
〜序文〜
♪インドの山奥 でんでん虫転がり
大事なチ○ポを すりむいた
赤チン塗っても 治らない
黒チン塗ったら 毛が生えた♪
福岡に伝わる、インディアントラディショナルソング(?)
旅行代理店の、我々の担当者は、うつろな目をしていた。
新宿のHISに、松藤と人脈のある人がいる、というので、その人を頼りに、訪れた。
1993年春のことである。
チケットの購入方法や金額を決定するにあたり、最も安いのが、カルカッタ
、という都市を利用するパターンであった。それ程金を持っているわけでもない、中産
階級家庭出身の我々4人は、迷わずそれに決定した。
カルカッタに関する知識など、当時の我々には殆ど無い。
「『カルカッタで食べたカレー、“かるかった”』って、何かに書いてあったな。」
これが、私のカルカッタに関する唯一の知識であった。
1992年夏、大学生活4年間を何とか無事に修了できる目処がたった松藤は、卒業する前
に一度、仲間内みんなでどこか海外でも旅行しようかと、漠然と考えていた。
別に卒業旅行というつもりではなかったのだが、しかし結果的には、誰が見てもまさし
く卒業旅行となってしまう。
「いいやんか、別に。卒業せん(できん)奴もおるし。」
そんなことでは納得できない松藤は、この旅を『インド苦行の旅』と題した。しかし、
他の誰も、そんな名前は知らない。今も、昔も、未来においても。しかも勝手に、インド
に行くことにしとるやんか。
当初、私は、候補地にタイを主張。宮下も、どちらかと言えば私寄りであった。吉田は、
とにかく南の島、という意見。
最終的に、この事項を決定するにあたり、4人は、吉田のアパートに集合した。京王線
の平山城址公園。どう考えても、他の3人が集まるのには不便な地理的条件にあり、案の
定、全員が集合するのにかなりの時間を要した。
さっそく、議題に入る。
「さて、どうしようか、旅行。」
「インドでいいって。」
「いやしかし、タイもなかなか捨てがた…」
「いや、俺はインドにしか行かん。」
「でもなあ、なんか汚いらしい…」
「俺は、1人ででも行くね。」
だが、この時点では、松藤はまだ「インドへ行きたい」というはっきりとした決意はなか
った。面白そうなところであれば何処でもよかったのである。行き先の候補を幾つか提示
し合い、その中でも皆の反応として一番面白かったのがインドであったのだ。
要するに、最初に「インド」を掲げたのが松藤であり、しかも他の連中は当初それぞれ
別に候補地があり、「インド」と言う言葉にどこか微妙な反応を示していた為、それを見
た松藤が、
「この心地よいような、くすぐったいような感覚は、なんだ?まるで麻薬のように危
ない刺激♥。気持ちいい!これはもう、インド行きを押しまくるぞ。」
こうしてインドは、皆が戸惑う=面白いところ、となり、しかもこの男は、一旦そうだ
と思い込むと、周りが見えなくなる。
こうして、頑固一点張りと化した松藤の主張に困り果てた3人だが、何気なく、そう、
すでに買ってあった、松藤が持ってきていた(結局行く気満々やんか)『地球の歩き方』
を、読んでいた宮下が、
「うん、インドの方が面白いかもしれん。」
と言い出し、それに同調して、吉田も、
「どうせやけん、変な方にしようぜ。どんなに汚くても、哲んちよりマシやろ。」
これで決定した。私はこの平山城址会議にて、敗北したのだ。
この時、まさかこの世に哲の部屋より汚い場所があろうとは。吉田には想像も出来なかった。
「なんか他に聞く事ない?」
と、HISのお兄さんに言われたが、特に無い。すると、
「あ、そうそう、俺、ク○リには詳しいよ。」
ふむ、確かに、一生のうちでも、インドへ旅行するのは、それを経験する大きなチャンス
である。じゃあ、ちょっと聞かしてもらおうか。
「カルカッタにはさあ、片手の無い売人がいてねえ…」
彼の話は、1時間続いた。うつろな目の理由が、我々には理解できた。
このク○リの話の印象が強くて、彼の言った言葉を一つ、聞き流すことになる。
「ああ、そうだ、最初にカルカッタはきついよ。」
この言葉をすっかり忘れ、『地球の歩き方』を読んで、
「結構面白そうやんか、インド。」
と思う私の、旅行前の夜であった。
ここで、この旅行に参加した4人のキャラクターを紹介しておこう。
てつ :
この作品の作者。旅行時に書いていた日記を基に、多少のフィクションを織り交ぜてこの物語を描いている。
口先だけで、行動力に欠ける。が、いざ行うに当っては、短絡的・直感重視。ドタキャンが多い困り者。常に不真面目で、冗談と本気の狭間を渡り歩く。
当時、最も汚い部屋に住んでいたが、一番の溜まり場であった。
「この男の人望か、それとも、単に土地の便か?(by 吉田)」
野党支持の父の影響をうけ、反権力、反骨、アンチ巨人。ひねくれ度高い。好色、好酒、好漢(自称)。
松藤 :
色白、猫背、年中不健康。しかし、高校時代、いまや全国有数の強豪、東福岡高校サッカー部に(2ヶ月弱)在籍した経歴を持つ。
仕切り好きの段取り下手。彼の計画には必ず手違いがある。苦労の割に報われない性格。
旺盛な好奇心を持つが、長続きしない。趣味がコロコロ変る。
好人物だが、「松藤君って、いい人ね」で終わるタイプ。
宮下 :
普段は知性派気取りだが、攻撃性が強い。理論武装派。常に周囲を見下し、人に冷たい言葉を浴びせるのが得意。
美人とブスでは、扱いが全く違うタイプ。
突然丸坊主になり、理由を聞くと、
「いや、いままで坊主になったことがないから。」
強烈な行動力を持つが、常人には理解しがたい方向に働くことがある。松藤のずさんな計画と併せると、困った事になる。
吉田 :
理屈が先走って、行動力に欠ける点は作者同様。屁理屈も理屈のうちと思っている。とりあえず反対して
おこうという態度が、しばしば見られる。また、はやりものは嫌いだが、かといって、自分の趣味を
貫く根性もない。ワインがはやり出すと、人前でワインを飲むのを止めてしまうようなタイプ。
元水球部、筋肉質で柔軟な体。水中では自在に発揮されるその身体能力だが、陸上での動きは重たい。
以上の4人、私と吉田は、花園保育園で出会い、別の小学校へと進む。宮下とは、二日
市北小学校2年のときに、彼が転校してきて、実家同士の距離も、直線で50m程度だった。
松藤と吉田は同じ小学校で、中学校の1年の時に、同じクラスに全員がそろった。
上記の4人の共通点として、ひねくれ度の高さが挙げられる。人から頭ごなしに「やれ」
と言われると、絶対にやらない。また、それぞれ頑固で、人のアドバイスを聞いて自分を
改める、といったことは、まず、無い。
ちなみに、私以外は、会社員の身分を捨てて浪人した経験がある。そもそも私に至っては、
正社員としての就業経験がない。
日出子に、社会不適合者の集団だと評される。
ちなみに日出子は、私の彼女(当時)。現在の妻(主人?)。
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