2人の絆の巻


 その日、我々は、アイランドホッピングに参加した。
 男3人で訪れたここランカウイ島。 104の島からなる自然の宝庫、という言葉を信じて、 海を楽しむことにしたのである。

 どすこい体型のガイドの姉ちゃんに連れられ、ボートに乗る。だが、誰が振り分けたか 知らんが、このボートには他の男3人のグループと、地味なカップル2組。他を見れば、 若い女性のグループも居るじゃないか。これは、どう言うことだ?あっちがいいぞ。
 だが、結局このメンバーで出発。男臭い。



 時期は、9月、雨期である。サイパンで痛い目に会ったが、しかし我々の休暇を調整す ると、どうしてもこの時期になりがちである。
 案の定、曇天。進むうちに降ってきた。運転手の兄ちゃん(現地人)が、
 「雨避けに、このビニールシートを使いな。濡れちゃいけないものはこのバッグに入れてくれ。」
と言う。どうせすぐに海に入るので、メンバーは、皆水着は着用済み。フィンやマスクも 既に渡されていた。
 我々はボートの最後尾に、横3人並んで座っていた。左右両側前方に他の客が座ってお り、簡潔に言えばコの字型。運転手は右手前方に居る。私の正面には、風雨を遮るものは 無い。
 ビニールシートを私にもすすめて来た。が、いらん、と、手で示すと、兄ちゃんはニヤ リと笑った。私も笑っといた。

    馬鹿?

 「俺の生き様と、ユーモアのセンスを見ておけ。」
 Tシャツを脱いで、マスクを着け、シュノーケルをくわえ、準備完了。宮下と松藤も着 いて来てくれるかと思ったが、やってくれん。
 兄ちゃんは、私を見て笑っている。他の客の笑顔が、受けているのか失笑なのか、ある いは苦笑いなのか、分からない。
 周りの客の地味振りに、半分自棄になっていたのは事実である。



 風雨が強まる。というか、このボートは同行している何艘かの中で一番スピードを出し ている。雨は横殴り。これを正面から受けて、腕組みして座っている私に、兄ちゃんはし きりに声をかけてくる。笑いながら。激しい風雨で、その声もよく聞こえないくらいだが、 私と彼との間には、どこか心と心で通じるものがあった。
 兄ちゃんは、
 「この日本人に、もっとランカウイの自然を味わってもらいたい。」
と、スピードを緩めない。私もその好意?を全身で受けとめた。
 周りには分からない、2人の絆。

 ただの馬鹿2人?1人か?



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