トリトンを救出する少し前に…。
船内に非常サイレンが鳴り響いた。
特殊センサーがいち早く、一同の侵入をキャッチした。
地球人メンバーと“リンクス・エンジェル”は、個々にエアバイクで戦闘艇の目標ハッチに接近した。
ユーリィのバズーカーがエアロックの扉を吹き飛ばす。
進入経路ができると、メンバーは、エアバイクを乗り捨てて、次々に内部に乗り移った。
全員が突入すると、すぐに、白兵戦が展開した。
メンバーは、合図で二、三人のグループに分かれると、思い思いに敵兵と応戦した。
先手をきったのは、ケインとユーリィ、ロバートの三人だ。
ブリッジに行く側にたちふさがった兵士の列を、一気に突き崩した。
相手の銃を、ロバートが乱れ撃ちで弾いていく。
その隙をついて、ケインとユーリィは、カンフーもどきの格闘技で、瞬時に飛びかかる。
ふいをつき、ケインとユーリィに襲いかかる兵士を、ロバートがなぎ倒した。
壁にとりつけられたガードシステム。
蛇のような頭を持つハンターが温度を感知して、侵入者をレーザーで始末する。
ハンターの首を、鉄郎の銃が、次々に破壊していく。
さらに、防御シャッターが降りはじめた。
侵入者を区画に閉じ込めてしまうためだ。
が、アキとジオネリアが、シャッターの分厚い壁をぶち破った。
壁の向こう側にも兵士がいる。
裕子と鉄郎が協力し、兵士達と応戦した。
そのうち、倉川ジョウが叫んだ。
「伏せろ!」
いいながら、小型の手榴弾を投げる。
兵士達は、慌てて逃げ出した。
しかし、逃げ遅れた兵士達を巻き添えにして、手榴弾は爆発する。
爆発を防いだ一同は、衝撃が収まると、次々に起き上がった。
前方を見ると、通路は完全に焼け落ちて、原型をとどめていない。
「ちょっと! あんまりやりすぎないで…! この船、ぶんどるんだから!」
ケインが口を尖らせると、ジョウは肩をすくめた。
「人のことはいえねぇだろ。」
「人が動き始めた…。こっちにくる…!」
アキが口走ると、ロバートが、笑顔を浮かべた。
「狙いどおりだ。で、坊やを先に救いにいくか?」
「いえ。ブリッジを目指すわ。」
ユーリィがいった。
「途中でわかれよう。ブリッジにいくのと、トリトンを助けるのと。」
鉄郎がいうと、一同は頷いた。
「了解。じゃあ、途中まで一緒よ。こっちに来て。」
ユーリィが先手をきって駆け出した。
「おまち! あたしをさしおいて、許さないわ!」
ケインが飛び出すと、残りのメンバーは苦笑した。
兵士側の指揮をとっていたのは、副士官のラッセルだ。
ラッセルはあせっていた。
十名足らずの侵入者の勢いを、一向にとめられない。
そのうち、バタバタと、味方の兵士が倒れていく。
ふがいない結果に、ラッセルは頭を痛めた。
グラントの腹心にあたるラッセル。
グラントは、謎の少年の取り調べに、時間を費やしている。
その手を煩わせることは、ラッセルの功績に大きく響く。
それゆえに、どんな小さな過失も、あってはならない。
「まだか…! まだ鎮圧できんのか?」
メインブリッジの一画で、戦闘隊長と交信するラッセルの顔に青筋がたった。
「申し訳ありません。メンバーの中に“ロスト・ペアーズ”が含まれています。応援を。至急!」
モニターに写った戦闘隊長の顔は、恐怖でひきつっている。
「なんだと…!?」
ラッセルが声を荒げた時、通信が一瞬で切れた。
とだえる最後の瞬間、戦闘隊長の悲鳴と、鈍い爆発音が響き渡った。
「くっ…!」
ラッセルは、マイクを通信デスクにたたきつけた。
“ロスト・ペアーズ”の言葉を聞いたとき、すべてを呪った。
最悪の魔女を招いてしまったことにー。
しかし、戦闘放棄が許されない状況で、ラッセルは、次の対応に追われることになった。
戦闘隊長を吹き飛ばしたのは、ユーリィの小型バズーカーだ。
メンバーは、それぞれに壁の一画に身を伏せて、衝撃を防いだ。
「ブリッジはこの先よ…! ここで別れましょう…!」
ユーリィが提案すると、
「待ってください…。」
ジオネリアが一同に声をかけた。
「トリトンも、この先にいます。」
「じゃあ、別れる必要ないじゃない…!」
レイコが呆れた。
「先手をとるわ!」
ケインがいち早く、一同から離れると、先に通路の角を折れ曲がった。
「ケイン、急がないで!」
ユーリィが後に続いた。
しかし、ユーリィはその場で立ち尽くした。
「どうしたんだ?」
鉄郎がユリの横にならぶと、不思議そうに聞いた。
ユーリィは途方にくれた。
「ケインが消えちゃった…!」
「そんな馬鹿な!」
倉川ジョウが確認のために、彼らの横にやってきた。
「危ない!」
叫んだのは裕子だ。
隙を見せた三人に、新手のレーザー攻撃が集中した。
「うわっ!」
「きゃっ!」
三人は叫びながら、身を伏せる。
瞬時にアキが動いた。
宙を飛ぶと、純白のシールドを放つ。
攻撃を防いだ。
「早く!」
「ありがとう!」
鉄郎はにっこりと笑うと、ジョウやユーリィとともに、元の柱の影に身を伏せた。
「人員補強したのよ。」
ユーリィがいうと、ジョウは舌打ちした。
「ちっ、きりがねぇ!」
「ここは、俺にまかせろ!」
ロバートが提案した。
「何をいってるんだ…!」
鉄郎が呆気にとられたが、ロバートは激しく命じた。
「言われたとおりにしろ!」
「こちらへ!」
アキのフォローに回ったジオネリアが一同にいった。
二人の力は、新手の兵士達の攻撃を完璧に防いだ。
「わかったわ…!」
ユ−リィが聞き入れた。
ユ−リィを先頭に、ロバート以外のメンバーが後に続く。
ラストに、力で兵士を翻弄したジオネリアとアキが、続けてその場から離れた。
「後は、お願いします。」
ジオネリアは、ロバートに声をかけた。
ロバートは渦巻くエネルギーをよけながら、慎重に壁を伝って移動した。
ある一角の壁面で、ロバートは表情を変えた。
「あにすんの!」
ケインの叫び声が、壁の向こう側から聞こえる。
ロバートは、すかさず銃で壁をぶち破った。
壁の向こう側に、小さな隠し部屋がある。
そこで、レーザー剣を持った兵士に、ケインははがいじめにあって苦しんでいた。
瞬時に、ロバートは兵士の腕を打ち抜いた。
兵士はうめきながら、ケインを突き放す。
そして、ロバートに銃口を向けた。
だが、無駄な抵抗だ。
ロバートは冷徹に兵士の額に向けて銃を撃った。
「大丈夫か?」
銃をもどしたロバートは、あえぐケインの体を支えて声をかけた。
ケインはわずかに顔を赤らめた。
「油断したわ…。こいつ、前に別の事件で顔をあわせたことがあったの…。あたしのことを覚えてて、突然、襲いかかってきた…。ここは、一時退避区画…。ここで殺ろうとしたのね…。」
「とんだ野郎だ。」
ロバートは、兵士の死体をひきずると、部屋の外に投げ捨てた。
また、ケインのもとにもどったロバートは、心配そうに、ケインの顔をのぞきこんだ。
「怪我をしているな。肩をやられている。」
「エネルギーがかすったの。たいしたことじゃないわ。」
ケインは一人で立ち上がろうとした。
しかし、傷は思った以上に深い。
ケインの顔が苦痛にゆがんだ。
「よせ。少し休んだ方がいい。」
ロバートはケインに手を差し伸べようとした。
が、ケインはそれを拒んだ。
「こんな傷くらいで、倒れていられないわ。」
「強がるのも結構だ。しかし、それじゃ、足手まといだ。」
「なんですって?」
ケインの顔がひきつった。
ロバートは口調を変えて、やんわりと返した。
「言い方が悪かったな…。ここは、あいつらだけで十分やれる…。団体行動はあまり好きじゃない…。あんたも、どちらかというと、俺と同じ類だ…。違ったか?」
「どうだか・・・。まあ、いいわ…。悪くないシチュエーションだから…。」
ケインはかすかに笑った。
「さて、どこかで休める場所は・・・。」
「この退避区画から、隣の区画に抜けることができる。そこは備品倉庫よ。そこでなら、手当てもしやすいわ。」
「わかった…。」
ロバートはケインを抱き上げた。
ケインは、唐突な態度にますます腹をたてた。
「なにすんの! あんた、女嫌いだったでしょ!」
「ガキのような女は苦手だ。しかし、物分りのいい女は許容範囲だ。」
「何、それ・・・。」
「文句をいうな。黙って手当てを受けろ。」
「強引・・・。」
ケインは押し黙った。
何をいっても、ロバートには通じないのを、身にしみて思ったからだ。
ロバートは、そのまま、隣の区画に移動した。
そこは、日用雑貨のあらゆる物品がストックされてある。
目を引いたのは簡易ベッドだ。
そこにケインを座らせると、おもむろにケインの上着を脱がそうとした。
ケインはロバートの左頬を平手で殴った。
「おいおい、手当てしようとしただけなのに…。」
呆れるロバートに、ケインは憮然とした顔で、言い返した。
「慣れ慣れしくしないで。それに、この服は強化ポリマーで素肌の上から覆われてるの。特殊クリームで落とさないと脱げないわ。」
「不便だな。」
「実戦には、もってこいよ。」
ケインは胸を張った。
銀色であわせた、短すその上着とホットパンツ。
そして、七センチヒールのブーツをあわせたパーツが、“ロスト・ペアーズ”の定番コスチュームだ。
宇宙でもっとも美しく、危険な美女のペアは、そのコスチュームで認識される。
「お姫様、いかがいたしましょうか?」
ロバートは冗談半分で声をかけた。
ケインは、わずかに目を細めたが、すぐに表情を崩した。
「だったらお任せするわ。クリームを塗って。ズボンの内ポケットにあるでしょ。」
「わかりました。」
ロバートは、小さな金属の容器を取り出すと、ケインの肌にそっと手を当てた。
ロバートの行為を許しながら、ケインはロバートに話かけた。
「あなたも解らない人ね…。どうして、鉄郎やトリの坊やに、協力しようとするの…?」
「知りたいか?」
「あなたに興味があるわ。」
いたずらっぽい口調で、ケインはいう。
ロバートはふっと笑うと、ややあって、口を開いた。
「あいつらを見てると、俺のガキの頃と、だぶってきやがる…。」
「あなた、少年時代は、恵まれていなかったのね。」
「大人にコケにされつづけた…。」
ロバートは淡々とした口調でいった。
「たかがガキだ…。しかし、そのガキを利用して、至福を肥やす大人がいる。そういう大人が、いつの時代でもはびこるのが気に食わない。端的な理由だ。」
「正義感ね。」
「どうとでもいってくれ。傷をおったものでないと、理解はしてもらえない。」
ロバートは薬を塗り終えた。
ケインはにこりとした。
「いいわ。私がそのしこりをとってあげる。いいでしょ?」
「どういう心境の変化だ?」
呆気にとられるロバートに、ケインは美しい笑みを浮かべた。
「色恋を期待しても、所詮、相手は子供の集団よ。つりあうのはあなただけ…。」
「光栄だが、他に相手がいないと思われたんじゃ、その気になれない。」
「あら、そんな軽い女に思われたくないわ。あなただから、そういってるの。助けに来てくれたとき、最高にかっこよかったわ♪」
「それこそ、単純だろ。」
ロバートは苦笑した。
ケインは明るい声でいった。
「あら、好きになるのに理屈があるの?」
「確かに。理屈はない。」
「だったら、迷わずに“お出かけ”コースね。私達の世界ではそういうの。」
「地獄の果てまでもか・・・。」
「まっ、ダサい言い方♪」
ケインは、ロバートの腕に身をあずけた。