ジリアス・レポート



2.第一次中間報告 (惑星ジリアス開発概要)

ー開発の経緯ー

 おおいぬ座宙域に属する恒星パストゥール星系、第三惑星ジリアス。
 赤道直径およそ一万四千二百キロ、陸海比およそ一対百以下の海洋型惑星。
 陸地はすべて島しょのみ。大陸はなし。

 過去の経緯で、原因不明の異変に見まわれた痕跡あり。惑星全体を襲った大地殻変動によって地軸が歪んだため、現在の姿をとどめているというのが、専門家の間での見解である。
 北極、南極が存在せず、大気蘇生も不可能。季節は夏のみ。

 当初のみこみは、再生不能のため殖民に適さず、開発を断念するという意見で一致していた。
 その後、銀河連邦のこの決定が覆される。

 おひつじ座宙域恒星ヘイナンド太陽系、第四惑星アストリア、ライフェス総合大学所属、海洋地質学専攻教授、ドクター・ダブリスの提言が注目されたためだ。

 彼の調査報告によれば、ジリアスは自然蘇生が始まっていると指摘。さらに、豊富な海底鉱山資源が眠っていることを示唆していた。
 その後、連邦議会にダブリスのジリアス計画の議案書が提出。そのビジョンの有効性についての検討がなされる。

 その構想とは、海底鉱山の資源を利用した精密機械工業の推進を軸に、多目的方向から開発を推し進めるというプランである。同時に海洋生物の飼育と研究、あらゆる農産物の栽培と改良、温暖な気候を利用した銀河系最大のリゾート惑星としての開発。テーマは、自然と人との牧歌的なもので、実現すれば、理想郷に例えられる壮大なものであった。

 しかし、連邦議会が定める殖民規定人口は一万人以上である。惑星ジリアスには、一万人以上を居住可能にする大陸が存在しない。ジリアス開発に着手すれば、莫大な損害を被り、やがては破綻を導びかせるというのが、それまでの一般的な経済通説であった。
 ダブリス計画でも、その規定を満たしているわけではない。

 だが、ダブリス計画は、資金回収の目標をはっきりと明確に打ち出し、優れた評価を議会側から貰い受ける。議会は、その時からジリアス開発計画を推進した。

  • コロニアル・アウター歴 156年  惑星ジリアスに調査隊派遣
  •      同         159年  ジリアス実験都市エンテナード建設
  •      同        161年  ジリアスの首都エンテナードにジリアス・ラボを設立
  •                      ライフェス大学の関係者、及び生徒達の移民を開始
  •      同         164年  現在にいたる 

 現在、惑星ジリアスはオウルト連邦委任統治領に所属。惑星代表者、ドクター・ダブリス。
 人口 二千六百名。すべてジリアス・ラボの職員のみで構成。
 GNPは、当初の目標値の70パーセントにまで上昇。第一段階は成功したと判断される。
 (事件前のデータ―iによる)

ー「秘宝」発見にいたる経緯ー

 惑星ジリアスにおいては、かねてから 「幾つかの謎」 が指摘されていた。

  • ■ 惑星そのものの環境を狂わすほどの大異変がいつ、いかなる原因によって起こったのか。
  • ■ 異変以前から繁栄していた生命体のほとんどが絶滅しているが、現在のジリアスでは、その前に棲息していなかったと思われる未知の生物が、何種類も存在していることが確認されている。それらは生命がたどるべき進化の過程をまったく無視して、異変以降に忽然とジリアスに姿を現したと公式に発表。現在のところ、異変と何らかの因果関係が考えられるが原因不明である。  
  • ■ 生態系に限らず、惑星そのものが自然に蘇生しているという原因はいったいどこにあるのか。通常、数千年というスタンスで破壊された自然体系そのものが再生するのは考えられない。推測されることは、人類がいまだ体験したことがない、未知のエネルギーの力のせいだといわざるをえない。


 それらの謎をライフェス総合大学が主体となり、調査、研究していたものと思われる。

 ライフェス総合大学では、ジリアスに関して、幾つかの研究チームが編成されている。
 その中でも、先の3点の謎の解明に有力とされていたのが、考古学分野のエキスパートチームだった。

 この時点の大学側の発表によれば、惑星ジリアスに未知の異文明の痕跡を発見。
 ジリアスは、その文明の出現によって異変を起こし、異文明は滅亡したと報告されている。
 この論文を発表した人物が、ライフェス総合大学所属考古学専攻教授、ジョセフ・ウイリアムである。

 以降、ジリアス文明の調査に最初に取り組んだ人物として社会的に認知される。
 彼もまた、ジリアスの研究をライフ・ワークとして取り組むことを正式に公表する。

<資料ー6>

ージョセフ・ウイリアム、当時の公表論文より、一部抜粋ー


 惑星ジリアスに異文明の痕跡があったことは幸運である。
 現在の発掘状況では、建造物の一部と思われる石版や石片、土器、剣や槍といった多数の日常品類、精巧なモザイク画などが多数出土している。 しかも、それらはジリアスの地殻変動が起こった同じ時期の地層から発見されたものだ。


 この事実をどう捉えたらよいのか。
 すでに、先のジリアス事前調査隊における調査結果で、ジリアスの地殻変動は自然のものではなく、何か人工的な負荷のせいで起きた可能性が高いことを報告している。そのうえ、現在発掘中の異文明の痕跡は、異変以前の地層からはまったく発見されていない。
 つまり、ジリアス地殻変動は、多分にこの異文明が引き起こした可能性が高いと考えられる。この痕跡は変動後すぐに現れ、その後、百年も経たないうちに消滅している。彼らは変動直後、ジリアスに現れてすぐに滅亡したと裏づけられるだろう。


 では、この異文明とはどのような文明だったのか。
 そのことは、彼らが残した壁画から想像できる。彼らの石版の細工技術は実によく優れている。その点からも、彼らは高度な文明を築いていたことが推測される。


 その壁画によると、彼らは別世界から巨大な光る石柱の力を利用し、ジリアスへやってきたものの、そのことが原因で異変を引き起こし、環境の急激な変化のために、彼らの生存までもが脅かされる危機に直面したと考えられる。


 しかし、彼らはジリアスでの定住を望み、その実現に向けて試行したものの、最終的に望みが果たされることなく滅亡したと読み取れるのだ。 
 現在、石版に掘り込まれてある文字の解読。また、ジリアス海底遺跡における先日の五度目の調査で、さらに大きな埋蔵物があることがセンサーで確認されている。
 今後は、それらの調査、発掘作業を引き続き行なう方針である。


 なお、先の記述で触れられなかったものがあるので補足しておく。
 遺跡から出土した一つの短剣にこの異文明の最たる特徴があった
 一応、短剣の形状をしているが、その刃に使われている物質は、オウルト文明が接したことがない未知の物質であるということが判明した。現在、この物質の分析に取り組んでいるが、今のところ、この物質の正体は不明である。


 これは私の推論である。壁画の中に描かれていた「光る柱」と何らかの因果関係があるように思われる。


 彼らがいう「光る柱」とは我々の世界でいうワープ機関に相当するものであり、核爆発にも似た莫大なエネルギーが秘められていたのではないだろうか。しかも、それは彼ら異文明の人間達では制御できず、とてつもない暴走を引き起こしたとも考えられるのだ。


 しかし、これはあくまでも一つの仮説である。


 公式発表による説明は、「資料6」のとおりだが、水面下では内密に詳しい調査が進められていた模様。

 156年に正式の調査派遣が行なわれたと報告されているが、実際は150年あたりから調査されていたものと思われる。

 ウイリアム氏による論文発表の同時期、すでに大学研究チーム内で謎の物質の正体もかなり明確に特定されていた。
 その名は、異文明の言葉で「オリハルコン」

 その異分明人は、我々連邦星域区域図で特定されている、第41保護区域内ソル太陽系、第三惑星スカラウ(地球)から飛来したのではないかと認識されていた。

 研究チーム内では、この「オリハルコン」についての分析作業が行なわれたが、具体的な結果は得られなかったようだ。
 ただし、この物質がジリアスの地殻変動を引き起こした原因ではないかという見解は、研究者達の一致した意見であった。

 研究チームの間では、短剣の他に、大元の「オリハルコン」がジリアスの地層に埋もれていることを推測。調査目標に定めていたと思われる。

 以後、ジリアスには「秘宝」が眠っているとの通説が流れる。


 銀河連邦宇宙軍選定、犯罪シンジケートブラックリスト登録ナンバー06。
 「ウォル・グルップ」

 彼らは、その流説に興味を示し、ドクター・ウイリアムの研究テーマを狙ったものと思われる。
 直後、ウォル・グルップによる「ジリアス・ラボ襲撃事件」が発生する。
 (以下「GR襲撃事件」と呼称)