安倍晋三氏の事実歪曲発言について


      〈「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン)の声明文〉   


以下の声明文は、「川田龍平公式サイト」に載っていたもので、下のような川田さんのメッセージが添えられています。 この文を読んだ人はぜひこれを多くの人に伝える努力をしてください。
なお、改行その他はこのホームページ上の見やすさのため、なみひさが行ったものがあります。(なみひさ ゆうこ)

みなさま、
 安倍議員はテレビなどで、女性国際戦犯法廷を歪曲して伝えているよう です。その発言がいかに矛盾し誤ったものであっても、テレビの影響力 の大きさを考えると、多くの人がこれを信じてしまう可能性もあると思われ ます。 
 下記は、VAWW-Net(戦争と女性への暴力日本ネットワーク)が、安倍議員の 事実わい曲を一つひとつ論理的に正したものです。
 安倍氏の発言の誤りがきちんと説明されているだけでなく、女性国際戦犯 法廷の目的、性格、位置づけ、役割、成果、波紋などをもよく説明するものと なっていますので、いろいろな方々に説明する際の資料として使えると思います。
 長文ですが、ぜひゆっくり最後まで読んで下さい。そして、ぜひ転載転送して、 多くの方々に伝えてください。
 なお、ほとんど同文が、安倍氏のもとに「抗議文」として届けられています。
 
===========(以下です)===================

マスコミ・関係者、各位

安倍晋三氏の事実歪曲発言について

 このたび、政治家によるNHKの番組介入が問題になっており、「政治 家」として 名前が上がっている安倍晋三氏と中川昭一氏が、複数のメディ アを通じてコメント、 または発言を行っています。
中川氏は国内不在ということもあり、彼の発言の多くに 触れることはできませんが、安倍氏はこ の間、頻繁にマスコミに登場し発言を行って います。
 その中で、安部氏は、女性国際戦犯法廷の事実関係について重大な事実歪 曲、誹謗・中傷を続け ていますが、それに対してマスメディア側は知識不足、勉強不 足のためほ とんど事実の間違いを指摘することができず、そのまま一般市民に垂れ流 されているという状況にあります。

 歪曲された事実があたかも真実であるがごとく日本の市民の皆様に伝わっ ていくこ とは、女性国際戦犯法廷と「法廷」を主催した国際実行委員会の 名誉を大きく傷つけ るものであり、何より「法廷」に正義を求めて被害8カ国から 参加された64名の被害 女性の尊厳を甚大に侵害するものです。
「法廷」には世界三十カ国以上から約400名 が参加し、三日間の審理にはおよそ1000人 が傍聴し、最終日の判決概要に言い渡しは およそ1300人が傍聴しました。
「法廷」の歪曲と侮辱は、こうした多くの人々に対し ても許されない行為です。

 安倍氏のこうした発言は、自らの行為を正当化するため、番組で取り上げ た女性国際 戦犯法廷自体を貶めることで世論を味方につけようとしている ものです。
問題の論点 のすり替えが「法廷」の事実歪曲をもって行われて いることは、今回の事件の真相を 明らかにする上でも大変問題であり、こ のことは、真実を明らかにする上で危険な流 れであるといえます。
マスコミの皆様には問題の核心(番組に対する政治家の介入)を見失うこ となく真実 を明らかにし、ジャーナリズムの役割を果たしていただきたく 存じます。
そのために は女性国際戦犯法廷の事実関係を正確に理解して頂 くことは重要、不可欠なことであ ると考え、皆様に正確な事実を知ってい ただくため、ここに安倍発言の間違いを指摘 いたします。

※以下に示す安倍氏の発言は、「報道ステーション」(1/13放送)、「ニユ ース23」 (1/13放送)、「サンデーモーニング」(1/16放送)、「サンデー・ プロジェクト」 (1/16放送)などにおける発言、及び安倍氏が出したコメント に基づいています。

1、「被告と被告側の弁護人がいない」

⇒ 女性国際戦犯法廷は、「日本国家の責任」を問うため、開催2ヶ月前に 全裁判官 の名前で、当時首相であった森嘉朗氏に被告側弁護人(被告代理人) の出廷を要請し た。しかし、開催直前になっても何の応答もなかった。
従って裁判官は「アミカスキ ュリエ」(法廷助言人※)という形で被告側の弁護を 取り入れた。「法廷」では3名 の弁護士がアミカスキュリエとして被告側主張 を行い、「慰安婦」問題についての日 本政府の立場や主張を明確に紹介し、 被告が防御できない法廷の問題点を法廷のなか で指摘した。

※Amicus Curiae 裁判所の求めに従い、裁判所に対し事件についての専門的 情報また は意見を提出する第三者。英国の制度で、弁護人がいない場合、 市民の中から弁護人 を要請できるという制度。

2、「裁判自体、とんでもない模擬裁判。模擬裁判ともいえない裁判」

⇒ 女性国際戦犯法廷は「模擬裁判」ではなく権力を持たない市民の力に よって実現 した国際的な民衆法廷である。
法廷に出廷した被害証言者も、加害証言者も、被告人 も、判事も、すべて“実在する/した”人物であり、 「法廷憲章」作成という手続き を踏んで、膨大な証拠資料と証言に基づいて 当時の国際法を適用して裁いた民衆法廷 だった。
「国家の法廷」のように「国家」に権威の源泉があるのではなく、大国やエ リートの道具だった国際 法を市民の手に取り戻し、被害者を置き去りにしない正義の 実現を目指し、 「国家の権威から無縁」であることによって得られる「普遍的正義」 を明ら かにしようと、民衆法廷の開催を決意した。
本法廷の意義はここにあるといえる。
「法廷」は、権力をもたない市民の力で、「慰安婦」被害者に被害をもた らした 加害者と加害事実を明確に示し、その責任を当時の国際法により明ら かにした。
繰り 返すが、女性国際戦犯法廷は民衆法廷であり、模擬法廷で はない。
1999年に国際実行委員会を結成。ソウル会議、上海会議、マニラ会議、 台北会議など でどのような「法廷」にするのか議論し、準備を進めていった。
まず着手したことは 「法廷憲章」(前文と十五条の条文から成る。※1)の 制定であった。
「法廷」は 「法廷憲章」に基づき、立証と共に各国の被害者 の証言や元日本兵の証言、専門家証 言などを行い、膨大な証拠資料や宣誓供 述書を提出し、それに基づいて判決が下され た。

 判決は2001年12月4日、オランダのハーグで言い渡された。
判決は1094パラグラフ (英文265ページ)にわたる膨大なもので、この判決は日本だけでな く世界の国際法 や人権に取り組む専門家、学者たちからもレベルの高さが 評価されている。
 女性国際戦犯法廷の開催については、国連人権委員会 特別報告者クマラスワミ報告書 にも引用(※2)された。
また、2003年に発表されたILO条約適用専門家委員 会所見は、「女性国際戦犯法廷」 について、より詳細な引用と解説を行った。

 また、「法廷」は、国際刑事裁判所(ICC、1998年ローマで設立合意、 2003年から オランダ・ハーグで始動)に先駆けて、戦争と武力紛争下の性 暴力に対して果たすべ き役割を明らかにした世界史的にも意義ある試みで あった。

※1「法廷憲章」は、前掲のVAWW-NET Japan編『女性国際戦犯法廷の全記録 』 緑風出版、27〜32頁を参照。
※2 2001年。「武力紛争下において国家により行われた、または容認さ れた女性 に対する暴力報告書(1997-2000)(E/CN.4/2001/73)」

3、「主催者である松井やより」

⇒ 女性国際戦犯法廷の主催は松井やよりではない。主催は国際実行委員 会であっ た。
国際実行委員会は日本と被害国(6カ国)、国際諮問委員会 (第三国から国際法 の専門家6名が委員)で構成され、それぞれの代表者 で共同代表が構成された。松井 やよりは日本の代表として共同代表の一人 であった。

4、「裁判を始める時、主催者の松井やよりさんが、裁判の会場を九段会館 に決めた のは悪の根源である皇居に一番近いからだと明言した」

⇒ 女性国際戦犯法廷の初日、まず、国際実行委員会の共同代表3人 (松井やより、 尹貞玉、インダイ・サホール)が挨拶した。
「裁判を始める時」というのはこの時の 挨拶を指していると思われるが、松井はそのよう な発言は全く行っていない(※)。

※VAWW-NET Japan編『女性国際戦犯法廷の全記録』緑風出版、38〜39頁 を参照。ちなみに九段会館を会場にしたのは、1000名規模の人が集まれる会場 と、300名規模 の宿泊ができる施設が併設していたからであり、予約を快く 了承してくれる施設はここだけだった。 

5、「最初から結論ありきはみえみえ」

⇒ 女性国際戦犯法廷は民衆法廷といっても、世界の五大陸から選ばれた 世界的に信 頼の高い国際法の専門家や旧ユーゴ国際刑事法廷の裁判官ら (※1)によって、当時 の国際法を適用して、被害者・専門家・元軍人の 証言や膨大な証拠資料(日本軍・日 本政府の公文書等を含む証拠文書)に 基づき厳正な審理を経て、判決が出されたもの である。

 判決は、まず2000年12月12日に「認定の概要」が公表され、一年の休廷を 経て2001年 12月にオランダ・ハーグにて「判決」が下された(※2)。
主催者に対しても「認定 の概要」および「判決」は発表まで全く知らされず、 「結論先にありき」という発言 は根拠なき誹謗中傷であり、「法廷」の事実 に基づかない。
また、旧ユーゴ国際刑事 法廷で裁判長をつとめたマクドナル ド氏などの本法廷の裁判官たちの名誉を著しく傷 つけるものである。

※1 <裁判官> ガブリエル・カーク・マクドナルドさん(アフリカ系米 国女性/ 旧ユーゴ国際刑事法廷の前所長)、クリスチン・チンキンさん (イギリス人女性/ロンドン大学国際法教授)、カルメン・マリア・アル ヒバイさん(アルゼンチン/アル ゼンチンの判事/2001年国連総会で、 旧ユーゴ国際刑事法廷の判事に選出/現国際刑 事裁判所判事)、ウィリー・ ムトゥンガさん(アフリカ人男性/ケニア人権委員会委 員長)、インド人 男性の裁判官は病気のため欠席

※2 <判決文全訳>に関しては、VAWW-NET Japan編『女性国際戦犯法廷の 全記録 』緑風出版を参照。

6、「(女性国際戦犯法廷)は謀略。当時、拉致問題が問題化しているなか で、北朝 鮮を被害者の立場にすることで、この問題の鎮静化を図ろうとし ていた。大きな工作 の中の一部を担っていた」

⇒ そもそも拉致問題が問題化したのは2002年9月17日の日朝首脳会談以後 のこと で、「法廷」が開かれたのは2000年12月である。
2000年12月時点で 表面化していない 拉致問題の鎮静化を図るため、北朝鮮を被害者の立場に した工作活動の一環として 「法廷」を開催したなどというのは、事実無根 の誹謗・中傷である。
日本は朝鮮半島を植民地として支配したが、朝鮮人 女性は植民地支配の一環として日 本軍の「慰安婦」にされたのである。
しかし、日本は北朝鮮に対しては2000年当時い かなる意味でも謝罪・補償 をしていない。
そのため「法廷」の主催者である国際実行 委員会が被害国 検事団への参加を呼びかけたのであり、その呼びかけに応じて北朝鮮 が参加した。
その参加のし方は、他の被害国各国と同じである。

7、「検事に北朝鮮の代表者が二人なっている。工作活動していると認定さ れている 人たちを裁く側として登場させているというのも事実」

⇒ いうまでもなく“裁く”のは「検事」ではなく裁判官。安倍氏の発言は 事実と法 常識を逸脱している。
念のため、女性国際戦犯法廷の検事について補足する。
まず、 被害国を代表した首席検事はアフリカ系米国女性のパトリ・ セラーズさん(旧ユーゴ とルワンダの国際戦犯法廷のジェンダー犯罪法律 顧問)と、オーストラリアのウステ ィニア・ドルゴポルさん(国際法学者/ 国際法律家委員会のメバーとして、「慰安 婦」問題について調査し、勧告 をまとめた)。

 次に、そもそも北朝鮮検事団というのは存在しない。
2000年6月の南北首脳会談 (金大中大統領=当時と金正日軍事委員会委員長)をきっかけに、 北朝鮮と韓国は一 つとなって「南北コリア検事団」(韓国から5人、北朝鮮 から4人、計9人で構成)が 結成された。
南北コリア検事団長は韓国の検事(朴元淳)であった。
安倍氏に「工作 員」と名指しされた黄虎男氏は、 2000年当時「従軍慰安婦」・太平洋戦争被害者補償 対策委員会の事務局長 であった。
なお、「法廷」には各国から検事団が参加した。
南北コリア(韓国と北朝鮮)だけで なく、ほかに中国、台湾、フィリピン、インド ネシア、日本も検事団が参加した。
検 事団は組まれなかったが、オランダ、東チモールからも被害者の証言が行われた。 (マレーシアはビデオ証言)

■補足
番組の中の秦郁彦コメントについて
・ 番組は、秦郁彦氏を「法廷に参加した歴史家」と紹介しているが、秦氏は 三日間 の審理を傍聴してはいない。
彼が参加したのは最終日の判決概要の言い渡しだけ。
従 って、発言内容は事実誤認が見られ、秦氏の歴史認識と法廷 の事実関係が混同し、誤 った事実を視聴者に伝える内容があった。
・ 一事不再理を主張しているが、「慰安婦」制度については東京裁判では 裁かれて いない。
女性国際戦犯法廷は民衆法廷であるが、位置づけは東京 裁判の継続裁判。

以上、安倍氏の発言の事実関係の誤りをいくつか取り出して指摘しましたが、 更に正確、詳細にお知りになりたい場合は、『女性国際戦犯法廷の全記録?』 (※審理の記 録)『女性国際戦犯法廷全記録』(※起訴状、判決全文掲載) などを参照してください。

※この2冊は共に緑風出版から刊行されています。
ちなみにこれは全6巻シリーズの一 部であり、このシリーズは出版社としては名誉ある梓賞を受賞しました。

皆様が論点をずらされることなく、事実誤認の情報にとらわれることなく、 政治家の 番組介入の問題を正面から取材し、真実が明らかにされるまで、 いかなる政治的圧力 に影響されることなく、屈することなく、真実と正義を 追求していただきますこと を、心から願っております。

2005年1月17日
「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク
 (VAWW-NETジャパン)
********************************************
戦争と女性への暴力日本ネットワーク  
   (VAWW-NET Japan)
Violence against Women in War-Network Japan
112-0003 東京都文京区文京春日郵便局局留
 TEL/FAX 03-3818-5903
 E-mail vaww-net-japan@jca.apc.org
http://www.jca.apc.org/vaww-net-japan/
★戦後60年に、日本軍性奴隷制の解決を求める 国際署名にご協力を!
http://www1.jca.apc.org/vaww-net-japan/signature/index.html
********************************************





<自由民主党新憲法起草委員会による新憲法第一次案に対する見 解


      〈「STOP!憲法24条改悪キャンペーン」の声明文〉   


男女平等と個人の尊厳を憲法から消させない!

STOP!憲法24条改悪キャンペーン


 自由民主党は8月1日、新憲法第一次案を発表しました。

私たちは、昨年6月同党の憲法改正プロジェクトチームによる 「論点整理」(案)において「家族や共同体の価値を重視する 観点から」個人の尊厳と両性の平等を定めた憲法24条の見直 しを提案したことに強い危機感を抱き、改正反対のキャンペー ンを行ってきました。

 日本国憲法の第24条は、戦前の日本の婚姻や家族が、戸主 の圧倒的な優位の下、男女の不平等、女性や戸主以外の家族の 人権を軽んじ、結果として「家」制度が軍国主義を支えた反省 から設けられました。憲法24条の原則は未だ実現の途上にあ るものが多いのが現状です。

 このたび発表された新憲法第一次案をみると、憲法24条の 条文を変更はしていないものの、「家族生活における個人の尊 厳、両性の平等」の表題を「婚姻および家族に関する基本原則 」に変更して抽象化したことは、今後で「個人の尊厳と両性の 平等」という24条の本質を改変する可能性への道を開くもの と読むことができ、危機感を感ぜざるをえません。

 さらに新憲法第一次案は24条の項目をそのままに残しなが ら、全項を通じて実質的に「個人の尊厳」という精神を抜き去 っています。個人の尊重等は第13条として新しい項を立てた 上で「個人として尊重される生命、自由および幸福追求に対す る国民の権利については『公益および公の秩序に反しない限り 』尊重される」とし、さらに第12条「国民の責務」では、現 行憲法の「権利の濫用をしてはならない」に加えて、「自由お よび権利には責任および義務が伴うことを自覚しつつ、常に公 益および公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使 する責務を負う」と個人の尊厳と権利をあくまで「公益および 公の秩序に反しない限り」と制限しています。

 公益、公の秩序を1人ひとりの国民の個人の尊厳と自由、権 利に優先させる考え方が第22条職業選択等の自由や第29条 財産権の項にも明記されています。

「公益、公の秩序」で「個人の尊厳、権利」を制限することに よって、現行憲法第14条「法の下の平等」を否定する「合理 的な差別は許される」という論理の範疇が為政者によって無制 限に広げられる可能性があります。

同時にこの新憲法第一次案を実現させることは、国際社会の要 請する今日の豊富化された国際人権水準から一人日本が後退す ることを意味します。

 こうした「改正」点は、憲法9条「改正」と一体であり、自 衛軍を創設し、集団的自衛権を容認する、戦争のできる国への 準備とつながると言わざるをえません。

 第9条2項に加えられた自衛軍の活動は「国の基本的な公共 の秩序の維持のための活動」と規定されており、新憲法第一次 案に流れる思想は、人権や個人の財産を公益、公共の秩序の維 持の名によって規制し、戦争政策に国民を新たに組みこんでい くことをめざしています。

 個人の尊厳と両性の平等が達成されてこそ、私たちは差別も 抑圧もない社会を実現したといえると考えます。

 私たちはあくまでも自民党の新憲法第一次案に反対し、9条 、24条の改悪に反対するキャンペーンをつづけていく決意で す。           

2005年8月25日

-------------------------- 男女平等と個人の尊厳を憲法から消させない!

STOP!憲法24条改悪キャンペーン

http://blog.livedoor.jp/savearticle24/ savearticle24@yahoo.co.jp

__________________________________



[HOME]]

(c)copyright 2004 ゆうなみ    写真・記事の無断転載はご遠慮下さい
up date:11/2004 byゆうなみ