「銀河鉄道物語〜忘れられた時の惑星〜」… ss 「鍵を握った少年」

TEXT INDEX


 (4)

 学、鉄郎、キリアンを乗せた飛行艇は、半地下の空間から一気に上昇した。
 飛行艇は、城の外縁を超えて、建物の外壁に沿うように上っていく。
 その間も、次々と、機械化兵が乗る、飛行艇の襲撃を受けた。
「こいつら、何が目的で…!」
 銃で応戦しながら、その異常な執拗さに、学は怒りを感じはじめた。
 一方で、鉄郎が学をたしなめた。
「落ち着け、学…! 焦ったら相手の思うツボだ…!」
「しかし…。」
 学は、隣で、必死に応戦するキリアンを、ちらりと見返した。
 キリアンは怯えながら、銃を、でたらめに乱射している。
「くそっ、いったい、どうしてなんだよ…!」
 そのキリアンがいる方向に、機械化兵の飛行艇が群がろうとする。
「やはり、キリアンが、狙われている…!」
 学が叫んだ。
 キリアンは身をすくませて、銃の光条をよけると悲鳴をあげた。
「だから、知らないですって…!」
「きりがない…。手榴弾は…?」
 鉄郎が首をめぐらした。
「まだある…!」
 キリアンの代わりに、学が答える。
 鉄郎が叫んだ。
「投げつけろ…!」
 学が、素早く反応した。
 頭を抱えてうずくまる、キリアンの背中に手を回した。
 キリアンがしょっている、予備弾のベルトには、まだ、手榴弾がぶら下がっている。
 しかも、キリアンの手が届かない、背中部分のほうに。
 学は、それに目をつけて、機械化兵に投げつけた。
 複数の爆発が起きた。
 その衝撃をかいくぐると、ようやく、城の上層部分が、視界に飛び込んでくる。
 肉眼で、ピンク色の発光体が付着した屋根の姿が、確認できるようになった。
「あれだ…!」
 鉄郎が叫んだ。
 学は、飛行艇のハッチをこじあけて、中の機械を操作した。
 リモートを、手動に変換させた。
「真上から突っ込む!」
 それを合図に、鉄郎とキリアンは、飛行艇の手すりをきつく掴んで身構えた。
 発光体の屋根の奥に、丸い天窓がある。
 三人が乗った飛行艇は、その天窓を突き破って、城の内部に突入した。
 飛び散るガラスの向こうに、大きな吹き抜けのドーム空間が広がる。
 ゴシック建築を思わせる、荘厳な内装の中央に、円形の踊場が設けられていた。
 踊場には、銃を構えた機械化兵が、ぐるりを包囲している。
 その下の大広間には、三人の男女がいて、飛行艇を驚いた様子で見上げていた。
 一人は、青い制服の小太りの男。
 もう一人は、中世の貴族を思わせるような、白い礼装服を着込んだ背の高い男。
 そして、残りの一人は、しなやかな肢体を黒い服で包み込んだ、優雅に長い金髪をなびかせた美しい女。
 大広間を見下ろした鉄郎の視線は、美しい女性に、一気に注がれた。
「メーテル…!」
 呼びかけられた女性は、悲しい表情を浮かべて、鉄郎を静かに見上げた。
「鉄郎…!」
 小太りの男ー車掌が、大きな目をいっぱいに見開いた。
「鉄郎さん…! キリアン、来ちゃだめだ…!」
 車掌の声が響く前に、機械化兵が、飛行艇に向けて撃ちまくった。
 飛行艇の三人は、乱れ飛ぶ光条をかわしながら、応戦を続けた。
 飛行艇は、ジグザクに走行しつつ、大広間を目指して降下する。
 事件の首謀者たる貴公子風の男は、攻防を見つめながら、うっすらと笑みを浮かべた。
「特異点…! そちらからやってきてくれるとは…。好都合だ…!」
「目をつぶれ…!」
 学は、ふいに、大声で、全員に指示を出した。
 キリアンも鉄郎も、手すりに掴まりながら、その指示に従う。
 さらに、鉄郎は、メーテルと車掌に呼びかけた。
「メーテル、車掌さん、目を閉じて…!」
 学は、それを確認してから、腰のベルトに、下げていた光子弾を投げ上げた。
 光子弾は、ピンポン球ほどの丸い物体だ。
 爆発すると、太陽光線に似た、強烈な閃光を放つ。
 爆発すると、視界が、一気に奪われた。
 高い金属音が響く一方、銃撃音が、ぴたりと止んだ。
 それとともに、乱れ飛んでいた、銃の光線も収まった。
 機械化兵の電子アイが、強烈な光のせいで焼ききれた。
 限られた光を調節することで、機械化兵の電子アイは機能する。
 光の容量を越えると、機械化兵の調節機能は狂わされ、ショートして発火する。
 目を失った機械化兵は、次々と倒れていった。
 同士討ちをさけるために、セイフティが働き、機能を停止させるからだ。
 量産された機械化兵は、個々の機械化人と違い、性能も統一化されて同じ行動をとる。
 その単純さを、学は、逆に利用した。
 光が収縮し、視界が戻る頃に、飛行艇は、大広間の床に着地した。
 すかさず、学と鉄郎が飛行艇を飛び降りて、貴族風の男に銃をつきつけた。
「999の乗員乗客を、拉致したのは、お前か…!」
 学は、男との距離を詰めながら、鋭い声で問いつめた。
 その間に、鉄郎は、メーテルと車掌をかばう位置まで移動して、男を睨みつけた。
「いえ! メーテルと車掌さんに、何をした…!」
 が、男は笑みをもらすだけで、何もいおうとしない。
 鉄郎は、二人に視線を送ると、小声で指示をだした。
「いまのうちに、飛行艇に…。」
 ハッとした車掌は、メーテルの手を引いて、飛行艇の方に移動しだした。
 車掌に促されながら、メーテルは鉄郎にいった。
「鉄郎、どうして、ここに来たの…?」
「俺が、メーテルを、一人で行かせられると思うかい…?」
 鉄郎も、一緒に移動しながら、そっと言葉を返した。
 すると、メーテルの美しい瞳が、わずかに憂いだ。
 飛行艇では、キリアンがサポートとして待機している。
 鉄郎に守られながら、メーテルと車掌は、飛行艇の上がり口にたどりついた。
 学が男をひきつけているその間に、鉄郎とキリアンが、メーテルと車掌を、飛行艇に乗せようとした。
 飛行艇と、床の高さは、1メートルほど。
 その段差を上るのに、少し、時間がかかる。
 まず、車掌が、懸命に、しがみつくように這い上がる。
 手を貸したのは、キリアンだ。
 複雑な表情で、車掌の手をとるキリアンに、車掌は肩を落とした。
 続いて、鉄郎が、身軽にジャンプして、飛行艇に飛び乗ると、メーテルの手をとり、懸命に引き上げた。
「私が望むのは、特異点、キリアン・ブラックだけだ!」
 男は、ふいに、言葉を発した。
「キリアン? いったい、どうして…?」
 学は驚いて、男の顔を、じっくりと見据える。
 その時、学の気が、一瞬、ゆるんだ。
 男は、不敵な笑みを浮かべて、昂然と主張した。
「それ以外のお前達は、ここから、生きて帰さない…!」
 その言葉が、合図だったかのように。
 再び、別の機械化兵の一団が、姿を現した。
 先ほどと同じように、踊場の周囲を、間隔なく機械化人が埋め尽くし、四方の通路からも、新手の機械化人が大広間に突入してきた。
「くそっ…!」
 学は、唇を噛み締めた。
 逆に包囲されて、今度は、学の方が不利になる。
 まだ、飛行艇では、鉄郎が、メーテルを引き上げている最中だ。
 その中で、機械化人が、激しく発砲してきた。
 学は、男の拉致を諦め、救助の援護に回った。
 飛行艇では、腰を抜かしながらも、キリアンが機械化兵と応戦した。
 その体が、薄紅色に発光する。
 そのことに、キリアン自身は、気づかない。
 車掌は、頭を抱えて、銃撃をやりすごそうとする。
 応戦する術がない鉄郎は、銃の攻撃を肩に受けながらも、メーテルの手を離そうとしなかった。
「鉄郎…?」
「大丈夫だよ…!」
 メーテルを引き上げた後、撃たれた左腕をかばいながら、鉄郎は、心配そうに見つめるメーテルに笑いかけた。
 飛行艇は、一気に、銃撃の中で上昇する。
 学は、ぎりぎりのタイミングで飛行艇に飛びつき、何とか飛行艇に乗り移った。
 このまま、全員が、脱出できるかに思えた。
 だが、男の執拗な攻撃が、追い討ちをかけた。
「行かせはしない…!」
 男は、手にしていた重力サーベルを、飛行艇に向けて発砲した。
 あの宇宙海賊キャブテン・ハーロックやエメラルダス、宇宙の戦士トチローが所持しているのと、同型のサーベルだ。
 サーベルの光条は、上がり口付近に立っていた、鉄郎の銃を弾き飛ばした。
「しまった…!」
 鉄郎の銃は、キリアンの足元で止まった。
 しかし、それを取りに行く余裕はない。
 機械化人の攻撃は、激しさを増す。
 学とキリアンの応戦だけでは、防ぎきれない。
 そのうち、学も腕をやられた。
 学の呻き声を聞いたキリアンは、顔をひきつらせた。
「有紀さん!」
「余所見をするな!」
 学が、キリアンを怒鳴りつけた。
 隙をつかれた瞬間、キリアンも肩を射抜かれた。
「うわっ…。キリアン…!」
 車掌が、慌てて叫んだ。
 さらに、光条が降り注ぐ。
 そのうちの一つが、メーテルに向かって飛んできた。
 目を見開いたメーテルの目前に。
 鉄郎が飛び出した。
 メーテルをかばった鉄郎は、腹部に銃弾を受けた。
「あっ…!」
 反動でよろめいた鉄郎は、飛行艇から振り落とされた。
「鉄郎!」
 学が上がり口に飛びつくと、鉄郎の手をとろうと、精一杯、腕を伸ばした。
「学…!」
 鉄郎も手を伸ばそうとしたが、すれ違うように手が届かなかった。
 鉄郎は、そのまま、大広間の床に背中から落下した。
「鉄郎…!」
 蒼白したメーテルが、身を乗り出した。
 車掌が、メーテルを、必死で引き止めた。
「いけません、メーテルさん…!」
 学が、焦って叫んだ。
「キリアン、戻れ…!」
「無理ですよ…!」
 キリアンは、大きくかぶりを振った。
 飛行艇は、学の意志に反して、ひたすら上昇する。
 床に叩きつけられた鉄郎は、何とか意識をとりとめると、ゆっくりと上体を起こした。
 そして、飛行艇を真っ直ぐに見据えて、振り絞るように、声をあげた。
「…俺のことは…構わずに…離脱しろ…! 学…。自分の任務を…忘れるな…!」
 学は息を飲んだ。
 鉄郎の言葉は、かつて学の父親、有紀渉がいった言葉だ。
「父さん…?」
 学は呆然とした。
 有紀渉は、初代シリウス小隊の隊長だ。
 学と兄、護の前で、異世界の戦艦に特攻し、渉は宇宙に散った。
 渉の存在は、SDFの誇りである。
 誰もが、渉の偉大さを敬服し、後任で隊長に就任したシュワンヘルト・バルジも、渉の遺志と良心を受け継ぎ、忠実に、その教えを実践している。
 学にとっても、最後の目標である、有紀渉。
 その姿が、なぜか、鉄郎の面影と、だぶって見えた。
 傷つきながらも、己の意志を貫き通そうとする、強靭な精神。
 毅然と、飛行艇を見あげる表情に、揺るぎは微塵も感じない。
 そんな鉄郎の強さは、有紀渉にも通じるものがある。
 学は、わずかに顔を伏せたが、すぐに気持ちを固めると、キリアンに命じた。
「離脱する。キリアン、光子弾!」
「有紀さん…?」
 耳を疑ったキリアンに、学は鋭い声を発した。
「早くしろ…!」
「はい…!」
 学が投げた時のように、キリアンも、光子弾で、機械化兵の攻撃を一掃した。
 光り輝く空間を後にして、飛行艇は、側面の窓を突き破って外に脱出した。
 鉄郎は、飛行艇の姿を、最後まで追いながら、学に呼びかけた。
「…学…。頼むよ…。俺の…大切な…人達を…。」
 鉄郎の意識は、やがて失われた。
 大広間の床に、倒れた鉄郎の体から、鮮血の帯が、少しずつ広がっていく。
 その鉄郎を見下ろすように、男が、ゆっくりと近づいた。
 男の視線は、鉄郎のズボンのポケットに注がれた。
 その部分が、淡い光を放って発光する。
 男は、その光に気がついた。
 光っているのは、鉄郎がもらいうけた、宛名のない手紙だった。



 ヒーライズの衛星軌道上に、ビッグワンは待機している。
 学とキリアンが、飛び出していってから、音信不通の状態が続いた。
 現状維持のままの、デイビットとルイに、しだいに不安と焦りがこみあげてきた。
「まったく…。あいつら、何を考えているんだ…!」
「巨大要塞…。呼びかけに、応じる気配なし…。有紀君やキリアンにも、連絡がつかないし…。999の乗員乗客が、無事なのかどうかも…。いったい、どうすればいいのかしら…。」
「相手の目的も実態もわからねぇんじゃ…。手の打ち様がねぇしな…!」
 ルイの呟きを聞いて、デイビットは、言葉を吐き捨てた。
 キャブテンシートのバルジは、ゆっくりと目を見開くと、静かな声で、二人に応じた。
「動きがあるまで待つ…!」
 デイビットとルイは、バルジを見つめて、言葉をなくした。
 それからほどなくして、ユキが、おもむろに口を開いた。
「SDFシグナルです…!」
「よし。シグナルに向けて、発進!」
 バルジが命じると、すかさず、デイビットは呼応した。
「了解!」
 ビッグワンは、再び、ヒーライズの大気圏に突入した。
 やがて、地表近くで、ビッグワンは、飛行艇と接触し、搭乗員達を無事に収容した。
 傷ついた学とキリアンは、すぐに、ユキの治療を受けた。
 軽症だった学は、治療を終えると、事件報告のために、指揮車輌に入った。
 同じタイミングで、ルイにつきそわれた車掌とメーテルも、ともに、指揮車輌に案内された。
 指揮車輌では、バルジと車掌が、職務儀礼の挨拶を交わしあった。
「999号の、車掌であります。」
「空間鉄道警備隊、シリウス小隊隊長、シュワンヘルト・バルジです。」
 敬礼をといたバルジに、学が一歩踏み出すと、事務的な口調で報告した。
「…すみませんでした。隊長…。」
「不可抗力だ…。今は、次に成すべきことを考えよう…。」
「はい…。」
 学は、固い声で返事をした。
 バルジは、車掌とメーテルに視線を向けると、丁寧な口調で話しかけた。
「お話してくださいますか? いったい、何があったのか…。」
 すると、メーテルは、すっと瞳を閉じると、悲しげに顔をそむけた。
 その反応を見ていたルイは、困惑しながら、表情を翳らせた。



 その後、バルジは、自室で車掌と語り合った。
 車掌は、それまで、誰にも語ったことがない、キリアンとの顛末を明かした。

 ****
 999が、ヒーライズに停車したのは、二十年近い前のことだ。
 それが、ヒーライズに残る、最後の、999の停車記録だ。
 この時、999は、定時を待たずに、ヒーライズを発車することを、決定した。
 時刻を決定したのは、999の機関車自身だった。
 車掌は、「『時の津波』が、やってくる。」という、意味不明の言葉を聞かされて、不可思議に思っていた。
 やがて、999が発車しかけた時、車掌は、デッキに置かれた、男の子の赤ん坊を見つけた。
 誰ともわからない、赤ん坊を、車掌はあやしながら、首をかしげたその時。
 すでに、走り出していた999を追いかけるように、ホームを走り続ける、若い夫婦の姿を、車掌は発見した。
 その夫婦こそ、その赤ん坊の、本当の両親だ。
 しかし、かなり、思いつめた様子の夫婦は、車掌に、赤ん坊を託すことを告げて、999から離れていった。
 いや、正確には、999の方が、夫婦を残して、ヒーライズを離れてしまったのだ。
 車掌は、ひどく慌てた。
 その夫婦に、赤ん坊を返す余裕は、もうなかった。
 999がヒーライズを離れた直後、ヒーライズは、『時の津波』の洗礼を受けた。
 『時の津波』とは、時空の磁場のことだ。
 ねじれた宇宙の時空を、正すために生じる、時空の嵐…。
 その嵐に襲われた場所は、時間軸を歪められ、正常な時間から、何百万年という時間の単位を、一気に短縮して進められてしまう。
 ヒーライズの人々は、その磁場に巻き込まれて、肉体を、一瞬で、滅ぼされてしまったのだ。
 車掌は、後から、赤ん坊を託した両親の思いに気がついた。
 両親は、その赤ん坊を、磁場の嵐から救うために、最後の手段として、999に託したのだった…。
 そして、赤ん坊の存在を知る人物が、もう一人いた。
 それが、宇宙一美しい体と永遠の命を、母親プロメシュームから貰い受け、永遠の宇宙の旅を運命づけられた女性、メーテルだった。
 赤ん坊の存在は、二人の間で伏せられた。
 それから車掌は、その赤ん坊を、我が子のように可愛がり、幼児の頃まで、999で密かに育て続けたという。
 だが、ある乗客の密告で、赤ん坊の存在が公になりかけた。
 銀河鉄道の規則では、密航者と、それをかばった者は極刑を免れない。
 車掌は、その子の命を守るために、ある星に停車した時、別の養父母に託して、その子を、999から降ろしたのだった。
 999号の車掌職を拝命してから、ずっと規則を守りつづけた車掌が、たった一度だけ、規則を破った事情が、そこにあった…。
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 すべてを話し終えた、車掌の姿を、バルジは、感慨に満ちたまなざしで、静かに見つめた。
「そうでしたか…。その赤ん坊が、あのキリアン…。」
「はい…。」
 車掌は、溜息まじりの声で頷いた。
「キリアンは、何も知りません…。自分が、最後の、ヒーライズ出身の人間であることも…。それに、私のことも、捨てられたと思い込んで、ずっと恨んでいるはずです…。」
「理由を話せば、キリアンは、納得するでしょう…。」
 バルジは、言葉を受け継いで、話を進めた。
「問題は、これからです…。事件の首謀者、モデストは、必ず、キリアンの身柄を要求してきます…。」
 モデストとは、あの、貴公子風の男の名だ。
「その時は、鉄郎さんとの身柄を交換すると…。」
 車掌が、恐る恐る言葉を返すと、バルジは小さく頷いた。
「おそらく…。」
「鉄郎さんに、もしものことがあったら…。私は、どう責任をとれば…。」
 そういって、肩を落とす車掌に、バルジは、宥めるように、言葉を添えた。
「責任は、我々のほうにあります…。今は、祈ることしかできません…。しかし、星野君は、必ず無事だと、私は信じます…。」
「ありがとうございます…。」
 車掌は、何度も、頭を下げた。
 バルジは腕を組むと、考え込むように、言葉を、ゆっくりと発した。
「モデストの暴走を、食い止めることができるか…。彼は、同じ過ちを、繰り返すつもりでいる…。そうなれば、ヒーライズは、再び、『時の津波』の洗礼を、受けることになる…。」
「その犠牲は、キリアンだけでなく、我々にも、降りかかるかもしれませんね…。」
 車掌が声を震わせると、バルジは小さくかぶりを振った。
「いえ、今度は、全宇宙の生命をも脅かすことになります…。現在、繰り返し、こちらから、巨大要塞に呼びかけを送っています。その返答によって、我々は動くつもりです。」
「どうか、よろしくお願いします。」
 車掌が、また頭を下げると、バルジは頷き返した。
「ゲストルームを用意しました…。そちらの方で、ゆっくりと、お休みになってください…。」
 丁重に車掌を見送ったバルジは、指揮車輌にもどっていった。