常雨

 これは、私が経験したサイパンの物語である。
 松藤(まつふじ)、宮下という私の友人と、日出子(彼女)と私の4人が登場する。
 それでは、以下、始めます。



  CHAPTER 1   待つ人 VS 待たせる人


 深夜1時、電話が鳴る。
 「はい、渡辺です。」
 「あ、松藤やけど。今帰ってきたぜ。」
 普段から残業の多い松藤、この時間帯に帰ってくるのも日常のことである。私はこの日、 何度か電話をしたが、不在だったので、寝ていた。
 「じゃあ、京成線で会おう。」
 2人の会話は、常に短い。再び、寝る。しかし、ここ数日、生活のリズムが狂っていた ため(当時無職)、30分で目が覚める。TVを見ながら、ふと時計を見ると、午前4時。 ここで松藤に電話。
 「『その男、凶暴につき』、最後まで見ちまったぜ。」(AM 2:00〜4:00放映)
 ふむ、徹夜したか。それもよし。
 しかし、こんなに早起き(寝てない)しなけりゃいかんのも、成田が遠いせいである。 8時には集合したい、すると5時には家を(当時阿佐ヶ谷)出なければいかんのだ。
 む、ふと思い出した。そう言えば、日出子が電話で俺を起こすはずだったのだ。用意に忙殺されて、忘れていた。そう、昔から、遠足の用意を前日までに終えたことは無い。常 にその日の朝までやらないタイプであった。

 とにかく、彼女の実家に電話する。母親がでた。呼び出してもらうと、
 「あれ、今4時じゃないの?」(5時5分前)
 「おいおい、てめえ、冗談こきなって。なんしようとや。」
 「うっさいなぁ。朝から怒鳴るな。あんたと違って、もう用意してあるし、大丈夫だっ ちゅうんじゃ。」
 よし、分かった。これ以上話をしていると、俺が遅れてしまう。家を出る。日出子は 多少遅れるだろう、だが、これは予測済み、あらかじめ余裕をもって集合“時間”を設定しておいたから、問題無かろう、と思いつつ、6時過ぎ、京成上野駅に着く。まだ2人と も(松藤、日出子)来ていない。
 順調に行けば乗っていたはずの、6:20発のスカイライナーが出る。次の39分のに乗ら ないと、間に合わん。取り合えず自分のチケットを買う。
 するとそこへ、日出子が、険しい顔で登場。うむ、どうした?



   さて、険しい顔の日出子が言うことには、
 「てめー、公園口(JR)って言っただろう!」
 あれ、そうだっけ?うーむ。全然記憶にない。彼女は、6時前に到着し、ずっとそこで 待っていたそうだ。なんとか彼女をなだめつつ、もう一人、松藤を待つが、時間がなくな ってきた。どうする。
 「日暮里から乗ったんじゃないの」
 「可能性はあるが、そんなに機転の利く男かね」
 だが、こういうことは我々にはよくあること、事前に、遅れそうなら勝手に行くぜ、と 打ち合わせていたので、まあなんとかなるやろ、と、成田に向かう。7:45、成田空港着。 JTBカウンター前にて、無事松藤と合流。
ちょっと待て、これなら最初から成田集合にしときゃいいやんか。

 そうだ、宮下とは、ここで待ち合わせだった。さて、俺らは予定より遅れて行動してい るはずだが、奴はどうした。
 JTBの設定した集合時間は8:15、しかし、彼はこない。他の客が手続きを済ませて、 さて、人がいなくなってしまった。しかし、彼は現れない。
 8:30を過ぎた。



 「松藤、受付のねえちゃんに、何時まで待ってくれるか、聞いてくれ。」
 「おう。」
 うーむ。場内放送でもしてもらうか。ちなみに、以前、インドに言ったときは、呼び出 された。飛行機まで走ったっけ。
 「8:45までしか受けつけんてぜ、どうするや?」
 なにっ、もうあと10分しかないやんか。それはいかん。
 「あの、彼のチケットを受け取ることは出来ないでしょうか?」
 「(ニッコリ)できません。それより、このままだと、そちらの皆さんも行けなくな りますよ。ホーッホホホ。」
 と言いつつ、書類を片付け始めやがった。うむ、しょうがない、3人で行くしかないか と、覚悟しかけたそのとき、50mほど離れたところに、馬鹿発見。身長が 185cmくらい あるので、発見しやすい。
 「日出子っ、伝令!JTBの姉ちゃん達に待ってもらえ」
と彼女を走らせ、宮下に声をかける。
 「お前、遅いっちゅうんじゃ。はよ手続きしろ。」
 「いや、先に両替したいんだが。」
と言いかけているのを引っ張ってカウンター前に連れてきた。時計を見ると、8:48にな っていた。
 「しかし、なんでこげん遅れたとやて。」
 「いやー、第2ターミナルに行ってたよ。」
 成田空港を利用したことがない人は、気をつけましょう。ちなみに宮下は、3回目の海 外旅行であった。彼の受付を済ませたお姉さんたちは、さっさと帰っていった。

すっかり時間を浪費した我々は、このまま搭乗することにする。



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