11・ハッキング-1
『補足・ならびに事件の追加報告』
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1.「トリトン・ウイリアム」と「ジリアスの秘宝」との遭遇
スカラウにおいて、アトランティスは伝説の大陸として古来から言い伝えられていたものだ。
二千年以上も昔に、プラトンという哲学者が<チマイオス>と<クリチアス>という書物に書き下ろした話である。
それによると、アトランティスは、地震と津波によって一日一夜で海中に没したという。
その話は、スカラウ人、一条アキから聞いた話だ。でも、ジリアス異文明の人間がたどった軌跡とびたりと一致した。
ジリアスの遺跡のうち、壁や柱の碑文とともに発見した、貴重なフォログラフィ映像がある。
それは、彼らが後世に自分達がたどった運命を伝えるダイイン・メッセージだった。
当時、アトランティスは内紛状態にあった。アトランティスにあった「生命の源」といわれるオリハルコンを巡って、権力闘争が勃発したらしい。
闘争の内容についての詳しい事情は語られていない。
しかし、アトランティス人は、オリハルコンの是非をめぐって激しく対立。
その上、異国の国々の侵攻もあって末期のアトランティスは混沌とした様相を呈していた。
国の乱れの原因となったオリハルコンという謎のエネルギーの存在が今回の事件でも重要な要素を示している。
オリハルコンの物質の正体は、最後まで特定できなかった。
しかし、分類上は金属と思われる。
当時のアトランティスにおいても貴重な価置があり、かなり珍重されていたらしい。
オリハルコンは、特殊な力の源であったという。
その力の恵みによって、国の秩序が保たれ、国そのものにも、多大な潤いをもたらしたと伝えられている。
このことから想像すると、オリハルコンには未知の力の可能性があったと考えられる。
そんなオリハルコンのエネルギーは、人の精神力によって、さらに活性化してその力を発揮する。
つまり、人の精神力を補給することで力を増減させる性質があるのだ。
オリハルコンが、一定の量を保った場合には快適なエネルギーとなるのだが、一度、そのバランスが崩れてしまうと、すべてを滅ぼすほどの悪魔のエネルギーに変貌してしまうという。
アトランティスは、そのオリハルコンの暴走によって崩壊した。
アトランティスではオリハルコンを操る人々を『凶事をもたらす人々』として畏れ敬ったという。
そんな人々は「アクエリアス」と呼ばれていた。
また、オリハルコンは悪しき精神を嫌うらしい。
オリハルコンの暴走は、そんな人達が引き起こしてしまった『人災』だった。
しかし、アトランティス滅亡の時、残りのオリハルコンを使用して、脱出に成功した人々がいた。
それが、ジリアスの異文明の人々である。
彼らは、ジリアスを新天地に選択したものの、すでに不完全な存在になっていたオリハルコンは、ジリアスの環境を激変させてしまった。
荒廃した環境では、人々も生き残ることができずに飢えと病のために次々に倒れていったという。
人々は、最後の望みを託して、遺伝子操作を行い、環境に適した新人類を創造しようとしたらしいが、その試みもむなしく、滅亡していくしかなかったという。
以上が、ダイイン・メッセージの主な内容である。
そのメッセージの中で、明らかに僕に向けて語られていると思われる部分がある。
一つは、オリハルコンの存在。
もう一つは、自分の中にある力の正体だ。
ジリアスのオリハルコンは、滅亡しかかった人々の力で一時的に安定はしたものの、彼らが滅亡した後も存在し続けることになった。
その力は、精神を吸収できる人間がいなければ、すぐに不安定になる。
次にオリハルコンが暴走する原因になるものがあるとすれば、それはオリハルコンのエネルギーの悪用を企む精神が近づいた時だという。
メッセージの主は、滅んだ自分達の代わりにオリハルコンを守ることができる人間を捜していたのだ。
僕は、オリハルコンの新たな守り主として、メッセージの主によって選ばれたらしい。
小さい頃からたまたまあったオリハルコンを使いこなし、おまけに水陸両棲という特殊能力まで身につけてしまっていた。
メッセージの主にいわせるなら、僕の遺伝子の中に異文明の人のものが組み込まれてあって、紛れもなく彼らの子孫にあたるらしい。
そのために、メッセージの主は、僕が異文明の遺跡に誘われるように、幼い頃から導き、諭していたと言う。
さらに、僕が受けついだものは、僕自身の名前だという。
(トリトンという僕の名の由来は、両親が異文明の幸運の神の名前からとったのだと、僕は両親から聞かされていた。両親は無意識につけた名であり、メッセージの主が主張しているような大それた意味はない。)
「トリトン」とは、アトランティスの指導者の名であり、トリトン・ディウル・ド・アトラスというのが正式な名前だそうだ。
それは、「アトラスの王」という意味である。
メッセージの主は、ミラオとダーナといった。
ともに、ジリアスの異文明を導いた力のある指導者だ。
ミラオは女性。ダーナは男性で、ミラオに仕えた使徒だ。
この二人は、故郷のアトランティスでトリトン・アトラスと彼の使徒であったアルテイアを支援していたという。
ミラオとダーナが僕を導いたのは、トリトン・アトラスの援助のためだという。
だけど、疑問が残る。
だとすれば、この世界に「アルテイア」という僕と同じ境遇の女性が存在することになる。
だけど、今回の事件の中では、そんな女性は現れなかった。
僕は、こういう経緯によって、「ジリアスの秘宝」との関わりを持ってしまった。
数千年も前に死んだ人間の精神に導かれるなんて、とても信じられなかった。
だけど、夢と現実が重なった時、すべてを疑いようのない事実として捉える意外にできなかった。
「ジリアスの秘宝」の守り役を引き受けるのに、かなりの迷いが生じた。
しかし、すでにオリハルコンの存在の危険性を深く認識した後からでは、身を引くことはできなかった。
僕は、こうしてその役目を引き受けることにした。
僕は、ケインやユーリィ、連合の尋問には、最低限の情報のみを提供している。
ただし、オリハルコンの仕組みや自分の運命を知ったのは、このミラオとダーナのメッセージであったことを打ち明けていない。