
CHAPTER 10 福岡に縁ある人
「激しい風&雨の音、さすが、本場の熱帯低気圧。」
感心している場合ではない。これでは、今日は外出できない。それどころか、
「おい、これ、飛行機飛ぶとや?」
うぬ、今日は最終日、こんなことが起こり得るのか。
窓の外では、風にしなるやしの木が、楽しそうだ。
だが、このメンバーで、
「明日出勤できない、どうしよう」
などと思うのは、日出子1人だけ、他の3人は、為すがまま、
「ああ、こりゃもう一泊だな。」
と、勝手に決めこんで朝寝していた。
しかし、幸か不幸か、9時頃には、風雨共にピタッと治まる。
「やけに静かになったな。もしや…」
と思って外を見れば、やっぱり、曇り。昨日買ったパンを虚しい思いでかじり、海に入るこ
とを諦める。だって、寒いっす。
「ちきしょー、南国のフルーツでも食いに行くぜー。」
と無理やり気分を奮い立たせ、植物園に行くことにした。出るときに、ホテルをチェックア
ウト。ドライバー松藤、ナビゲーター宮下で、向かう。
30分後、哲、不審に思い、宮下から地図を見せてもらう。
「おい、通り過ぎとらんや。」
あっさり植物園を断念し、昼飯食うことに。
ハファダイ・ビーチ・ホテルの10階にあるレストラン、“ドルフィン”、その窓際の席か
ら眺める景色は最高、とある。
中に入ると、客はまだ全然入っていない。が、何故か、窓際には案内されず。疑問はすぐ
に解決。日本人の団体が、どかどか入ってきて、そっちの方に席をとった。予約済み。
ちなみに、料理のほうは、前菜、スープと、順調に来て、サラダ駄目、メイン(魚)、如
何なものか、デザート、とどめを刺された。
今回の旅行では、あまり、美味い食い物に出会えなかった。もうすこし、地元の料理重視
で行くべきだったような気がした。そう、日本と言うのは世界中の料理が食べられる国であり、
しかもその各国料理の味もしっかりしている、と、確認することになった。
わざわざ海外で日本料理を食おうとは思わないが、サイパンで中華やイタリアンを食うのも
結局同じことだったのだ。
まあ、美味いとこは美味いんだろうけど。
このあと、DFSで時間を潰し、ツアーバスのお迎えが来るマリアナビーチリゾートに、一
旦戻る。この時、車の中で聞いていたFMから流れてきた曲、それは、かつて、私が経験した
旅、インドにおいて、MTVで頻繁に耳にした、デュランデュランの“オーディナリーワール
ド”、あるいは、香港のホテルで見たAV“まみちゃん危機一発”とともに、その旅行を象徴
するものとなった。
CCRの、“Who will stop the rain ?”。
この時も、雨がしとしと降っていた。4人の間に漂う、もの悲しさ。
松藤、
「誰かリクエストしたんだろう。よく分かるよ、その気持ち。」
車中、左右皆泣き、能く仰ぎ見る者莫し。(史記 項羽本紀より)
空港にいる日本人、肌が焼けている者は、いない。
「あーあ、何しに南の島に来たか、分からん。」
とぼやきながら、ふと飛行機の発着ボードを見ると、福岡行きの便がある。この旅行の計画に
あたっては、当初、福岡にいる友人達にも声を掛けたのだが、誰も参加しなかった。
「ああ、吉田や上野が来てれば、これで帰ったんだなあ。」
と、その時、まだその飛行機の搭乗手続きを済ませてない奴がいるらしく、スタッフの女性が、
しきりに声を掛けている。
「福岡に行く人はいませんか?」
その彼女が、私の方へ、小走りで近づいて来るなり、
「福岡に行く人ですか?(in english)」
私は突然の出来事に驚きながら、
「い、いえ、違います。でも、帰れって言うんなら、帰ってもいいかもしれません。確かに
ここ数年、実家に顔を出してないんで、ええ。」
という答えを英語に変換している間に、彼女は去っていった。
「うぬ、何で俺が福岡出身だと分かる?顔に“梅ヶ枝餅”とでも書いてあるのか?」
2分後、別の姉ちゃんに、同じ事を聞かれた。サイパン空港の社員は、日本人の出身地が、
分かるらしい。
帰りの飛行機は順調に40分遅れで成田に着き、税関通って、日出子の一言、
「日本の方が、暖かい。」
我々は、重い足を引きずりながら、日常へと帰って行くのであった。
完
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