
CHAPTER 6 熱帯低気圧
ここにおいて、ホテルに戻り、松藤の洗濯を待つ。
この文章の最初に書いたが、彼は、徹夜でこの旅行に参加した。彼も“類は友を呼ぶ”で、けっして前もって準備などしない、ナイスガイだ。着の身着のまま、しかも持ってきた服も、洗濯前の、いわゆる“汚れ物”であった。残業三昧の松藤の生活には、洗濯する
時間が無かった。
「すまんが、松藤、リゾートに日常を持ち込まんでくれ。」
「あ、いや、つい持ってこんでいい洗濯物まで持ってきちまってさあ、ついでに洗っ
とこうかと思って。」
出てくる時に、服の山を適当にバッグにぶち込んで来たらしい。
たっぷり1時間ほど彼に付き合わされ、ようやく夕食に、ガラパンへ向かう。翠園とい
う名の、中華料理屋。なぜかサイパンで北京ダックが食いたくなった一行である。しかし、
過去に中華街で食ったときに、
「皮はいいが、肉はどうした、肉は。この値段には肉の分も入ってんじゃねえのか?」
と言っていた奴が、この4人の中にいたような気がする。
すっ飛ばす。結果は「期待はずれ」。海鮮スープ以外は、たいしたこと無い。ガイドブ
ックに、高級店と出ていてこの程度か。香港から料理人を呼んだとか書いてあったが、席
から見えた厨房で料理してた奴は、まさか“チャモロ系香港人”とでもいうのかね。モン
ゴロイドでは、ないですね。
食い物屋に美味い物が無ければ、スーパーに行ってみっか、と、“ハファダイショッピ
ングセンター”へ。まあ、昨日来たのだが。そう、ここでの発見は、1mくらいあるイン
ゲンかな。日本のインゲンも、ほっとくとこんなにでっかくなるのか?
フルーツを探していたのだが、特に珍しい物も無く、かといって、このインゲンの化け
物買って帰っても、ねえ。酒買いこんで、出る。
部屋に戻り、テレビを見る。地元のCATVに、天気専門のチャンネルがある。
「むう、こりゃ熱帯低気圧だ。」
来る前に読んだガイドブックには、
「雨季は2〜3時間おきにスコールがあり、湿度が高く、蒸し暑い。また、稀に熱帯
低気圧が発生することがあり、嵐のような天気が続きます。これに遭遇したら、運が悪
かったとあきらめるしかありません。」
旅行前、会社を辞めることが決定していた宮下は、休みの理由を、
「辞めて東京に住むための、部屋探しに行ってきます。(当時秋田在住)」
と、いってきたそうな。
「しかし、部屋探しで真っ黒になって戻ってきて、『いやあ、足を使って探し回った
ら、こんなに焼けちゃいましたよ』と言って、みんなに信じてもらえるかなあ。」(時期は9月下旬)
喜べ、お前の心配は、杞憂に終わりそうだ。
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