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平家物語に登場する馬たち

源平の合戦は東国を地盤とする源氏の騎馬団と、瀬戸内海を拠点とする水軍を束ねる平氏との戦いであった。
合戦を前にした登場人物達は、その日の装束と騎乗馬とを紹介される。
激しく高名を競い、運命に挑んでいく英雄が活躍するところはまた、
スピードとエネルギーのある馬が活躍する場でもある。
ドラマを生んだ馬と人を集めた。


名 前毛 色 持ち主登場場面
木の下
鹿毛・
星鹿毛(源平盛衰記で)
伊豆の守仲綱
(源三位頼政の嫡子)
巻四 競が事
東国第一の馬として家人から仲綱に献上された名馬。
平宗盛が無理やり奪い取ったあげく「仲綱」の焼印を入
れ、嘲ったことから、頼政に平家打倒を決意させる
きっかけとなった。
南鐐
(銀質の美なる
ものの意)
白葦毛  平宗盛 巻四 競が事
頼政の家人渡辺の源三競が、仲綱の恨みをはらすため、
宗盛秘蔵のこの名馬をだまし取って、三井寺にこもる
頼政の所にはせ参じた。
なし
(龍蹄二匹)
黒月毛・
連銭葦毛 
木曾義仲 巻七 倶利伽羅落
藤原秀衡から平家追討に挙兵した義仲へ贈られた二頭。
なし 
連銭葦毛  長井斎藤別当実盛  巻七 実盛 
平家の老将、髪を黒く染めて若武者のように戦い死んだ。
いけづき 
黒栗毛  佐々木高綱  巻九 生ずきの沙汰 
高綱が頼朝から拝領して宇治河先陣を果たした馬。
体高八寸(約150cm)で、当時の馬の平均(120〜
140cm)を遙かにしのぐ。気性の激しい馬。
する墨 
墨黒
 
梶原景季  巻九 生好きの沙汰 
景季が頼朝から拝領し、高綱と先陣争いした馬
木曾の鬼葦毛 
連銭葦毛  木曾義仲  巻九 木曾最期 
義仲が騎乗した木曾の名馬。
深田に脚を取られ身動きとれなくなって義仲敗死。
ごんだ栗毛 
栗毛  熊谷二郎直実  巻九 一二之懸
一ノ谷の平家の陣屋を親子で攻撃したときの直実の乗馬
西楼 
白月毛  熊谷小二郎直家  巻九 一二之懸 
同上、息子直家の乗馬
童子鹿毛 
鹿毛  本三位中将重衡  巻九 重衡生捕 
平重衡が生田の森の合戦場から逃げようとするが
馬が射られてしまい、生け捕られる。
夜目なし月毛 
月毛  同上  巻九 同上 
重衡秘蔵の馬だがめのと子の後藤兵衛盛長をのせた。
盛長はこの名馬のお陰で自分だけ逃げ延びた卑怯者。
井上黒
のち河越黒 
黒毛  平 知盛  巻九 知章最期 
後白河院が内大臣宗盛に下賜した馬。知将知盛の乗馬
となる。知盛はこの馬の息災を常に祈願していた。
父をかばって討ち死にした息子知章をのこして、泣く
泣く知盛が愛馬を泳がせて沖の船まで逃れていく。
船に載せられない愛馬の命を助けるために、浜に戻そう
とするが愛馬は主の後を追って泳いでくる。
船が沖に離れていき、ついに諦めて浜に戻り、浜辺で立
ちつくして何度も沖に向かいいななくところを源氏の武者
河越某に捕まり、名馬なので、河越黒の名で再び院の御厩
で飼われる。
太夫黒 
黒毛  源 義経  巻十一 嗣信最期 
奥州から従ってきた佐藤嗣信が義経をかばって死んだ。
義経は嗣信の死を悼んでこの馬を寺に奉納した。
義経が鵯越の逆落としをしたときに乗っていた馬。
 
     


馬の毛色について
葦毛
 馬の毛色で、白い毛に黒色・濃褐色などの差し毛のあるもの。差し毛が銭形で身体一面に散っている模様になっているのを連銭葦毛、黄と白とのまじった葦毛を葦毛雲雀(あしげひばり)という。 

月毛
・鴾毛

 鴾は鳥の名で朱鷺のこと。朱鷺の桃花色の羽を連想させる赤白雑毛の馬の毛色からいう名。月毛とも。そのため、夜陰に上る上る月の色を想定した名称と推測する説が生じ 和歌にもそう詠まれているものがおおい。
 濃淡雑毛の色合いから白みがちの白月毛・赤みがちの赤月毛・紅梅月毛 ・黄みがちの黄月毛・黒みを帯びたさび月毛・黒みのにごった泥月毛・黒みがちの黒月毛などがある。 

栗毛
 栗の実の外殻の色に似たことから連想した名。黒みがちな栗毛は黒栗毛、白みがちな栗毛や髪や尾の白い栗毛を白栗毛。 その他、果物の柑子色を思わせる柑子栗毛(こうじくりげ)・赤黒色の強い濃栗毛・ 
 産地による近江栗毛・石和栗毛。大きさや能力で大栗毛・鬼栗毛・水練栗毛・八升栗毛など。

鹿毛
 鹿の毛色を連想させることによる名。鹿は季節によって毛色が変化するので、普通には夏毛の色を基準としている。 馬の毛も環境や年齢によって変化するので、「鹿毛」は鬣(たてがみ)や尾髪(おがみ)脛巾(はばき・四足)が黒毛を特色とする。
 体毛によって白鹿毛・赤鹿毛・黒鹿毛の各種がある。 

黒毛
 漢語では「驪」と書き、純黒色の馬。耳の内や股間も全て黒色の毛並みをいい、烏の羽の色に似て光沢があるのでからす黒ともいう。 最上の毛並みの色として賞翫され、祈雨神祭の時はじめ広く献上の馬として珍重された。聖徳太子に献上されたという「甲斐黒駒」が有名。
 牧場の地名によって奥州黒・高舘黒・会津黒・信濃黒・河越黒・肥前黒・山口黒・薩摩黒など。
 馬体の大小から大黒毛・小黒毛の名もある。黒くて艶のない毛並みを、墨黒といい、「する墨」・「薄墨」などの馬が著名。 黒毛のうちに青みのある毛並みを青駒という。青みを帯びた黒鉄(くろかね)を連想させる色である。 

 

 



参考資料:「国史大辞典」吉川弘文館・「日本古典文学全集・平家物語下」小学館・「広辞苑」岩波書店




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