

・ オリハルコンは、精神エネルギーを媒体にエネルギーを放出する物質である。
・ 熱を発するだけではなく、時空を越える能力を持っている。
・ スカラウに存在した異文明の産物である。
・ ただし、それは、人の手を離れた不完全なものであった。
・ オリハルコンの短剣と「秘宝」は、対をなして存在し、ペアとして働く力がある。

 オリハルコンの物質の正体、「時空間転移」発動の仕組みといった細かい部分については、現段階においても、いまだに謎である。
 しかし、その原因については、トリトンの精神的変化が大きく起因しているとの見方が、今のところもっとも有力である。
 トリトンが持つオリハルコンの短剣は、彼の精神的な行動が増すにつれて、その威力を高めていったと考えられている。

 ならば、そのトリトンによって、高められたオリハルコンの短剣の力に引きずられて「秘宝」が作用し最終的に発動してしまったのではないかという可能性が大きいのだ。
 ウォル・グルップのせいで、「秘宝」が発動してしまったと結論づけるのは、不自然である。
 だが、トリトンがこの事件を引き起こした犯人なのかという見方は、けっして適切ではない
 彼は、事件を引き起こした要因があるというだけで、彼が意図的に引き起こした事件ではないからだ。


 また、トリトンともう一人、スカラウ人一条アキは、異文明人によって人種改造を受けて誕生したという可能性が残されている。
 それもまた、否定できない要素である。

 しかし、この点については、人道的立場を重んじて、言及を厳しく避けなくてはならない。
 通常、一般的な身体検査、DNA鑑定などの検査記録からは、トリトンからこれといって目立ったものは発見されていない。
 それ以上の検査は、既存の人格の概念を破壊しかねない行為であり、調査委員会の方針ではそれを実施する計画はまったくない。

 いずれにしても、これらのポイントは、あくまで「仮説」であることを強調したい。


 「時空間転移機構」は、我々人類が開発した「ワープ機関」とは、まったく違う原理で確立されたものである。

 事件当時の重力波データーは、ブラックホールが作用する数値に非常に近い値が示されたという。
そこから推測できることは、特定の場所に重力の磁場を形成し、物質をその場所ごと異空間に吸収させて、ホワイトホールのような原理で、別の場所に同じ重力の磁場を設け、移動を可能にしたと思われる。

 ただし、その場合、物質バランスが崩れて出現した場所に重力異変を引き起こし、移動した空間を崩壊させる危険が生じると理論上では説明できる。
 しかし、本来の異文明の「時空間転移機構」は、その出現した場所にかかった負荷の力を相殺して、安定させる機能まで確立されていたはずである。

 ジリアスの「秘宝」は、その機能を完全に欠落させていたのではないかと考えられるのだ。
 それを人の精神力だけで補うというシステムについては、我々の科学力の常識の観念をはるかに超えたものである。


 「時空間転移機構装置」が暴走し続けていたら、この宇宙そのものは間違いなく崩壊していただろう。
 だが、この危機を回避するのに、我々人類は、若干13歳の一人の少年の肩に、その命運を託すしかない状況におかれていた。
 しかし、当事者であるトリトンは、その段階においても、まだ広くこの事実を一般に公表しようとはしなかった。
 まして、調査に赴いた<リンクスエンジェル>は、このトリトンの証言だけを頼りに、独断でこの後も調査の続行を敢行している。
 この点については、再度、彼らに責任請求を追求する必要があるだろう。
 我々連合側に、その事の重大さが伝わっていれば、その後の最悪の惨事は避けられたかもしれないからだ。


 一方、ウォル・グルップ側は、まったく独自の視点からオリハルコンと「秘宝」を手に入れるために、新たな動きを見せ始める。
 これについては、次の報告で詳細を述べたいと思う。 


ー事件経過ー

 アストリアへ向かった<リンクスエンジェル>と、トリトン、スカラウ人のグループが次の行動を起こす前に、標準時間で32時間あまりの空白がある。
 一行は、そこで銀河コンピューターから奪取したデータ―分析と今後の捜査に対する建て直しに時間を割いていたようだ。

 我々、連合宇宙軍は、先のコンピューターハッキングの容疑等で、<リンクスエンジェル>一行の動きをようやく把握。
 この時点で彼らの動向を観察。場合によっては、阻止する構えで意見を一致させた。   


<資料ー14>

ー事件後、WPIC所属<リンクスエンジェル> ユーリィ・ネイファの報告書よりー


 けっして、許される方法ではなかったが、それでも銀河コンピューターからもたらされた情報は、事件解決の糸口につながる貴重なものであった。


 私達は、それによりウォル・グルップのおおまかな組織図の把握に成功。
 予測した結果、第三要塞<テスター>の現在位置を掴んだ。


 次に、私達は新たな機動力となる宇宙船確保のため、トリトン・ウイリアムの紹介で、彼がスクール時代に世話になったという恩師と対面した。
 その人物は、現在は軍管轄の造船施設の所長に就任している。
 その彼の好意により、トリトン・ウイリアムが設計したという実験船をいただけることになった。
 結局、事件の当事者となるトリトン・ウイリアムを船のナビゲーターに抜擢。
 通常の航法とは違うこの船のコントロールを指導してもらうことにした。


 彼に、これ以上の危険をさらすことを避けたかったが、彼と因果関係が深いオリハルコンが危機にさらされている以上、やもえない措置であった。


 一方、重症だったスカラウ人の鉄郎は、<ビローグGG>内で治癒を終えて完治。他のスカラウ人ともども無事に生還できたにも関わらず、スカラウへの帰還を断固拒絶。スカラウ人達は、一条アキを守るという名目で、引き続き私達の調査に介入するという姿勢を崩さなかった。


 こちらの方が悩みの種となったが、個人の意志まで束縛できる状況ではなかったために、私達は彼らの参加を認めることにした。


 本来なら、連合宇宙軍に支援を要請するところだが、トリトンの強い要望があったため、今一度、その件については見合わせることにした。


 アストリア滞在中に、トリトンの船<シュメール>の整備、調整、オペレーターのレクチュアと休息に時間を費やす。
 アストリアでの滞在時間は、標準時間で33時間2分40秒。
 その期限を持って、アストリアから離脱。最終目的地、おおいぬ座宙域パストゥール太陽系付近、コード名<テスター>へ進路を向けた。


 ただし、離陸直前に<ビローグGG>から警告を受けるが、私達は調査を最優先。警告は無視した。  



<資料ー15>

ー事件後、トリトン・ウイリアムの手記よりー


 よりにもよって、鉄郎とアキがケンカした。
 原因はささいなことだ。ケインが鉄郎にちょっかいを出したとか、出さなかったとか…。
 スカラウ人の中で、一番、大人びてると思っていたこの二人は意外にケンカも多いらしい。
 そのたびに、二人の親友であるジョーとレイコさんが、この二人のケンカの仲裁に入る。


 だけど、今回はアキの気が収まらなくなって、ついに<シュメール>からいなくなった。
 結局、レイコさんにお願いされて、俺がアキを探しにいくことになった。


 俺は、やっとアキを見つけて、みんなのところに帰る様に説得したけど、アキは「帰らない。」といって拗ね始めた。


 レイコさんに連絡を取って、そのことを伝えたら、俺がアキの相手をすることになってしまった。
 これじゃ、まるで悪友の依頼で、ケンカした彼女との仲裁役を押しつけられたような感じだ。
 うんざりしたけど、このままアキを放って、もどるわけにもいかない。
 アキは、冗談とも取れる態度で俺に誘いをかけてきた。


 「憂さ晴らしができる場所に案内しろ。」というお願いである。
 俺は困った。
 だけど「世間知らずなお子様扱い」は、もっとシャクに触る。そのときの、アキの態度はまさにそれ。


 ムカついた俺は、大陸の反対側にある歓楽街にアキを引っ張り込んだ。
 そこは、俺がいつも悪友どもとつるんで、ナイショで繰り出すプレイスポットだ。
 ちょっと後ろめたい気持ちもあった。
 だけど、「まともにエスコートもできないのか。」なんて思われたまんまじゃ、プライドも傷つくし、ものすごーく腹が立つ!


 俺が、前に通っていたスクールは銀河系一の名門校だ。
 だからって、そこに入った生徒が、みんな勉強大好き、真面目で品行方正なお子様ばっかりなんて思われちゃあ、たまらない!
 今も時々遊びまくっている連中は、そのスクールに在籍している現役生徒どもだ。
 スクールで寮生活をしていた頃だって、寮からちょくちょく抜け出して、その辺の街の遊び場によく繰り出していた。


 ただし、これが親に知れたら一発でカンドーものだ! 


 家では、「とっても真面目。素直なイメージ」で通している。だから、夜通し平気で遊び回る俺の姿なんか見たら、いったい俺の親はどう思うだろう。多分、お袋は、そんな 俺の現実を知ったら卒倒するかも…。
 今回だって特別なことじゃない。
 俺だってそれまでのことで、相当ストレスを溜めていた。


 同年代の連中は、「レベルが高すぎる野郎だ」なんて、変な勘違いをしてる。
 ラボのスタッフや、今回一緒にチームを組んだ、<リンクスエンジェル>やスカラウ人のみんなは、頼りにしてくれるけど、それは仕事だけで中味の方はまるっきりのガキ扱い。


 同年輩からは大人っぽく見られて、年上からは、背伸びしちゃってる生意気なガキに見られるようだ。
 俺達の世代はその傾向が強いけど、俺なんかは、とくにそれがストレートで極端かもしれない。
 スカラウのみんなからは、「近寄りがたい」とまでいわれてショックを受けた。
 悪友達は、いまだに彼女がいない俺のことを「レベルが高すぎて、俺と付き合える女なんか一生現れない。」とまで突っ込んでくる。


 これにはムカついたけど、俺の中の理想の方が高いのかも、なんて思うと反論もできなくなる。


 でも、ようはそういうイメージで、俺は他人から見られてるっていうことだ。
 どいつもこいつも、全然わかってくれてねぇ!
 おまけに、いつのまにか、わけがわからない事件の被害者にされちまっている。
 パーッと発散して気分を晴らさなきゃ、俺だって持つわけがない!


 だけど、せっかく出向いた、いつもの「無重力クラブ」で、ウォル・グルップの一味にいきなり襲われちゃうなんて、夢にも思わない。
 何とか逃げきって、場所を変えて遊び続けたけど、後はどこで何をやってたんだか…。


 俺だってたまには酒くらい口にする。けど、ぶっ通しで飲み続けたのはこれが初めて。で、すっかりブッ飛んだ有様だった。


 戻った後で、散々みんなの口から、そのときのことを聞かされた。
 親父さながらにアキを口説こうとして困らせた挙句、その辺のチンピラに絡んでケンカしそうになったって。


 それから、鉄郎にまで絡んでケンカをふっかけそうになるしで、相当、俺は暴れたようだ。


 でも、これはみんなの作り話だって信じたい。
 そんなに、見境もなく乱れた覚えはないぞ!


 気がついたら、俺は鉄郎の介抱を受けていて、「恋敵の面倒を見てやっている。」なんて皮肉を返された。
 ただ、この時の二日酔いのひどさは、今も覚えているけど、かなりヒサンだったっけ…。


 俺がこんなになったことで、スカラウ人のみんなから鉄郎とアキはこっぴどく説教されて、ようやくもとのサヤに収まった。
 俺は免罪してもらえたけど、やっぱ「ガキ」だという、いっそうきついハクがついた。


 だけど、ここまでやったたわりには、全然、俺は罪悪感を感じてない。


 それからスカラウのみんなの態度が変わった。
 ようやく親しみをもってもらえたという感じだろうか。気楽に話しかけてもらえるようになった。
 そういえば、みんな酔ってスワッた俺の目が恐いって怯えていた。


 ちょっとカチンとくる! 
 これでも、俺は世間じゃとってもかわいいって評判が高いのに。


 だけど、一番に感謝したいのはアキに対してかな? 
 理想の人だといったら、また、悪友どもから何かいわれそうだ…。


 けど、しゃあないな。それが、素直な気持ちだから…。


 直接の関係はないが、トリトン・ウイリアムが、滞在中のアストリアにおいて、プライベートな様子を語った記述である。

 彼は、事件以外の事柄については明確な手記を残している。

 それまで、あまり自分の心情を語ることが少なかったトリトン・ウイリアムが、スカラウ人、一条アキに関してだけは、饒舌に自分の気持ちを打ち明けて語っているのが印象深い。

彼女に対する気持ちは、年頃の素直な少年の気持ちとして表現されている。この女性との出会いが彼に強い影響を与えたのだろう。

 事件中にも、彼の中には微妙な心理変化が起こっている。
 オリハルコンがその心理変化に作用したことは、可能性として考えられる。
 しかし、これが事件の直接の要因となるのかは不明である。