「日本国憲法」誕生までの歴史を資料でたどる

2005年5月3日に全国3大誌新聞紙上に 憲法9条改悪反対の意見広告を出す運動をしている「意見広告運動」の会が、
1月25日(火)に歴史家色川大吉さんの講演会「『明治』期民衆憲法草案と日本国憲法の密接な関係」を開いた。

色川さんはかつて、岩波新書『自由民権』(1982年4月刊)によって、
明治7年(1984)国会開設要求以来、人々が全国各地で自分たちの憲法草案をつくる 大きな運動を起こしていたことを取り上げた。
特に、西日本の民権運動が士族中心であったのに対し、
東日本では豪農を中心とした民衆による活発な結社・学習活動が あったことを重視し、
彼等が生み出した「憲法案」のひとつ「五日市憲法草案」を発掘し、世に広めました。

「意見広告運動」の会が色川さんの講演会を企画した目的は、もちろん、
改憲を強行しようとしている人々による、日本国憲法を占領軍による「押しつけ憲法」であるとする主張に対して、
「明治」期に大日本帝国憲法が明治天皇によって文字通り上から押しつけられる前、
この国では民衆が活発に憲法草案を作っていたことを、しっかりと確認することにあります。

講演会の案内文によれば、「自由民権」運動の生み出した「私擬(しぎ)憲法草案」とよばれるそれは、
実に約60種類もあり、五日市憲法草案や植木枝盛の「日本国国憲案」はその代表です。
特に植木枝盛の憲法草案は徹底した人民の平等と政府官憲に対する抵抗権を明示している画期的な内容をもっています。

民衆が作ったそれらの憲法草案は、
明治憲法の研究者である鈴木安蔵氏らが1945年12月に作成した「憲法研究会草案」に反映して、
GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)民政局による日本国憲法の原案作りに 大きな影響を与えたということです。

このように日本国憲法と「明治」期の民衆による草の根からの憲法草案作りとは密接なかかわりを持っています。
しかし、その事実は余り知られていません。

わたしども『戦中生まれの・・」会員の多くが読んだベアテ・シロタ・ゴードンさんの『1945年のクリスマス』は、
一介の民政局員としてベアテさんが携わった、GHQの憲法草案の作成の一側面をドラマチックに語ってくれますが、
上記のような、民政局が在野の憲法学者たちに私案を提出させて参考にしていた事実は、 浮かび上がってきません。
ベアテさんが「日本女性におくった24条」という側面ばかりに、私たちが目を向けるなら、「押しつけ」論を補強してしまうでしょう。

男女平等も、市民の権利も、
明治初期の民衆の草案の中に創出されていたものだということ を、しっかりと認識することが重要です。
そして、また日本の民衆は、西欧の市民革命と人権思想をたっぷり学習し、理解し、広い視野を得て、
人間としての歴史の継承を自覚していたということを知るならば、
「日本国憲法」は、現代の私たちが、人類の歴史の先端に誇り高く掲げるべきものであることが、 より納得できるのではないでしょうか。

歴史家の色川大吉さんは、この講演会でこの事実をたっぷり語ってくださった。

ここでは、その講演会資料としてくばられた「五日市憲法草案」の全文(ただし一条から30条までは省略してあった)を掲載します。
また、ひきつづいて、「植木枝盛」の憲法私案を紹介します。(植木枝盛の全文は手に入れ次第全文掲載を試みます。)

内容を知ることを目的とするため、読みやすさを考えて、濁点を付し、原文のカタカナ表記はひらがなに改めました。
また、原文は句読点無しですが、最小限の句読点を付しました。
また、漢字も新字体、または仮名表記に変えてある箇所があります。(変更した箇所には(ママ)の印をつけました。)
文責;なみひさ ゆうこ




*** 目 次 ***

「五日市憲法草案」
  • 作った人/千葉卓三郎(タクロン・チーバー)1852年〜1883年 
  • 作った時/ 年 月 日(不明・明治15,6年頃)  
  • 作った場所・国・グループ/自由権下不羈郡浩然気村貴重番智(当時神奈川県下西多摩郡五日市町・現東京都あきる野市五日市)
    ・日本・五日市町の深沢権八ら山村民権家グループの支援のもとで作成 
「東洋大日本国国憲案」
  • 作った人/植木枝盛1857年〜1892年 
  • 作った時/1881(明治14)年 8月28.29日起草  
  • 作った場所・国・グループ/高知県・日本・「立志社憲法調査局起草委員」として起草
「五日市憲法草案」
全二〇四条のうち三一条から二〇四条まで、ただし各条の番号は色川氏が附したもの

       日 本 帝 国 憲 法         陸陽仙台  千葉卓三郎草    

第一篇 国帝  (*第一篇 四一条のうち三〇条まで省略)

  第一章 帝位相続

  第二章 摂政官

  第三章 国帝権理

 三一 法司を訴告する者あるときは国帝之を聴き、仍ほ参議院の意見を問ふて後に之を停職することを得。

 三二 国帝は国会を催促徴喚し、及之を集開終閉し、又之を延期す。

 三三 国帝は国益の為に須要とする時は会期の暇時に於て臨時に国会を召集することを得。

 三四 国帝は法律の議案を国会に出し、及其他自ら適宜と思量する起議を国会に下附す。

 三五 国帝は国会に議せす特権を以て決定し、外国との諸般の国約を為す。
    但し国家の鞏保と国民に密附の関係(通商貿易の条約)をなすことに基ひする者、又は国財を費し
    若くは国境(ママ)所属地の局部を譲与変改するの条約、及其修正は国会の承諾を得るに非れば其効力
    を有せず。

 三六 国帝は開戦を宣し、和議を講し、及其他の交際修好同盟等の条約を準定す。
    但し即時に之を国会の両院に通知す可し。且国家の利益安寧と相密接すと思量する所の者を
    同く之を国会の両院に通照す。 

 三七 国帝は外国事務を総摂す。外国派遣の使節諸公使、及領事を任免す。

 三八 国帝は国会より上奏したる起議を允否す。

 三九 国帝は国会の定案、及判決を勅許制可し之に鈴印し、及総て立法全権に属する所の職務に就き最終
    の裁決を為し之に法律の力を与へて公布す可し。

 四〇 国帝は外国の兵隊の日本国に入ることを許すこと、又太子の為めに王位を辞することとの二条に
    就ては特別の法律に依り国会の承認を受けされば其効力を有せす。

 四一 国帝は国安の為に須要する時機に於ては同時、又別々に国会の両院を停止解散するの権を有す。
    但し該解散の布告と同時に四十日内に新議員を選挙し、及二ヶ月内に該議院の召集を命ず可し。


第二篇  公法   (*第二篇 36条)

  第一章 国民の権理

 四二 左に掲ぐる者を日本国民とす。
   一 凡そ日本国内に生るる者
   二 日本国外に生るるとも日本国人を父母とする子女
   三 帰化の許状を得たる外国人
     但し帰化の外国人が享有すべき其権利は法律別に之を定む。

 四三 左に掲ぐる者は政権の受用を停閣す。
   一 外形の無能(廃疾の類)心性の無能(狂癲白痴の類)
   二 禁獄若くは配流の審判
     但し期満れは政権剥奪の禁を解く。

 四四 左に掲ぐる者は日本国民の権利を失ふ。
   一 外国に帰化し外国の籍に入るもの
   二 日本国帝の允許を経ずて外国政府より官職爵位称号若くは恩賜金を受くる者

 四五 日本国民は各自の権利自由を達す可し。他より妨害す可らず。且国法之を保護す可し。

 四六 日本国民は国憲許す所の財産智識ある者は国事政務に参与し、之れが可否の発言を為し、之を議す
    るの権を有す。

 四七 凡そ日本国民は族籍位階の別を問はず、法律上の前に対しては平等の権利たる可し。

 四八 凡そ日本国民は日本全国に於て同一の法典を準用し、同一の保護を受く可し。地方、及門閥、若くは一人一
    族に与ふるの時(特)権あることなし。

 四九 凡そ日本国に在居する人民は、内外国人を論せず其身体生命財産名誉を保固す。

 五〇 法律の条規は其効を既往に及ほすことある可らず。

 五一 凡そ日本国民は法律を遵守するに於ては万事に就き予め検閲を受くることなく、自由に其思想意見論
    説図絵を著述し、之を出板頒行し、或は公衆に対し講談討論演説し、以て之を公にすることを得べし。
    但し其弊害を抑制するに須要なる処分を定めたるの法律に対しては、其責罰を受任す可し。

 五二 凡そ思想自由の権を受用するに因り、犯す所の罪あるときは法律に定めたる時機並に程式に循拠して
    其責を受く可し。著刻犯の軽重を定むるは法律に定めたる特例を除くの外は、陪審官之を行ふ。

 五三 凡そ日本国民は法律に拠るの外に、或は強て之を為さしめられ、或は強て之を止めしめらるる等のこと
    ある可らず。

 五四 凡そ日本国民は集会の性質、或数人連著、或は一個人の資格を以てするも、法律に定めたる程式に循
    拠し、皇帝国会、及何れのガ(ママ)門にむけても直接に奏呈請願、又上書建白するを得るの権を有す。
    但し該件に因て牢獄に囚附せられ、或は刑罰に処せらるることある可らす。若し政府の処置に関し、又国
    民相互の事に関し、其他何にても自己の意に無理と思考することあれば、皇帝国会何れのガ(ママ)門に
    向ても上書建白請願することを得可し。

 五五 凡そ日本国民は華士族平民を論ぜず、其才徳器能に応し国家の文武官僚に拝就する同等の権利を有
    す。 

 五六 凡そ日本国民は何宗教たるを論ぜず、之を信仰するは各人の自由に任す。然れども政府は何時にても
    国安を保し、及各宗派の間に平和を保存するに応当なる処分を為すことを得。
    但し国家の法律中に宗旨の性質を負はしむるものは国憲にあらざる者とす。

 五七 凡そ何れの労作工業農耕と雖ども、行儀風俗に戻り国民の安寧若くは健康を傷害するに非れば之を禁
     制することなし。

 五八 凡そ日本国民は結社集会の目的、若くは其会社の使用する方法に於て国禁を犯し、若くは国難を醸す
    べきの状なく、又戎器を携ふるに非ずして、平穏に結社集会するの権を有す。
    但し法律は結社集会の弊害を抑制するに須要なる処分を定む。

 五九 凡そ日本国民の信書の秘密を侵すことを得ず。其信書を勾収するは現在の法律に依り法に適したる拿
     捕、又は探索の場合を除くの外、戦時若くは法ガ(ママ)の断案に拠に非れば、之を行ふことを得ず。

 六〇 凡そ日本国民は法律に定めたる時機に際し法律に定示せる規程に循拠するに非れば、之を拘引・招喚
     囚捕・禁獄、或は強て其住屋戸鎖を打開することを得ず。

 六一 凡そ日本国民各自の住居は全国中何方にても其人の自由なる可し。而して他より之を侵す可らず。若
    し家主の承允なく、或は家内より招き呼ぶことなく、又火災水災等を防御する為に非ずして、夜間人家に
    侵し入ることを得ず。

 六二 凡そ日本国民は財産所有の権を保固にす。如何なる場合と雖ども財産を没収せらるることなし。公規に
    依り其公益たるを証するも、仍ほ時に応ずる至当なる前価の賠償を得るの後に非ざれは、之が財産を
    買上らるることなかる可し。

 六三 凡そ日本国民は国会に於て決定し、国帝の許可あるに非ざれば、決して租税を賦課せらるることなかる
    可し。

 六四 凡そ日本国民は当該の裁判官、若くは裁判所に非ざれば、縦令規程の刑法に依り、又其法律に依て
    定むる所の規程に循ふも、之を糺治裁審することを得ず。

 六五 法律の正条に明示せる所に非ざれば甲乙の別を論ぜず。拘引逮捕糺弾処刑を被ることなし。且つ一た
    び処断を得たる事件に付、再次の糺弾を受く可らず。

 六六 凡そ日本国民は法律に掲ぐる場合を除くの外、之を拿捕することを得ず。又拿捕する場合に於ては裁判
    官自ら署名したる文書を以て其理由と劾告者と証人の名を被告者に告知す可し。

 六七 総て拿捕したる者は二十四時間内に裁判官の前に出すことを要す。拿捕したる者を直に放逐すること
    能はざるときに於ては、裁判官より其理由を明記した〔る〕宣告状を以て該犯を禁錮す可し。右の宣告は
    力〔めて〕所能的迅速を要し、遅くも三日間内に之を行ふ可し。
    但し裁判官の居住と相隣接する府邑村落の地に於て拿捕するときは、其時より二十四時間内に之を告
    知す可し。若し裁判官の居住より遠隔する地に於て拿捕するとき〔は〕、其距離遠近に準じ法律に定めた
    る当応の期限内に之を告知す可し。

 六八 右の宣告状を受けたる者の求に因り裁判官の宣告したる事件を遅滞なく控訴し、又上告することを得
    べし。

 六九 一般犯罪の場合に於て法律に定むる所の保釈を受くるの権を有す。

 七〇 何人も正当の裁判官より阻隔せら〔る〕ることなし。是故に臨時裁判所を設立することを得可らず。

 七一 国事犯の為に死刑を宣告さるることなかる可し。

 七二 凡そ法に違ふて命令し、また放免を怠りたる拿捕は政府より其損害を被りたる者に償金を払ふ可し。

 七三 凡そ日本国民は何人に論なく法式の徴募に〔 〕り、兵器を擁して海陸の軍伍に入り、日本国の為に
    防護す可し。

 七四 又其所有財産に比率して国家の負任〔公費租税〕を助くるの責を免る可らず。皇族と雖ども税を除
    免せらるること得可らず。

 七五 国債公費は一般の国民たる者負担の責を免る可らず。

 七六 子弟の教育に於て其学科及教授は自由なる者とす。然れども子弟小学の教育は父兄たる者の免る可
    らざる責任とす。

 七七 府県令は特別の国法を以て其綱領を制定せらる可し。府県の自治は各地の風俗習例に因る者なるが
    故に、必らず之に干渉妨害す可らず。其権域は国会と雖ども之を侵す可らざる者とす。

第三篇  立法権    (*第三篇 79条)

  第一章 民撰議院

 七八 民撰議院は選挙会法律に依り定めたる規程に循ひ、撰挙に於て直接投籤法を以て単撰したる代民議
    院を以て成る。
    但し人口二〇万人に付一員を出す可し。

 七九 代民議員の任期三ヶ年とし、二ヶ年毎に其半数を改撰す可し。
    但し幾任期も重撰せらるることを得。

 八〇 日本国民にして俗籍に入り(神官僧侶教導職耶蘇宣教師に非る者にして)、政権民権を享有する満三
    十歳以上の男子にして、定額の財産を所有し、私有地より生ずる歳入あることを証明し、撰挙法に定めた
    る金額の直税を納るる文武の常職を帯びざる者は、撰挙法に遵ひて議員に撰挙せらるるを得。

 八一 凡そ此に掲げたる分限と要款とを備具する日本国民は、被撰挙人の半数は其区内に限り、其他の半数
    は何れの県の区にも通して選任せらるることを得。

 八二 代民議員は(撰挙せられたる地方の総代に非ず)日本全国民の総代人なり。故に撰挙人の教令を受く
    るを要せず。

 八三 婦女・未成年者・治産の禁を受けたる者・白痴瘋癲の者・住居なくして人の奴僕雇傭たる者・政府の助
    成金を受くる者・及常事犯罪を以て徒刑一ヶ年以上実決の刑に処せられたる者・又稟告されたる失踪人
    は、代民議員の選挙人たることを得ず。

 八四 民撰議員は日本帝国の財政(租税 国債)に関する方案を起草するの特権を有す。

 八五 民撰議院は往時の施政上の検査、及施政上の弊害の改正を為すの権を有す。

 八六 民撰議院は行政官より出せる起議を討論し、又国帝の起議を改竄するの権を有す。

 八七 民撰議院は緊要なる調査に関し、官吏並に人民を召喚するの権を有す。 

 八八 民撰議院は政事上の非違ありと認めたる官吏(執政官 参議官)を上院に提喚弾劾する特権を有す。

 八九 民撰議院は議院の身上に関し左の事項を処断するの権を有す。
   一 議員民撰議院の命令規則若は特権に違背する者
   二 議員撰挙に関する訴訟

 九〇 民撰議院は其正副議長を議員中より撰挙して国帝の制可を請ふ可し。

 九一 民撰議院の議員は院中に於て為したる討論演説の為に裁判に訴告を受くることなし。

 九二 代民議員は会期中及会期前後二十日間、民事訴訟を受くることあるも答弁するを要せず。
    但し民撰議院の承認を得るときは此限にあらず。

 九三 民撰議院の代民議員は現行犯罪に非れば、下院の前許承認を得ずして、会期中及会期の前後二十日
    間、拘留・囚捕・審判せらるることなし。
    但し現行犯罪の場合に於ても拘致囚捕、或は会期を閉つるの後糺治又囚捕するに於ても、即時至急に
    裁判所より代民議員を拿捕せしことを民撰議院に通知し、該院をして其件を照査して之を処分せしむ可
    し。

 九四 民撰議院は請求して会期中及会期の前後廿日間、議員の治罪拘引を停止せしむるの権を有す。

 九五 民撰議院の議長は院中の官員(書記等其他)を任免するの権あり。

 九六 代民議員は会期の間旧議員任期の最終会議に定めたる金給を受く可し。又特別の決議を以て往返の
    旅費を受く可し。

  第二章 元老議院

 九七 元老院は国帝の特権を以て命する所の議官四十名を以て成る。
    但し民撰議院の議員を兼任するを得ず。

 九八 満三十五歳以上にして左の部に列する性格を具ふる日本人に限り、元老院の議官たることを得べし。
   一 民撰議院の議長
   二 民撰議院に撰ばれたること三回に及べる者
   三 執政官諸省卿
   四 参議官
   五 三等官以上に任ぜられし者
   六 日本国の皇族華族
   七 海陸軍の大中少将
   八 特命全権大使及公使
   九 大審院上等裁判所の議長及裁判官又其大検事
   十 地方長官
   十一 勲功ある者及材徳輿望ある者

 九九 元老院の議官は国帝の特命に因りて議員中より之を任ず。

一〇〇 元老院の議官は終身在職する者とす。

一〇一 元老院の議官は一ヶ年三万円に過ぎざる一身俸給を得べし。

一〇二 皇太子及太子の男子は満二十五歳に至り文武の常職を帯びさる者は、元老院の議官に任すること
    〔を〕得。

一〇三 諸租税の賦課を許諾することは、先づ民撰議院に於て之を取り扱ひ、元老院はただ其事ある毎に民撰
    議院の議決案を覆議して、之を決定するか、若くは抛棄するかの外に出でず。決して之を変改することを
    得可らず。

一〇四 元老院の編制及権利に関する法律は、先づ之を元老院に持出さざるを得ず。民撰議院は唯之を採用す 
     るか、棄擲するに過ぎず。決して之を刪添す可らず。

一〇五 元老院は立法権を受用するの外左の三件を掌どる。
   一 民撰議院より提出劾告せられたる執政大臣諸官吏の行政上の不当の事を審糺裁判す。其劾告手続
     は法律別に之を定む。
   二 国帝身体若くは権威に対し、又は国安に対する重罪犯を法律に定めたる所に循ひ裁判す。
   三 法律に定めたる時機に際し、及ひ其定めたる規程に循ひ元老院議官を裁判す。

一〇六 元老院議官は其現行犯罪に由りて拘捕せらるる時、又は元老院の集会せざるときの外、予め元老院
     の決定承認を経すして、之を糺治し又は拘致囚捕せらるることなし。

一〇七 何れの場合たるを論ぜず、議官を糺治し若くは囚捕する時は、至急に之を元老院に報知し、以て該院
     権限の処を為さしむ。

  第三章 国会の職権 

一〇八 国家永続の秩序を確定、国家の憲法を議定し、之を添刪更改し、千載不抜の三大制度を興廃する事を
    司る。

一〇九 国会は国帝及立法権を有する元老院・民撰議院を以て成る。

一一〇 国会は総て公行し、公衆の傍聴を許す。
    但し国益のため、或は特異の時機に際し、秘密会議を開くことを要すべきに於ては、議員十人以上の求
    に因て各院の議長傍聴を禁止するを得。

一一一 国会は総て日本国民を代理する者にして、国帝の制可を須つの外、総て法律を起草し、之を制定する
    の立法権を有す。

一一二 国会は政府に於て、若し憲法・或は宗教・或は道徳・或は信教自由・或は各人の自由・或は法律上に
    於て、諸民平等の遵奉財産所有権、或は原則に違背し、或は邦国の防御を傷害するが如きことあれば、
    勉めて之が反対説を主張し、之が根元に遡り、其公布を拒絶するの権を有す。

一一三 国会の一部に於て否拒したる法案は、同時の集会に於て再び提出するを得ず。

一一四 国会は公法及私法を製定す可し。即ち国家至要の建国制度、及根原法一般の私法、及民事訴訟法・
    海上法・礦坑法・山林法・刑法・治罪法・庶租税の徴収、及国財を料理するの原則を議定し、兵役の義務
    に関する原則・国財の歳出入予算表を規定す。

一一五 国会は租税賦課の認許権、及工部に関して取立たる金額使用方を決し、又国債を募り、国家の信任
     (紙幣公債証書発行)を使用するの認許権を有す。 

一一六 国会は租税全局(法律規則に違背せしか、処置其宜きを得ざるや)を監督するの権を有す。

一一七 国会議する所の法案は其討議の際に於て、国帝之を中止し、若くは禁止することを得ず。

一一八 国会(両院)共に規則を設け其院事を処置するの権を有す。

一一九 国会は其議決に依りて憲法の欠典を補充するの権、総て憲法に違背の所業は之を矯正するの権、新
    法律及憲法変更の発議の権を有す。

一二〇 国会は全国民の為に法律の主旨を釈明す可し。

一二一 国会は国帝・太子・摂政官若くは摂政をして、国憲及法律を遵守するの宣誓詞を宣へしむ。

一二二 国会は国憲に掲げたる時機に於て、摂政を撰挙し其権域を〔指〕定し、未成年なる国帝の太保を任命
     す。

一二三 国会は民撰議院より論劾せられて元老院の裁判を受けたる執政の責罰を実行す。

一二四 国会は内外の国債を募り起し、国土の領地を典売し、或は境(ママ)域を変更し、府県を発立分合し、其
     他の行政企画を決定するの権を有す。

一二五 国会は国家総歳入出を計算したる(予算表)を検視の上、同意の時は之を認許す。

一二六 国会は国事の為めに緊要なる時機に際し、政府の請に応し議員に該特務を許認指定す。

一二七 国会は国帝没(ママ)するときは、若くは帝位を空ふするとき、既往の施政を検査し、及施政上の弊害を
     改正す。

一二八 国会は帝国若くは港内に外国海陸軍兵の侵入を允否す。

一二九 国会は毎歳政府の起議に因り、平時若くは臨時海陸軍兵を限定す。

一三〇 国会は内外国債を還償するに適宜なる方法を議定す。

一三一 国会は帝国に法律を施行するために必要なる行政の規則と行政の設立、及其不全備を補ふ法を決定
    す。

一三二 国会は政府官僚及其奉(ママ)給を改正設定し、若くは之を廃止す。

一三三 国会は貨幣の斤量・価格・銘誌・模画・名称、及度量衡の原位を定む。

一三四 国会は外国との条約を議定す。

一三五 国会は兵役義務執行の方法、及其規則と期限とに関する事、就中毎歳召募す可き徴兵員数の定数、
     及予備馬匹の賦課、兵士の糧食屯営の総則に関する事を議定す。

一三六 政府の歳計予算表の規則、及諸租税賦課の毎歳決議、政府の決算表並(ママ)に会計管理成跡の検
     査、新公債証券の発出、政府旧債の変更、官地の売易貸与、専売並(ママ)特権の法律、総て全国に通
     する会計諸般の事務を決定す。

一三七 金銀銅貨及銀行証券の発出に関する事務の規則、税関・貿易・電線・駅逓・鉄道・航運の事、其他全
     国通運の方法を議定す。

一三八 証券の銀行、工業の特準、度量衡製造の模型・記印の保護の法律を決定す。

一三九 医薬の法律、及伝染病・家畜疫疾防護の法律を定む。

  第四章 国会開閉

一四〇 国会は両議院共に必ず勅命を以て毎歳同時に之を開くべし。

一四一 国帝は国安の為に須要とする時機に於ては、両議員の議決を不認可し、其議会を中止し、紛議するに
     当りては其議員(ママ)に解散を命するの権を有す。然れども此場合に当りては必らず四十日内に新議員
     を撰挙せしめ、二ヶ月間内に之を召集して再開す可し。

一四二 国帝崩して国会の召集期に至るも尚ほ之を召集する者無き時は、国会自ら参集して開会することを
    得。

一四三 国会は国帝の崩御に遭ふも、嗣帝より解散の命ある迄は解散せず。定期の会議を続くることを得。

一四四 国会の閉期に当りて、次期の国会未だ開かざるの間に国帝崩御することあるときは、議員自ら参集し
    て国会を開くことを得。若し嗣帝より解散の命あるに非ざれば定期の会議を続くることを得。      

一四五 議員の撰挙既に畢り未だ国会を開かざるの間に於て、国帝の崩御に遭ふて尚ほ之を開く者なきとき
     は、其議員自ら参集して之を開くことを得。若し嗣帝より解散の命あるに非ざれば定期の会議を続く
     ることを得。

一四六 国会の議員其年限既に尽きて次期の議員未だ撰挙せられざる間に、国帝崩御するときは、前期の議
     員集会して一期の会を開くことを得。

一四七 各議院の集会は同時にす可し。若し其一院集会して他の一院集会せざるときは国会の権利を有せず。
     但し糾弾裁判の為〔に〕元老院を開くは其法庭の資格たるを以て此限にあらず。

一四八 各議院議員の出席過半数に至らざれば会議を開くことを得ず。

  第五章 国憲改正

一四九 国の憲法を改正するは特別会議に於てす可し。

一五〇 両議院の議員三分の二の議決を経て国帝之を允可するに非れば、特別会を召集することを得す。特別
     会議員の召集及撰挙の方法は都て国会に同し。

一五一 特別会を召集するときは民撰議院は解散する者とす。

一五二 特別会は元老院の議員及国憲改正の為に特に撰挙せられたる人民の代民議員より成る。

一五三 特別に撰挙せられたる代民議員三分の二以上、及元老院議員三分二以上の議決を経て国帝之を允可
     するに非れば、憲法を改正することを得ず。

一五四 其特に召集を要する事務畢るときは、特別会自ら解散する者とす。

一五五 特別会解散するときは、前に召集せられたる国会は定期の職務に復す可し。

一五六 憲法にあらざる総ての法律は両議院出席の議員過半数を以て之を決定す。

第四篇  (*第四篇 13条)

  第一章 行政権    

一五七 国帝は行政官を総督す。

一五八 行政官は大〔ママ〕政大臣、各省長官を以て成る。

一五九 行政官は合して内閣を成し、以て政務を議し、分れて諸省長官と為り、以て当該の事務を理す。

一六〇 諸般の布告は大政大臣の名を署し、当該の諸省長官之に副署す。

一六一 大政大臣は大蔵卿を兼任す可し。

一六二 大政大臣は国帝に奏し、内務以下諸省の長官を任免するの権あり。

一六三 諸省長官の序次左の如し。
    大蔵卿  内務卿  外務卿
    司法卿  陸軍卿  海軍卿
    工部卿  宮内卿  開拓卿
    教部卿  文部卿  農商務卿

一六四 行政官は国帝の欽命を奉して政務を執行する者とす。

一六五 行政官は執行する所の政務に関し、議院に対して其責に任する者とす。若し其政務に就き議員の信を
     失する時は其職を辞す可し。

一六六 行政官は諸般の法案を草し、議院に提出するを得。

一六七 行政官は両議院の議員を兼任するを得。

一六八 行政官は毎歳国費に関する議案を草し、之を議院の議に付す可し。

一六九 行政官は毎歳国費決算書を製し、之を議院に報告す可し。

第五篇   (*第五篇 35条)

  第一章  司法権    

一七〇 司法権は国帝之を検任す。

一七一 司法権は不羈独立にして、法典に定むる時機に際し、及ひ之を定むる規定に循ひ、民事並に刑事を審
     理するの裁判官・判事及陪審官、之を執行す。

一七二 大審院上等裁判(所)下等裁判所等を置く。

一七三 民法・商法・刑法・訴訟法・治罪法・山林法、及司法官の構成は全国に於て同均とす。

一七四 上等裁判所・下等裁判所の数、並に其種類・各裁判所の構成・権任・其権任を執行すへき方法、及裁
     判官に属す可き権理等は、法律之を定む。

一七五 私有権及該権より生したる権理・負債、其他凡そ民権に管する訴訟を審理するは、特に司法権に属
    す。

一七六 裁判所は上等下等に論なく廃改することを得ず。又其構制は法律に由るに非ざれば変更す可らず。 

一七七 凡そ裁判官は国帝より任し、其判事は終身其職に任じ、陪審官は訴件事実を決判し、裁判官は法律を
     準擬し、諸裁判の所長の名を以て之を決行宣告す。

一七八 軍裁判所を除くの外は、国帝の任したる裁判官の三年間在職したる者は法律に定めたる場合の外
     は、復之を転黜することを得ず。

一七九 凡そ裁判官法律に違犯〔すること〕あるときは各自其責に任ず。

一八〇 凡そ裁判官は自ら決行せらるべき罪犯の審判あるときを以てするの外、有期若くは無期の時間其
     職を〔一字不明〕はるることなし。又司法官の決裁(裁判所議長若いくは上等裁判所の決裁等
     を云ふ)を以てせらるるか、又は充分の緒由ありて国帝の令を下し、且つ憑拠を帯びて罪状ある
     裁判官を当該の裁判所に訴告する時の外は、裁判官の職を停止することを得ず。

一八一 軍事裁判及護卿(ママ)兵裁判亦法律を以て之を定む。

一八二 租税に関する争訟及違令の裁判も同く法律を以て之を定む。

一八三 法律に定めたる場合を除くの外、審判を行ふがために例外非常の法ガ(ママ)を設くることを得ず。
     如何なる場合たりとも臨時若くは特別の裁判所を開き、臨時若くは特別の糺問掛りを組立、裁判
     官を命じて聴訟断罪のことを行はしむ可らず。

一八四 現行犯罪を除くの外は、当該部署官より発出したる命令書に依るに非ずして、拿捕することを得ず。
     若し縦ままに拿捕することあれば、之を命令じたる裁判官及之を請求したる者を法律に掲ぐる
     所の刑に処す可し。

一八五 罰金及禁錮の刑に問ふべき罪犯は勾留することを得ず。

一八六 裁判官は管轄内の訟獄を聴断せすして、之を他の裁判所に移すことを得ず。是故を以て特別なる裁
     判所及専務の員を設くることを得ず。

一八七 何人も其志意に悖ひ、法律を以て定めたる正当判司・裁判官より阻隔せらるることなし。是故を以て
     臨時裁判所を設立することを得ず。

一八八 民事刑事に於て法律を施行するの権は、特に上下等裁判所に属す。然れども上下等裁判所は審判及
     審決の決行を看守するの外、他の職掌を行ふことを得ず。

一八九 刑事に於ては証人を推問し、其他凡て劾告の後に係る訴訟手続の件は公行す可し。

一九〇 法律は行政権と司法権との間に生ずることを得べき権限抵〔触〕の裁判を規定す。

一九一 司法権は法律に定むる特例を除き、亦政権に管する争訟を審理す。

一九二 民事・刑事となる裁判所の訟庭は(法律に由て定めたる場合を除くの外は)法律に於て定むる所
     の規程に循ひ、必す之を公行す可し。
     但し国安及風紀に関するに因り、法律を以て定めたる特例は此限に非らず。

一九三 凡そ裁判は其理由を説明し、訟庭を開て此を宣告す可し。刑事の裁判は其処断の拠憑する法律の条
     目掲録す可し。 

一九四 国事犯の為に死刑を宣告す可らず。又其罪の事実は陪審官之を定む可し。

一九五 凡そ著述出版の犯罪の軽重を定むるは、法律に定めたる特例の外は陪審官之を行ふ。

一九六 凡そ法律を以て定めたる重罪は陪審官其罪を決す。

一九七 法律に定めたる場合を除くの外は、何人を論ぜず拿捕の理由を掲示する判司の命令に由るに非れ
     ば、囚捕す可らず。

一九八 法律は判司の命令の規式、及罪人の糺弾に従事すべき期限を定む。

一九九 何人を論ぜず法律に由て其職任ありと定めたる権を以てし、及法律に指定したる規程に於てする
     の外は、家主の意志に違ひて家屋に侵入することを得ず。

二〇〇 如何なる罪科ありとも犯罪者の財産を没収す可らず。

二〇一 駅郵若くは其他送運を掌る局舎に託する信書の秘密は、法律に由り定めたる場合に於て判司より
     特殊の免許あるときを除くの外は、必ず之を侵入す可らず。

二〇二 保塞(ママ)の建営・土堤の築作修補のためにし、及ひ伝染病其他緊急の情景に際し、前文に掲ぐる公
     布を必需とせざるべき時は、一般に法律を以て之を定む。

二〇三 法律は予め公益の故を以て没収を要することを公布す可し。

二〇四 公益の公布及没収の前給は、戦時・火災・溢水に際し即時に没収することを緊要とするときは、之を要
     求することを得ず。然れども決して没収を被りたる者は没収の償価を請求するの権を損害せず。


(色川大吉氏の注)
注1、五日市草案はタテ23.3センチ×32センチのごく薄い和紙二四枚綴りの文書である。
  平明方直な文字で浄書されているうえ、「葉卓」という朱印が、それも全て異なる印が最初と最後の四箇所おされている。
 2、本文中、若干の虫喰いのための不明箇所がある。その部分は〔 〕の中へ推定の字句を挿入しておいた。
 3、本文には各編ごとに「日本帝国憲法」というタイトルが付してあったので繁をいとわずそのまま収録した。  
 4、各条文については全くナンバーが付されていないが、利用者の便宜を考え、それぞれの条文の頭に数字を付し、 通し番号をつけた。







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up date:11/2004 byゆうなみ