ジリアス・レポート



7.第六次中間報告(<テスター>での攻防詳細と巨人の概要)


ー事件経過ー

 ウォル・グルップが最後の防衛の要として、所有していた要塞が、<テスター>であった。
 それは、資源開発衛星に類するものではない。巨大な円形の母艦クラス級の戦闘要塞と例えていいだろう。タイプとしては、軌道ステーションに属するものだ。

 内部の状況は、<リンクスエンジェル>の証言により明らかとなった。
 「主力砲」と称する巨大な砲台を囲むように円形の形状をなし、主力砲の砲塔がその側面に突き出た構造になっていた。
 この「主力砲」は、加粒子砲の一種だと見られている。
 <テスター>の管制センターは、「主力砲」のコントロールボックスであった。
 その高エネルギーは、パストゥール太陽系、第四惑星サブリナが、一瞬のうちに崩壊してしまうほどの破壊力を秘めていた。
 しかも、ワープ空間にエネルギーを送りこむことで、200光年の射程距離を可能にした、恐るべきものであった。

 <シュメール>に乗船した<リンクスエンジェル>一行は、アストリア離脱の際、我々、宇宙軍の警告を無視。
 パストゥール太陽系付近に存在した、第三要塞<テスター>へ進路を向ける。
 トリトン・ウイリアムが予測した「秘宝」が作動するXデーを想定し、その事態を避けるために、すみやかな調査を行なう必要があったからだとして、「停船無視の行為」に対し、<リンクスエンジェル>は真っ向から反論している。
 その後、<シュメール>は、<テスター>領域内において、ウォル・グルップと交戦。
 しかし、戦力の差で不利を実感した<シュメール>は、投降してチャンスを窺う作戦に出る。

 その頃、我々、<ビローグGG>は、アストリアから<シュメール>を追尾し続け、最終的に<テスター>から3万キロ離れたエグゼス251-4座標軸上で待機。
 <シュメール>の動向を監視する。
 <ビローグGG>が停船した3分後に、<シュメール>の反応がレーダーから消滅。
 この時、<シュメール>は、<テスター>内部へ侵入したと思われる。

 その45分後、謎の高エネルギーを感知。第四惑星サブリナが消滅するという事態を、我々も把握した。
 サブリナは、すでに独立申請が認められた、独立惑星国家であった。
 ジリアスの精密機械技術の恩恵を受け、近年では、最新の医療技術が集められ、有名な医療法人が進出している医療惑星だった。
 サブリナの犠牲者は、国民と患者を合わせて約380万人。被害総額は推定で83兆クレジットに及ぶ。

 <ビローグGG>は、その時点を持って待機処置を解除。
 パストゥール星系内に向けて航行を開始した。
 <テスター>を肉眼でとらえられる距離まで接近した際、我々は<テスター>に向けてコールサインを送ったが、直接の応答はなし。

 だが、数秒後、<テスター>から音声のみの通信が入電されてくる。
 それは中の状況を中継したものであった。

 この時、先に<テスター>内に侵入した<リンクスエンジェル>一行は、ウォル・グルップ側に拉致された状態にあった。
 その状況下で、「主力砲」をトリトンの故郷、アストリアに設定したと我々にも通告。
 <ビローグGG>のすみやかな撤退を要求してきた。

 我々は、事の重大さを認識した上で、その要求をやむなく了承。
 この場は離脱し、態度保留のまま膠着させた。

 一方、事実上、捕虜となった<リンクスエンジェル>一行は、<テスター>内でウォル・グルップのボス、キム・ウォルと対面し、また、<レンバー>の生き残り幹部達をも目撃している。
 ウォル側は、<リンクスエンジェル>側にトリトン・ウイリアムとスカラウ人、一条アキの引き渡しを要求したという。
 サプリナはその見せしめとして破壊される。
 次に、トリトンの故郷アトラリアに照準を定めると脅された一行は、その要求を飲んだという。
 トリトンと一条アキ以外の人間は、シェルターに隔離された後で処刑されかかったようだ。

 その後、しばらくは両者の動向は別々であったとユーリィ・ネイファは報告している。   



ウォル・グルップの狙いとは・・・

 トリトンと一条アキは、ウォル側に再びオリハルコンに関しての厳しい尋問を受けたという。
 ここでは、はっきりと「尋問」であったことが、ロッド・パーカスの証言とも一致している。

 そのとき、ウォル側の真の目的が明らかとなる。
 <テスター>において、オリハルコンの独自の研究を重ね、バイオ実験まで行い、彼らは人工的にオリハルコンを扱える人造人間を作り出そうとしていたことは、前の報告で明らかにした。

 その真の狙いは、異文明のもう一つの産物とされる「巨人」である。

 ウォル側は、この「巨人」のコントロール法を見つけ出し、量産し、秘密兵器を作り出そうとしていたと思われる。
 その「巨人」と呼ばれた人型の物体は、レーザー砲を弾き返すほどの装甲を有するが、材質はいっさい謎だったという。
 体長4メートルほどの「巨人」のことを、スカラウの伝説の「巨人」に似ていることから、後に「巨人」は「タロス」と呼ばれるようになる。

 だが、この「巨人」にいきなり変化が現れる。
 トリトン・ウイリアムと接触した時、動力もなく動くはずがないと思われていた「巨人」が独りでに動き出したというのだ。

 トリトンは、自分とこの巨人の関係を前面否定しているが、そのときの関係者の証言から推察すると、明らかにコンタクトをとろうとしたと考えられるのが自然である。

 以下、トリトンが、唯一、事件の証言を語った内容を挙げておく。 

<資料ー16>

ー事件後、トリトン・ウイリアムの証言よりー


 みんなと別れさせれられた後で、俺とアキだけが別の部屋に連れていかれました。
 それがどこだったのか、そこまではわかりません。
 エレベーターでかなり下のところまで降りたことだけは覚えています。


 案内された大きな部屋に人型の巨人が横たわっていました。
 俺達に直接質問してきたのは、ボスのウォルです。
 「巨人のコントロール法を教えろ。」
 そういわれました。
 でも、俺にはなんのことだかわかりません。それは、初めて見たものでした。
 異文明のものかどうかっていわれたら…。胸の模様? 
 それを父親が持っていた資料の中で見たものだと思いました。


 海賊連中は、俺や親父の研究グループが知らないことを、独自のルートで調べあげていたということです。
 もちろん、びっくりしました。
 連中の狙いは、はっきりしています。
 その巨人を分析して、量産にこぎつけて最強の兵器を開発することだったと思います。  
 それに、オリハルコンを手に入れて、銀河一の権力者になるつもりだったんでしょう。


 ルイズを金で買収したっていってました。
 同じ話を俺にしてきたけど、子供の俺にだって判断できます。
 そんな馬鹿げた話が通用するはずないって。
 そのときは、わざと半べそかいて、連中の気をそいでやったよ。
 彼らはすっかり呆れて、そこで話は途切れました。
 俺とアキは、すぐに部屋から出されて別のところに連れていかれようとしました。
 それも、どこに連れて行かれようとしているのか、全然わかりませんでした。


 俺は、そのとき、逃げるチャンスを狙っていました。
 別れさせられたみんなを助け出したかったし、主力砲も破壊したかった。
 気はあせっていました。でも、考えていたのはそれだけです。


 巨人がその間に動き出して、勝手に暴れまくったなんて、俺は気づきもしなかったし、何も知らないんだ、ほんとに!
 

 俺は、エレベーターの中でその異常に気づきました。
 突然、止まっちゃうし、衝撃も普通じゃなかったから。


 俺とアキは、エレベーターを降ろされて、区画になっている吹き抜けのところまで連れて行かれました。
 その下にあの巨人が生き返って暴れていたんだ。
 巨人はすごい破壊力を持っていました。
 口から光線を吐いていたし、それがすべてを吹き飛ばしてしまうんだ。
 海賊達がパワードスーツとかで応戦していたけど、まったく効果がなくて…。
 見ていて信じられなかった。


 そいつがいきなり俺のところにジャンプしてきたんです。
 高さは、うろ覚えだけど、20メートル以上はあったと思う。
 それを一気に跳躍したんだ。
 俺とアキは何もしていない。ほんとです。


 巨人が取りついてくれた衝撃で、ウォルから離れることができて、俺とアキは逃げられるところまで逃げました。
 でも、巨人がどこまでも追ってくるんだ。俺達を。
 そのうち行き止まりになっちゃって、完全に追いつめられたと思いました。


 だけど、巨人は俺とアキをなぜか攻撃しようとしませんでした。
 むしろ、友達になりたいって感じで、俺達に手をのばしてきたんです。
 理由はわかりません。
 でも、敵じゃないって、そいつのことを見ていたら自然にそう思えてきたんだ。


 ひどいのは海賊どもの方だ。
 その巨人を一方的に攻撃しようとしたんだ。
 巨人の方だって容赦がなくなるし…。
 俺はどっちもやめてほしかったのに…。


(沈 黙)


しばらく俺は意識をなくしていました。
 海賊のレーザ―砲に弾かれたところまでは覚えていたんだけど…。
 でも、気がついたら、俺だけが巨人の腕の中にいて、アキの姿がなかったんだ。
 両者の戦闘もエスカレートしていて、もう辺り一面、火の海になっちゃってて…。
 巨人に何度もやめるようにいったのに。
 俺の言うことなんか、全然、巨人は聞いてくれなかったよ。
 そんな時、別れたみんなが、エアバイクに乗って俺のことを助けに来てくれました。
 アキも一緒だったんでそれは嬉しかったけど…。


 最初、バイクに飛び移ろうとした俺を、巨人は邪魔しました。
 そのときは意地悪されてると俺は思った。
 でも、その後、巨人はちゃんと俺を爆発から守って、みんなの所に帰してくれました。

(沈 黙)


 巨人はいいやつです。たぶん…。
 でも、それを海賊達が殺しちゃったんだ。可哀想すぎるよ、あんなの…。
 助けられた理由はわかりません…。
 俺が一方的に思ってるだけで、巨人の方はそうじゃなかったかもしれないし…。
 俺との関係なんて、そんなのがあったら、こっちが知りたいくらいだよ。


 巨人の正体は謎です。
 存在も、それから目的だって…。
 コンタクトを取ろうとしたんじゃないかっていわれても、確証がないですよ…。


 それ以上は、俺もわかりません…。


 ー補 足ー

 この証言のみでトリトン・ウイリアムの他のものはない。
 途中、沈黙があったのは、失語症に近い症状が原因である。

 巨人は、トリトン・ウイリアムに何かの反応を示したと見ていいだろう。
 それは、オリハルコンに引かれたとも考えられる。
 ただし、トリトン自身には、その巨人をコントロール出来る能力はなかったようだ。

 また、巨人に感情があったのかというポイントも指摘されている。
 トリトン・ウイリアムを攻撃から保護していたと思われるが、これが巨人の意志によるものなのか、またはプログラミングされたものなのか、要因は幾つかあげられる
 だが、具体的な原因は皆無である。

 巨人は、突撃艇の主砲で最期を迎えたという。
 しかし、その攻撃力の高さに着目し、ウォル・グルップは研究していたと考えられる。
 ドクター・ウイリアムの研究テーマを狙ったのは、この巨人が狙いだったと見ていいだろう。

 しかし、巨人の正体はまったく不明である。
 オリハルコンとどういう繋がりがあるのかという点も、もはや証明することはできない。
 また、トリトン・ウイリアムとの関連を調査することも、現段階では不可能である。

 この巨人に関する考察は推察の域を出ない。