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感想文 「会社はこれからどうなるのか」岩井 克人 (著)

人間の世界は労働と快楽でできている。 労働だけでも、快楽だけでも生きることを続けていくことはできない。 もちろん労働にも快楽、つまり楽しみがあるが、 「あなたはもう労働しなくてもよい」と言われれば僕は喜んで放り出す。

「スタートレック」というアメリカのドラマでは、24世紀、人類はフードディスペンサーを 発明していて、それはエネルギーから物質、つまり端的に言えば、食料を入れなくても家電から料理ができる。 もちろん、エネルギーも今よりずっと簡単に生産できて、 人々はほぼ、労働がなくとも生命が維持できる。

しかし現在では残念ながら、労働は絶対に必要なもので、労働に会社は必要なものである。 会社とはつまり、労働の単位であり、それが株式会社でも、NPOでも、秘密結社でも構わない。 だた、「会社がどうなるか」は、生産活動が活発に行われるか、低調に終わるかという 我々人類の大きな問題でもあり、それによって我々の生活は 意味深くなったり、薄っぺらなものになったりする。 当たり前だが、エルメスのケリーも、PSXも、グーグルも会社から生まれている。

この本は丁寧に俯瞰的に書かれているため、 くだらない経済学者みたいに、会社がどうなるかを断言したり、扇動したりしない。 会社がどうあったかを過去から学問的にたどって慎重に示していて、 どうなるかを現状を分析しながら慎重に予言している。 とても分かりやすい。なんとなく実感のなかった言葉が、ああ、そういうことね、 と納得できる。

この本には「グローバル化」「IT革命」「金融革命」という言葉がでてくる。 IT革命などというと、もうなんとも胡散臭い扇動的な無意味な言葉に思える。 IT革命は幻想だった、などと言ったりする。 しかし、IT革命への幻想が幻想だったのであって、IT革命は今この世に確実にある。 革命とは、画期的で素晴らしく幸せになるものではなくて、大いなる不幸を伴って違和感を感じる 変化であって、いつか幸せをもたらしてくれるかもしれないものである。 産業革命も、フランス革命も、その後イギリス、フランスは不幸であった。 今、日本は不幸だから、IT革命は起こっているのである。

「グローバル化」「金融革命」も同じだ。世界は進化している。 しかし、短期的にみるとやはりそれは不幸である。 大人になることが幸福とは限らないように、進化はよい事ばかりではない。 むしろ不幸であると言ってもよい。確かに進化によって、快楽は増えた。 だが、気苦労も多い。 進化の過程で不幸を減らすのは、政治家の知恵と民衆の割り切りである。 ぐだぐだ言っても進化なのだから仕方あるまい。

24世紀にエネルギーを物質に変換する発明によって開発される「フードディスペンサー」も、 それが普及すれば大混乱が起きるだろう。世界中の農家とレストランが失業する。 21世紀に発明される「どこでもドア」と「タケコプター」も、それが普及すれば、 移動手段としての鉄道、飛行機は不要となる。 失業率は20%を超えて、これは大変な事態だ、一見バラ色の未来だが。

著者は東大の先生で、文章も東大の先生らしい。 真摯に会社について書いてあるので好感が持てる。 下手なビジネス書と違ってよく出来ている。 日本が今なぜダメなのか、理解しかけてきた気がした。 手っ取り早く会社がどうなるかを書いてはいない。 ただ、本質をたどっているので、結局手っ取り早いのではないかと思う。 僕ももうちょっと考えてみようと思う。これからどうなるのか?

04.02.08

この本も例によってほぼ日刊イトイ新聞で紹介されている。 こちらも読んでみるとよいかもしれない。 このサイトで紹介されていたから読んだのではない。この本が小林秀雄賞を受賞したからである。 僕は権威主義なのである。


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