アトラリアに夜が訪れた。
異次元の世界なのに、昼と夜とがきっちり巡ってくるのを、トリトンは不思議だと思った。
海と大陸の狭間に存在する世界。
太陽の光など届かない世界なのに光が満ちている。
それがオリハルコンの影響だとして、夜は暗闇で満たされるが、それでも、空には星のような輝きを肉眼で見ることができる。
ーいったいどうなってるんだ? この世界は…。ー
謎が多いこの世界に、いくつもの疑問が沸いた。
だが、それを暢気に探っている余裕はない。
トリトンは焦っていた。
ラムセスが、何を企んでいるのか計り知れない。
今はまだ無力なトリトンも、なんとか、ラムセスを出し抜く機会を窺っていた。
アキを救出して、わけがわからない世界から脱出できる機会をだ。
トリトンは、友達となったレイラ達を囲んで夕食をとった。
ナツメヤシのケーキ、えんどう豆の煮込みバジリコ風味、川魚のグリル、骨付き肉のミントソースがけ、最高級のワインなど。
食卓に並べられたのは、懲りにこった豪華なエジプト伝統料理の数々だ。
どれを食べても、最高においしい味がした。
そして、レイラ達は楽しい演出も用意してくれた。
寸劇に、楽しい手品に、華麗な踊り。
彼女たちは、主人をもてなす術を身につけたプロの召使いだ。
いつもは命じられて演じる彼女達が、トリトンの心を慰めるために、心地よくもてなしてくれた。
そんな彼女達の気持ちをくみ取って、トリトンも、彼女達の前では明るく振舞った。
彼女達と会話に興じるだけでも、内心の焦りと不安が消えて、トリトンの心は和んだ。
トリトンとレイラ達の友情が深められているその時、いきなり、脱出の機会が訪れた。
離宮を覆っていたシールドが消えてしまったのを、トリトンは敏感に感じとった。
「!…シールドが消えた?」
トリトンがそういうと、女性達は顔色を変えた。
やがて、壁の隠し扉が開くと、エジプト風の中年女がやってきた。
アキを誘った同じ女だった。
「ディノイア!」
レイラが中年女の名前を呼ぶ。
ディノイアは深々と頭を下げると、トリトンに告げた。
「王子よ。お待たせいたしました。アルテイア様とお会いなさいませ。ご案内いたします。」
「待ちくたびれたよ。」
トリトンが立ち上がると、焦ったレイラが叫んだ。
「トリトン、いけない!」
「レイラ、無礼な口をきくでない!」
「構わない。俺が許した。」
トリトンは、すかさず口を開いた。
「それより俺の頼みだ。俺がここを出て行けば、彼女達の役目は終わる。城から出して自由にしてやって欲しい。」
「トリトン!」
女性達が驚いた。
ディノイアは静かにいった。
「わかりました。それが、あなたのお望みなら…。」
「ありがとう。」
トリトンは、ディノイアに向かって歩き出した。
それから、女性達の方に振り返ると、笑顔で別れの言葉をいった。
「楽しかったよ、君らに会えて。メシもうまかった。たっしゃでな!」
ハッとする女性達に軽く手を振ると、トリトンは、ディノイアについて部屋を後にした。
ディノイアは、トリトンを無言のまま誘導した。
幅、三メートルほどしかない薄暗く、細い通路。
しかし、その通路の両壁は一面に金で埋め尽くされ、美しいエジプト風の壁画と、ヒエロクリフで飾られている。
そのまばゆい輝きが光のように反射して、通路の道を照らし出した。
いくつもの段差があったが、つまずいて倒れる心配はない。
やがて、通路の奥の空間が広くなった。
区画に設けられた、壁画で飾られた重々しい扉の入り口をくぐる。
すると、豪華な日常品が置かれてあることに気がついた。
しだいに、トリトンは嫌な予感にとらわれはじめた。
ー豪華な家具っていうのは、目の保養になるけど、これって埋葬品じゃないのか?ー
トリトンが予想したとおり、やがて、無数に彫られてある横穴に、何体ものお棺が収められている場所にたどりついた。
思わず、立ち止まりかけるトリトンに、ディノイアは平然と説明した。
「ご安心ください。ここは、死者が眠る『カタコンペ』と呼ばれる神域です。ここは、王のみが通ることを許される神聖な道。ここを抜けると、本来の王宮「王の間」に行き着きます。」
「『カタコンペ』…。共同墓地…。この仏は、みんな誰なんだ?」
トリトンが呟くようにいうと、
「皆、王に忠誠を尽くし、命を全うされた方々です。」
と、ディノイアは答えた。
「新王はこの道を通ることで、この方々の魂を受け、王になることを許されます。」
「死んだ人もご苦労さんだ。死んでもまだ、王様に忠誠を尽くさなきゃならない。」
トリトンは肩をすくめた。
ディノイアは、トリトンの言葉に何も答えず、淡々と墓の説明を続けた。
「ここに眠る魂は三万を超えます。この通路には七層の部屋があり、そこに、すべての棺が納められています。ただし、数が多すぎて本来の外柩に入れることができません。よって、内棺のみで納められているのです。」
「三万?」
聞き間違いかと思って口走るトリトンに、ディノイアは答えた。
「数千年間の歴代の神官達です。」
「歴代か…。」
納得しながらも、トリトンはその数の多さに疑問を抱いた。
しかし、その理由を尋ねても、ディノイアは答えてくれはしないだろう。
トリトンは口調を変えると、ディノイアにいった。
「王の道にしてはごりっぱだ。悪い気はしないな。これだけ壮大なものは、そこらの古代遺跡ではお目にかかれない。巨大なファラオの権力。今もって痛感したよ。」
「そのお言葉、ラムセス王がお聞きになれば、さぞ、お喜びになりましょう。」
ディノイアには満足が感じられた。
だが、トリトンは顔を強張らせた。
口でいうほど、ラムセスのことを称えようと、トリトンは思わなかった。
専門的に分析するなら、この墓の規模は壮大で保存状態も良好だ。
盗掘にあっていない遺跡は、考古学史上、類を見ない貴重な資料だと評価できる。
トリトンが感心したのは、せいぜいその方面の評価だ。
いくら数千年前の代物であっても、元々のエジプト文明のものではない。
よくできたイミテーションだ。
しかも、現地の遺跡の規模よりも、わざと大きく建造されている。
それが、エジプト文明の文化を冒涜しているように、トリトンには思えた。
ーこれじゃ、三万体ミイラのコレクションだ…。ひっでえ、悪趣味…!ー
溜息をつきながら、トリトンは心の中で本音の言葉を吐いた。
「こちらが入り口です。」
手をさしのべたディノイアは、トリトンに呼びかけた。
トリトンは部屋の入り口に向かおうとして、最後の棺の前を通過した。
その何気なく通り過ぎた棺の側面には、アエイドロス二世の名が刻まれていた。
さらに、奥の小さな二つの棺には、それぞれに、トリトン・ディウル・ド・アトラスとアルテイアの名が刻まれてある。
トリトンはそれらに気づくことなく、通路を後にした。
トリトンは、「王の間」へ行く直前に、小部屋に通された。
そこで、王の身分を示すという装飾品を身につけさせられた。
身支度を手伝ったのは、ディノイアと同年輩の三人のエジプト風女だ。
トリトンも、今度は潔く着替えを手伝わせた。
この女達に逆らっても、どうにもならないことを、トリトンもよく解っている。
それに、最初から服を着替えなくてもよかったから、トリトンとしてもまだ許すことができた。
結局、訳が分からないままに派手で重苦しい首輪と腕輪に指輪、さらに、「王の頭巾」とまではいかなかったが、冠のようなものを頭につけさされた。
体を動かすと、ジャラジャラと大きな音がする。
覚悟はしたものの、めげずにはいられなかった。
ー情けねぇ…。鏡なんか見れねぇや…。ー
この部屋に、自分の姿を写すものがないだけ、まだ救いがあった。
その格好のまま、トリトンは「王の間」へと、女達によって案内された。
列柱が並ぶ大きな空間。
何箇所にも松明が焚かれ、明かりで照らされた壁に、鮮やかな壁画が浮かび上がる。
その時、不思議な香りが鼻についた。
けっして、不快ではない甘い香水の香り。
その匂いがするほうに視線を向けると、白っぽい人の影を見つけた。
目を凝らすと、それはアキだ。
エジプト風の女衣装を着せられたアキが、不安げに周囲を見回しながら静かにたたずんでいる。
「アキ!」
トリトンが叫ぶと、アキの表情はすぐに和らいだ。
トリトンの名を叫ぶと同時に駆け出して、トリトンの腕の中に飛び込んだ。
びっくりしたトリトンに、アキは囁くようにいった。
「よかった…。無事で…。よかった…。」
「アキ、怪我は? 何もされなかったか?」
落ちついたトリトンが優しく問いかけると、アキは笑顔で首を振った。
「平気よ。あなたは?」
「俺もだ。ピンピンしてる。」
二人が笑顔をこぼしあった時、対する正面に、オーラを放ったラムセスが姿を現した。
「あの男がラムセス?」
「クソ親父、今まで、どこに消えていやがった?」
二人がキッと見返したのを、平然と受けとめながら、ラムセスは口を開いた。
「愛し合う者同志の再会が実現して、さぞ、満足であろう。お前達には私の意志を継いでもらう。さあ、婚姻の仕度をせよ!」
「婚姻ではなくて、お葬式の間違いでしょ! ここは葬祭殿よ!」
「葬祭殿? 葬式をする場所?」
いぶかしんだトリトンは、思わずアキを見た。
鋭いまなざしでラムセスを睨みながら、アキは語気強くいった。
「あの男は、もとからあたし達を生かすつもりはないわ。あたし達から、オリハルコンのエネルギーを吸収しようとしているの。」
「オリハルコン?」
「この世界のオリハルコンは、ラムセスによってすべて食いつくされてしまったわ。あの男が、不老不死のまま力を保ち続けていられるのは、オリハルコンの恵みがあったからよ。でも、今のオリハルコンはなくなりかけている。だから、あたし達の力を吸収して、オリハルコンを蘇らせるつもりなの。」
驚いたトリトンは、ラムセスを見つめた。
しかし、ラムセスは何も答えようとしない。
トリトンは、アキに首を巡らした。
「俺が、あの親父から聞いた話とはまるで違う。どこで、君はその話を聞いたんだ?」
「あの男の息子からよ。ジオリスといったわ。父親が、あたし達を利用してオリハルコンを奪うのに対抗しているの。そのために、あたしとの交わりをジオリスは強く望んでいる。」
「君との関係を持つ? 何だ、それは?」
トリトンが目を見張ると、アキはいった。
「あなたの方がよく解っていると思ったわ。オリハルコンは、男と女が交わることによって復活していくのよ。ラムセスは、この数千年の間に、すべてのアトランティス人を、そうやって生贄に捧げてきた。」
「わかったぜ、あのミイラの団体!」
トリトンはハッとした。
「この地下に三万人のミイラが同居していた。あれは、ラムセスに殺された、アトラス人のミイラだったんだ!」
アキは、頭上の壁画の絵を指差した。
「冥界の神オシリス。彼の裁きで死んだ魂は現代に再生すると、エジプト世界では信じられてきた。エジプト人は、そのために、ミイラにして生前の肉体を残そうとした。」
アキはトリトンを見返した。
「どう、生贄になりたい?」
「それは、俺に抱かれたいってことか?」
トリトンが冗談交じりにそういうと、アキは肩をすくめた。
「この際、細かい手続きは省かせていただくわ。ただ、生贄になれば、一度に冠婚葬祭ができるわよ。人生を全うするには、簡潔でいいかもしれないわ。」
「結婚したら、すぐにあの世行きじゃねえか! 俺はパス! 今の人生を楽しみたいからな。」
「だったら、ここを、出て行くしかないわ。」
アキがそういうと、トリトンも笑った。
「出て行けると思うのか?」
ラムセスが重い口調でいうと、
「思うわ。」
アキは、平然と答えた。
「あたし達のことより、反抗期の息子の教育の方が先よ。あたし達は、あなた方親子の諍いに関わる気はないから。」
「右に同じ。」
トリトンもいった。
「体を日干しにされたんじゃたまんねぇからな。それに、俺は女を抱くのはプライベートな時だけって決めてる。そういうのは請け負う気もねぇし、見せ物にする気もねぇよ!」
トリトンは言い捨てて、ラムセスに背を向けた。
アキも、その後について行こうとした。
「待て!」
瞬間、二人の背後から、ラムセスの叫び声がした。
トリトンとアキは殺気を感じた。
その場を飛びのき、ラムセスに向き直ると身構えた。
ラムセスのオーラが強まっている。
「これを見よ!」
ラムセスは手前の柱を指さした。
すると、力場が弱まったのか、柱の一角が崩れて吹き抜けた。
すると、その中心に、赤い輝きを放った長剣が浮いていた。
「オリハルコン!」
トリトンは愕然とした。
三十センチほどのみごとな細工の柄の先に、一メートルほどの刃がスーッと伸びている。
刃の部分がオリハルコンだ。
オリハルコンは、燃えるような熱を帯びた光を赤々と放っている。
さすがに、その剣はギリシャ風の作りだ。
言葉をなくしているトリトンとアキに代わって、ラムセスが恍惚の表情を浮かべながらいった。
「これが、唯一、この世界で完全な形として残っているオリハルコンだ。この剣の輝きが消えぬ限り、私は永久に、この世界の王として支配することができる。この輝きの源となるのは、お前たちのその命の輝きだ。」
「狂っている!」
アキは悲鳴をあげた。
ラムセスは冷ややかにいった。
「お前達はここから出られぬ。それが、お前達に与えられた運命だ。心配はいらぬ。お前達は死んでも、神に導かれて魂は来世で復活する。神が、お前達の魂を守り続けてくれるはずだ。さあ、求めよ。互いに交われ!」
「嫌だ!」
トリトンは叫んだ。
「教えろ! 他のオリハルコンはどうした?」
「オリハルコンは神秘な力だ。昔は、この世界にあふれていたという。だが、すべて崩れ去った。しかし、このオリハルコンは違う。トリトン・ディウル・ド・アトラスの剣だ。もっとも強い力を示す、王の象徴とまでいわれたものだ。…フッ、どうした。トリトンよ?」
ラムセスは、トリトンを見つめてかすかに笑った。
トリトンは、しだいに脱力感に襲われはじめていた。
わけもわからずに力が抜けていく。
「くそっ…、なんて力だ…。」
トリトンは呻いた。
「こんなに離れているのに、力が奪われていく…。」
「トリトン!」
アキは蒼ざめた。
「しっかりして…!」
「だめだ…。ここにいちゃ行けない…。アキ、逃げろ!」
「あなたを置いていけない…!」
「聞き分けるんだ…! あのオリハルコンは異常すぎる…!」
トリトンの叫びで、アキは、ハッとオリハルコンを見返した。
狂ったように、オリハルコンの光が乱れ飛ぶ。
光があふれすぎて、目を開けていられない。
アキがいる所にまで、耐えきれないほどの熱風が吹きかかる。
「素晴らしい!」
ラムセスはひどく興奮した。
「こんな輝きは初めてだ…! しかも、反応が思った以上に早い…。さすがだ…!」
「くっそ…!」
トリトンは歯を食いしばる。
ラムセスは、周囲に控えていた祈祷師らしい付き人達に命じた。
「さあ、祈りを捧げよ!」
付き人達は手を合わせると、静かに呪文のような言葉を口にした。
すると、トリトンとアキの耳に、遠くから聞きなれない小さな音が響きはじめた。
二人は、表情を変えながら首をめぐらした。
「な、何だ?」
「この音…。石を叩く音…?」
アキは目を見張った。
不思議な音は、やがてはっきりと、聞いたこともない美しいメロディーとなって聞こえてきた。
トリトンとアキは息を飲む。
その音が、二人の頭の中にガンガンと反響しだした。
二人は逆らえない。
澄んだ美しいメロディーは不思議と心を和ませ、すべての悩みを消し去る魅力に満ちている。
それは、けっして不快ではない。
むしろ、聞きほれてしまいたくなるような素晴らしい音色だ。
その時、トリトンは肩が軽くなったような気がした。
ハッと足元を見ると、身につけていた首飾りがガシャリと落ちた。
首飾りだけではない。
王冠が、身につけていた装飾品がボロボロと崩れるようにとれていく。
トリトンは固唾を飲んだ。
アキも同じだ。
自然に身につけていた装飾品がとれていく。
愕然としたアキは、ゾクリとした異様な空気を感じて周囲を見回した。
全身が総毛立つような恐怖を味わった。
二人の足元には、とぐろを巻いた何十匹という蛇の大群が取り巻き、二人の足に絡みつこうとしている。
そして、いつの間にか、二人の周囲には何十人ものエジプト人の亡者が群れていた。
アキは顔を覆った。
亡者達は、アキの体に触れようと手をのばしてくる。
亡者達が、アキの着ている衣を剥ぎ取ろうとするのだ。
アキは逃げようとした。
が、体が硬直したまま動かない。
足に絡みついた蛇達が、アキの動きを封じている。
亡者達が、アキの体を前に押しだした。
アキは独りでに、トリトンの方に向かって歩き出した。
ーやめて!ー
そう叫ぼうとしても、アキの声はまったく出ない。
トリトンも、同じ現象に取りつかれていた。
もし、ホラー現象が味わえるのなら、一度は、好奇心で体験してみるのもいいだろうと、トリトンは思っていた。
しかし、今回だけは、さすがのトリトンでも恐怖を覚えた。
中には、腕がなかったり、首がなかったりする亡者もいる。
それらが、トリトンの体に触って戯れようとする。
ラムセスが引き起こす幻覚だと知りながらも、トリトンは逆らうことができない。
悪寒が走り、嫌悪感から震えが止まらなかった。
ーだめだ…!ー
トリトンは絶望した。
意識がだんだんと薄らいでいく。
トリトンの頭の中に、亡者達の力のない呻き声が響く。
“光をくれ…。我々に聖なる力を…! アルテイアと交われ…。さあ、交われ…!”
ーやめろ!ー
トリトンは、心の中で絶叫した。
もがいた。
このまま、言いなりになるものか。
激しく拒絶した。
無意識だった。
トリトンは、ふいに、ぎこちなく身をかがめると、ちぎれた首飾りの破片を握り締めた。
鋭く尖った破片は、トリトンの手のひらにグサリと突き刺さる。
激しい痛みは、トリトンの意識を保たせた。
ラムセスは、トリトンに敬意の言葉を投げかけた。
「見事だ、トリトンよ。さすが、トリトン・アトラスの精神を受けついだ者。強い王者の意志を持つ。しかし、つまらぬ小細工は通じない!」
ラムセスは念を強めた。
すると、トリトンの手のひらが自然に開いて、血まみれの破片がポロリと床に落ちた。
ーくそっ!ー
トリトンは唇をかみしめた。
痛みが和らぐと、急速に、意識が遠のきはじめる。
ートリトン、やめて!ー
アキの悲鳴が伝わってくる。
トリトンも、アキも、それ以上は何もわからなくなり、急に、暗闇の中に引き込まれていった…。