「東洋大日本国国憲案」

植木枝盛が構想した「国憲案」は、第1編から第18編までで、附則1条をふくみ全220条からなる膨大な憲法草案である。
(ちなみに現在の日本国憲法は103条。)
日本を各州からなる連邦制で構想。明確な人権規程(第4編)をもち、その各条の主語は「日本の人民は」と書き出す。
たとえば 第42条「日本の人民は法律上に於て平等となす」と明記する。
第45条においては「日本の人民は何等の罪ありと雖も生命を奪はれさるへし」 と、
死刑制度を否定している条もあり、現行憲法よりもその人権規程は徹底していると言える。

また、司法では陪審制度を採用、土地は国有とするなどが特徴である。

男女平等については、 「五日市憲法草案」が、選挙権の規程において「婦女未成年その他」をひっくるめて 選挙権を持たせず、
女性差別を残しているのに対して、「国憲案」では、すべての「人民」を平等に規定する。
(選挙権を持つ者から「租税を納めざる者」を除く規程があるので、
実質的には女性で選挙権を持つ者は限られた少数の可能性があるが、「婦女」そのものの排除はしていない。)

「男女平等」を明示する個別規程はないが、
植木枝盛自身は、この草案起草後、「男女平等」「家族制度廃止」の論陣を新聞紙上で展開していくので、
彼の国憲案には「男女平等」思想が内包されているものといえる。
(参考文献;「革命思想の先駆者ー植木枝盛の人と思想」家永三郎著・岩波新書)

この草案が、鈴木市蔵らが敗戦直後GHQに提出した「日本国憲法草案」の下敷きになったと言われている。

(草案の本文は、松山大学法学部の「田村 譲先生」のホームページ「たむ・たむ(多夢・太夢)ページ」 に掲載のものを参照しました。
読みやすさを考えて、カタカナはひらがなに改め、濁音表記(例;「得す」→「得ず」)も取り入れました。改行等も変更してあります。)



「東洋大日本国国憲案」
  • 作った人/植木枝盛1857年〜1892年 
  • 作った時/1881(明治14)年 8月28.29日起草  
  • 作った場所・国・グループ/高知県・日本・「立志社憲法調査局起草委員」として起草

日 本 国 国 憲 案


第1編 国家大則及権限

第1章 国家の大則

 第1条  日本国は日本国憲法に循て之を立て之を持す

 第2条  日本国は日本国憲法に循て之を立て之を持す
      日本国に一立法院一行政府一司法庁を置く。憲法其規則を設く。

第2章 国家の権限

 第3条  日本の国家は国家政府を達成せんが為めに必要なる物事を備ふるを得。

 第4条  日本国は外国に対して交際を為し、条約を結ぶを得。

 第5条  日本国家は日本各人の自由権利を殺減する規則を作りて之を行ふを得ず。

 第6条  日本国家は日本国民各自の私事に干渉することを施すを得ず。

第2編 聯邦の大則及権限竝に各州と相関する法

第1章 聯邦の大即ママ

 第7条
  日本  武蔵州 山城州 大和州 和泉州 摂津州 伊賀州 伊勢州 志摩州 尾張州
  三河州 遠江州 駿河州 甲斐州 伊豆州 相模州 安房州 上総州 下総州 常陸州
  近江州 美濃州 飛騨州 信濃州 上野州 下野州 岩代州 盤城州 陸前州 陸中州
  陸奥州 羽前州 羽後州 若狭州 越前州 加賀州 能登州 越後州 越中州 佐渡州
  丹後州 但馬州 因幡州 伯耆州 出雲州 石見州 隠岐州 播磨州 美作州 備中州
  安芸州 周防州 長門州 紀伊州 淡路州 阿波州 讃岐州 伊予州 土佐州 筑前州
  筑後州 豊前州 豊後州 肥前州 肥後州 日向州 大隈州 薩摩州 壱岐州 対馬州
  琉球州を聯合して日本聯邦となす。

 第8条  日本聯邦に大政府を置き聯邦の政を統ふ。

 第9条  日本聯邦は日本各州に対し其州の自由独立を保護するを主とすべし。

 第10条  日本国内に於て未だ独立の州を為さざる者は聯邦之を管理す。

 第11条  日本聯邦は日本各州に対し外国の侵寇を保禦するの責あり。

第2章 聯邦の権限竝に各州と相関する法

 第12条  日本聯邦は日本各州相互の間に関して規則を立つることを得。

 第13条  日本聯邦は日本各州に対して其一州内各自の事件に干渉するを得ず。其州内郡邑等の定制に干渉するを得ず。

 第14条  日本聯邦は日本各州の土地を奪ふを得ず。其州の肯て諾するに非ざれば一州をも廃するを得ず。

 第15条  憲法に非れば日本諸州を合割するを得ず。諸州の境界を変するを得ず。

 第16条  日本国内に於て新に州を為すに就て日本聯邦に合せんとする者あるときは聯邦は之を妨ぐを得ず。

 第17条  外国と諸同盟約を結ぶの権、国家の体面を以て諸外国と交際を為すの権は聯邦にあり。

 第18条  聯邦中に用ふる度量衡を制定するの権は聯邦にあり。

 第19条  通貨を造るの権は聯邦にあり。

 第20条  海関税を定るの権は聯邦にあり。

 第21条  宣戦講和の権は聯邦にあり。

 第22条  日本聯邦は聯邦の管する処に燈船・燈台・浮標を設くるを得。同種類の者は順次揚ぐるを得。

 第23条  日本聯邦は駅逓を管理するを得。

 第24条  日本聯邦は特に聯邦に関する事物の為めに諸法律・規則を定むるを得。

 第25条  日本聯邦(は)外国貨幣及尺度権衡の聯邦内に通用するものに価位を定むるを得。

 第26条  日本聯邦に常備軍を設置するを得。

 第27条  日本中一州と一州と相互の間に渉る争訟は聯邦之を審判す。

 第28条  日本中一州と一州と相互の間に渉る争訟は聯邦之を審判す。
       日本各州と外国使節と公務の往復あるときは聯邦行政府を経由す。

第3編 各州の権限竝に聯邦と相関する法

 第29条  日本各州は日本聯邦の大に抵触するものを除くの外、皆独立して自由なるものとす。何等の政体政治を行ふと も聯邦之に干渉することなし。

 第30条  日本の各州は外国に向ひ国家の権利・体面に関し国土に関する条約を結ぶことを得ず。

 第31条  日本各州は外国に向ひ聯邦竝に他州の権利に関せざる事に限り、経済上の件・警察上の件に就き互約を為すを得、 又た法則を立つることを得。

 第32条  日本各州は既に寇賊の来襲を受け危害に迫るにあらざれば戦を為すを得ず。

 第33条  日本各州は互に戦闘するを得ず。争訟あれば決を連邦政府に仰ぐ。

 第34条  日本各州は現に強敵を受け大乱の生じたるが如き危急の時期に際しては、聯邦に報じて救援を求ることを得、 又た他州に向て応援を請ふことを得。各州右の次第を以て他州より応援を請はれし時、真に其危急に迫ることを知るときは 赴援するを得。其費は聯邦に於て之を弁ず。

 第35条  日本各州は常備兵を設置するを得。

 第36条  日本各州は護郷兵を設置するを得。

 第37条  日本各州は聯邦の許免を持たずして二州以上互に盟約を結ぶを得ず。

 第38条  日本各州は二州以上協議を以て其境を変革するを得、又た其境界を合するを得。此事あるときは 必ず聯邦に通ぜざるべからずるときは必ず聯邦に通ぜざるべからず。

 第39条  (欠落)

第4編 日本国民及日本人民の自由権利

 第40条  日本の政治社会にある者之を日本国人民となす。

 第41条  日本の人民は自ら好んで之を脱するか及自ら諾するに非ざれば日本人たることを削かるることなし。

 第42条  日本の人民は法律上に於て平等となす。

 第43条  日本の人民は法律の外に於て自由権利を犯されざるべし。

 第44条  日本の人民は生命を全ふし、四肢を全ふし、形体を全ふし、健康を保ち、面目を保ち、地上の物件を 使用するの権を有す。

 第45条  日本の人民は何等の罪ありと雖も生命を奪はれざるべし。

 第46条  日本の人民は法律の外に於て何等の刑罰をも科せられざるべし。又た法律の外に於て麹治せられ 、逮捕せられ、拘留せられ、禁錮せられ、喚問せらるることなし。

 第47条  日本人民は一罪の為めに身体汚辱の刑を再びせらるることなし。

 第48条  日本人民は拷問を加へらるることなし。

 第49条  日本人民は思想の自由を有す。

 第50条  日本人民は如何なる宗教を信ずるも自由なり。

 第51条  日本人民は言語を述ぶるの自由権を有す。

 第52条  日本人民は議論を演ぶるの自由権を有す。

 第53条  日本人民は言語を筆記し、板行して之を世に公けにするの権を有す。

 第54条  日本人民は自由に集会するの権を有す。

 第55条  日本人民は自由に結社するの権を有す。

 第56条  日本人民は自由に歩行するの権を有す。

 第57条  日本人民は住居を犯されざるの権を有す。

 第58条  日本人民は何くに住居するも自由とす。又た何くに旅行するも自由とす。

 第59条  日本人民は何等の教授をなし、何等の学をなすも自由とす。

 第60条  日本人民は如何なる産業を営むも自由とす。

 第61条  日本人民は法律の正序に拠らずして室内を探検せられ、器物を開視せらるることなし。

 第62条  日本人民は信書の秘密を犯されざるべし。

 第63条  日本人民は日本国を辞すること自由とす。

 第64条  日本人民は凡そ無法に抵抗することを得。

 第65条  日本人民は諸財産を自由にするの権あり。

 第66条  日本人民は何等の罪ありと雖も其私有を没収せらるることなし。

 第67条  日本人民は正当の報償なくして所有を公用とせらることなし。

 第68条  日本人民は其名を以て政府に上書することを得。各其身のために請願をなすの権あり。 其公立会社に於ては会社の名を以て其書を呈することを得。

 第69条  日本人民は諸政官に任ぜらるるの権あり。

 第70条  政府国憲に違背するときは日本人民は之に従はざることを得。

 第71条  政府官吏圧制を為すときは日本人民は之を排斥するを得。
       政府威力を以て擅恣暴逆を逞ふするときは、日本人民は兵器を以て之に抗することを得。

 第72条  政府恣に国憲に背き、擅に人民の自由権利を残害し、建国の旨趣を妨ぐるときは、日本国民は之を 覆滅して新政府を建設することを得。

 第73条  日本人民は兵士の宿泊を拒絶するを得。

 第74条  日本人民は法廷に喚問せらるる時に当り、詞訴の起る原由を聴くを得。 己れを訴ふる本人と 対決するを得。己れを助くる証拠人及表白するの人を得るの権利あり。

第5編 皇帝及皇族摂政

第1章 皇帝ノ特権

 第75条  皇帝は国政の為に責に任ぜず。

 第76条  皇帝は刑を加へらるることなし。

 第77条  皇帝は身体に属する賦税を免がる。

第2章 皇帝ノ権限

 第78条  皇帝は兵馬の大権を握る。宣戦講和の機を統ぶ。他国の独立を認むると認めざるとを決す。        但し和戦を決したるときは直に立法院に報告せざる可らず。

 第79条  皇帝は平時に在り立法院の議を経ずして兵士を徴募するを得。

 第80条  皇帝は外国事務の総裁たり。諸外国交官を命ずるを得。外国交際の礼をなすを得。        但し国権に関する条約連盟は立法院の議を経るに非れば決行するを得ず。

 第81条  皇帝は人民に勲等賞牌を与ふるを得ず。        位階を与ふることを得ず。

 第82条  皇帝は立法院の議に由らざれば通貨を創造若くは改造するを得ず。

 第83条  皇帝は立法議会の承諾を経て聯邦の罪囚を赦免し、及降減することを得。
       聯邦規定の裁判を他の裁判所に移して復審せしむることを得。
       法司の法権を施すを沮格するを得ず。
       聯邦執政の職務罪に係る者は聯邦立法院に反て恩赦を与へ、降減をなすことを得ず。

 第84条  皇帝は立法議会を延引するを得。立法議院の承諾なくして三十日を越ゆることを得ず。

 第85条  皇帝は諸兵備を為すを得。

 第86条  皇帝は国政を施行するが為めに必要なる命令を発することを得。

 第87条  皇帝は人民の権利に係ること・国家の金銭を費すべきこと・国家の土地を変すべきことを専行する を得ず。必ず聯邦立法院の議を経るを要す。立法院の議を経ざるものは実行するの効なし。

 第88条  皇帝は聯邦行政府に出頭して政を秉る。

 第89条  皇帝は聯邦行政府の長たり。常に聯邦行政の権を統ふ。特定に定むる者の外聯邦諸行政官吏を命ずる を得。

 第90条  皇帝は聯邦司法庁の長たり。其名を以て法権を行ふ。又法官を命ず。

 第91条  皇帝は現行の法律を廃し、已定の法律を格置するを得ず。

 第92条  皇帝は法の外に於て租税を収むるを得ず。

 第93条  皇帝は法の外に於て立法院の議を拒むを得ず。

 第94条  皇帝は立法議会と意見を異にして和せざるに当り、一たび其議会を解散することを得。
       之を解散したるときは必ず3日内を以て其旨を各選挙区に達し、且人民をして更に議員を撰ばしめ 、必ず60日以内を以て議会を復開せざる可らず。一たび解散したる上にて復開したる議会は同事件に就て再び 解散することを得ず。

 第95条  立法院の議決したることにして皇帝之を実施し難しと為すときは、議会をして之を再議せしむ るを得。此の如きときは皇帝は其由を詳説陳弁せざる可らず。

第3章 皇帝及皇帝ノ継承

 第96条  日本国皇帝の位は今上天皇睦仁陛下に属す。

 第97条  今上皇帝陛下位を去れば陛下の正統子孫に伝ふ。若し子孫なきときは尊族の親近なる者に譲る。 左の次序に循ふ。
  今上皇帝の位は第1嫡皇子及其統に世伝す。
  第2嫡皇子及其統なきときは嫡庶子及其統に世伝す。
  第3嫡庶子及其統なきときは庶皇子及其統に世伝す。
  第4以上統なきときは嫡皇女及其統に世伝す。
  第5以上統なきときは庶皇女に世伝す。
  第6若しも以上の嫡皇子孫庶皇子孫及其統なきときは皇帝兄弟姉妹及其統に世伝す。
  第8若しも皇帝の嫡庶子孫兄弟姉妹伯叔父母及其統なきときは、立法院の議を以て皇族中より撰び其嗣を定む。

 第98条  帝位継承の順序は男は女に先ち、長は幼に先ち、嫡は庶に先つ。

 第99条  非常特別のことあり帝位継承の順序を変せんとすることあれば、皇帝と立法院との協議を経て之を行ふべし。

第4章 皇帝の即位

 第100条  皇帝の即位は必ず立法議員列席の前に於てす。

第5章 皇帝の婚姻

 第101条  皇帝の婚姻は必ず立法院の議を経るを要す。

 第102条  女帝の夫婿は王権に干渉するを得ず。

第6章 皇帝の歳俸

 第103条  皇帝は年々国庫より○○万円の俸を受く。

第7章 皇帝の年齢

 第104条  皇帝の歳未だ18歳に至らざる内は之を未成年と定む。
        18歳に及べば之を成年と定む。

第8章 摂政

 第105条  皇帝未成年の間は摂政を置く。

 第106条  皇帝長く事故ありて親を政を秉る能はざるときは摂政職を置く。

 第107条  皇帝事故ありて摂政職を置くの時に際し、皇太子成年なるときは皇太子を以て摂政に当つ。

 第108条  摂政は皇帝の名を以て王権を行ふ。

 第109条  摂政は職制章程は立法院に於て之を立定す。

 第110条  摂政官は皇帝又は主相之を指名し、立法院之を定む。

 第111条  皇帝嗣の未成年中に其位を譲らんとするの場合に於ては、予め摂政官を指名して、立法院の議に 附し之を定むることを得。

第9章 皇族

 第112条  皇太子は身体に関する賦課を免がる。

 第113条  皇太子は年々国庫より支給を受く。法章之を定む。

第6編 立法権に関する諸則

第1章 立法権に関する諸則

 第114条  日本聯邦に関する立法の権は日本聯邦人民全体に属す。

 第115条  日本聯邦人民は皆聯邦の立法議政の権に与かることを得。

 第116条  日本皇帝は日本聯邦立法権に与かることを得。

 第117条  日本聯邦の法律制度は聯邦立法院に於て立定す。

 第118条  聯邦立法院は全国に一を置く。

 第119条  聯邦立法の権は限数人代議の制を用ひて之を行ふ。

第2章 立法院権限

 第120条  聯邦立法院は聯邦に関する租税を定むるの権を有す。

 第121条  聯邦立法院は聯邦の軍律を定むることを得。

 第122条  聯邦立法院は聯邦裁判所の訴訟法を定るを得。

 第123条  聯邦立法院は聯邦に関する兵制を議定することを得。

 第124条  聯邦立法院は聯邦の名を以て国債を起し金銭を借り及之を償却するの法を立ることを得。

 第125条  聯邦立法院は通貨に関する法律を立ることを得。聯邦に対する国事犯罪律を立るを得。

 第126条  聯邦立法院は郵便の制を立るを得。

 第127条  聯邦立法院は聯邦の通貨を増減改造するの議を定ることを得。

 第128条  聯邦立法院は聯邦の共有物を所置するを得。

 第129条  聯邦立法院は聯邦政府の保障を為す銀行会社の規則を立ることを得。

 第130条  聯邦立法院は切要なる調査に関し聯邦の官吏を議場に提喚するの権あり。又聯邦人民を召喚する の権あり。又聯邦人民を召喚して事情を質することを得。

 第131条  聯邦立法院は憲法の許す所の権利を行ふが為めに諸規則を立るを得。

 第132条  聯邦立法院は外国人并に国外の者に関する規則を立つることを得。

 第133条  聯邦立法院は聯邦行政府諸執行の職務に関する罪科竝に国事犯罪を弾劾論告し正的の法院に求刑 するの権を有す。

 第134条  聯邦立法院は本院議員の権任を監査するの権あり。

 第135条  聯邦立法院は議員にして其職分に関する命令規則に違背する者を処分するを得。

 第136条  聯邦立法院は既住に溯るの法律を立るを得ず。

 第137条  聯邦立法院は外国と条約を結び連盟を為すを決定するの権あり。 但し国権の独立を失ふの契約 をなすを得ず。

 第138条  聯邦立法院は行政部に対し推問の権を有す。

第3章 立法議員の権力

 第139条  聯邦立法議員は其職を行ふに附き発言したる意見に就て糾治検索せらるることなし。

 第140条  聯邦立法議員は本院の許可を経ずして開会の間並に其前後30日間は要領の為に拘引拘留せらるる ことなし。刑事の為に掌捕せらるるなし。 但し現行犯は此限にあらず。

第4章 議員選挙及被選挙の法

 第141条  聯邦議員は聯邦人民之を直撰す。

 第142条  聯邦議員は一州各7名と定む。

 第143条  現に租税を納めざる者、現に法律の罪に服し居る者、政府の官吏は議員を選挙することを得ず。

 第144条  現に法律の罪に服し居る者、政府官吏は議員に撰挙せらるることを得ず。

 第145条  日本各州は何れの州の人を撰挙して議員となすも自由とす。

第5章 議員の任期

 第146条  聯邦の立法議員は三年を一期とし、3年毎に全員を改撰す。

第6章 議員の償給旅費

 第147条  聯邦の立法議員は年々国庫より3千円の手当金を受く。又其会議に出つる毎に往復旅費を受く。

 第147条  (欠落)

第7章 議員の制限

 第148条  聯邦の立法議員は聯邦行政官を兼るを得ず。

第8章 立法会議

 第149条  聯邦の立法会議は毎年1回之を為す。其の他事なきに於ては10月第1の月曜日に之を開く。

 第150条  議事の多少に依り皇帝は時々期日を伸縮するを得。然れども議員過半数の同意あるときは 皇帝の命ありと雖も議会其伸縮を定む。

第9章 立法会議開閉集散

 第151条  非常の事件ありて会議を要するときは皇帝は臨時会を開くことを得。

 第152条  聯邦会議の開閉は皇帝之を司る。

 第153条  毎年の常会は皇帝の命なしと雖も聯邦議員は自ら会して議事を為すことを得。

 第154条  皇帝崩去の時に在りては聯邦議会は臨時会を開く。

 第155条  現在議員の年期已に尽くるの際未だ交代す可きの議員の撰挙せられざるの間に於て皇帝崩すること あるときは前期の議員集合して新議員を生するまで議会を為す事を得。

 第156条  立法会議皇帝の為に解散せられ、皇帝国法の通りに復立せざる時は解散せられたる議会は自ら復 会するを得。

第10章 会議規則

 第157条  聯邦立法議案は立法院国王倶に之を出すことを得。

 第158条  聯邦立法議会の議長は立法院に於て議員より公撰す。

 第159条  凡会議は議員全数の過半数の出席なれば之を開くことを得。 但し同一事件に付再度以上集会を 催したるときは過半数の出席なしと雖も議事を為すことを得。

 第160条  特別に定めたる規則なき事件の議事綜て出席員過半数の議を以て決定す。両議同数なることあるときは 議長の傾向する所に決す。

 第161条  聯邦の立法会議は公に傍聴を許るす。其特異の時機に際しては秘密にするを得。

第11章 立法院の決議を国法となすに就て皇帝と相関する規則

 第162条  聯邦立法院にて決定したる成説は皇帝に呈して承認を得るを必とす。

 第163条  皇帝立法院の成議を受取らば3日以内に必ず其答を為さざる可らず。若し其熟考せんと要する ことあらば其趣を申通して20日以内に可否を示す。

 第164条  聯邦立法院の決定する所にして皇帝準許せざることある(と)きは、立法院をして之を再議せしむ 。立法院之を再議したるときは議員総数過半以上の同意あるを見れば更に奏して必ず之を行ふに定む。

第7編 行政権に関する諸則

第1章 行政権に関する大則

 第165条  日本聯邦行政権は日本皇帝に属す。

 第166条  日本聯邦の行政府は日本皇帝に於て統轄す。

 第167条  日本聯邦の行政権は聯邦行政府に於て開施す。

 第168条  皇帝の行政権を行ふに就ては国家に一の主相を置き、又諸政の類を分て其各省を設け、 其各主務官を命ず。

 第169条  皇帝より出す諸件の布告は主相の名を署し、当該の本任長官副署して之を発す。執政の副署なき ものは実行するの効なし。

 第170条  皇帝より発する諸件の布告に就ては主相及当該の本任長官其責に任ず。但し執政の副署なきものは 執政は責に任ぜず。

第2章 行政官

 第171条  聯邦行政官は皇帝の命に従ふて其職務を取る。

 第172条  主相は皇帝に奏して諸省の長官を任命するを得。

 第173条  聯邦執政は議案を草して立法議会に提出するを得。又議会に参するを得。決議の数に入ること を得ず。

 第174条  聯邦行政官は聯邦立法議員を兼ぬるを得ず。

 第175条  聯邦行政官は其執行する政務に就き、皇帝並に国民に対して責に任ず。其一執政の分て為せし ことは当該の一執政乃ち其責に任ず。其衆執政分て為せしことは衆執政連帯して其責に任ぜず。

 第176条  聯邦行政府官たる者職務上の罪犯過失に就て弾劾せられ糾問せらるる間は、其の職を辞するを 得ず。

第3章 行政府

 第177条  聯邦行政官府は毎歳国費に関する議案を草し、立法議会に出す。

 第178条  聯邦行政府は毎歳国費決算書を製し、立法議院に報ず。

第4章 統計局

 第179条  国家歳出入の予算表・精算表は行政府統計局に於て之を調達す。

 第180条  統計局の長官は立法院之を撰任す。

 第181条  統計局は国家の出納会計を検査観察することを得。

 第182条  統計局は行政各部より会計に関する一切の書類を捨聚することを得。

第8編 司法権に関する諸規則

第1章 司法権に関する大則

 第183条  聯邦司法権は法律に定めたる法衙に於て之を実施す。

 第184条  特別の定めなき民事刑事の裁判詞訟は司法権の管理に帰す。

 第185条  非常法衙を設け非常法官を撰て臨時に司法権を行ふことを得ず。

 第186条  軍人の軍律を犯すものは其軍の裁判所に於て其軍の律に処す。

第2章 法官

 第187条  凡そ聯邦法官は立法議院に於て任免す。

 第188条  法官は俸給ある職任を兼ぬることを得ず。立法議院を兼ぬることを得ず。

第3章 法衙

 第189条  聯邦法衙は憲に遵ふの外不覊にして他の管轄を受けず。

第4章 裁判

 第190条  凡そ裁判は理由を附し所以を明にす。

 第191条  民事裁判は代言を許す。

 第192条  刑事裁判陪審を設け弁護人を許す。

 第193条  裁判は衆人の傍聴を許して公けに之を行ふ。風俗を害する事件に限りて傍聴を禁することを 得。

第5章 高等法院

 第194条  諸法衙の外日本全国に一の高等法院を置く。

 第195条  高等法院は執政の職務に係る事案を審判す。

 第196条  高等法院は皇王に対する犯罪・聯邦に対する犯罪の如き、通常犯罪の他なる非常の大犯罪を 審明す。

第9編 土地

 第197条  国家土地は全国家の共有とす。

 第198条  国家の土地は立法院の議に非らざれば一も動かす事を得ず。

 第199条  国家の土地は立法院の議に非ざれば之を他国に売り、若くは譲り、若くは交換し、若くは抵当に 入るることを得ず。

第10編 租税

 第200条  聯邦の租税は各州より課す。其額は法律之を定む。

 第201条  聯邦の租税は聯邦立法院の議を経るに非ざれば一も徴収するを得ず。

 第202条  聯邦の租税は毎年1回立法院に於て議定す。

第11編 国金

 第203条  聯邦の金銭は憲法に非れば之を使用し、之を消費するを得ず。

第12編 財政

 第204条  憲法に依るに非れば政府は国債を起すを得ず。

 第205条  憲法に依らざれば政府は諸債の立つことを得ず。

第13編 会計

 第205条  毎年一切の出納は預算表並に掲げて必ず国家に告示す。

第14編 甲兵

 第206条  国家の兵権は皇帝に在り。

 第207条  国家の大元帥は皇帝と定む。

 第208条  国家の将軍は皇帝之を撰任す。

 第209条  常備兵は法律に従ひ皇帝より民衆中に募りて之に応ずるものを用ゆ。

 第210条  常備軍を監督するは皇帝に在り。非常のことあるに際しては皇帝は常備軍の外に於て軍兵を 募り志願に随ふて之れを用ふるを得。

 第210条  他国の兵は立法院の議を経るに非らざれば雇使するを得ず。 本編初条に置く見込み軍兵は 国憲を護衛するものとす。

第15編 外国人帰化

 第212条  日本国は外国人の帰化を許す。

第16編 特法

 第213条  内外戦乱ある時に限り、其地に於ては一時人身自由・住居自由・言論出版自由・集会結社自由等の 権利を行ふ力を制し、取締の規則を立つることあるべし。其時機を終へば必ず直に之を廃せざるを得ず。

 第215条  戦乱の為に已むを得ざることあれば相当の償を為して民人の私有を収用し、若くは之を滅尽し 、若くは之を消費することあるべし。其最も急にして予め本人に照会し、予め償を為す暇なきときは後にて 其償を為すを得。

 第216条  戦乱あるの場合には其時に限り已むを得ざることのみ法律を置格することあるばし。

 第217条  新に鉄道を造り、電信を架し、陸路を啓き、水利を通ずる等のことは、通常会議に於て之を議す るを得ず。立法議院特別の会議を以て之を定むるを得。議員過半数の同意あるものは之を行ふことを得。

第18編 憲法改正

 第218条  日本国憲法を添刪改正するときは必ず立法会議に於て之を定む。

 第219条  憲法改正の議事は其日の出席議員数如何に関する議員惣数の過半数の同意に非らざれば決定する を得ず。

附則

 第220条 日本国憲法施行の日より一切の法律・条例・布告等の国権に抵触するものは皆之を廃す。

                        1881(明治14)年8月起草稿本





参考文献

家永三郎・松永昌三・江村栄一編『明治前期の憲法構想』(福村出版)

武相民権運動百年記念実行委員会編『続憲法を考える』

『植木枝盛全集』(岩波書店)

『明治文化全集』

国立国会図書館憲政資料室所蔵牧野伸顕文書


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up date:11/2004 byゆうなみ