新ずんだの章 5
※ この話は、「仙台ゴールデンポークスの章5」のつづきとなります。
自衛隊の演習だろうか。空に、ヘリコプターが何台も飛んでいる。
そのバルバルとやかましい音に顔をしかめ、ヨーコは相変わらずのゴリラ歩きで、無駄に豪勢なアール・デコ調の校門をくぐった。
ヨーコが私立千台栄華学院の校舎に近づいて行くと、同じクラスで、ヨーコの子分、そして一番にアコをいじめていた少女、シマノが近づいてきた。
「あんたもちゃんと来たんだ。ねえ、学校さ、今日、休校になるかもしんないんだよね。もし休校になったらさ、カラオケ行かない?」
シマノは、ヨーコと同様に、ぎりぎりまで短くしたスカートをはいた、色黒、くりんくりんにカールさせた金髪が特長の少女である。
ラメのたっぷり入った化粧品でメークをして、黒い素肌に白系のルージュで彩った厚い唇が目立つ。こんな外貌ではあるが、なかなか成績はよく、国語の順位では、一子と争うほどである。
ヨーコは、じっとシマノを見た。
「あんたじゃないよね」
これは、いくらなんでもラ・ピュセルではあるまい、とエリザベスの声が、頭のどこか遠いところから響いてきた。
「うん、違うみたい。んで、『あんたも』って、なにさ。ほかの奴らも、真面目に集ってるってこと?」
「本当は来たくなかったんだよねー。なんつーか、ダルさが当社比二倍、って感じでさ。昨日のこともさ、SHRが終わってから、どうやって家に帰ったか覚えてないし。アサノと口げんかしたのは覚えてるんだけどー。
いや、それより、あんた、TV見なかったの? 一夜にして、屋上と、なんでか、うちらの教室が破壊されていた、ってんで、TV局やら雑誌やらが集ってきてるんだよ。どーする、TV出られるかも。コメントとか考えとこうぜ」
屋上と聞いて、ヨーコはすぐに思い当たった。
そして、今更ながら、ぞっと身を震わせる。よく生きいてたものである。
明るい太陽の下で見る屋上は、ビニールシートに包まれて、その破損が下からは見えないようになっている。生徒たちは、教室に入らずに、外から、屋上を不思議そうに見上げていた。
「これだけ騒いでるんだから、今日は休校とかになんないかな?」
「どうだろ。ね、アサノ、もう来てる?」
シマノは、は? と顔をしかめてヨーコを見た。
「なんでアサノ? そういや、あんたってば朝帰りな人? 髪とかひどいんだけど。メークも薄いし」
「いいから、アサノは来てるの?」
「いたよ、さっき、玄関のとこでウロウロしてた。あ、なに、もしかして、昨日の喧嘩のことで、あたしの変わりになんか言ってくれるとか」
期待に満ちたシマノをそのままに、ヨーコは正面玄関に向かった。
少女たちは、UFOだ、北朝鮮のしわざだと、いろいろ憶測を飛ばしているが、さすがに屋上の破損が、UFOならぬアトラ・ハシースたちの暴れた結果などとは、だれも思わない様子である。当然ではあるが。
教室がシマノの負の感情を受けて破壊されたことも、孔明が少女たちに暗示を掛けた時点で、忘れるように仕向けたのだろうか。
正面玄関のところに、『二年四組は、本日は視聴覚室にて授業』と貼り紙がしてあった。
シマノのヤツ、これ読んでねーな。
と、玄関のところに、あいかわらず洒落っ気のないこけし顔が、蒼ざめた顔をして立っているのを見つけた。その隣には…
「あれ? アコ? どうして?」
アコ、こと中身が諸葛孔明は、今日は、人のことを睨んでくる感じの悪い中国系イケメンと一緒に、若林区の株式会社仙台GPPの仕事に出かけたはずである。アジトを出るとき、ちゃんとそう言って出て行った。
それが、一子のとなりで、飄々と立っているのである。どう見てもアコだ。
外の騒ぎを見物し、なにやら責任でも感じているのか、顔色を悪くしている一子は、ヨーコに気づいた。同時に、隣のアコもこちらを向く。なんだか、怖いんだけど。
「ちゃんと逃げずに来たんだ、えらいじゃん」
と、一子は無愛想に言った。ヨーコも、はん、と鼻で笑って応酬する。
「アタシはいつも偉いの! ところで、アコ、あんた、あの感じ悪いイケメンと仕事に行ったんじゃなかったっけ?」
「そうよ。携帯でメールが来て、知っているわ。だから、アタシが代理ってわけ」
「はい?」
ヨーコが首をかしげると、アコの姿をした、それは、ほほほ、と気取った笑い方をした。
となりの一子が、気まずそうに説明する。
「これ、最上さんじゃなくて、うちの羅貫中。あたしの護衛するから、今日は最上さんになりすますわー、だって」
さすがにヨーコと、その背後にいるエリザベスも、驚いて、のけぞった。
「マジで? 創造型アトラ・ハシースって、そこまで出来るのか、って女王が驚いてるんだけど」
「出来ますのよ。なりすましたい人間の特徴をよく覚えておいて、あらためて創造しますの。もともと0のところから、オリキャラを創造するのに比べれば、なりすますのなんて、アタシの肉体の形状を変えるだけですから、それこそお茶の子さいさいですわ」
と、羅貫中犬は、アコの姿のまま、得意そうに笑った。
「つーか、しゃべり方…」
「こうすれば、最上さんの出欠状況も悪くならないし、アタシたちを羅貫中が直接、守ってくれるでしょ? うちの弟のほうは、孔明さまが蜻蛉を飛ばして見張っててくれるっていうし」
「孔明『さま』? あのひと、そんなに偉いんだっけか」
「偉いんだよ! 教科書とかに載ってるよ?」
「つーか、ここに来る前にコンビニで、『三国ウヒョー4』の攻略本あったから、立ち読みしてきたんだけどさ、要するに、ビーム打つ人でしょ?」
「……ちがった学習しちゃったんだ」
「ビームなんか打たないわよ。諸葛孔明は、三国時代に蜀という国を支えた名宰相なのよ。中国じゃ、知恵の神さまみたいに言われている人なんだから」
羅貫中の言葉に、ヨーコは気のない相槌を打った。
「知恵の神さまの割にはさ、期末テストがヤバイとか、細かいところ気にしてたけど。なーんだ、あんたがいるんなら、ビビることないじゃん。つーか、アタシ、あいつに古典の教科書やら参考書やら貸しちゃった」
「持っていたって、どうせ使わないくせに」
「うるっさい、アサノ。それよか、メールちゃんと見た? うちらの作戦会議の結果を教えてやるから、ちょいと人気のないとこいこーぜ」
と、ヨーコは、一子と羅貫中犬(アコ)の三人でもって移動し、今朝の作戦会議の結果をつたえ、最優先でラ・ピュセルを探すことにしたのであった。
「48点!」
採点を終えると、孔明は、ふはは、と声を出して笑った。
「学習したばかりで、もう小テストにおいて50点満点中48点。自惚れても良いだろうか。わたしはやはり天才かもしれぬ」
満面に喜色を浮かべつつ、赤信号で止まっているバンの運転席にいる男を見れば、なにやらハンドルに膝を預けて、こちらをじっと見ているのであった。
「なんだ?」
孔明が小首を傾げると、趙雲は、誘われるようにして、つい笑みをこぼす。が、すぐに顔を引締めて、前方を見た。
趙雲が、株式会社仙台GPPに、クビを言い渡される覚悟で足を運んだところ、日報を書かなかったことや、ちゃんと終業の挨拶をしなかったことについては、
「まあ、これから気をつけてね」
と、バイト運転手の担当らしい老年の社員に、軽く言われた程度で終わった。
配達の荷物を積み込むため、何度か本社の事務室と倉庫と車を往復したのだが、そのときに耳にした感じでは…
前任の運転手が急に辞めてしまい、てんやわんやだったこと、
運転手不在のあいだは、社員が交代で配達をしていたが、無理がたたって、社員のうち二人が風邪でダウンしたこと、
配達さえしてくれれば、多少愛想がなくてもよいと思っていることなどが判った。
要するに、偶然とはいえ、この配達の仕事は、わけありの趙雲からすれば、ぴったりな職場であった、ということである。
しかし如何にわけありとはいえ、いまは女子高生の姿をしている孔明を、堂々と連れてくるわけにはいかず、荷物を積み込むと、途中の公園で待機していた孔明を拾って、合流したわけだ。
泉中央方面の反対側の二車線道路は、年末ということもあり、ゆるやかな渋滞になっていた。さらに下り方面に向かって、さきほどからヘリコプターが何台も飛んでいる。
カーラジオをつければ、女子高における奇怪な事故についての報道がトップでなされていた。まるで戦闘機で爆撃を受けたような破壊状態だと、専門家が首をひねっていると、ニュースは締めくくっていた。
つづいて、北朝鮮の拉致問題、奈良の少女誘拐殺害事件の犯人像について、イラクでまたテロがあった、コクドがいかにワンマン経営状態であったか、等々。
黄金色にいまだ枯れ落ちることのない街路樹の銀杏を見て、趙雲は、なんとなく嘆息してみる。
夢の世界とはいえ、ここにも理不尽な死はあふれているわけだ。
そのなかのほんの一握り、砂つぶひとつを助けようとしているのが、いまの状態なのかもしれない。
「いまに始まったことではない。召喚されるたびに思うことだがな」
独り言のようにつぶやくと、孔明は見当をつけたのか、答えた。
「世の中の理不尽さが千個溢れているなら、そのうちの一個でも直せば、999に減るだろう。そう思うしかないさ」
「しかし一個を救えば、こんどは二個の救えないものが発生する。堂々巡りだ」
「疲れてしまう、虚しい、そう言いたいのか? 気持ちはわかるが、そこはあまり思いつめたら駄目だ。堕天のはじまりだ」
その通りだ。考えても意味のないことであるから、いつもならば、意識の奥にしまってしまえる問題なのだが、いまのように手詰まりな状況に陥ると、その疑問が沸いてくる。
そんな趙雲のことを思いやったか、孔明は、つとめて明るく言った。
「さあて、わたしの天才ぶりのおかげで、期末テストの問題はクリアも同然だ。おかげで目の前の問題に集中出来るぞ。感謝するように」
「はいはい」
「今度はどこへ配達だ?」
「昨日のルートそのままでよいということであったから、河原町から長町南へ迂回して、また北上する」
「ふうん、このあたりは、仙台駅の周辺とはちがって、昔の名残というか、下町情緒がわずかに残っているのだな」
と、孔明は、河原町にならぶ古ぼけた商店街や、ちいさな町工場などを見てつぶやく。
とはいえ、どの店もあまり繁盛していない様子で、並ぶ商店街のうち、シャッターを閉めてしまっているものも、ちらほらとある。地下鉄東西線が出来て、さらに長町南に巨大ショッピングモールが登場したこともあり、以前は集っていた客が、すべて仙台駅周辺か、モールに攫われてしまったのであった。
やがて、細い旧街道を抜けて、バイパスに一度乗り、橋を渡って、空き地の目立つ、小規模な工場のならぶ地区に入った。
こちらにも昔ながらの商店街があるのだが、閑散とした雰囲気はさらに増す。周囲はあちこちが整地され、○○予定地と看板が掲げられているものの、人気はまるでなく、どこかゴーストタウンの風情さえある。
時代めかした魚屋や総菜屋が並び、コンビニエンスストアもあるのだが、どれにも客足はないようだ。その背景のように、遠くに見えるブロック塀のような形をした古いマンションが四棟並んでおり、人工的で無機質な雰囲気を、さらに強めていた。
「線路を挟んで、だいぶ賑わいに開きがあるのだな」
ちょうど正午を過ぎたあたりであった。
コンビニエンスストアにて、食べ物を買おうとしたところへ、孔明が、ふと顔をしかめて、窓を開く。
「停められるか」
「どうした、なにか感じるのか」
「ああ。なんだろう、これは。人ではないようだけれど、ちょっと外へ出てみたい」
後続車もいなかったため、幅だけが広く、車両の姿のない道路に脇付けすると、孔明は車からぴょんと飛び出すようにして、空き地のひとつに向かって行く。
車から降りれば、JR仙石線の長町駅が真正面に見える。
このだだっ広い整地された土地は、都市整備計画一環で、『あすと長町』 の愛称を得て、いずれは都市型住居として、賑やかな街が建設されるはずである。
だが、ふと看板を見れば、そこにはこうあった。
『長町遺構A 仙台古代史愛好会 私有地ですので無断に立入らないで下さい』
どこかで聞いたことのあるような。
遺構というだけあって、むき出しの地面には、建物や水路のあとなのか、ぼこぼことあちこちに溝があって歩きにくい。
立ち入るなと言われているなか、入るわけであるが、周囲に人がおらず、さらに、遺跡のまわりにすすき野が伸び放題に伸びているため、ちょうどよい目隠しになっている。
孔明はというと、前を器用に歩きながら、どんどんと目指すところへ向かって行く。
そして、ある一点で、ぴたりと止まった。
「ここが一番つよい」
「なにが」
「あなたもこちらへ来るといい。霊査能力がなくなっているとはいえ、これだけ大きな力の残像が見えるのだから、なにか感じると思うのだが」
言われるまま、孔明の立っている、ちょうど遺跡の端、全体が見渡せる場所のところへまで足を運ぶ。
すると孔明が、手を差し伸べてきたので、それを取ると、とたんに、ふわりと体が浮遊するような感覚に包まれた。
真綿で全身をくるまれたような穏やかさである。
宙を浮いているのかというくらいに、体が軽くなる。
驚き、となりの友を見れば、思った通りの反応が見られたのがうれしいらしく、満足そうに笑っている。
「古代の霊場だな。おそらく、ここははるか昔に集落があったのだ。そして、いまわたしたちが立っている場所は、ここの住人たちの祈祷所のようなところだったのだよ。
恐らくは、ここに霊力を増幅させるような石が安置されていたのではないだろうか。いまは跡形も無くなってしまっているが、霊場としての力は失っていない」
孔明は、趙雲の手を離すと、手ごたえを確かめるように、自分の手のひらを、何度も握っては開き、握っては開きをした。
「これは凄いな。失われていたものが一気に回復した感覚がある。よいところを見つけた。子龍、われらの運も、まだ尽きてはおらぬということだぞ。
夕刻になったらば、女王をここに連れてきて、霊力の補給をさせよう。昨日の戦闘で、回復までに時間がかかるとぼやいていたからな」
「たしかに運がよいが、しかし、おまえが褒めちぎるほどの霊場なら、レティクルや吸血鬼が、嗅ぎつけてないのではないかな」
「僻地だから、気づかなかったのかもしれぬ」
「出たな、根拠なき楽天主義。さすがに罠だとは思わぬが、なんだか引っかかる。さきほどの看板、読んだか」
「ああ、長町遺構A。それがどうした」
「なんだか気になるのだ。どこかで、看板の文字列と同じものを見た覚えがある。それがどこであったか思い出せればよいのだが」
「まったく、わたしより輪をかけて慎重だな、あなたは。素直に喜ぼう。祝杯というわけで、さっそくコンビニで烏龍茶でも買おうではないか」
「能天気な」
渋る趙雲の背中を押すようにして、孔明は車に戻ろうとするが、ふと、その足が止まる。
「だれかいる」
趙雲は、身構えて、振り返った。
周囲に誰の気配もないことは確かめた。しかし、だれかいる、というのであれば、それは霊的存在、アトラ・ハシース、アストラル、あるいはレティクル、もしくは、吸血鬼である。
振り返ると、ざわざわと音をたてて揺れるすすき野の間に、少年が立っていた。
十六くらいだろうか。学校の制服を身につけているが、その表情はうつろで、目にはまったく生気がない。
風の中に立つその姿は、立っているというより、浮いている、と形容したほうがぴったりなほど、心もとない風情であった。
「死霊だ」
孔明は言うと、少年のほうに進もうとするが、とたん、少年の姿は、煙のように掻き消えた。
趙雲は、直感のまま、先に進もうとする孔明の手首を掴んで足を止めさせ、ここにいるように言うと、少年が立っていたすすき野の中を進む。
とたん、それまで風の向きのせいか、あるいは霊場の力か、まるで感じなかった強烈な異臭が襲ってきた。
これは知っている。肉の腐敗した臭い。
そして、さらにすすき野を掻き分けて、見ると、想定していたものが、ありがたくないことに、想定以上の数で姿を現した。
「携帯は持っているな」
と、趙雲は、遺跡のところで待機している孔明に問うた。孔明が、うん、と短く、緊張した声でうなずく。
「警察を呼んでくれ。死体がある。三つほど」
「なるほど、ここでは臭わない」
と、刑事は、孔明が霊場だと言っていた場所に立って、鼻をひくつかせる。
「だが、薄野に進むと…うは、こりゃ酷いな。おい、全員、現場を荒らさないように気をつけろって、繰り返しになるが言っておけ」
「またコナカだな」
刑事のひとりがぼやいたのを、さきほど命令を下した、いかつい顔の眼鏡の刑事が尋ねる。
「コナカがなんだってんだ」
「この事件が起こってから、スーツに死臭が移ったみたいで、嫌なにおいが取れないんですよ。クリーニング出しても、ファブリーズかけても駄目で。ンで、仕方なくスーツを新調するんです。これで三着目かなぁ。衣裳代って、経費で出ませんかね」
「んなもん、出るんだったら、とっくの昔に俺が貰ってら。鑑識さんのほうは、なんだって」
「三体とも、時間をずらして放置されたようです。全員男性。腐敗が進んでいるので解剖しないとわかりませんが、年齢は15歳から20歳。肉を深く断たれた痕跡があり、例の犯人と同一かと思われます」
「吸血鬼か」
孔明が、ついぼそりとつぶやくと、A4のノートを片手に情報を書き留めていた刑事が、顔を上げた。
「ふうん、女子高生の間じゃ、この犯人のこと、吸血鬼って言っているの?」
「ええ、仲間内だけでですが」
「名前は最上亮子さん、私立栄華学院の二年生、と。ああ、今朝、屋上が派手に壊れていたって大騒ぎしていた学校だね。授業あったんでしょ、なんでこんなとこにいるの」
と、どこか親しげなふうに尋ねてくる刑事に、孔明は、精一杯女子高生らしく答えた。
「ええっと、昨日のことがあって、怖くて、学校に行けなかったんですぅ」
「でも、他の子はちゃんと真面目に行っているわけじゃない。だめだよー、サボリは。家は五橋ね。ああ、五橋会館の裏手。で、こんななんにもないところで、なにしてたの、一人で」
孔明は、とっくの昔に去って行った仙台GPPのバンの停まっていた道をちらりと見た。
独りで行くことをだいぶ渋っていたから、戻ってきていないだろうかと思ったのだ。
警察を呼ぶにあたり、二人で残るか、あるいは片方だけ残るか、それとも二人していなくなるかのどれかを選択することになったのだが、仕事が残っている、情報収集はしておきたい、都合のよいことに、霊場のおかげで霊力は満タンというわけで、とりあえず趙雲は配達を続行し、孔明だけが発見者として残り、警察からの情報を集めようということになったのだ。
もちろん、趙雲には、蜻蛉よりずっと高等で、攻撃能力を有している、神獣『飛廉』をつけた。
「なにしてたの?」
「わたし、以前も事件に関わりがあったじゃないですか。それで今度は学校が壊れちゃって…家に一人でいるのも怖いし、気晴らしに、外に出ようと思ったんです。それで、遺跡を見ようと思って…遺跡が好きなんです。父が」
と、そこまで自分で言って、孔明は看板の文字列を趙雲が気にしていた理由が判った。
『仙台古代史愛好会』。
アコの父親とヨーコの父親が所属していた、地元の史跡発掘サークルではないか。
趙雲は、アコの父親の部屋で寝泊りをしたので、押入れを開けたかなにかの拍子に、サークルの会報でも見たにちがいない。
偶然だろうか。
「どうしたの」
「ええ、その、立ち入り禁止ってなっていたけれど、だれもいないので、近くで見てみたくなって…罰金とかあるのかな、って」
「まあ、それはないでしょ。で、サボった罰を喰らった。びっくりしたでしょ。だから、サボっちゃだめなんだよ」
「はあい」
少女に甘い刑事であるようだ。運はまだ続いている、というところか。
「妙ですね、風向きだけなんでしょうか。遺跡のところにいると、腐敗臭はまったくないのに、一歩、薄野に足を踏み入れると臭ってくる。見えない壁があるみたいだなぁ」
さきほどの、コナカのスーツの事を気にしていた刑事が言うと、孔明に事情聴取をしていた刑事が答えた。
「遺跡ってのは、たいがいがあんまり触れちゃならんものだろうが。神社とかと一緒じゃないのか。たくさん人が住んでいたなかで、なぜかここだけ残って、存在をいまに伝えているってこと自体に、なにか意味があるんだろうよ」
詩人ですね、とコナカの刑事が言うと、事情聴取の刑事は、肩をそびやかして、孔明に言った。
「さて、なにかあったら、また連絡するので、携帯と連絡先と住所、教えといてくれる? あとで調書も作るから、そのときに警察に来れる? あ、そう。じゃあ、そのときは、ちゃんと来てね。おじさんたちが学校に来るのも嫌でしょう。
あと、もう帰ってもいいけれど、あんまり皆に言いふらさないようにね。脅すわけじゃないけれど、犯人はまだ捕まってないわけだし。マスコミにはきみのことは伏せておくから、ネットでも書き込みしちゃだめだよ。いいね」
最上亮子の背中が遠ざかり、やがてJR長町駅のほうに向かうと、刑事は、A4のノートをぱたりと閉じて、さきほどのコナカの刑事に言った。
「おい、平塚のヤツ、相変わらず牛タン屋か」
「みたいですよ」
「妙だな。おい、だれか選んで、五橋のマンションに人やってくれ。最上って家のとなりにトルコ人が住んでいたはずだな。名前はド忘れしたが、あの子とトルコ人についての聞き込みしておいてくれ」
「なぜです」
「いや…今回の少年連続殺傷事件、犯人の目撃情報は、一件だけ。金髪の外国人だ、っていうのがそれだろう。女子高生と、トルコ人が現場を目撃した」
「そうでしたね。あれ?」
「そうだ。あの子が目撃者なんだ。名前が『アキラ子』だろう。ずいぶん立派な名前だなと思って、覚えていたんだよ。縁があると言っちゃ、それまでだが、続きすぎるだろ」
「偽証の可能性も?」
「ありうる。犯人の行動範囲は広範で、複数犯説だってあったんだ。だが、あの子たちの証言で、単独犯だと決まった。ホシが白人で金髪の男だってこともな。だが、もしそれが偽証で、あの子が、犯人、あるいは犯人グループに関わりがあって、捜査のかく乱を狙っていたらどうだ。
あの子たち以外の証言が、いまだに集らない理由も、それで説明できてしまう。聞き込みして、あの子の行動を探るんだ。もしおかしな点が一個でもあれば、すぐに報告してくれ。尾
※ この話は、「新ずんだの章6」につづきます。