「銀河鉄道物語〜忘れられた時の惑星〜」… ss 「鍵を握った少年」

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 (2)

 ビッグワンは、SDFシリウス小隊専用警邏車輌である。
 外観は、アメリカ開拓時代の、大陸鉄道の面影を連想してしまう。
 だが、強化電磁バリアと、強化磁気シールドで保護された、超ハイテク車輌だ。
 基本編成出力は600万コスモ馬力。
 最高速度は3400skm/h。
 動力は、超重力コスモバーストボイラーを使用し、素粒子ワープ走行機関や、最新の制御システムを備えている。
 コスモマトリクス砲などの攻撃装備は、星間戦争クラスの事態にも対処できるように、導入されたものだ。
 11両の車輌内に、居住区と各種の装備パーツが、機能的に設計されている。
 シリウス小隊にとって、ビッグワンは重要な機動マシンであり、有事の際の切り札だ。
 現在、ビッグワンは、999号が消息をたった、惑星ヒーライズの大気圏に突入した。
 さらに、地表近くに降下し、ヒーライズの探索続行が、開始されようとしていた。
 その間も、指揮車輌では、シリウス小隊のメンバーと999号の唯一の生存者、星野鉄郎を交えた作戦会議が続行された。
 指揮車輌内の壁面に設けられた3つのパネルに、異なる画像が次々に映し出された。
 一つは、コンピューター解析画面で、グラフィック化されたヒーライズの地表図。
 そして、もう一つは、有紀学のシャトルが捉えた、不時着した999号の外観だ。
 その映像を見て、一番ショックを受けたのは、その車輌に乗車していた鉄郎だった。
「これが、あの999…!?」
「錆びついていやがる…。まるで、何百年も昔の列車のようだ…。」
 呆れたような口調で言葉を続けたのは、メカニック担当の陽気な男、デイビッドだ。
 そして、その999の映像を見て、心を沈ませた人物が、もう一人いた。
 見習研修期間中の隊員、キリアンだ。
 しかし、誰も、新人のキリアンの様子に気づくものはいない。
 最初のグラフィック映像に、シグナルが追加された。
 それは、999号が不時着した場所を表示している。
 セクサロイド・ユキが説明した。
「999が不時着した経路は、このように考えられます。その場合、半径10キロ圏内のエリアに、乗員が投げ出された可能性があります。」
「10キロなんて…。範囲が広すぎる…。」
 鉄郎が叫ぶようにいった。
「しかし、この範囲に、人命の反応は確認できませんでした。」
 学が口を開いた。
「999号は事故ではなく、明らかに事件に巻き込まれた可能性が高い…。」
 キャプテンシートについた隊長バルジは、深い溜息とともに、重い言葉を口にした。
 その空気が、指揮車輌の中を濁し、乗員達の心を重く沈ませる。
 一方で、シャトルの映像を解析していたルイが、緊張したように声を張り上げた。
「シャトルで捉えられた映像の時間を巻き戻してみました。そうしたら、こんな痕跡が…。」
「ルイ、メイン映像に切りかえろ。」
 バルジの指示で、ルイは、コントロールパネルのキイを操作する。
 すると、指揮車輌の中央に設置されたメインパネルに、映像が映し出された。
 映像は静止画像だ。
 肉眼で見ただけでは、999が、小さく帯のような形で、横たわっているようにしか見えない。
 その画像が、少しづつ拡大されていく。
 画像が荒くなり鮮明でなくなるが、徐々に、デジタル修正がかかって、細かな映像がはっきりと見えてくる。
 すると、999の上空に小さな円盤型の乗り物が、画面の隅に映し出されているのが解かった。
「こいつはイオノクラフトだ。」
 デイビットがいった。
 形は丸型から四角いものまで、さまざまなタイプがあるが、ただ手すりがついただけの単純な乗り物を、称してそう呼んでいる。
 画面に映ったイオノクラフトは、数人乗りの、でかいタイプだ。
 イオノクラフトの中央に、人間が乗っていた。
 三人の影。うち二つは、硬質なメタボリックボディの姿。
 それは、アンドロイドか機械化人の類だ。
 その間に、かっぷくがいい体格の人間が、うつぶせに倒れていた。
 ブルーの制服。それだけで、鉄郎は目を見張った。
「車掌さん…!」
「くそっ…! 一歩及ばずか…。俺が行く前に車掌さんは…!」
 学が悔しげにいった。
 映し出された映像は、学のシャトルが、まだかなり上空にいた時のものだ。
 学の救援が間にあわなかったことを、克明に物語っている。
「乗員をさらう目的が見えてこないな…。」
 デイビッドがぼそりと呟いた。
 その声に紛れるように、キリアンが謎の言葉を呟いた。
「…父さん…。」
「えっ…?」
 鉄郎がわずかに反応して、キリアンを見返した。
 キリアンはとても恐い顔をして、映像を、じっと見据えている。
 鉄郎は困惑したようにキリアンを見つめただけで、何もいえなかった。
 ルイの報告がその間も続いた。
「この後のイオノクラフトの足取りは途絶えました。」
「もう一つ、興味深い映像がありますよ。」
 デイビッドが、手元のコントロールデスクを操作した。
「さきほど射出した惑星測位衛星からのデーターです。」
 画面が切り替わった。
 荒涼とした惑星の大地が映し出される。
 画面のポイントに、グリーンのカーソルが点滅する。
 そのカーソルに指示を与えると、しだいに、画像が鮮明に拡大されていく。
 操作しながら、デイビットは説明をはじめた。
「これがヒーライズで確認された、唯一の人工建造物です。999を襲った光とやらも、おそらく、ここから発射されています。」
 映像に映し出されたのは、不気味な建物の映像だ。
 かつての中世の城にも似た、古めかしい高層の構造物。
 まるで、一本の柱のように伸びた屋根の切っ先が鋭角に空を刺し、建物の裾は、三角形の形状に、四方に大きく広がっている。
 建物の周囲は絶壁になっていて、何人も近づくことができない様相だ。
 その建物にたどりつくためには、絶壁に通じる、一本の険しい尾根道を行くしかない。
「乗員を連れ去った飛行艇も、そこから来たということか…。」
 バルジが口を開いた。
 なぜか、キリアンは息を飲んで、映像を恐々と見つめている。
 学は、シートの後にいる鉄郎に、視線を向けた。
「何か、心あたりは…。」
「何も…。」
 映像を見つめていた鉄郎は、小さくかぶりを振った。
 さらに、映像が切り替わった。
 それは、建物の屋根の一角だ。
 三角垂の形状をした屋根が、薄紅色に発光している。
 その発光体に付着するように、細かな光の粒が、無数に降り注いでいる。
「あの光は…。車窓から見えたやつだ…!」
 建物を見たのは初めてだ。が、鉄郎は、その光を、事件直前の999の車窓から、見たことがあった。
 そして、確信した。
ーメーテルも、きっとあそこに…!ー
「この発光体、幻覚の時に見えたものと同じだわ。ヒーライズに向かったと思われたけど、あの建物に…。」
 ルイが指摘した。
「目標が定まった。」
 バルジが声を張り上げた。
「ビッグワン着陸後、オフローダーで、君達に向かってもらう…!」
 バルジは学と鉄郎に視線を向けた。
 学と鉄郎はお互いを見やった。
 意志を確認すると、固く頷きあった。
 ビッグワンは、まもなく地表に降下する。
 その間際、なぜか、担当シートを離れたキリアンは、暗い表情のまま車輌を出ようとした。
「キリアン、どこへ行く?」
 学が声をかけると、ハッと正気をもどしたキリアンは、頭をかきながら、いいわけした。
「すみません。今のうちにトイレに…。」
 キリアンが席をはずした後、ルイが口をとがらせた。
「もう、緊張感がないんだから…。有紀君、指導役なんだから、ちゃんと教えないとだめよ…。」
 学は、なぜか腑に落ちないという表情で、ルイに返した。
「俺はちゃんと指導してるさ…。ただ、キリアンのやつ、ディスティニーを出てから、ずっと様子がおかしいんだ…。」
「甘いんじゃないの…?」
 ルイはツンとむくれてしまった。
「お二人さん、もうじき目的地だ。よけいなお喋りはなしにしようぜ。」
 間に入ったのは、デイビットの返しだった。
 緊迫した雰囲気が、わずかに和みかけた時、地表で異変が起こった。
 まさに、ビッグワンが着陸しようとした直後の出来事だ。
 振動は車体を揺さぶった。
 立っていた鉄郎は、慌てて学のシートに掴まって、転倒を防いだ。
「どうした?」
 バルジがユキを見返した。
 それに応じて、ユキは、素早くコントロールパネルを操作した。
 スクリーンには、グラフ化された、ヒーライズの惑星そのものが表示された。
 コンピューターの解析で、円の中央が、赤い光点で無数に彩られていく。
 ユキはその情報を読み取った。
「惑星全体で、体感レベルの地震が無数に発生しています。ですが、地殻やプレートの変動と、まったく無関係です。」
 物理的にありえない現象だ。
 メンバーに鉄郎の表情が、一気に変わった。
 と、その時、ルイの通信デスクに、シグナルがついた。
 ルイは、バルジに伝えた。
「隊長、管理局総司令より特別回線通信です。」
 ルイはボタンを操作した。
 すると、メイン映像に、美しい女性の顔が映し出された。
 女神のような容貌をしたミステリアスな女性。
 彼女こそが、全銀河鉄道を管理運営する銀河鉄道管理局の総司令、人や生物、惑星の運命を見通す力を持つといわれる女性、レイラ・ディスティニー・シュラ、その人だ。
 レイラは、硬質な声で、シリウス小隊に告げた。
「通達します。シリウス小隊は、すみやかに、惑星ヒーライズを離れなさい。」
 予想もしていなかった言葉に、学と鉄郎は、目を見張った。
「しかし、この星には、まだ、999の乗員と乗客が…。」
 バルジが口を開いた。
 が、レイラの命令は覆らなかった。
「すみやかに、ディスティニーに、帰還しなさい…。」
「理由は、ご説明いただけないのですか?」
 バルジは聞いた。
 レイラは何かを思い悩むような様子で、すっと瞳を閉じた。
 ややあって、瞳を見開くと、事務的な言葉を繰り返した。
「ヒーライズは銀河鉄道から消された星。従って、空間鉄道警備隊の管轄ではありません。」
「999を見捨てる気か?」
 思わず鉄郎が叫んだ。
「総司令…!」
 バルジも指示を求めた。
 が、レイラの憂いを帯びているが、冷ややかな口調は何も変わらなかった。
「質問は認めません。バルジ隊長。すみやかに待機しなさい。一刻も早く…。通達は以上です。」
 通信はフッと途切れた。
 沈黙が指揮車輌内に流れた。
 一同の視線がバルジに注がれる。
 しばらくして、バルジはメンバーに告げた。
「配置につけ…。発進する…!」
 一同は言葉をなくした。
 しかし、隊長の指示は絶対だ。
「待ってくれ…!」
 焦りを感じた鉄郎が、バルジに食い下がった。
 しかし、バルジの表情は、少しも揺るがない。
 一度は減速し、地表に着地しかけたビッグワンは、再び、ゆっくりと上昇を開始した。
 その間も、地震の規模は拡大し、999の車体すら、地割れの中に飲み込みはじめた。
 その時、地割れの合間から、意外なものが出現した。
 高層ビル群だ。
 大地の奥深くに眠っていた都市の一部が、目覚めたように、ゆっくりと、地震の大きさに伴って現れはじめる。
 ビッグワンは、その建物の間を抜けるように、動き始めた。
 一方、車輌内では。
 なすすべをなくし、激しく絶望した鉄郎を、ユキが優しく労わろうとしていた。
「さあ、星野さん、少し休みましょう…。」
 ユキに伴われて、一度は廊下に出た鉄郎だったが、そこで、意外な行動に出た。
 ユキと二人っきりになった瞬間、鉄郎は、腰のホルスターから銃を抜くと、容赦なく、ユキに銃をつきつけた。
「教えてくれ。オフローダーの格納場所を!」
「いけません、星野さん…!」
 ユキは蒼白して、鉄郎を説得した。
 が、鉄郎は、必死の形相で訴えた。
「こんなことをして、悪いのはわかってる。でも、俺はどうしても、諦めるわけにいかないんだ…! お願いだ…!」
 ユキは顔をそむけながら、鉄郎に伴われて、オフローダーの格納場所まで移動した。
 オフローダーとは、SDF専用の地上探索用の反重力バギーだ。
 通常の車同様に、ハンドル操作とシフト変換で、動かすことができる。
 格納スペースまで素早く踏み込んだ鉄郎は、その前にユキを解放すると、壁に埋め込まれたロックキイを操作した。
 そのキイのパスワードが解除されれば、格納スペースが、外に向かって開放される。
 だが、でたらめに操作しても、エラー表示が続くだけだ。
「くそっ…!」
 舌打ちした鉄郎は、仕方なく銃を構えた。
 鉄郎の銃は、宇宙戦士大山トチローが製造した、この宇宙で、たった4丁しか存在しないという、「戦士の銃ーコスモ・ドラグーン・シリアルbQ」だ。
 勇者しか持つことを許されない、宇宙最強の拳銃といわれ、数々の苦難の果てに手にしたことで、鉄郎は、一目置かれる宇宙戦士の仲間入りを果たした。
 六発装填される銃だが、たった一発、エネルギーを撃ちこんだだけで、ロックキイは粉々に破壊された。
 その間に、ユキは、指揮車輌に、鉄郎の行動を報告した。
 鉄郎に時間はない。
 隊員に引き止められる前に、この車輌から、飛び出さなくてはいけない。
 鉄郎の焦りとは裏腹に、オフローダーの格納扉は、ゆっくりと開放していく。
 完全にオフローダーが射出口に準備されたのは、かなりの高度になってからだ。
 ビッグワンの加速に伴い、射出口にも、強風が吹き込んでくる。
 さらに、地殻の変動とせり上がって来るビルの風圧とで、複雑な風の渦が周囲に形成された。
 その状況で、飛び出すのは危険極まりない。
 しかし、鉄郎は、強固な意志を崩さない。
 オフローダーの運転席に飛び乗ると、ロックを解除し、シートの横にあるシフトレバーを引こうとした。
 その手は、飛び込んできた学によって、止められた。
 学は後部シートに乗り移ると、鉄郎の手を上から強く押さえ込んだ。
 鉄郎の顔を覗き込むと、強い口調で説得した。
「やめるんだ!」
 鉄郎は鋭い視線を学につきつけた。
「邪魔するな!」
 怒鳴りつけると、鉄郎は昂然と言い張った。
「二人を置いていくなんて、俺にはできない!」
「危険回避のために、地表を離れるだけだ。」
 学は訴えた。
 だが、鉄郎の言葉は、さらに鋭く学の心をえぐった。
「信用できるか! あんた達の手は借りない! 元々、俺一人でやるつもりだった…!」
 学は気迫に飲まれて、言葉をなくした。
 思わず、シフトレバーから手を離してしまった。
 鉄郎は前方を見据えた。
 その目前に、せり上がって来るビルの屋上が近づいてくる。
「行ける! あれだ…!」
 鉄郎はタイミングを計った。
 ビルの天辺と、上昇するビッグワンの車体の底が接触した。
 その反動で、車体が、大きく揺さぶられた。
 射出口にも大きな振動が伝わる。
 鉄郎と学は呻きながら、激しくぶれる、車体の揺さぶりに耐えた。
 が、その反面、わずかに、ビッグワンの速度が減速する。
 すると、自動的に射出口に吹き込んでいた強風も弱くなった。
 鉄郎は、このタイミングを待っていた。
「よし!」
 一気にシフトレバーを引き下げ、アクセルを踏み込む。
 オフローダーのタイヤが、きしむように回転を始めた。
 自動的に、車止めのピンがはずれた。
 とたんに、オフローダーは、弾くように射出口から飛び出した。
 射出口の向こうに足場はない。
 まったくの空中だ。
 有にある高度は、百メートル以上。
 オフローダーは、その高度から、一気に地表に向けて落下する。
 加速と垂直落下からくる二重の圧力に、鉄郎と学の体は、シートに叩きつけられる。
 激しいGを全身に受けながら、鉄郎は、ハンドルをいっぱいに引き上げた。
 オフローダーは、さらに前方から、伸びあがってくるビルの頭上を飛び越えた。
 ビルとビルの間を抜け、そして、その向こうの地割れた大地をも飛び越える。
 安全な地表を確認すると、鉄郎は、オフローダーの底に備えつけられた、反重力装置を作動させた。
 二度ほど吹かせると、オフローダーの加速は一気に失われる。
 地表に叩きつけられるのを防ぐためだ。
 何とか、オフローダーは地表に着地した。
 しかし、まだ完全に停止できない。
 スリップしながら、地表を大きく横滑りしていく。
「くっ!」
 鉄郎はハンドルを操りながら、ブレーキをいっぱいに踏み込む。
 車体は何度か振られた。
 が、どうにか速度が落ちて、無事に停止した。
 鉄郎は反動で、ハンドルに顔を埋めた。
 オフローダーが止まると、後部シートに乗り込んでいた学が、前のシートの背を飛び越えて、隣の助手席に収まった。
「行こう!」
 学は鉄郎にいった。
 その声は、決意に満ちている。
 学は、さらに言葉を続けた。
「君にとって、大切な人達なんだろ?」
 顔を起こした鉄郎は、いぷかしげに学を見返した。
 学は語気強く、鉄郎にいった。
「信じてくれ。俺は君の“パートナー”だ…!」
 鉄郎は目を見張った。
 だが、学の真摯なまなざしを受けて、強く頷いた。
「わかった…!」
「行けるな?」
「ああ…!」
 学の言葉に、鉄郎は大きく頷いた。
 まだ地表の振動は続いている。
 その中で、鉄郎はエンジンをかけ直すと、迷わずオフローダーを発進させた。
 その一部始終は、ビッグワンのモニターでも、捕捉されていた。
 モニターを見つめながら、デイビットは肩をすくめた。
「ったく、無茶しやがるぜ。あの乗客の坊や…。」
「有紀くん…。」
 ルイは、思いつめた表情で、モニターを凝視していた。
 が、何かを思い出したように、デイビットに声をかけた。
「そういえば、キリアンは? 席をはずしてから、随分とたつわ…。」
 とたんに、デイビットの表情が変わった。
「まさか、あいつも単独行動か…?」
 しかし、その予想は当たっていると、デイビットは考えた。
 頭を押さえつけると、嘆くように言葉を吐いた。
「おいおい、これじゃ、入隊したての学の二号と三号を、抱えちまったようなもんだ…!」
「隊長、このまま離れていいのですか?」
 シートを立ち上がったルイが、思わず進言した。
「有紀君やキリアンやあの少年を、置き去りにしてしまっても…。」
 ルイのすがるようなまなざしが、バルジに注がれた。
 しかし、バルジは押し黙ったまま、けっして動くことはない。