<資料ー1>ートリトン 5歳の作文よりー
ボクは、お父さんの部屋で、初めてそれを見た。
でも、いつだったかな…。ずっと小さかった時…。
ボクのお父さんは、ずうっと昔に住んでいた人の暮らしを研究している。
ボクには、よくわからないけど、お父さんは、いろんなことがわかるからおもしろいんだって。
お父さんのお部屋には、土の中から出てきた石の道具とか、飾り物とか、いっぱい置いてあるんだよ!
み〜んな、昔の人が作ったものだって、お父さんは教えてくれた。
ボク、その中でとっても好きな物があるんだ!
かっこいい剣!
綺麗な宝石がいっぱいくっついてて、キラキラッて光るの!
それ、お父さんが集めた物の中で、一番すごいやつなんだよ!
ボクが、それを欲しいっていったら、お父さんにダメだって怒られた。
こういうのは、大人が持つものなんだって。 ボクは、全然知らなかった。
でもね、ボクが大きくなったらくれるって。お父さんはそう約束してくれた。
それから、不思議な言葉も教えてくれた。
元気がでるおまじないの言葉。
だけど、誰にもいっちゃいけないんだよ。秘密の大切な言葉なんだって。
だから、今はナイショ!
だって約束を破ったら、お父さんはボクにきっと剣をくれないんだ。
そんなの、ぜったい嫌だ!
ボクは、後、どのくらいで大人になれるんだろう。10年くらいかな?
そのとき、ボクはいったいどうしているだろう。
<資料ー2>ートリトン 6歳時の証言よりー
僕は、不思議な夢をよく見ます。
そこは、きっと「おとぎの国」なのだと思う。
石の柱がいっぱいあって、大きくて、不思議な形の建物がずっと並んでいる。とてもすごい街だ。
何もかも、その街は石で造られている。
石で敷き詰められたガタガタの道。建物も、石を巧みに積み上げて、うまく組み合わせてある。
石の柱や壁、屋根なんかには、人物や動物を象どった細かい細工があちこちに施してある。
街のいたるところに泉がわいていて、噴水が吹き上がっている。そこから小さな水路に続いていて、街の中のどこにいても、綺麗な水の音が聞こえてくる。
もちろん、緑もある。
石の家を囲むように、大きな木が育っていて、下から見上げると木漏れ日が気持ちいいくらい、いっぱいに降りそそいでくる。
だけど、そんなすごい街なのに、中には人が誰もいない。
いるのはいつも僕だけだ。
僕は、当然のようにその道をまっすぐに歩いている。
まるで、前からずっとここにいて、ここが僕の街なんだと思うくらい、僕はその街の中になじんでしまう。
街の道をまっすぐに歩いていくと、やがて、その街の宮殿にたどりついてしまう。
その宮殿も、ものすごくりっぱなんだ。
三重くらいの、高くて丸い堀に囲まれた中に、ひときわ大きな石の建物がそびえている。
しかも、その宮殿は赤い光を放って輝いているんだ。
それは、お父さんの研究資料にあった短剣と同じ。あの赤い光だ。
だけど、僕は少しもびっくりしないで、その宮殿の中に入っていってしまう。
そして、そこには、この国にたった二人しかいないっていう、とてもかっこいい王様とお妃様がいらっしゃる。
この二人が、僕にこう語りかけてくる。
「ここは、いずれ君がやってくる場所なんだよ。」
「私達は、あなたがここに来ることをずっと待ちつづけています。私達のところへやってきて、私達の話をぜひ聞いてください。」
でも、夢の中で僕が何を聞いても、二人は何も答えてくれない。
夢は、いつもここで終わってしまう。
起きてから思うことは、変な夢。だけど、嫌じゃない夢。
僕は、どこかにこの不思議な街が本当にあって、あの二人もこの世界のどこかにいるんじゃないかって、信じています。
あの街が本当にあるんだったら、僕は行ってみたい。何があっても。
<資料ー3>ー事件後、トリトンの父、ウイリアムの証言よりー
私がジリアスの遺跡に携わることになったのは、同じ大学に所属している友人、ダブリスの軽い頼みを承諾したからです。
だいたい、ジリアスという惑星は、我々人類を統括する銀河連邦でさえ開発を断念したのですよ。それを友人が、自ら開発に着手すると宣言した時は、私でさえ正直驚きました。
しかし、友人の構想は、開発者の視野をはるかに越えた雄大なものでした。後は周知のとおりです。連邦議会が動き、ライフェス総合大学が中心となり、開発計画が動き出しました。
よくある話です。具体的な開発の前に、それぞれの分野のエキスパートが、調査隊を編成し、事前にその惑星調査に乗り出しました。
私は、同じ大学の地質学者らと手を組み、その調査隊に参加しました。遺跡はその最初の段階で発見にいたり、私の研究課題に加えられました。その時点で、すでに友人の計画の漸進を担っていたことになります。そうです。ジリアス計画が正式に動き出す8年前のことです。
ただ、そこに私の息子が関係してくるとは、その時は夢にも思いませんでした。
あの子は、私が海底遺跡の中から発掘してきた小さな短剣に強い関心を持つようになりました。しかも驚くべきことは、短剣の方が息子に強い反応を示したという点です。つまり、それまで沈黙していたものが、急に眠りから覚めたように輝きを発したのです。
ある特定の個人にだけ反応し、光を発する金属。そのような金属は、むろんオウルト世界には存在しません。まして、その金属はあくまでただの鉱物です。センサーや個人の電気的反応なんかで輝いたりするものではありません。
それ以前に、息子がよく語って聞かせてくれた不思議な夢の街の話。息子は気づいていなかったようですが、私の見解ではジリアスの異文明の描写だと断言していいでしょう。
私には、研究の一貫として、息子と遺跡の関係を調べる義務があったことは認めます。しかし、だからといって息子を、故意に友人の計画に参加させたことはありません。あれは、息子の探究心が強かったことと、友人の息子に対する評価が高く、友人から熱意のこもった説得があったからです。
当時、息子の進路はさまざまな障害でひどく曲折していました。私はいつも息子本人の意志を尊重し、独立心を促すためにすべてを息子にまかせてきました。ですから、息子がジリアス計画に参加したのは、息子自身が決定したことなのです。
その研究のすべてが、密かに海賊に狙われていたなんて…。
息子に短剣を持たせたことは、大きな私の誤りでした。私には息子と短剣の反応の変化を調べる目的があったにせよ、幼いときから欲しがっていた息子の気持ちを汲んで、つい譲ってやりました。元気をなくした息子の気持ちを慰めてやりたかったのでね。
それから、息子の行動の詳細をつかむことはできなくなりました。友人の言葉で「よくやってくれている。」と聞かされていただけです。
その後のことは親としての私達の責任です。あのような悲惨な事件が起きてしまうとは…。今は、ただ、皆様方に深く陳謝したいと思うだけです…。
<資料ー4>ー事件後、トリトンの母 アレナの証言よりー
息子には、不思議な力があったのではないかとよくいわれますが…。
私達は、少しもそんなことを感じたことはありません。
水棲能力ですか?
それは、あの子が生まれた時に知りました。私が謝って、あの子を風呂の中に落としてしまったことがあったんです。
けれど、オウルト人の中では、特別な力だという認識はないでしょう?
異星人とのハーフは多いですから。
息子が通っていたスクールにも、息子同様に水への適応力が高いお子さんが、当たり前のようにいらっしゃいました。
学力ですか?
それはどういえばいいでしょう。知能テストで200の数値を出したのは本当です。
言葉を喋りだしたのは、確かに早かったです。1歳時のときに会話ができるようになりました。
しかし、ほかの発育面では、特別早いということはありませんでした。歩き出したのも、手を使い出したのも、平均的なものです。
10歳で大学を卒業しましたが、あの子が人並みはずれていたのは学力だけでした。中味の方は、まだまだ半人前です。今でもそうです。手を焼かせてくれるのでとても困っています。
それに、知能が高いといっても、数値的には特別なものはないそうです。他にも、息子ほどの知能を誇っていらっしゃる優秀な方は、大勢いらっしゃいますから。
私達からみれば、あの子は特別な存在ではないのです。
<資料ー5>ー事件後、トリトン・ウイリアムの証言よりー
夢の話ですか?
あれは、子どもの頃の話でしょ?
どんな夢だったのか、あまり覚えていないんです。
子どもの頃の夢物語ー。
そんな感覚だったんです。もう、俺も忘れてしまいました…。
極 秘
惑星ジリアス・海賊襲撃事件に関する
調査報告
及び
事件経過資料
オウルト銀河連邦統括<ビローグGG>艦長
中将 オリコドール監修