『旅はきまぐれ馬まかせ』
旅競馬中京篇


体と精神のリフレッシュには、旅に出るのもいいもの。日本全国まだまだ行っていないところばかり。どうせ行くならテーマを定め、中央競馬全10場巡りを開始することにした。ついでに地方競馬26場を加えたら、 残りの人生大忙し、うかうかしてはいられない。

早速競馬カレンダーと仕事の日程表を見比べて、5月24日(土)中京競馬場にGV「金鯱(きんこ)賞」を見に行くことにした。セイントリファールに武豊騎乗予定。(彼の騎乗スタイルは芸術品。ライブで見る価値あり。)

新幹線で名古屋までは早いもので、昼過ぎには着いていた。雨が横浜あたりから降っていた。あがるか、このまま降り続くか、それが問題だ。

ところで、この名古屋駅、東の京と西の京との「真ん中にある京」の駅で、JR・私鉄・地下鉄のターミナル。混雑しているのは言うまでもない。が、なにか変なのである。

東京駅や新宿駅なら当然ある人の流れというものが見えない。人は前後左右、あらゆる方角に均等に右往左往しているかに見えるのだ。そして、乗り換えの案内板が通路のどこにも見あたらない。駅前のバス発着所といったものもない。と思ったら、なんと、バスは駅前ビルの”4階”から発車していた!

あれだけ複雑なバス路線を持つ京都だって、ガイドブックと駅前の案内図を照らし合わせれば、はじめてでもわかるもの。ここの駅の発想は、”一過性の旅人”といったよそ者の存在を全く意識していない構造だと、思い至った。



て、競馬場である。交通は名鉄名古屋本線各駅停車中京競馬場駅下車徒歩10分とガイドブックで確認。名鉄の車両の乗り心地はよかった。

小さな、ホームがじかに道路につながっているような駅に降り立つ。
先ほどまで本降りだった雨が今はやや小降りである。時刻は1時過ぎ。6Rが終わったところだ。

駅前通りはほんの20メートルほど、すぐ東西に伸びる広い道に出る。競馬場行きのバスが止まっている。ここではきちんと一方向に向かってできている人の流れについて、バスに乗り込む。

雨に濡れて黄緑に輝く樟の樹の並木通りが、やや上り坂でつづく。数分行くと正面が競馬場。遊園地の入り口のイメージだ。 客はまた流れをつくってそのまま場内へ。(無料バスだった!)

入り口で競馬新聞を購入、見慣れた「エイト」にする。「本日のレースガイド」を取る。(当然これは中京競馬場記念として永久保存することになる)

7Rの締め切り10分前。[柱]をみると、武の乗るエーピーライが一番人気。場内案内図でパドック・窓口・本馬場の位置を確かめ、窓口に直行。

「7Rは見学だね。」などと、バスの中で確認したことなど何の効果もない。検討なしに、武さんから2・3番人気へと2点きめ、シートにマーク、窓口へと、いつもの動作になってしまう。そう、レースを見るには馬券を買ってなければ、緊張がない。

窓口のおばさんに「私、ここ、初めてなんです。」とちょっと挨拶。普段無愛想なくせに、競馬場では機嫌のいい私なんです。



あ、本馬場へ。全体の印象は、中山をひとまわり小さくした感じで、左回りコース。馬場全体が美しく落ち着いて見える。よくある中央の遊園地がないのだ。このほうがレースに視線を集中できていい。

芝コースとの間は幅2メートルほどの堀で仕切られている。立ち見場の石畳は中央のほんの一部分で、両サイドの芝生部分が広い。小さなバッタが跳ねている。

雨の中京競馬場 芝生の丈は長く、靴が埋まるほど。ふかふかして気持ちがいいが、雨に濡れた芝は靴先が滑る。コース状態はまだ[芝良]だが、要注意。と、なにやら、プロの気分で点検した。

最初のレースはゴール前で見ることにする。先行馬逃げ切りで、1着松永幹夫・2着武豊、幸先よく馬券をとった。

次はパドックでじっくり見る。パドックもこじんまりしていて、広場の手前側からだけ見るようになっている。タマモクロスの仔と高橋亮君の馬とがよく見えた。 一番人気から、5頭に流す。人気のなかった亮君の馬が1着に来て、ホクホク。

次のレースは[柱]を見てもピンとこないので馬券をやめ、(これは職場の若い先輩がよく言う言葉)、場内の見学に。

若者や子供連れも程良くいるが、目に付くのは、2・3人で連れだったおじさんやおじいさんグループ。いずれも常連と見えて、程良い声量で語り合っている。

これが中山だと、数人連れは要注意。1人の経験者が新米を連れたパターンが多く、経験者の得意の講釈が耳に障ることが多い。また、おじさんづれはたいていアルコールが入っていて、これまた大きな声で、「取った、取らない」とやっている。

中京の会話はやわらかな声音で耳触りがよかったのが、意外だ。例の「オミャー音」で私が単語が聞き取れないせいか。そういえば、電車の車内放送の駅名がほとんど聞きとれないのには困った。

9Rは買わなくて正解。スタンドに座ってコーヒーを飲みながら、次の検討にはいる。

10R、武さんはコーヒーブレイクに乗る。名前がよい。パドックに行くと体重はマイナス6キロだが、シャープな馬体で、気合い十分。2番人気だったが、単勝とこれもよく見えたエリモエベレストをいれて馬連をねらう。

コーヒーブレイクは6・7番手から、直線内側を末足伸ばして見事な追い込み。エリモも来てグッド、グッド。馬連1,820円。武さんがらみでこの配当はなかなかのもの。3R連続で当たるなんて、この競馬場は相性がいい!



イン11Rも一番人気は武のセイントリファール。 そういえば、ほとんど聞き取れなかったおじさん達の会話からも、「タケ、タケ」の音だけはよく聞こえてくる。

柄シャツを着た(ここ名古屋の流行だった!)小柄なおじさん達が「武さんだから来るよ。」などと言っている、この中京競馬場ってかわいいね。

と、いい気になったのがいけなかった。雨足がかなり強くなってきたのに、雨適性なしのリファールを単勝と馬連の軸にして買ってしまったのだ。

直線パタッと足がとまり、金の鯱は手に入らなかった。久しぶりのゼネラリストは粘り、2着にはとんでもない馬が入ってきて、馬連37,090円。こういう馬券はどうすれば買えるんだろう。

武フリークにはいつまでも買えない。

12Rも外したが、半日十分楽しんで、何枚かの[あたり馬券]をおみやげにゆったりした気分で帰路に着く。
雨に濡れた並木道を歩く。一日の仕事を終えた馬たちを載せて、馬運車も隣の車道を帰っていく。

常連さんもゆっくりとした足取りで、ここでもよく語らいながら歩いている。中山帰りはこうはいかない。東京から来る客も多いためか、ほとんどの人が黙々と早足で駅へと急ぐ。

中京競馬場は近場の人が多いのだろう。中央競馬というよりローカル競馬なのだなと感じた。

季節はずれの冷たい雨だったが、ほんのりと温かみのある競馬場であった。



古屋駅に着くと、再び例の右往左往、ようやくホテルに着く。場所は一番の繁華街。栄中央というネーミングがまた名古屋チックで、一番の大きなデパートが「○に栄」の「丸栄デパート」ときた。

旅立ち前、「名物料理は?」と職場の名大出身者に聞いたら、苦笑して、「テンムスかな。」と言った。なんと、おむすびの中に天ぷらが入っているとのこと。

どんなたべかたをするのかしらと、思っていたら、デパートの食堂のショーケースの中央に、エビのしっぽを頭からのぞかせて鎮座しているのだ。思わずひるんでしまった。

やっとのことでまあまあの店構えをみつけて、懐石風御膳を取ると、これがまた、「味見をしたのかしら?」としか思えない味。ダシを入れ忘れ、醤油の量を間違えた・・・。

犬山城 翌日、徳川美術館まで乗ったタクシーの運転手は、関東人の客に向かって、ひたすら名古屋人気質を講釈し、「おらが名古屋が世界で一番と思っている”偉大なるいなかっぺ”だ。」と曰うた。

駅前通りには「2005年万国博を名古屋へ」の幟がはためいていた。

愛すべき名古屋と中京競馬場へは、きっとまた来よう。

(右の写真は岐阜笠松競馬場の東方、木曽川に面する犬山城)

1997/7/1執筆 photo by yunami
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