
CHAPTER 8 ナマコの生態調査
何かに出ていた、どっかの有名な作家の言葉、
「マイクロビーチから眺める夕日は、世界一美しい。」
しかし、言わせてもらおうか。この、この時我々が目にした、マイクロビーチの真実。
「人が、おらん。」
寒い。凍えるような光景が、そこに広がっていた。確かに、いまやアクティビティの豊
富さにおいては、マニャガハ島にはかなわんとは言え、見渡す限りの砂浜に、地元人っぽ
いウィンドサーファー2人に、1組の日本人カップル。計、4人。
「サイパンのメインビーチに、4人だけだと!こっ、こここここれは夢かっ!いやっ、
違う。そう、感じるぜ、寒さをっ!痛いほどに!」
そう、せっかくだから海に入ろうとしたのだが、寒中水泳の有様。10分で撤収した。
「おのれっ、こうなったら、マリアナと心中してやる。」
4人は激怒しながらマリアナビーチリゾートへと向かった。いや、帰った、と言ったほ
うが正しいかもしれない。サイパンで我々を暖かく迎えてくれる海は、あそこだけだ。
着いた。誰もいない。いや、いた、ホテルの従業員が、一人、シュノーケリングの道具
なんかをレンタルできるのであろうが、ここ数日、彼の仕事はほとんど無かったに違いな
い。
マスクとフィン借りて、海に行こうとすると、彼は、久しぶりに人を見てうれしかった
のか、魚寄せのパンをくれた。
寒いのに変わりは無いのだが、ここは魚影が濃いので、それなりに楽しめた。楽しみな
がら、思い出した、昨日傷めつけたナマコが、いない。

以前、何気なくテレビのチャンネルを回していると、NHKの番組で、どっかの大学の
教授が、ナマコの生態を講義していた。彼は、水槽から一匹のナマコを取り出し、手のひ
らでこすり出した。とても楽しそうに。すると、ナマコが、ぼろぼろになって、内臓と皮
膚が混ざり合った様な、スプラッターな光景が。
彼曰く、
「これでも死んでいません。水槽に入れて2〜3日もすれば、元に戻ります。」
これをやってみたかったのだ。素手では触りたくないので、木の枝を箸にして、一匹の
ナマコを海から取ってきた。ちなみに、この時の、とても嬉しそうな顔をした私の写真が
ある。
早速砂の上にすっころがし、棒で突付いてみた。しばらくすると、白いねばねばした物
を出す。このネバネバ度はかなりのもので、隣で突付いていた宮下の棒とくっつくと、な
かなか離れない。
「ふむ、なるほど。しかし一向にぼろぼろにならんな。」
飽きた。このまま、波打際に転がしといたのだが、無事に帰って行ったようだ。めでた
し、めでたし。
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