3. 召 還 1

 グレートバリアリーフは、北のパプア湾から南のサンディ沖まで、二千四百キロにもわたる世界最大のサンゴ礁地帯だ。
 CIA所属の調査船は、グレートバリアリーフをひたすら北上した。
 表面上、調査船は海洋調査を目的とした上で、入国を許可された特別船舶だ。
 調査船は、その条件を満たすために、自然保護区域に向かった。
 その間、船の中では、事件に関した、あらゆる情報収集の模索が続けられた。
 あの「仲間たち」が集結して、一週間が経とうとしていた。
 しかし、新しい動きはなく、彼らは、時間を持て余すようになっていた。
 調査船は、最短の都市ケアンズで物資の補給を行った後、ロパートの提案で、もっともはずれのヨーク岬沖にある、コーラル・ケイの無人島付近に、一昨日から停泊している。
 あらゆる危険を想定して、一般人が立ち寄りそうなリゾートエリアをはずしたコースを、調査船は航行する。
 そのせいで、調査船に乗り込んだ一行は、大きなストレスを抱えこんだ。
 そんな一行のために、つかの間の、観光気分を味あわせてやろうという、せめてものはからいだ。
 彼らは、思い思いの時間を、交代しながら自由に過ごすことで、ようやく生気をとりもどしていった。


※  ※  ※


 トリトンは、ずっと海の中を漂っていた。
 力をなくして四年。トリトンにとって、久しぶりに味わうことができる貴重な体感だ。
 最初は、重力の微妙な違いなど、ちょっとしたことで慎重になっていたが、それもすぐに解消した。
 海という、人をよせつけない世界は、トリトンだけを容易に受け入れる。
 海の生き物達の息吹に接して、トリトンが、昔の感覚を取り戻す時間はそう長くなかった。
 無力な時は、通常の人間と同じように、体温を保持するためのスーツを着用し、酸素呼吸器を装着しなくてはいけなかった。
 だが、力を取り戻したトリトンに、そんなものはもういらない。
 呼吸がどこまでも続き、寒さをまったく感じなくなってしまう。
 海パンだけのラフなスタイルで、いつまでも泳ぎ回ることができるのだ。
 どこまでも自由になれるということ。
 トリトンの心は躍った。
 トリトンがもっとも望んでいたものは、このあふれんばかりの高揚感だ。
 しかも、オウルト人の中で、地球の海の世界をこの目で見たのは、トリトンが最初だ。
 彼が生活の拠点にしている世界の海、ジリアスとまったく生態環境が異なっている。
 トリトンは、この世界に強く引きつけられた。
 鮮やかな、色とりどりの珊瑚の様子を観察したり、群れて寄ってくる魚達と一緒にずっと戯れる。
 そうして、一つ一つの生き物達と接しながら、トリトンは、躊躇することなく沖へと出て行った。
 蒼く透明な世界を泳いでいると、野生のバンドウイルカの群れと遭遇した。
 トリトンが声をかけると、彼らもホイッスル音でそれに答える。
 笑顔を浮かべながら、トリトンは彼らに応じると、その群れの中に入って一緒に泳ぎはじめた。
 トリトンが泳ぐスピードは、イルカのそれよりも速い。
 楽々とイルカの群れに追いつくと、一緒に体を反転させながら、今度はイルカ達と戯れた。
 トリトンはこうして時間を忘れた。
 緑の髪が波間に揺れて、彼は、神秘的な少年に変貌する。
 そんな時、いきなり水を差す様に、腕にしていたオウルト製の無線機から、電子音が響いた。
 えっと顔をしかめながら、トリトンは、仕方なく無線機で応答した。
「トリトン、あんた、今どこにいるの?」
 無線をよこしたのはケインだ。
 彼女の声のボリュームは、音が伝わりにくいとされる海の中でも、しっかりと響きわたる。
 海底では、いろいろな生物達、船舶や電波といった音までもが反乱していて、聞き取るのは非常に困難だ。
 トリトンは、信じられないという顔をした。
 それとも、この無線機の性能がよすぎるということか…。
「今、船から百キロ弱くらい離れたところにいると思う。」
「百キロ!? お忍びでうちらは行動しなくちゃいけないのに、あんたは何やってんの!」
 ケインのわめき声が一段と大きくなった。
 トリトンは、無線機を耳から遠ざけながら、ケインに返した。
「これでも戻ってきたんだぜ。さっきは、二百キロくらい離れたところにいたんだから。」
「二百キロ!? どういう神経してんの! ま、いいわ。新しい情報が来たって教えられたの。早く戻っておいで。」
「はあい…!」
「何よ、その気のない返事は!」
「ちゃんと戻るよ。後、一時間半近くかかると思うけど…。」
「一時間半…? ふざけんじゃないわよ! さっさと戻っといで!」
 まるで、叩きつけるように怒鳴り散らすと、ケインは一方的に無線を切った。
 トリトンは呆然とした。
「どういう声をしてんだ? つうか、何でそんなにキレてんだよ…!」
 トリトンは、ふいに周囲を見回してがっかりした。
 イルカ達の姿が消えてしまった。
 トリトンは寂しさを覚えた。
 いくら海の世界に同化できる力があっても、トリトンが、人の世界を捨てない限り、この世界に完全に溶け込むことは許されない。
 トリトンは、その境界の深さを思い知った。
「せっかく仲良くなれると思ったのに…。」
 溜息をついたトリトンは、仕方なく船に引き返そうとした。
 と、一頭のイルカが、トリトンにつきまとってきた。
 単独で行動するイルカは、「フレンドリードルフィン」と称され、一般的に人懐っこい。
 トリトンは、イルカに声をかけた。
「何? 友達になってくれるの?」
 すると、イルカの方は、しきりにトリトンに訴えようとする。
 トリトンは、そのコミュニケーションを通して、イルカの名が“JOJO”(ジョジョ)であることを知った。
「わかったよ、“JOJO”。一緒においで。」
 トリトンは、“JOJO”を伴って、急いで船に戻った。



 その頃、船内の食堂では、仲間達が自由に出入りしながら朝食をとっていた。
 アキは食事を終えると、厨房に入ってサンドイッチを作り始めた。
 すると、食器を戻しに来たジョウが、アキを目ざとく見つけた。
「ピクニックの準備でもはじめるのかい?」
「そうじゃなくて…。これ、鉄郎の分。差し入れしてあげようと思って…。」
 アキがそういうと、ジョウは、わずかに顎をしゃくった。
「そういや、あいつ、昨日から何をやってるんだ?」
「パソコンにメールが入ってきたらしいんだけど。フリーズして、うまく受けられないんだって。だから、直してるの。」
「メール? 誰から?」
「織野の執事さんから。」
「珍しいな。あいつが、こんな時に閉じこもるなんて。」
「ジョウは? 泳ぎに行かないの?」
「これから行こうと思ってる。先に、裕子がいっちまったからな…。」
 その会話に、島村ジョーとレイコのコンビも加わった。
 レイコも同じことを聞いた。
「どうして、裕子がいないの?」
「あいつは、もともと水中写真家を目指している。今頃は、カメラ片手にはりきってるはずだ。」
「でも、一人じゃやばいだろ。行ってやらないのか?」
 ジョーが口を開くと、倉川ジョウは納得しながら答えた。
「もちろんだ。今から行く。それより、おたくらは遊びに行かないのか? せっかくなんだから、楽しめばいいだろ。」
「レイコがカナヅチなんだよ。」
「うるさいわね!」
 ジョーがそういうと、レイコはムッとする。
 アキが微笑んだ。
「そういえば、昔っから、レイコはプールにも入ったことがなかったものね…。」
「日焼けすんのが嫌なの! 勘違いしないで!」
「甲板は出歩くくせに。しかも、この海域だと足がつかないものな。島にもあがれねぇから、つきあってやってるんだ。」
 ジョーは遠慮がない。レイコはふてくさる。
 倉川ジョウが吹きだした。
「そいつは大変だな。」
「あたし、先に行くね。みんな、ごゆっくり。」
 ミルクをそそいだグラスと、サンドイッチの皿をのせたトレーを手にして、アキは食堂から出て行った。
「うまそう。ああいう飯が一度でも食えたらな…。」
「ジョー、それ、どういう意味よ…!」
 レイコのまなざしは、ますます鋭くなる。
 倉川ジョウは、慌てて二人の前から立ち去った。
「さて、俺も行くか…。」
 その後、ジョーの悲痛な悲鳴が響くのは、時間の問題だった…。



 アキが、鉄郎の部屋をたずねた時、鉄郎は、バスローブ姿で部屋の中をうろついていた。
「鉄郎、お風呂に入ったの?」
 アキが、鉄郎の姿に信じられないといった様子で声をかけると、鉄郎はうんざりしながら答えた。
「俺だって入るよ。風呂ぐらい…。」
「感心ね。いつも、あたしがうるさくいわないと入らないくせに…。」
「まるで、アキに監視されてるみたいだな…。」
 鉄郎は口を尖らせながら、ノートパソコンが置いてあるデスクの前に座った。
「あら、みたいじゃなくってしてるのよ。でないと、すぐにさぼろうとするでしょ…。はい、これ朝食。」
 鉄郎の傍らにトレーを置くと、アキは、鉄郎の顔を覗き込んだ。
「ビールかワインがあれぱもっと嬉しいんだけどなぁ…。」
「残念だけど、この船にはアルコールはないわよ。ミルクじゃご不満?」
「別に不満ってわけじゃ…。」
「それとも、ラーメンの方がよかった?」
「さすがに今はラーメンって気分じゃない。ありがとう、腹が減ってたんだ。」
 鉄郎は、サンドイッチに手をのばすと口に運んだ。
 その後からデスクを覗き込んだアキは、鉄郎の耳元で声をかけた。
「パソコンのご機嫌は?」
「だめだ…。もうお手上げ…! 諦めた!」
 鉄郎は、そういって天井をあおいだ。
「執事さんからどんなメールが入ってきたの?」
 アキが鉄郎の顔を上から見つめると、鉄郎は肩をすくめた。
「うん…。添付ファイルが六十個も分割されて送られてきた。それも、激重…。」
「六十個のファイルってどういうデーター?」
「たぶん、イオスに関するデーターだ。」
「トリトンに頼めばよかったのに…。」
 アキがそういうと、鉄郎は苦笑した。
「あいつ、どうせ海に潜ったままなんだろ? せっかく楽しんでるのに、呼び戻してやるのが可哀想でさ…。」
 その時、アキが物憂げな表情をしたのに、鉄郎は気がついた。
「どうしたんだよ、 浮かない顔をして…。」
 アキはハッとした。ためらいながらも言葉を続けた。
「ロバートが…。トリトンに、あたしとあなたの関係をしゃべっちゃったの…。」
「そっか…。」鉄郎の声は落ち着いていた。「びっくりしてただろ。あいつ…。」
「うん…。」
 アキが頷くと、鉄郎は軽い口調でいった。
「今度、あいつが聞いてきたら、そんなのは関係ないっていってやれよ…。俺達でさえ、普段は忘れてることだ…。」
「そうね…。」
「ロバートも悪気があっていったわけじゃない。きっと、君のことを、励ましたかったんだと思うよ。」
「彼のことを恨む気持ちはないわ。」
 アキがそういうと、鉄郎は安堵の笑みをもらした。
「よかった…。」
「鉄郎、少し休む?」
 ますますけだるい感じになってきた鉄郎に向かって、アキは優しく促した。
 鉄郎は素直に頷くと、アキの髪にそっと触れた。
「添い寝してくれると、もっとよく眠れるんだけどなぁ…。」
「そんなことをしたら、鉄郎がますます休めなくなっちゃうから…。」
 アキは鉄郎の肩を抱いた。小柄に思えても、鉄郎の体つきはしっかりしていて、意外にたくましい。
「俺としては、そっちの方がいいんだけど…。」
 鉄郎は小さく笑った。アキは笑顔を向けながらかぶりを振った。
「タイミングが悪すぎるわ。人が来てる…。」
「えっ?」
 鉄郎がびっくりしたのと同時に、扉にノックの音が響いた。
「出ようか?」
 アキがそう聞くと、鉄郎は肩をすくめた。
「頼んだ。」
 いわれてアキは扉を開けた。そこにいたのは倉川ジョウだ。
「調子はどうだ?」
「だめみたいよ。」
 アキがいった。その後から鉄郎も顔をのぞかせた。
「諦めたよ。」
 が、鉄郎の格好を見て焦ったジョウは、反射的に通路側に飛び退った。
「お前、何でそんな格好してるんだ?」
 ジョウはバスローブ姿の鉄郎を指摘する。鉄郎は頭を痛めた。
「バスローブがそんなに珍しいか! 風呂に入っただけだ!」
 ジョウの後には、レイコと島村ジョーも連いてきていた。
 鉄郎とアキを見比べると、レイコは黄色い悲鳴をあげた。
「きゃ〜っ! 二人とも露骨〜っ! 」
「さっき、食堂で会ったばかりでしょ!」
 アキは、うんざりとした態度でレイコに応じる。
「リアクションが大げさなんだよ!」
 あきれ返った鉄郎は、冷静な声で言い返した。
 そこに、トリトンがやってきた。
 海パンの上にパーカーを着込み、タオルで髪を念入りにふきあげながら、仲間達のもとへ近寄ってくる。
「あれ? こんなところに集まって、何かあったの?」
「お前の方こそ、海に行ってたんじゃなかったのか?」
 気がついたジョーが声をかけると、トリトンがぼやくようにいった。
「ケインとユーリィに呼び出されたんだ。」
「うわ…。一番、誤解をまねきやすいやつが来ちゃった…!」
 一方で、鉄郎がぼそりという。トリトンは鉄郎を見つけるとニヤリとした。
「あっ、そういうこと…! お邪魔はしませんから、どうぞごゆっくり…!」
「わーっ。そうじゃない! お前に用があるんだ!」
 鉄郎は、あわててトリトンに追いすがると引き止めた。トリトンは呆気にとられる。
「俺、男を相手にするシュミはないぜ。」
「俺も相手にされたいとは思ってない!」
 鉄郎は焦りながら言い返した。
「お前の相手にふさわしい子がいるんだ。紹介する。こっちへ来て!」
「何だよ!」
 強引にトリトンの腕を取ると、鉄郎は、トリトンを部屋に引っ張り込んだ。
 そして、パソコンを指し示した。
「昨日からこいつと格闘してたんだけど、強情でさ、うまく言い聞かせられなかったんだ。」
「なるほど。そんなに手強いんだ。」
 トリトンが鉄郎を見やると、鉄郎はこっそりと呟いた。
「アキ以上だ…。」
 トリトンは吹きだした。
「そりゃ大変だね。わかった。何とかやってみる。で、この子には、どんな癖があるの?」
「メールが送られてきてるけど、それがうまくいかない。」
「わかったよ。鉄郎も乗りこなすのがヘタだね。」
「相手が生身の女だったら、もっと楽勝だ。」
 トリトンが悪戯っぽい視線を向けると、鉄郎は皮肉っぽく返す。
「二人で、どういう会話をしてるの!」
 アキが冷たい口調で声をかけると、二人はそろって肩をすくめた。
 鉄郎は、さりげなくベッドの方に移動した。
 トリトンは、取り繕うように、聞きたいことを思い出すと声をかけた。
「あっ。ところでケインを見かけないんだけど…。大事な情報が入ったから、もどってこいっていわれたのに…。」
 その質問に、目を丸くした倉川ジョウが答えた。
「ケインとユーリィなら、小一時間前に海に飛び出していったぜ。今頃、島で遊んでるんじゃないのか?」
 とたんにトリトンの顔色が変わった。
「謀られた…! 騙してむりやり交代させたな…!」
「やられたな。」
 ジョーが笑った。
「ただ、大事な情報というのは当たってるかもしれないぞ。ただし、このパソコンがうまく動けばの話だが…。」
「いいや。そっちの方をやるか。ね、鉄郎。」
 トリトンは観念した。それから、持ち主の鉄郎の方に首をめぐらした。
 確か後ろに動いたなと思って振り返ると、トリトンは唖然とした。
 ベッドに横になった鉄郎は、もう眠りこけている。
「何で寝ちゃうんだよ…! 会話してるのに…!」
「この状態でよく寝られるわね。鉄郎ちゃんたら…!」
 すっかり熟睡モードの鉄郎には、レイコも言葉がない。
 ジョーがいった。
「鉄郎の寝つきの良さには感心するよ。」
「夢見る王子様にはかなわねぇってか。」
 倉川ジョウが笑い出す。
「もう…。だらしないから、ちゃんと着替えなさいっていってるのに…。しようがないな…。」
 胎児のように、体を丸めて眠ってしまった鉄郎の上に、アキはタオルケットをかぶせた。
「ほとんど世話女房だよ、アキ。」
 レイコに突っ込まれても、アキは気にしなかった。
 あどけない鉄郎の寝顔を見つめながら、アキは微笑んだ。
「仕方ないか…。一番精神的に疲れているのは、鉄郎かもしれないわ。あたし達にずっと気を遣ってくれてるし…。」
「起こしちまうと、そっちの方がやっかいだ。」
 ジョウは苦笑した。
「みんな、出よう。」
 ジョウに促されて、一同は、次々に鉄郎の部屋を出た。
 トリトンは、出ていく直前にパソコンを手に持った。
「この娘は借りていくよ。」
「どうするんだ? そのパソコン。」
 通路に出たとき、ジョーが聞いた。
 トリトンは答えた。
「この船のメインのパソコンに直結させて、データを受け取れるかやってみる。最悪、インストールのやり直しかな…。作業に時間がかかると思うから、みんなも、外で遊んできてもいいよ。」
「そうさせてもらうか。」
 ジョウは頷くと、先に仲間達から離れていった。
 その姿を見送りながら、トリトンは、思い出したようにアキにいった。
「そうだ。アキ、“JOJO”の面倒を見てやって欲しいんだ。」
「“JOJO”って?」
 アキが首をかしげると、トリトンはにこりとした。
「イルカだよ。俺に連いてきちゃったんだ。この近くにいるから。」
「わかったわ。」
「いいなぁ。」
「レイコもくればいいのに。」
「あたしはいいわよ…。」
 レイコは慌てて遠慮した。アキは肩をすぼめる。
 ジョーがトリトンに聞いた。
「地球の海はどうだった?」
「思ったより綺麗だったよ。捨てたもんじゃないって思った。表面上はね。」
「表面上?」
「まだ、じっくり見れてないから結論は出せないけど、きっと、自然破壊のひずみが、あちこちに影響を及ぼしていると思う。とにかく、ジリアスよりも日差しがきつい。ちょっと、やばいかもね…。」
「オゾン層が薄くなってるっていうからな…。」
 ジョーはぼそりといった。
「後は、地球人類の心がけだ。どこまで、この環境を維持できるのか。オウルト人は、そういった発展途上の惑星の人類と、関わることを禁じられている。その惑星の運命は、その星の人類に任せるしかない。といっても、オウルト人だって昔はそうだった。人口が増えすぎて、食料難と極端な自然破壊で苦しんだそうだから…。」
「それを、おまえ達の星の人類は、ワープ航法を開発して乗りきったんだろ?」
「それでも百年かかったって…。地球人にそれができるとは思わない。でも、希望は持ちたい。何かの方法を考えてくれるものだって信じている。」
「難しい話は、よくわからないんだけど…。」
 レイコはにやけながら、話題から逃避した。
 アキは静かな声で呟いた。
「今のままではだめなの。難しい問題だけど、全人類が利害と宗教の壁を乗り越えて、協力しあわないとね…。オウルト人はそれを可能にした。私達から見れば、それだけでもオウルト人類は奇跡の人々だと思うわ。たとえ、今も争いが続いていたとしても…。地球人類は、もっと意識を高めるべきなのかもしれない…。」