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土に還る

土

リビングにある金色のソファに座りながら、土に還る。 そそくさと手足の先が温かくなってきて、ずずずっと重たくなってきて、 気持ち体の比重が増えてくる感じ。体がソファに沈む。 水気を含んできて、泥々してくる。

気が付いてみると、息子も妻も土に還っていた。 ガーデニングが好きな父も、盆栽が好きな母も土に還る。 スローライフを送っている隣のお姉さんも土に還る。 生きながらにして。

そのなかで癒しでもなくマイナスイオンでもない、 緑ではない廃墟でもない世界遺産でもなく滝でもなくて、土。 栄養はあるのかどうか黒くて、どす黒くて服が汚れそう。 シャツもズボンもトランクスもさあ一緒に。

土のじめじめした温かさ、ぼそぼそした軟らかさ、 その微妙な堅さ。

土にまみれた大根、じゃがいも、にんじん。 土をいじって爪にたくさん入る、 服が汚れる。土にまみれて顔の頬に土が付く。 ひと雨降ったあとの泥で遊ぶ。 水溜りで滑ったり、頭から飛び込む。

あるいは、道行く屋台のおでんやさん、 いーしやーきいもー。 愛想の悪い商店街のおやじ、味はいいのに愛想の悪いおばさん。 近所の肉屋の特売日。近所の電気屋で蛍光灯を買って年越し。

息子を抱いて、ね〜んね〜んころりよ〜おころりよ〜。 ねんねしないと鬼が人攫(ひとさら)いに来るのだろうか。おじいちゃんおばあちゃんの家。 線香の匂い。仏壇。閉まりの悪いふすま。

隣のおばちゃん。話が長くてあんまり付き合いきれない。 ぼろ布、布おむつ、夕暮れ、カラス、神社、黒電話。母子ともに健康。

子どもができたらどんな気持ちになるのか? 某アルファベット系銀行員に言わせると「結婚してなんか変わった?変わらんしょ、別に。子どもも一緒。」 らしいので、「そうだろうなあ、大して変わらんわな。」と思っていて、でも、結婚も子どももいいぞー。 家族はいつだって乳臭くて、あったかくて、ムレている。これはいい、満たされる感じがする。

それは、ジメジメしたところに、ミミズのように、やわらかくて、ぐにゃぐにゃしていて、 ちょっと気持ち悪く見えるけど、さわるとすぐに汚れるけど、汚れたら簡単には洗い落とせないけど、 ある。

03.12.22


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