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感想文 「カフェー小品集」嶽本 野ばら(著)

愛する君に棲みついた異邦人に就いて―西村珈琲店

今日もここで君のことを待っています。
待ち合わせの時間に遅れぬよう、5分前には 到着していまう僕ですが、君が待ち合わせの時間に間に合ったことはあまりありませんね。

君を待つ間に、カフェーにある梶井 基次郎さんの 檸檬を読んでしまいました。 レモンというどこかおしゃれなクダモノは、やはり檸檬という独特の異物感を持った果物だったのですね。 思った通りです。君も最近好きみたいですね。

名古屋・伏見の名古屋観光ホテル裏にある西村珈琲店を初めておとずれたのは、 君と出逢ってから何年目のことだったでしょうか?
そのビルの入り口からそのカフェーまでの 入り口に辿り着くまで様々な生活感が潜み、僕らに襲いかかります。
でも、カフェーに一歩足を踏み入れるとそこには、 人生に既に悲観していながら、それでもどこか希望を見つけようと、 ゆっくりと何かを模索しているアカデミックな空気に包み込まれます。

「ごめ〜ん」
君は今日もなんの反省もなく遅れてやってきました。

人一倍、人を傷つけることを恐れる君ですが、 「遅刻するってことは、他人の時間を否応なく奪う残酷なことなんだよ」 という僕の儚い言葉は君の心に全く届かないようです。

君:「ブルーマウンテンひとつとシナモントースト」
嗚呼!その注文をしてしまった時点で、今日は、君が観たいと言っていた映画を 諦めるのですね。あんなに観たいと言っていたのに。。。 僕も諦めることにします。もう時間がないんですもの。


そんな君と一緒になってもうすぐ一年。 君のお腹にもついに新しい異邦人が居ついたようです。 まだ7mmのエイリアンみたいですが、確実に君の体に棲みつきました。

自虐癖のある君も今度こそ、自分を大切にすることは、 君に関係する全ての人を大切にすることだ、ということを分かってくれるでしょうか? 文字どおり君は今、自分を大切にすることで、新しい異邦人を幸せにすることが できるのですから。 僕は本当に心配でならないのです。

でもきっと君は今回もなんの自省もなく、なんとかしてしまうのでしょう。
そして、分かりました、僕は、君のその男前な生き方の隣にずっと居ましょう。

世界でもっとも美しいエイリアンは僕たちに、 さらにドラマチックでロマンチックな毎日を運んできてくれるでしょう。

03.03.29


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