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17.神々の戦い 7

 ブリッジに、地球人メンバーの4人が駆け込んできた。
 今はセキュリティに気を配る余裕がない。
 無断でやってきた4人をロバートは叱った。
「お前ら、どうしてここに?」
「うっせぇ!」
 ジョウは一喝すると、周囲をくまなく観察した。
 いたるところで警告音が飛び交い、オペレーター達も叫びながら指示を出す。
 メインスクリーンに現状が克明に中継されていた。
 近距離から見える恒星に匹敵するほどの、まばゆい光が差し込む宇宙。
 その光にもてあそばれるように、無数の戦艦が煽られる。
 押し流されて闇の彼方に消える艦も多い。
 コントロールをなくした艦が接触し、あちこちで遊爆を起こす。
「最悪じゃねぇか…!」
 ジョウは唸り声を上げた。
「重力波メーターも狂ってる。アトラリアが好きに暴れているんだ。」
 口惜しげに呟いたのは島村ジョーだ。
 一方で、レイコがケインとユーリィに訴えた。
「アルディが苦しんでる。赤ちゃんに異常が起きてるらしいの!」
「なんですって?」
 ケインが振り向いた。
「とっても危険な状態だって。」
「トリトンはどうなったの?」
 裕子が高い声を発した。
「居場所を調べてもらってるわ。消息がつかめないの。」
 ユーリィがいった。
「生身だからな、あいつら…。」
 ジョウが固い声でいった。
「君達!」
 オリコドールが命令した。
「開いているシートにつくんだ。その方が安全だ。」
 ハッとした四人は予備シートに座り状況を見守った。
 時間が凍りついた。
 無限の戦いが続く。
 乗組員達はひたすら耐えた。
 祈るしかない。
 奇跡が起きることを…。
 誰もが絶望しかけた時だ。
 突然、オペレーターが驚いた声でいった。
「重力波メーターが落ち着いてきました。」
 意外そうな表情を浮かべた乗組員達が、それぞれの持ち場でチェックを始めた。
 艦の揺れが収まってきた。
 乱れた艦隊もまとまりつつある。
 闇から降り注がれる光はなくならない。
 しかし、先ほどと比べるととても穏やかだ。
 宇宙を美しく照らすほどに落ちついた。
「エネシスのじいさん、持ち堪えたのか…?」
 曖昧な口調で倉川ジョウがいった。
 その時、ユーリィが報告した。
「メディカルルームからよ。お嬢ちゃんと赤ちゃんが持ち堪えたそうよ。わざわざ知らせてくれたわ。もう心配いらないって。」
「どうなってんの、これっ!」
 ケインは呆れる。
 さらに、航法オペレーターの安堵した報告が続いた。
「トリトン・アトラスを発見しました。位置はケネス・ジー・オー。二度、エネルギー反応を確認。生命反応は三つです。」
 オリコドールは思わず頭を抱えた。
「彼らは最初の位置から数千キロ以上も飛ばされたのか? ほぼ一万キロは離れている。」
「生命反応が三つってことは…。ラムセスが倒れたのかしら?」
 ユーリィが首をめぐらすと、ケインが顔をしかめながらいった。
「じゃない? でないと、事態が好転するわけないじゃない。」
 二人の会話の背後で、別の航法オペレーターが叫んだ。
 彼の声は切迫していた。
 緊張しうわずっている。
「光です。例のアトラリアという世界から。メインに切りかえます。見てください、これを!」
 正面上部のスクリーンにリアル映像が映し出された。
 すさまじいエネルギーが闇の彼方から放出する。
 恒星を間近で見るようなまぶしさ。
 白い輝きが四方に伸びて、サーチライトのように降り注いだ。
 その光に敵船が飲み込まれていく。
 かろうじて光を避けた艦は難を逃れた。
 だが、飲み込まれた船は確実に駆逐された。
 爆発し、火球が広がり、閃光が貫く。
 花火のようだ。
 それと大差ない。
「馬鹿な…!」
 オリコドールは目を疑った。
 全員がスクリーンに見とれて凝固した。
 時間にして一分強。
 その間に、敵艦隊は壊滅的な打撃を被った。
 生き延びた艦は、先を争って戦闘区域から立ち去ろうとする。
 敵艦隊は総崩れだ。
 小規模の船団が、ちりじりばらばらに右往左往しながら漂うばかりだ。
 オペレーターの声が震えた。
「敵艦隊の…三分の二以上が壊滅!」
「指示をお願いします、艦長!」
 慌てた副官がオリコドールに視線を向けた。
 我をなくしていたオリコドールは立場をようやく思い出した。
「そうだな…。」
 そして、乗組員達にりんとした声で命じた。
「分散して敵艦を追え。一隻たりとも逃がすな!」
「いったい、これは…。」
 ゴードンは力のない声でいった。
 こんな体験は、いまだかつてない。
 ロバートはぼそりといった。
「あのじいさんがキレたのか…?」
「敵とまともにやりあわずに壊滅できたことは、喜ばしいけど…。」
 ユーリィがいった。
 ケイが眉をひそめた。
「敵に同情するわ…。可哀想…!」
「これが、オリハルコンの力か…。」
 オリコドールは呟いた。
「手に入れようと思う方が愚かだ…。」
 不可思議な現象がさらに続いた。
 ロバートが座っている予備デスクの非常ランプが点灯した。
 ロバートは目を見張った。
 ケインとユーリィも驚いた。
 他の乗組員は気がつかない。
 舌打ちしたケインは、ロバートに非常コールに出るように指示を出した。
 仕方なく、ロバートは通信機を耳に当てコールに答えた。
 得体の知れない通信の相手と会話した。
「トリトンの方に向かえだと…? お前、鉄郎なのか…?」
 その時、周囲の人間達が反応した。
 特に地球人メンバーの顔色が変わった。
「どういうことだ、鉄郎って…?」
 島村ジョーが問いかけると、通信機をはずしたロバートは困惑気味に答えた。
「相手は名乗らなかった。トリトンがいる場所に行けといっただけだ…。しかし、口調や口癖が鉄郎に似ているような気がした…。いや、あいつだ。相手の言語が日本語だった…。」
「まさか…!」
 誰もが信じられないという表情をした。
「待って。メディカルルームに聞いてみるわ。」
 ケインが機転を利かせた。
 ドクターの返答を聞いて、ケインはますます混乱した。
「どういうこと…? 鉄郎の状態は変わらないって…。間違いじゃないの…?」
「だったら、どうして俺のシートにコールが来た…?」
 ロバートに指摘されると返事のしようがなかった。
「どうなってるんだ、これは…。」
 オリコドールはかぶりを振った。
 ゴードンは無言だ。
 何かを考えていたが、意を決して提案した。
「艦長、行ってみるべきじゃないだろうか? 何かが起きている。我々にとって幸運な何かだ…。真相を確かめる必要がある。トリトン・ウイリアム達の確認も必要だ。どうだろう…?」
 オリコドールからの返答はすぐになかった。
 頭の中で状況の整理に追われた。
 だが決断した。
「わかった。<ビローグGG>をケネス・ジー・オーに転進させる。生命反応はどうだ?」
 航法オペレーターは目を見張りながらいった。
「再びエネルギーが放出されています。位置は…。ほとんど変化ありません!」
「戦いは終わっていないということか…。」
 オリコドールは険しい表情を浮かべながら、通信オペレーターにいった。
「<デイトル>のヒイロウ中将につないでくれ。後の指揮を彼に依頼する。」
 そして、<ビローグGG>が動き出した。
 オペレーター達は、指示どおりに大型重巡洋艦を操縦する。
 その様子を眺めながら、オリコドールは自重気味な口調で呟いた。
「これが『奇跡』というのなら、あまりに出来すぎている…。」