
CHAPTER 5 断崖で弾劾
さて、時間は真昼、ここは熱帯、常夏の島、とくれば、眩しい太陽が我々に照りつける、
と、本当なら、そうなるはず。が、涼しい。いやっ、寒いっ!
天気が一向に回復しない。雨が、降ったりやんだり。スコールではない。“しとしと”
という表現が似合う、陰鬱な雨。
「誰か、サイパンに来てから、太陽見た奴。」
「……」
「そういや、空港からホテルに行く間は、少し晴れてたな。」
「ふーむ、それが最後か…」
ガイドブックに出ていた、アピギギとかいう食い物を求めて、エスコズ・ベイクハウス
(要するにパン屋だ)へ。随分うまそうに書いてあり、期待していたが、
「…(咀嚼中)…、ちまきだ。」
ココナッツ味の、素朴な甘さ。それ以上でもなく、それ以下でもなく。
旅行先でよく思うに、みんな冷静になれ。そんなに、美味いか、“1995年、大塩平八郎
(仮名)”氏よ。投稿してくる奴の主観で書いてあるとしても、後からきた人を失望させ
ない程度にしてくれ。すぐ、「美味しくて、毎日通いました」とか、「絶品です」とか出
してくるが、「いや、まじうまいっす、先輩!」というのは、ほんの一握り。ああ、まず
くはないさ、ないともさ。だが、普通に「美味しい」でいいやんか。どうよ。
む、松藤が、松藤だけが、店の犬に吠えられている。店のおっさんが、笑っとる。さすが松藤、自己を犠牲にして、異国の人と交流をはかるとは。
また、松藤は、同じくこの店の周りにいた、ワイルド・ターキー風の鳥にも、威嚇され
ていた。
雨がやまず、気温が低いので海は断念。そこで、マリアナリゾートが経営しているため、
宿泊客は安くなる利点を生かし、ゴルフをやろう、と、宮下の発言。
「おい、まて。俺ら打ちっぱなしにも行ったことがない奴らが、いきなり18ホールか。」
「しかし、この値段だぞ。日本にいる限り、俺達には2度と無いチャンスだ。今しか
ない、今しかないんだ!」
と、押し切られた。そこでマリアナに戻り、ゴルフ場へ。シューズとクラブ借りて、カー
トに乗り、いざ出んとしたその時、激しい雨が。結局、翌朝の7:30スタートになった。
やることがなくなった。いや、あった。日本人なら、行ってみましょう、バンザイクリ
フ。マリアナのさらに奥にある。道は狭くなり、他に車も無い。雨は降り続く。
「うぬっ、なんか雰囲気が重たくなってきたぞ。」
現場(と敢えて表現しようか)に着くと、ドカドカ慰霊碑が建っている。歩く。松藤、
階段ですべる。
「うおっ、松藤の足元に英霊がっ。」
そのそばで、地元のおっさんが、釣りをしていた。日出子、碑文を見て、男女差別だ、
と怒っている。まあ、確かにここで死んだのは兵士だけではない。女性や子供も多かろう、
うんうん。と、下を見る。無茶苦茶痛そうだぞ。
ここの上には、スーサイドクリフがある。そこら中で飛び降りたのね。合掌。
鎮魂と、憤り。
「この怒りは、日本に対してだな。」
「おう、戦争するなら勝たんといかん。負けるなら外交で解決しろ。」
「勝ってりゃ、今頃“サイパン県”なんだけどなあ。」
孫子曰、「兵者國之大事也。死生之地、存亡之道、不可不察也。」
感想を簡単に表現すると、“国破れて山河あり”。
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