数千年の昔、まだ、ヨーロッパ文明発祥の時代よりはるか前、地中海、今のキクラデス諸島に奇跡の島が存在した。
人工島、アトランティス。
先住民族は、神の子アトラスが創造したといわれている。
しかし、どこからやってきたのかは不明だった。
現在では、哲学者プラトンの著によって、幻の大陸として伝えられている伝説の国である。
だが、アトランティスは確かに実在した。
繁栄と栄華を周囲の諸国に強く知らしめ、理想国家を築きあげていた。
国の王は、代々名君と称えられ、何代にもわたって引き継がれていた。
歴史上、無名であったが、アエイドロス二世という人物が王位に即位し、その時代に君臨していた。
エネシスがトリトンとアキの力で蘇らせたのは、そんなアトランティスの姿だった。
地球人とオウルト人達が見ているのは、平和で活気あふれるアトランティスの港の風景だ。
ひっきりなしに来訪する外国船。
それらの船から、山のような積荷が、海の男達の手で降ろされていく。
港には市場が並んでいる。
そこに、当時のアトランティスの人々が集い、賑やかで楽しい光景が広がっていった。
行き来する人も、商売をする人も、また、働く男達も、にこやかな笑顔を絶やさない。
今のアトラリア人には感じられない生気が、人々の中に溢れていた。
この時、アトランティスはもっとも平和でのんびりとした時代の中にあったのだ。
そんな世界の中で。
元気よく飛び回る一人の少年がいた。
大人の人の波をかいくぐりながら遊ぶ緑の髪の少年。
アエイドロスの子、トリトン・アトラス。
国の王子であるはずの、この少年の勝手気儘な振る舞いを、周囲の大人達は、なぜか気にも止めなかった。
トリトン・アトラスは、普段から城を抜け出すと、まるで平民の子どものような顔をして、城下の街を遊びまわる少年だった。
街の市民達も、この少年のことを王子としてではなく、近所の腕白坊主と同じ目で見ていた。
これは、市民と王子との間の暗黙の了解だった。
この日も、トリトンは、城の従者の目をごまかすと、城下に飛び出して来た。
途中、果物屋の店先に並べてあった青リンゴを掴むと、平然と口にほおばった。
そして、偶然、通りすぎようとした荷車の台車に飛び乗ったりして、港にやってきた。
港は、トリトンのお気に入りの場所だ。
必ず決まった日になると、トリトンは夢中で港を目指す。
トリトンの興味を引くものー。
それは、王じきじきの命令で、各国に向けて遠征する特殊軍船の入港だ。
遠征の軍船には、王より選ばれたアトランティス唯一の勇猛な剣士、ダーナが乗り込んでいる。
あのジリアスの遺跡に眠っていた、王女ミラオに従った美丈夫な使徒のことだ。
ダーナは、トリトンの尊敬の人で、兄のように慕っていた。
ダーナの帰国には、いつも喜びいさんで、トリトンは一番に駆けつける。
特に、ダーナがお土産に持ち帰ってくる異国の珍しい品々が、トリトンの何よりの楽しみだった。
トリトンは国から出ることを許されていない。
そんなトリトンにとって、遠征で自由に異国を旅するダーナは、憧れそのものだ。
トリトンはまだ見ぬ異国の地に夢をはせた。
いつか、自分の目で異国を見聞できる日が来ることを望みながら、ダーナのみやげ物を収集して、トリトンは部屋に飾りたてていた。
それが、王宮で許されているトリトンの唯一の趣味だった。
トリトンに再会したダーナは、上半身ほどもある大きな木の仮面を与えた。
「この面白い顔をした仮面は何なの?」
嬉しげにトリトンが尋ねると、ダーナは優しい声で説明した。
「エジプト国のさらなる南。ジャングルの奥地に住むという黒い裸族が、儀式に使う神の面だ。」
「こんなおもしろい神様なんているのかい?」
思わず吹き出したトリトンを、ダーナは軽く注意した。
「その仮面は、一族の神聖な意味が込められているんだ。大切にしろよ。」
「ありがと。ダーナ。」
トリトンは、ダーナの手をとった。
「ね、後で僕の部屋に来てよ。隠し部屋を作ったんだ。」
「それはいいが…。少しは部屋を片付けろって。姉さんや従者達が怒っていたぞ。」
「部屋はきちんとしてるよ。」
トリトンは照れながらいった。
「だけど、物がいっぱいありすぎるんだ…。」
「しょうがない奴だな。」
そういながら、ダーナはトリトンの髪を撫でた。
「しかし、不思議だ…。お前の髪は“アクエリアス”特有の髪だな…。両親や姉に少しも似ず…。だが、お前の髪の色を見ると、心がなぜか和む…。自然の色。だからだろうな…。辛い旅のことは忘れられる…。」
「旅ってそんなにつらいものなの?」
「嫌なことだらけだ。お前が想像するほど、楽しいものじゃない…。」
「それでもマシさ。」
トリトンは、睨むようにダーナを見つめた。
「こんなちっぽけな砦のような国に、一生いつくよりはね…! この国には何もない。みんなオリハルコンが作り出した世界だ。本当だったら、木も育たない。生き物だって生きていけない…!」
「よせ、トリトン!」
ダーナは叱った。
トリトンは、激しくかぶりを振った。
「オリハルコンは大好きだ。だけど、僕は土のある大地で生きたい…!」
その時、トリトンの背後で若い女の声がした。
「トリトン・アトラス。言葉を慎みなさい!」
きつい顔でトリトンを睨みつける女性。
その女性こそ、ジリアスの遺跡に眠っていた王女、ミラオだ。
ミラオは、アエイドロス二世の長女だ。
複数の従者を従えて、馬から降りると、トリトンとダーナ、船員である兵士達の方へゆっくりとやってきた。
すると、王女の威厳のせいか、周囲の市民達は手を休めると、跪いて敬意と忠誠を尽くした。
「王子様。見つけましたよ!」
さらに、ミラオの後に遣えていた侍女がトリトンを睨みつけた。
年老いてはいるが、しっかり者の女性だ。
「ヤバッ!」
慌てたトリトンは、ダーナの後にサッと隠れた。
驚いたダーナは、トリトンに声をかけた。
「どうしたんだ、いったい?」
「お叱りくださいませ。」
侍女がいった。
「今日は、大事な家庭教師が参られる日というのに。王子は、この私の目をごまかすために、ご自分の部屋に大蛇を忍び込ませて、私が気を失った間に城を抜け出されたのでございます。私が大の蛇嫌いと知っておいでのはずなのに。いくら王子様でも、この悪戯は目に余って容赦できません!」
「そんなバカなことをしたのか?」
カッとなるダーナに、首をすくめたトリトンは、呟くように文句をいった。
「だって…。家庭教師に捕まったら、一日中、城から出してもらえないんだ…。」
「今日だけじゃない。」
ミラオが呆れた。
「今からでも遅くはありません。城に戻りなさい。」
「やだよ。」
「言われた通りにしなさい。父王と母王が、あなたにお話があるそうです。」
「どうせ、学問所に行けっていわれるんだ。行きたくないっていってるのに…!」
トリトンはわめいた。
しかし、この時代、すでにトリトンの年頃になる良家の少年達は、進んで学問所に入学する習慣があった。
優れた学び舎で、著名な教授陣の教育を受け、男子としての武勇と知的な精神を養うことが理想とされていたからだ。
トリトン自身は、学問所に行くことは嫌ではなかった。
世の中のことをもっと学びたいと思っているし、同じ年頃の、同じ目的を持った友人達に巡り合えることは楽しみだと思っている。
しかも、学問所は大陸のアテネの近くにある。
トリトンが切望してやまない、土のある大地で暮らすことができるのだ。
しかし、いくら環境が良い学問所とはいえ、一度、入学してしまうと、教育課程が終了するまでは、厳しい寮生活を強いられる。
トリトンは、自由に外の世界と接することができなくなってしまうことを、よく知っていた。
だからといって、卒業後に自由になれるのかといえば、青年に近づいたことを理由に、王位継承のための帝王学の履修や結婚話が問題になり、さらにきつい生活を送らなくてはならなくなるのも自覚していた。
つまり、一度学問に手を染めてしまうと、生涯、机の上で学問に励まなくてはならない人生が、トリトンには待っている。
それが、王子として生まれたトリトン・アトラスの運命だった。
だからこそと、トリトン・アトラスは強く思う。
今しかできないことー
ダーナに同行して、この目で見知らぬ世界を見てみたいー。
その望みが叶ったら、学問所に行こうが、王になろうが、国の人々のために、その運命を受けいれてもいいとトリトンは考えていた。
だが、王家の一族から見れば、そんな望みは、とんでもないわがままだと受け取られてしまう。
トリトンの心を理解してやろうとするダーナやミラオでさえも、トリトンの運命まで変える力はなかった。
父アエイドロスと、母エネレクトにとっての最大の悩みは、息子であるトリトン・アトラスの養育問題だった。
トリトンは、そんな満たされない心を晴らすために、わざと反抗的な態度をとったり、始末に負えない悪戯を仕掛けたりして、城の大人達の手を焼かせては、困らせ続けていた。
トリトンはミラオに文句をいった。
「どうして、姉さんまで港に来なくちゃいけないんだ! いつもなら、城の中でダーナと会うくせに!」
「何をいってる?」
呆れたダーナがトリトンにいった。
「お前の使徒候補の姫君を迎えにきたんじゃないか。」
「使徒候補?」
トリトンは目を見張る。
いぶかしんだダーナは、ミラオを見つめた。
「まだ話してなかったのか?」
「はい。」
ミラオは曖昧に頷くと口を開いた。
「父王から、直接トリトンに話をすることになっていたのですが…。」
「いるもんか、使徒候補なんて…!」
トリトンは激しく叫んだ。
使徒候補ー。つまりは、花嫁候補のことだ。
トリトンには納得できなかった。
自分の知らない所で、勝手に自分の人生が決められていくことに不満を感じた。
この時、使徒候補の姫君は、一同のすぐ後にやってきていた。
トリトンは、その娘と対面して言葉をなくした。
赤い髪をした美少女、アルテイアだ。
アルテイアは、付き人らしい初老の男と一緒に静かに立っていた。
トリトンはアルテイアをよく知っている。
ーといっても、覚えているのは、四、五歳の頃だったが…。
アルテイアはトリトンの従妹だ。
幼少の頃、トリトンが仕掛けた悪戯に、アルテイアはよく泣いていた。
その後、アルテイアはクレタ島に移住した。
その島にある少女ばかりの寄宿舎に入って、教育を受けるために。
アルテイアは、ダーナに連れられて、久しく離れていたアトランティスに帰郷してきた。
トリトンの使徒候補に選ばれて。
トリトンの気持ちは複雑だった。
苛めてはいたけれど、アルテイアは小さい頃からの遊び友達だ。
そんな彼女が、美しい姿に成長してもどってきてくれたことは嬉しい。
しかし、それが使徒候補となれば、気軽に受け入れるわけにはいかなかった。
「なんだよ、君が使徒候補なんて笑っちまうよ。だったらお断りだ。さっさとクレタに帰れ。赤毛の用なし!」
言い捨てたトリトンは、海に向かって歩き出した。
成長したアルテイアは、トリトンが考えていた以上に強い少女になっていた。
「使徒候補は、あくまでも候補です。私もアクエリアス一族の血を持つ者。そのための修業をするためにもどってきました。ご安心ください。使徒は優秀な神官と結ばれることもあります。いつまでも、子どものようなあなたとは、つりあうこともないでしょうから。」
アルテイアは、愛らしい声で痛烈な皮肉をいった。
トリトンの怒りが爆発した。
「いわせておけば!」
トリトンの体からオーラがはじけ出た。
精神を集中すると、エネルギーが手のひらに集まりだす。
エネルギーは光球になった。
トリトンは、そのエネルギーをアルテイアに向けて放射した。
「トリトン、よせ!」
「やめなさい!」
ダーナとミラオの静止もきかない。
一方のアルテイアもオーラを放出する。
それが、全身を包み込んでシールドとなる。
トリトンのオーラ攻撃を弾くつもりだ。
王子と姫の突然の衝突に、港にいた大人達は、息を飲むばかりだった。
緊張が周囲を圧した時。
アルテイアについていた初老の男が、二人の間にすかさず割って入った。
初老の男は、二人の力をあっさりと吸収した。
「ばかな!」
仰天したトリトンは、男から弾きかえってきた自分の力を、まともに受けた。
アルテイアとトリトンは、悲鳴をあげながら、エネルギーに体を弾き飛ばされた。
石畳の路面に叩きつけられた二人を見下ろすと、男は厳しい口調で叱りつけた。
「トリトン、アルテイア! “アクエリアス”の力を、民の前で使うことは禁じられているはずだ。どういうおつもりじゃ!」
「でも、エネシス。」
先に起き上がったアルテイアが、いいわけをした。
「トリトンは、幼い時から私のことを、愚弄し続けてきたのです。髪を切られたこともあったわ。今もあの時と少しも変わらない。だから…。」
「いかなる理由だろうと、“アクエリアス”の力はオリハルコンを守り、生み、育てるためだけに使うことを許された力だとあなたに教えてきたはずだ。そんなことでは、使徒候補の役目は剥奪されてしまいますぞ。」
アルテイアは言葉をなくした。
ミラオが口をはさんだ。
「エネシス様。どうか、怒りをお静めください。アルテイアが悪いわけではありません。トリトン・アトラスには、私から処罰を与えておきます。」
「確かに。トリトン・アトラスにも罪がある。」
「誰だ、お前は?」
立ち上がったトリトンは、エネシスという男を見上げた。
エネシスは頭を下げた。
「申し遅れました。私は神官エネシス。あなた様の父王、アエイドロス様のご命令により、オリハルコンの繁栄と未来の神官達の教育者として、戻ってまいりました。」
「“アクエリアス”の神官…?」
「そうだ、トリトン。」
ダーナがいった。
「お前は、一日も早く学問所での就学を終えて、後はこのアトラスの地で“アクエリアス”の力を強化しなくてはならない。なぜなら、お前は、一族の中ではもっとも優れた“アクエリアス”の力を持つ者だ。お前は、そのために世継ぎに選ばれた。」
「そんな!」
「トリトン・アトラス。あなたがいいたいこともわからんでもない。むしろ、それが正しい判断だと私は理解します。」
エネシスが口を開くと、一同は呆気にとられた。
エネシスは続けた。
「この国は、オリハルコンがなければ、実に貧しい国になる。草木も育たぬ不毛の大地となり、生きる者はすべて死に絶えてしまう。あなたのいう通り、ここは、ただの石の国だ。」
「エネシス…!」
ダーナが驚く。
エネシスはかぶりを振った。
「ダーナ殿。国のマイナス面を除いて国のことは語れません。トリトンは、そのマイナス面に着目して考えはじめているのです。実に、素晴らしいことです。」
エネシスはトリトンに視線を向けた。
「トリトン、しかし、国を捨ててはいけません。ここには、我々アクエリアス一族を慕って集まってきた民がいます。民を見殺しにするわけにはいきません。民のために国があるのです。」
「はい…。」
トリトンは首をすくめて頷いた。
「あなたは、民に愛されている。そして、あなたにはそれにふさわしい、持ち合わせた力量が身についている。あなたは、この世界で選ばれ、王になるべくして生まれ出た方だ。民と我々のために、あなたはその運命を背負わされている。」
「でも、そうなってしまったら…。」
沈む声で呟いたトリトンに、エネシスは優しい声でつげた。
「国はあなた自身が築きあげるのだ。即位した後も自由が必要なら、そういう国に築きあげればいいのです。あなたは、父王のはからいで、自由に城下の街を見学することを、許されておいでではないか。父王は、あなたに生の民の声を聞かせようと、働きかけられたのだ。そのことは、よくお解かりになられているはずだ。」
「はい…。」
「あなたなら出来るでしょう。この世に争いで傷つく者がいなくなり、苦しみに泣く民の姿が消える。人々が、皆、美しい秩序のもとに、和して暮らせる世界を築き上げることが…。」
「そんなことが、可能だと思っているのか?」
トリトンはうつろに尋ねた。
エネシスは、強い口調でいった。
「そのために、この私やアルテイア、皆がお手伝いいたします。あなたは民の声を聞いた。次は、学問所に行って、さらなる世の中の知性を身につけるのです。そして、私のところに戻って来られるがいい。あなたの力量に、さらに磨きがかかるように、この私自らがお教えいたします。」
トリトンは言葉が出なかった。
「トリトン、後の話は城にもどってからにしましょう。」
「うん…。」
ミラオが促がすと、トリトンは、小さく頷いた。
トリトンは、エネシスの言葉に動かされはじめていた。
そんなトリトン・アトラスを見つめるもう一人の男が姿を現した。
一目で異国の人間とわかる風貌だ。
長い黒髪に切れ長の目をした男。
鼻筋が通った美顔を持っているが、やつれた印象を与えた。
「この方は?」
そう聞いたミラオにダーナが説明した。
「ラムセスという。使者を遣わせて国王陛下の許しはもらってある。エジプト国の王だが、国の動乱に巻き込まれて彼は国を追われた。そして、この船に亡命してきた。」
「エジプト国の人? この人が?」
トリトンが興味を持って声をかけると、ダーナは笑顔で答えた。
「そうだ。お前が会いたがっていた異国の方だ。後から、エジプト国の話を聞かせてもらうといい。」
「いいの?」
目を輝かせたトリトンは、ミラオに首をめぐらした。
「姉さん。早く城で休んでもらおうよ。疲れていらっしゃるよ、きっと。」
「ええ…。」
トリトンには頷き返してから、ミラオはラムセスに声をかけた。
「今、エジプト国は、かなり憂いでいると聞き及んでおります。せめて、この国にいる間だけは、辛いことをお忘れになって、ゆっくりと養生なさってください。」
「恐れ入ります。」
ラムセスは、深々と頭を下げた。
「まさか、アトランティスの王女と王子に、先にお目通りがかなうとは、思ってもみない幸せでございます。非礼ではありますが、ありがたきそのお言葉、このラムセス、心より、うけたまわらせていただきます。」
「頭をお上げください。」
ミラオは、ラムセスに応じた。
この日、アトランティスに来訪した二組の客人は、すぐに城に迎え入れられた…。
※ ※ ※ ※
「それが、私が初めて接した、トリトン・アトラスとラムセスの出会いでした。」
現在の、亀の姿をしたエネシスが一同にいった。
「あ、あなた、もとは人間だったの!?」
ユーリィが叫ぶと、エネシスは淡々と応じた。
「それは、この後にお話いたしましょう。オリハルコンの力を持ってすれば、生物の姿を変えることくらいたやすいこと。特に人は海を目指した。人魚や半魚人といった段階を超えて、海に適応した人間を作り出すことも可能だった…。前世代の大型の生き物達を蘇らせることも。青銅の巨人に命を吹き込むことも。彼らは国の守り神としての役目があった。今、あなた方がこの世界で目にすることができる生き物達は、アトランティスの時代から生きのびている者達だ。」
「やっぱり、そうだったんだ…!」
トリトンが強い確信を持ちながら、相槌を打った。
「エネシス。」
倉川ジョウが口を開いた。
「トリトンのご先祖さんになるっていう破天荒な王子さん、やっぱり、海に適応する能力があったのか?」
「もちろんです。アトランティス時代のトリトン・アトラスこそ、その時の“アクエリアス三使徒”の一人。“海”の力を授かった人物です…。」
「ようするに、今も昔も変わってないわけね。トリトンって!」
呆れたケインが口を開いた。
「放っとけ! 破天荒だけはよけいだ…!」
トリトンは、ぼやきながらもめげた。
ジリアス計画に参加したての頃は、前世のトリトンのように、周囲の大人たちに向かって反抗的な態度をとっていたこともあったからだ。
そのままだといわれたら、反論することもできなかった。
「エネシス。もっと、後の話から見ることができなかったのか?」
嘆くようにトリトンが訴えると、エネシスは言い返した。
「あなたは知ったはずだ。ミラオとダーナがどういう人物だったのかを…。」
「そりゃそうだけど…。」トリトンは肩をすくめた。「ミラオとダーナにも申し訳ないよ。こんな“能天気”な弟の後世まで、面倒かけちゃってさ…。」
「お二人は、あなたを見守り続けたのだ。前世のトリトンに伝えることができなかったものを、あなたに伝えようと働きかけた。」
トリトンは、何も答えずに顔を伏せた。
「聞きたいことがある。」
鉄郎がいった。
「どうして、ラムセスを国に招き入れたりしたんだ? 易々と入国させなければ、その後の混乱は起きずにすんだはずだ。」
「その時のラムセスは、亡命者の何者でもなかった。私とダーナが何度も彼の心を探ったものの、彼の内面に汚れた野心や陰謀など、微塵も感じられなかった。しかし、ラムセスは見たのだ。アルテイアとトリトンの力の正体を。その後に彼の野心は培われていったのでしょう。」
「トリトンとアルテイアがいけなかったのでしょうか?」
アキが聞くと、エネシスはかぶりを振った。
「それはわかりません。しかし、“アクエリアス”の力を禁じられていたのは、人に恐れを抱かせるだけではなく、支配欲や野心といった感情を植えつける危険性があったからです。」
「いえてる。」
島村ジョーが手を大きく広げた。
「そんな人間を支配できたら、世界をあっという間に牛耳ることができる。」
「ラムセスは、アトランティス滞在中にオリハルコンの存在を知ることになります。それから、アトランティスは数ヶ月もしないうちに、神の裁きを受け、一日にしてこの世界から姿を消すことになります。続けましょう…。」
「数ヵ月後…。」
トリトンは、重く呟くと、さらにオーラの力を強めた。