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レンガを描き続ける画家

レンガ

僕の田舎は愛知県高浜市といって、日本一人口の少ない、原発のないほうの市です。 もちろん面積もすごく狭いのですが、日本一の瓦の産地です。 ってことは世界一の瓦の産地であるということでもあります。 また、トヨタ自動車のお膝元なのでトヨタの下請け会社もたくさんあります。

よって、肉体労働者も多くって、車でまちを走っていると 「あれ?今日は車がえらく少ないねえ〜、ああ、トヨタ系が休みだからか」 となり、「あれ?今日はパチンコ屋がえらいいっぱいだなあ、ああ、トヨタ系が休みだからか」となります。 ちなみに、まちを走る車が全部トヨタ車か?っていうとそれは想像上の世界で、東京と対して割合は変わりません。 ただ、トヨタ系の工場の駐車場はもちろんトヨタ車ばかりですが。

高校への進学率は愛知県でもトップの低さで、それは中卒でも就職できるという ことでもあるのですが、まちには文化の香りのするものはほとんどありません。 まちの唯一の映画館(最後のほうはエロ映画ばかりでしたが)も僕が中学生のころになくなりました。 本屋には、雑誌と漫画と実用書が並んでいます。 高浜市の唯一の高校である高浜高校は、 ヤンキーがこぞって跋扈(ばっこ)していて、1年生の4月が終わるころ、生徒は教室の3分の1に減っています。

田舎に帰ると思うのは、「このまちには資本主義がない」ということです。 それは、東京の新宿が半年経つと通りに並ぶ店舗がすっかり変わっているのと正反対です。 商業は淘汰されることなく、ただただ瓦を屋根に張る家が減るとともに、この日本の不景気を先取りして活気を失っています。 不景気先取りなところはむしろ資本主義ですが。

こんなまちで育った僕ですが、小学生のころ、塾に通っていました。

はちまきを頭に巻いて、正月だけどエイエイオー!みたいな東京の苛烈な進学塾とは違って、 床に正座で座って、黒板にチョークの寺子屋のような塾でした。 教えてくれていた人は画家でした。浅岡勝人さんという人です。 髪が長くて後ろで結んでいて、黒ぶちのメガネをかけて、子供にはやっぱり怖い先生でした。 にいちゃんと呼べ、と言われていましたが、怖くてそう呼んだことは結局ありませんでした。

この人は、リンク先を見てもらうと分かるように、4半世紀以上もレンガばかり描き続けている人です。 ずっとです。レンガだけです。ただひたすらです。

先生が「ACRYL AWARD」で大賞をとったときのコメントです。

●コメント 74年ターナーのアクリル絵の具に出会って以来25年間。色は白と黒の二色によるグレー、モチーフはレンガ模様(縦と横の区切りの単純作業)、テーマは平面に平面と何の面白さもない仕事。制作に入る前に完成時があり、途中で修正が出来ない為に緊張感を保ち多くの時間をかける。今回の仕事も、その一貫作業の作品で、静止の画面から、遠近による直線の集積が動きを生じ、平面における平面の空間が多少なりとも表現出来たものと。変化と縦続、どちらが難しいか分りませんが、25年続けても今だ答えが見つからず、又、自分が自分の仕事に飽きていない現況。さらにこの仕事が。努力賞を戴いた思い。

うーん、なんか上手くまとめられないのですが、僕の近所にはこんな人が住んでいて、 そこは東京の青山なんかとは全然違う世界があって、まちのほとんどの職人たちはパチンコとサウナとで、 でもそこにはこんなレンガをずっと描いている画家もいたりする。

僕が田舎に帰る度に思うのは、今、日本は間違いなく東京が引っ張っていて、東京に人が集まるんだけれど、 日本中のまちには東京とは別の軸で生活している人がたくさんいて、 テレビの世界が実生活に近い東京と、東京とは全然違う軸に文化、生活がある他のまちの人とがあるということ。 どっちが本当かなんて分からないし、そんなことはどーでもいいことだけど、 ただただその文化に差があるんだよなあ、と思う今日この頃。

僕が想像するにレンガの先になにかがあるのではなくて、ただレンガがあるのだろうな、と。邪推だな。

03.10.12

新築にはぜひ三州瓦を。 厄除けには鬼瓦を。


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