現場からみた介護保険


2004 12月

介護保険制度が20004月に施行され48ヶ月が経ちました。介護保険は当初の見通しをはるかに超えてすごいスピードで高齢社会に浸透しました。はじめは措置の時代の印象が強く申請にとまどいの傾向もみられましたが、いまでは逆に安易に認定を受けるという傾向がみられます。わずか4年で要介護認定者は2倍に跳ね上がりました。

 福祉現場は大きな市場経済の場となっています。民間企業や非営利法人など次々と介護サービス事業に参入し大きな福祉産業をうちたてました。新しいサービスも次々と展開され、過剰なサービスの取り合いや不適切なサービスの提供など目に余るものもあります。不当な介護請求で指定取り消しになった事業者の数も急激に増えています。

 介護サービスはケアマネージャが立てたケアプランに沿って実行されるものです。そのプランはあくまでも利用者本意の自立支援のもので、利用者が少しでも自分の望む自分らしい生活を送るためのものです。決して楽して暮らすために何でもやってもらえるというものではないのです。しかし、実際居宅介護支援事業所(ケアマネージャの事業所)はサービス事業所に併設されていて、自社サービスをプランに入れることを暗黙のうちに強要させられていることが多いのです。プランもサービスも丸抱えというケースです。ケアマネージャの『公正、中立』という立場からはかけ離れています。わたしもケアマネージャを探すお手伝いをしていますが、「○○サービスとセットならお受けします」と悪びれた様子も無くはっきりと言う事業者もいます。たぶんそこの所長は介護保険について知識がないか、市場経済の中で職業倫理が麻痺しているのでしょう。その結果、ケアマネージャが精神的な苦痛や屈辱感をもって仕事をしているということも想像できないのです。ケアマネージャは不本意なプランや適正量以上のプランを持たされ、訪問、記録、サービス担当者会議などの義務が果せなくなっています。現在職についているケアマネージャの半数は退職を考えているという統計も出ています。理想や熱意をもってやっている人ほど悩みは深いのです。

 これには、ケアマネージャの介護報酬の低さもあります。プラン1件につき9,000円の報酬です。何度足を運んでも、困難ケースで一人の為に何日も労力を傾けても報酬は同じです。これでは独立した事業所としての経営は成り立ちません。ケアマネージャに『公正、中立』の立場を一貫させるには居宅介護支援事業所の独立が先決です。

 『指導監査』ときくと誰でもハッとし緊張します。まず電話で通達がありますが「いよいよ来たか」と気が重くなるものです。なぜなら監査員というのはまったくの役人で現場を知らないし、知ろうともしていない人たちなのですから。書類を全部チェックして、まるで重箱の隅をつつくような指摘をします。記録が大切なことは判っていますが、まず記録ありきではないはずです。ひと相手なのですから計画通りにいかないことだっていろいろあります。その場の判断が必要なことだってあります。目の前に倒れている人がいて、助けを求められたとき、ではケアマネージャに了解をとって計画書を作成してもらって、確認の印鑑がいただけたら手を差し出しますなんて実際の現場ではありえないことです。歩行の不自由な人を病院へ連れて行ってそこからは病院に任せなさいというけれど、どこに待合室の患者さんのお世話をしてくれるような看護師のいる病院があるのでしょう。病院だって人手不足なのに。

 介護保険は強制加入の社会保障です。年金や医療保険と同じように誰もが加入しなくてはなりません。高齢者の場合は年金から、会社員の場合は医療保険と一緒に給料から天引きされます。収入によって5段階に分かれていますが年金の少ない高齢者には重い負担となています。今後の見通しでは見直しごとに千円単位で値上がりする試算です。弱者に厳しい制度です。そして、これこそが介護保険の一番の問題なのです。

 なぜ値上がりするのかというと、単純なことですが保険給付費が保険料の収入を上回り赤字になるからです。ですから保険料の値上がりを抑えるためには給付を、つまり保険を使う量を抑えなくてはなりません。そのために今盛んに言われているのが『介護予防』です。介護保険を使わないですむような健康な体をつくりましょうという制度です。これは考え方としては素晴らしいのですが、実際に対象者を掘り起こすのは難しいことです。役人は簡単に言ってくれますが。新聞によれば介護度によってサービスの制限をという話もでています。これもどうなるのか。

 簡単に言えば、誰もが無用な申請は避け、適正な量だけのサービスを使って、ケアマネージャも『公正、中立』を厳守しサービス事業者も不正は行わない。これが守れれば介護保険は当初の計画通り公平な社会保障としてうまくいったのでしょう。しかし、どれだけのサービス事業者が生き残れたか、どれだけのケアマネージャの事業所がいま存在していたか。

 だいたい年金だって医療保険だって始まってから何年たっているのでしょう。国会議員が年金の未払いで騒がれましたが、たぶんあの人たちは悪意があって払わなかったわけではないでしょう。払っていないことを知らせるシステムがなかったのです。それほどに制度として未熟なままなのです。そういう根本的な部分を解決しないままで値上げや制限などが先に強いられる、正直者がバカをみる。そういうことを何十年も続けていて、また同じ矛盾を繰り返そうとしています。無駄使いや横領など不祥事はあとを絶たず目にあまります。医療保険しかりです。社会保障制度のありかた自体を見直すときなのではないでしょうか。介護保険だけがそんなにきれいにいく筈がありません。

 まだ誕生したばかりの制度です。滑り出しはまずまず、多くの方がこの恩恵に与っています。現場は日々軌道修正されていく制度に乗り遅れないよう、研修、スクーリング等自己研鑚に必死です。制度を創る者とそれを履行する者の温度差が少しでも狭まり、理念を実現へと導くことが現場に立つ誰もの願いであるはずです。