牛タンの章

※このお話は、ずんだGAME・ずんだの章2のつづきです。

仙台は、どこまで行っても真平らである。
仙台駅からレトロ調の臙脂と紺の周遊バス『るーぷる仙台』に乗って、仙台市街をぐるり一周すると、その平らで見晴らしの良い雄大さと、立派に成長し、それぞれが見事な枝振りをみせている銀杏並木におどろくだろう。
江戸時代においては、青葉山のてっぺんから仙台の城下町を見下ろすと、青葉が繁っているために、家屋が見えなかったという。
その景観におどろいた古人が、仙台を『杜の都』と呼ぶようになった。
二つの大きな戦争を経て、空襲で街の西側が燃え落ちる、という悲劇にも見舞われたが、見事に復興。
しかし空襲と、高度成長にあわせた土地開発で、緑はだいぶ減ってしまった。
『杜の都』を守るため、市は助成金を出して、個々人の庭やベランダで植物を育てることを推奨しているが、効果は眼に見えるほどのものではない。

また、仙台の冬の名物である『光のペーシェント』も、銀杏の木を電飾で飾ってその美しさを楽しむ、というものであるが、実は木を弱らせてしまう、という、マイナス面を持っている。
だが、『光のペーシェント』は、枯れ木ばかりになるうえに雪もちらつきはじめる冬の仙台の、大切な観光の目玉であり、銀杏の木々には我慢をしていただくしかない現状がある。
 ちなみに『光のペーシェント』は、募金から成り立っている。
亮も宮城フェスティバルの特設募金コーナーで、募金をしてきたばかりである。


バスから見える銀杏の木は、もう12月だというのに、枯れることなく、まだ黄金色の葉を繁らせており、枯葉の雨を町に降らせない。
今年は暖冬だな、と思いつつ、亮は、ジョージの言った『世界樹ユグドラシル』とは何か、考えていた。
金色の葉をした銀杏のなかに、残り三本のユグドラシルがある。それが枯れてしまうと、ラグナロクが起こる…
「たしか北欧神話にそんな話があったよな。銀杏ではなかったと思うけど」
街路樹をゆくバスは空いており、数えるほどしか客を乗せていない。
亮は最後部に乗って、大きな車窓から、後方を気にしていた。
うまく巻いたのか、それとも銀の小人たちは、単に日本円を持っていなかったのか、バスには乗り込んできていない。
このまま見失ってくれることを祈るばかりである。
その間に、博物館に銀の腕輪をこっそり置いてくるのだ。
あとはがんばれ、学芸員。

走行するバスから、三階建てのガラス張りのモダンな建物が見えた。
美術館スペース、上映スペース、図書館を兼ねた『仙台メディアテーク』だ。壁面をすべてガラスで覆っており、晴れた日には、ガラスが鏡面のように街路樹の緑を映し、白光色に輝く、宝石箱のような美しい建物である。
あそこでなにか調べようかな、と思ったものの、それより小人たちである。
車窓から後ろを振り返ると、広い歩道に横一列になって、腿を九十度の角度できっちり上げて、地道に追いかけてくる銀色の集団が見える。
冗談のような光景であるが、彼らがあまりに生真面目に追って来るので、だんだん亮は怖くなってきていた。


「季節が狂っとるのは、世の中が狂っとるからだ!」
吐き捨てるような大声が、バスの前方でした。
見ると、ふたり掛けの席に並んで座っている外国人のうち、痩せぎすの背の高いほうが言っているのである。
金髪の男は、隣に腰掛ける、おなじ位の年頃の、きれいな円形の頭部を持つ外国人にしきりにまくし立てている。
「シラスだというのに、まったくシラスらしくない! 去年の今頃は雪が降っていたはずだぞ。覚えているかね、悪夢の雪かき。
きみは庭にカマクラを作って別荘ができたと大喜びをして、コタツだのミカンだのを持ち込んだのはいいが、翌日には解けてしまって、コタツは雪解け水で壊れてしまい、我々は格安のコタツを求めて、徒歩で泉中央の『電撃倉庫』に行くハメになった。
歩くのは構わぬとも。ああ、歩くのは好きだ。何が気に食わないかといえば、余が『泉中央店へ北上するよりも、長町店目指して南下したほうが近くないか』という提案を、君が一顧だにしなかったことだ。
泉中央は、おなじ仙台市でも市街地と比べると3度は違うのだぞ。くらべて南は雪も少ない。南へ行くべきであったのだ。でなければ余はしもやけをかかえた親指に苦しめられつつ小雪ちらつく仙台を、とぼとぼ歩くような事態にはならなかっただろう」

ここで金髪男はことばを切ると、得意そうに胸を張って、隣で大人しくしている男に尋ねた。
「余の言葉に付け足すことはあるかね?」
「僕の指も霜焼けになったことを、加えてくれ給え」
「貴君のしもやけは、カマクラ製作時に負ったものであり、余の雪中行軍に負ったしもやけとは違う」
「僕だって、痒かった、と言いたいのだ」

『うるさいなぁ』
亮は、もともと騒がしいのが好きではない。
学校でずっと一人でいるのに慣れてしまったがために、近くでやかましく騒がれると、集中力を削がれてしまう。
亮の迷惑顔が、前の座席にいる、やたら流暢な日本語をぺらぺらと喋りまくる外人に伝わるはずがなく、会話はつづく。

「痒さを共通項にして、余の苛立ちを軽減しようという作戦だな。まあいい、貴君のいままでの友情に免じて許そう。
ところでシラスの話であったな。これは温暖化によるものだといわれているが、余には違う風に感じられる。これは恐るべき予兆だ。
もしかしたら、大洪水が起こるかもしれない。だから余は、最近、水泳教室へ通うことを検討している」
「大洪水を、泳いで乗り切るのは無謀だよ」
「なにもしないよりはマシであろう。
ただ無為に水におぼれて死ぬよりも、余は生命力のすべてを賭けて溺れることを望む」

『なるほど』
最初は、外国人が馬鹿な話をしていると思って聞き流していた亮であるが、絶望的状況にあっても、前向きに思考する姿勢は、見習うに値する。
亮はおのれのことに引き寄せ、ひたすら受身の状況に、疑問を持った。

『ただ巻き込まれたんじゃない。ジョージは少なくとも、きちんと意図があって、わたしを巻き込んだのだ』

銀の小人たちに対する謎よりも、小人に敵対するジョージへの謎を解明すべきかもしれない。
腕輪を『彼女に渡せ』と遺言したが、それはやはり、ジョージの妻のことではないのか。
ジョージの家はどこだっけ?

考え込む亮をよそに、会話はつづく。
「なんとなく、君ならば、生き残りそうな気がするよ、ムスタファ君」
「余力があったならば、君も助けられるだろう。運が良ければ、現代のウトナピシュテム(ノア)に、二人して助けてもらえるかもしれぬ。
お、見たままえ、外を。すばらしい美人がいるぞ。なんと見事な黄金の髪であろうか。ドイツ系だな。彼女も国際センターへ行くのであろうか」

騒がしい金髪男は矢継ぎ早にことばを発しつつ、車窓の横を歩く、浪打つ黄金の髪にロングコートの、すらりとした金髪女性を見る。
サングラスをしていて、顔立ちはよくわからない。
東北随一の大都市である仙台には、外国人は珍しくない。観光旅行客もそうであるし、居住している外国人も多い。

バスは西公園を経て、広瀬川を渡ろうとしているところであった。
こんもりとした青葉山の稜線が見えてくる。
その手前に、コンクリートでできたミルフィーユのような建物がある。それが仙台国際センターだ。

二人の外国人は、まるで思春期の少年のように、目をきらきらさせて美人を追っていた。
ドイツ美人が、バスの車窓の後方に流れて行ってしまうにつれ、彼らの顔も後ろへ向く。
そうして、初めて彼らは、後ろに客がいることに気づいたようであった。

ふたりの後頭部ばかりをながめていた亮は、はじめて彼らの顔を見た。
ギリシア彫刻のように彫が深く、整った顔立ちの青年らであった。
蜂蜜色の濃い金髪に、地中海のような青い瞳をしている。
まくしたてているほうは、痩せぎすで顔はいささか細長く、太い眉を持ち、雄牛のようであったが、黙って聞いていたほうは、柔和で、甘い顔立ちをした美青年であった。

まくし立てていたほうは、意外に紳士的なところを見せ、座ったまま、ぺこりと亮に向けて、
「どうも失礼」
とおじぎした。

ほどなくバスは仙台国際センターに到着した。
ふたりの外国人は立ち上がったが、ふと、やかましい金髪男のほうが足を止め、亮のほうを振り返る。
「素敵な腕輪ですな」
やかましい金髪男は言うと、亮の手にしていた銀の腕輪をしげしげと眺める。
失礼なのはわかっていたが、亮が腕輪を隠す素振りをすると、金髪男は肩をすくめた。
「その格好にはいささか不釣合いだが(亮は屋台で牛タンを焼いていたままのエプロン姿でバスに乗っていた)、ドレスにはぴったりでしょうな。
けれど残念だが、その腕輪は、来歴があまりよくない物のように感じられる」
唐突な言葉に、亮は眉をしかめる。
亮が両手で庇うようにして膝に乗せている銀の腕輪に視線を注ぎつつ、金髪男は言う。
「不思議なことに、拳銃も、一度でも人を殺したことのあるものは、一見しただけで、それと判るものだ。余は超常現象にはまるで興味はないが、勘が働くほうでね、それは君にとってよくない。早く手放すべきだ」
まさにそのために、バスに乗っているのだ。
なんと答えたものやらわからず、うろたえて言葉を出せないでいると、金髪男は、強い印象を残すあまり、見るものをたじろがせる大きな瞳を、にっ、と笑わせ、洒落たアラベスク模様の入った名刺ケースから、名刺を取り出した。

「どうしようもなくなったら、連絡を」

『仙台国際市民倶楽部 よろず悩み事相談所・ムスタファ華丸 電話022-000-000』

ジョージといい、自分はどうも外人ウケするようだ、と思いつつ、亮がお礼を言おうとしたが、その前にバスの運転手のダミ声に促され、二人は
「さあ、久しぶりにバリバリ稼ぐぞ!」
と言いながら、降りて行ってしまった。

車窓から見ると、ふたりはもう亮のほうは気にもかけず、国際センターへ向かっていく。
亮はついでに、後方の銀の小人たちの一行を見る。
小人たちは、小人たちなりに急いでいるようだが、所詮小人の足とバス。
距離はありがたいことに、だいぶ広がったらしく、もうその姿を目視することはできなかった。

ほっとしつつ、次の仙台市立博物館前で降りると、ひときわ立派な銀杏や松が聳える林が見える。
綺麗に整備された道はゆるやかな坂になっており、登り切ると、仙台市立博物館が見えてくる。四方を大木に囲まれた、静かな場所だ。
広大な敷地にふさわしい広々とした玄関の前に立ったとき、ブロンズの大きなオブジェ越しにまず目に入ったのは、『刀剣展』の文字であった。

「逃げてばかりだな」
そんな言葉がぽつりと口をつく。
父母の死から始まる亮の人生は、ひたすら脇によること、逃げること、口をつぐむことであり、積極性というものとは、まるで縁がなかった。
いま自分が置かれている立場を、辛いと思ったことはないのだが、それはもともと、目立つのが嫌いな性格だったからだと亮は自分に言い聞かせてきた。

が、ふと疑問がわく。

疑問は、すぐに雨雲のように胸のそこからあふれてきた違和感と結びつき、抑えることができなくなった。
ほんとうにそうだったろうか? 自分はもっと、積極的な人間ではなかったか?
でもいつの頃か思い出せない。
仙台に来る前だっけ? 小学校の時? 幼稚園の時?



仙台市立博物館の大きな自動ドアをくぐると、右手寄りに、でん、と大きな階段がある。
途中、踊り場には、絨毯よりも更に大きなタペストリーが、ねずみ色の壁に飾られており、来客を出迎える。
さらに昇りきって、二階から展示室になるのであるが、ホテルでも滅多におめにかかれない横幅をもつ階段の途中まで来たとき、亮の足はぴたりと止まった。

「なんで?」

受付の前には、黒いビニールソファが置かれており、ちいさな待合所になっているのだが、そこに、銀の小人たちが、ちんまりと並んで座っていたのである。
まぶたのないアーモンド形の瞳と目が合ったとたん、亮は、反射的に回れ右をして博物館を飛び出した。

先回りをされていたのか?
律儀に交通ルールを守りつつ、走ってやってきていたはずの彼らが、どうやってバスを追い越したというのか?

振り返ると、彼らは亮を見つけて追ってきたものの、重量が足りないためか、自動扉が開かず、仕方がないので、開くまで整列して待っている。

振り返り、振り返り、博物館から遠ざかろうとする亮の横を、学生らしい少女がふたり、にぎやかに話をしながら、携帯電話片手に博物館へ入ろうとする。
待って、入らないで、というより先に、自動扉の前に立つ寸前で、彼女たちは足を止めた。
携帯電話にメールが入ったようだ。
亮がほっとしたのもつかの間。おどろくべき光景があらわれた。
少女の開いた携帯電話に、銀の小人そっくりの人形のストラップがついている。
それのアーモンド形の瞳がきょとり、と動いたかと思うと、分裂するようにして、そこから小人が一匹、這い出してきた。

と、同時に、亮めがけて無言のまま向かってくる。

亮は思わず悲鳴をあげると、博物館の敷地から飛び出した。
バスを追って来た連中と、博物館に先回りしていた連中は、考えたくないことであるが、別のグループなのだ。

『ストラップを媒体に移動しているのか!』

街の中はだめだ。人がいると駄目なのだ。
どうやら彼らは共通意識をもっており、全にして個、個にして全、一人の視界を、全部で共有できる状態であるらしい。
ストラップひとつにつき、一匹の小人という計算ならば、仙台にどれだけ、あの可愛げのないストラップを持っている人間がいるかわからないが、それら全部が亮めがけて襲ってくる、ということではないか。

この奇妙な追跡から逃れるためには、ジョージから預かった銀の腕輪を、『彼女』に渡すしかない。
だが、ともかくは逃げること。
人のいないところ…どこだ?
街中に戻ることはできない。街にはそれこそ、携帯を持っている人間で溢れかえっている。

深く物事を考えている余裕がなかったので、亮は、とりあえず、青葉山の山頂目指して、坂を登りはじめた。
途中、観光バスやタクシー、家族連れのファミリーカーに追い越されつつ、亮は、山を登りつづけた。坂がきつい。

『体力が落ちてるな。明日からマラソンを始めよう』

そんなことを考えながら、後ろを気にしつつ行くと、一匹の小人、それからだいぶ離れたところに、ソファで待機していた小人たち、さらに後方に、バスを追いかけてやってきた小人たちの集団が見える。

亮はその数の多さにぞっとした。
ジョージの最期が脳裏に浮かんだ。
魂を食われる、ということは、苦しいものなのだろうか? 
いや、苦しいに決まっている。
どんな死であろうと、苦しくない死などない、と教えてもらったことがある…ん? だれに?

青葉山の山頂は、展望台になっており、有名な政宗騎馬像もそこにある。
仙台の市街が一望できるようになっており、モミの木に囲まれた中に、護国神社と青葉城址の3D博物館がある。
青葉城を3Dで再現して見せたもので、そこそこ楽しめる内容だ。
いつもならば、観光客でにぎわうその山頂が、あれほど車に追い越されていたにもかかわらず、人っ子ひとりいない。
みやげ物屋も写真屋も、店は出しているのに、人がいない。
無用心だというよりも、何事かが発生し、みんなしてどこかへ逃げてしまったような空気がある。

荒く息を吐きながら、それでも亮は砂利道を進んだ。
むしろ、人がいないのは幸いだ。
これ以上、小人が増えることがない。
しかし、追ってくる小人の数は減らないのだ。
どうするべきか…
そうして、初めて亮は、手に持つ銀の腕輪をじっくりと見つめた

どうみても腕輪であるが、『聖剣』であるという。
なんかの特撮モノのように、腕に填めるとスーパーヒーローに変身できるとか、そいう便利なものなのだろうか。

魂を食われるよりはましだ、ということで、亮はとりあえず腕輪を填めてみた。

しかし…変化はない。むしろ拍子抜けした。

が、その瞬間、遠くでどぉん、という音がした。
しばらくして地響きがつたわり、つづいて、二回目の衝撃音がとどろく。
なんだろうと驚いて展望台の柵から仙台を見下ろすと、ちょうど仙台駅のある方向で、大きな煙が上がっている。
嘘みたいに真っ赤な炎が、黒煙とともに、存在を主張しているのが見えた。
仙台駅が爆発したのだ。

「仙台駅が…」

テロに、と亮は思った。こんな地方をテロリストは襲わないだろうと、仙台市民はだれしも思っていたはずである。
仙台だけではない。
都民と府民以外は、テロリストはうちにはこない、と思っていたはずだ。

「たいへんだ」
仙台駅に知り合いがいる、というわけではないが、仙台駅は仙台市のかなめである。
いまごろ大パニックになっているにちがいない。
叔父夫婦が、なにかに巻き込まれていないだろうか。早く家に帰らねば、と踵を返そうとする亮の前に、追いついてきた小人たちがずらりと並んでいた。
彼らは記念撮影でもするのか、それぞれの顔が隠れないように立ち位置をきっちりそろえており、亮が振り向くと、号令をかけられたように、一斉に右手を亮に差し伸べた。
腕輪をよこせ、といいたいらしい。
「邪魔だ、おまえたちに構っている暇はない!」
小人たちに消滅させられたジョージへの義理よりも、叔父夫婦のほうが気にかかる。
亮の焦りをよそに、小人たちは、右手を差し出すのをやめない。
「言いたいことがあるなら、はっきり日本語で言えば?」
挑発するような言葉にも、小人たちは表情ひとつ変えないでいる。
間近で見ると、ますますビリケンさんだ。
銀の小人たちは、口はあるのだが、ウルトラマンのそれと一緒で、開閉はできないらしい。
亮の要望には無視で応対し、彼らは右手を差し出し続ける。

亮は直感で、これこそ最後通牒であり、もしここで再び逃げ出したなら、彼らは容赦なく襲ってくるだろうと思った。
もちろん、ジョージから押し付けられた銀の腕輪である。
このまま銀の小人たちに渡してしまえば、亮は日常生活へと戻れるのだ。

優しい叔父夫婦に囲まれ、ごくごく平凡な高校生活を送り、たまに牛タンを焼いてお客さんと触れ合う、穏やかな日常が。
でもそうしてはならないと、亮の中のなにかが告げていた。
そうしたら最後、いちばん戻りたかった世界に、亮は二度と戻れなくなる。
彼らはこの世界の破壊者なのだから…


ふと脳裏に浮かぶ、締め切られたカーテン、横たわる人。
酸素吸入器のブーン、と唸る音。
すえた空気。
畳の上には、古い少年雑誌が読み手を待つように積まれており、埃を被った14インチのテレビの脇には、ゲームソフトが同じく埃を被っている。
動きのない世界。


なんだろう、こんな部屋、見たこともないのに、どうして思い出すのだろう…

はっと気づくと、小人たちが右手を差し出したまま、亮の目の前にまで距離を詰めていた。
いけない。このままこいつらに腕輪を渡してはならない。
しかし、どうすれば?

「丞相さまー!」

聞きなれない声がしたと同時に、白い弾丸が目の前を過った…ように見えた。
「子龍か?」
とっさにそんな言葉が出たが、もちろん、自分でなぜそんなことを口にしたかすら、わからない。
銀色の小人と亮の間に、不恰好な足の短い犬が立っていた。
恐ろしげに牙を剥き、小人たちを威嚇している。
驚いたことに、小人たちは、この、そこだけが茶色になっている大きな耳のうち、片方だけが寝ている雑種の白い犬に怯えていた。
犬が噛む素振りをすると、小人たちはびくりとして、後退していく。
「下がれ、銀のヘンテコ! この御方には、指一本触れさせはせぬぞ!」
と、犬はしゃべった。
もはや犬が喋ったということくらいでは、亮は驚かない。
銀の小人たちは、なんとか犬を避けて亮に触れようとするのであるが、白い雑種犬は獅子舞のように口をカチカチさせて、小人たちをさがらせる。
そして、闘牛のように砂利を前足で何度か掻くと、
「ヤケクソじゃー!」
とガラの悪い言葉を吐きつつ、跳ね上がるようにして、銀の小人たちに次々と襲い掛かって言った。
犬の勢いもさながら、小人たちはまるで抵抗らしい抵抗をしなかった。
犬は小人たちを噛み、ヘディングし、後ろ足で蹴り上げ、さまざまな攻撃を駆使して、つぎつぎと撃退していく。
シエナの竜、と呼ばれた、ジョージが召還した怪物さえも、彼らを止めることができなかったのに、白い雑種犬はたった一匹で、あっという間に、かれらをすべて倒してしまった。
小人たちの倒れたあとは、やはり匂当台公園で見たのと同じく、地面の草をすべて焼き尽くしてしまった。
白い犬はぜいぜいと荒く息を付きつつ、すべてを倒すと、くるりと亮に振り向いて、伏せをした。
「丞相さま、諸葛孔明さま。お初にオメモジいたします。
私は晋にて御史治書を拝命し、故国蜀においては譙周さまの元にて観閣令史を務めておりました、姓は陳、名は寿、字を承祚、と申す者。
鎮東将軍、趙子龍さまの命によって、貴方様をお守りするために飛んでまいりました!」
と、ビーグルの血が混じっているらしい犬は、茶色のくるりとした瞳を亮に向けると、途端にがばりと泣き伏した。
「なんという感激! マトモな丞相さまに、こうしてお会いできる日がやってくるとは! 
わたくしの父は、かつて馬謖さまの軍師を勤めており、かの街亭の戦のおり、馬謖さまの高地に陣を取る、という愚策を止めることが出来なかった咎で、髷刑に処されました。
これで通常であるならば、われらが一族はおしまいであったでしょう。
しかし丞相さまは、罪人たる父を厚く遇してくださり、私が出仕するのに支障がないように心を砕いてくださった。そのご恩は忘れておりませぬ」
おいおいと、人語を語って泣き伏す白い犬に、亮は戸惑った。
なんだか、耳慣れない単語が、やたらと飛び出してくる。
本当に日本語か?
「ちょっと待った。ショ…なんだって? だれかと間違えているんじゃないの? 助けてもらったのはありがたいけれど…うん、そのお礼がまだだった。どうもありがとう」
「ありがとうなどと! 勿体無きお言葉でございます!」
「いや、あの、本当に人違いかもしれないから、テンション下げてくれないかな。私の名は亮といって、ショなんとかって名前じゃないから」
「諸葛亮。ほら、あなたさまのお名前でございましょう」
「でもね、私は喋る犬と知り合いになったことはないのだけれど」
「それは話すと長くなりまする」

と、犬…陳寿は、かくかくしかじかといままでの事情を説明しはじめた。

「つまり、わたしは諸葛孔明とかいう…ああ、そういえば漢文で習ったような…人の生れ変わりかなにかで、趙子龍という人が、私を助けるために、君をここへ寄越したと」
「左様でございます。丞相、私めとともに、上杉山小学校へお戻りくださいませ。趙将軍は深手を負ってらっしゃいます」
「怪我人がいるなら、いまから救急車を呼ぶけど…でも申し訳ないんだけれど、やっぱり君が助けろと言われた諸葛孔明っていう人は、わたしじゃないと思うんだ」

「いいえ、貴方さまでございます。陳寿にはひと目でわかり申した。その人目をひく美貌、怜悧な眼差し、落ち着いた雰囲気、まさに竜の名にふさわしきお方。間違いございませぬ!」
「あー、だって、その諸葛孔明という人、男の人なんでしょう?」
「は?」
ぽかんと大きな口をあける陳寿に、亮は仕方ない、というふうにため息をつくと、言った。
「私の家は複雑でね、両親を遺した遺産をめぐって、一族が争っている状態なんだ。
私には腹違いの兄がいるのだけれど、なぜ兄に遺産がいかなかったかといえば、うちは古い風習があって、財産はすべて女子が相続することになっているからなんだ」
「ほへ?」
「そして財産相続人は私…意味が判るかな?」
「で、でも…」
うろたえる陳寿を、亮はぎゅっと抱きしめる。
そうして陳寿を抱きしめる胸には、布か何かでふくらみを抑えてはいるものの、たしかに柔らかい感触があった。
「うぞぉ!」
眼を白黒させる陳寿に、亮は申し訳なさそうに言う。
「ね? だから人違いだよ。もしかしたらジョージも誰かと勘違いをして付きまとっていたのかもしれない。ともかく、青葉山は広いから、私ではなく、ほかに君の助けを待っている人がいるかもしれないよ。助けてくれたお礼に、一緒に捜しに行こう」
亮は、珍妙な命の恩人をなるべく傷つけないように気をつけたのであるが、しかしそうはいかなかったようである。
「それでは、もしや、青葉山に本物の丞相さまがいて、オレ様の助力を待っているのでは!
 いかん、こうしてはいられぬ! いますぐそちらへ参らねば! 早とちりして超無駄足! ごめんなさい丞相さまー!」
「あっ、コラ! いきなり一人にするな!」
犬は、犬たるゆえんで、うぉんうぉんと泣きながら、展望台を飛び出していく。
亮はあわててその後を追った。

陳寿犬のお陰で命が助けられたのもあるが、犬同様に、ジョージも、自分を、その『諸葛亮』という人と間違えて、この腕輪を渡したのかもしれない。
とすれば、亮の受難も、『諸葛亮』に腕輪を渡すことで終わりになる。
それに、叔父夫婦しか知らない秘密を、犬にばらしてしまった。
義理堅そうだから心配はないと思うが、念のために、もう一度、口止めをしておきたかった。
犬は、白い弾丸のごとく、ピーナッツのような体型で青葉山を走り回っている…らしい。
らしい、というのは、青葉山は広く、東京ドームの約十倍(はさみの調べ)。
亮はなんとか追いつこうとしたのだが、犬の勢いは止まらず、仕方が無いので、展望台で待つことにした。

亮がいままで友だちを作らずに来たのは、そもそも少女であることがばれないようにするためであった。
亮の高校は私服だったので、比較的、身体のラインが出ない服を着て、なるべく喋らずに過ごせば、意外とばれなかった。
体育も、叔父が巧妙に学校に
『この子は激しい運動ができない子なんです』
といって見学するだけにしてくれた。
あの犬には気の毒だが、亮という名前だって本名ではないのだ。
亮という名前になったのは、叔父が「すわりがイイ」と適当に漢字字典を開いて決めたものなのである。
亮なんて名前のお陰で、不可思議なことに巻き込まれたのだろうか。
この腕輪を託されることになったのも、そのため?
犬が飛び出す前に、腕輪を渡しておくべきだったな、と思いつつ、亮は腕輪を外し展望台へ戻ってきた。
が、一歩足を踏み入れたとたん、亮はぎょっとした。
先ほどまで、猫の子一匹いなかったはずなのに、いつの間にか、大量の観光客が戻ってきている。

携帯で風景を撮るカップル。
政宗の騎馬像の前で、集団写真を写真屋に撮影してもらう旅行客。
土産を売るハッピを着た売り子の少女。
ロボット獅子舞のいるおみくじコーナーに群がる子供たち。
夕刻になっても、仙台の夜景を見るために、観光客が絶えないのだ。
これは一体?

亮はあわてて展望台の、さきほど仙台駅が爆発したのを見たところへと向かった。
しかし亮の両隣にいる観光客は、呑気に、
泉が岳が見える、仙台GPのフルキャストスタジアムはどっち、などと話している。
亮は思いきって、隣にいる観光客に、仙台駅のことを尋ねてみた。
「あの、仙台駅なんですけど」
「あそこにあるわね。新幹線から降りたときは、大きな駅だなと思ったけど、こうして見ると小さいわねぇ」
亮はぞくりとした。仙台駅の爆発炎上が見えるのは、レティクルたちと同様に、自分だけではないのか? 

亮はふと気づき、腕に填めたままになっていた腕輪を外した。
そうして、もう一度、仙台駅の方角を見る。
そこには、観光客の女性の言うとおり、曇天の下、さくら野デパートの奥に、オレンジ色の煉瓦の建物が見えていた。
燃えていない。
ふたたび腕輪を填めると、夕闇の空に、もくもくと黒煙をあげる仙台駅の姿があった。
煙の勢いは収まったものの、黒煙はまだ上がっていた。
こんな市街地の果てにまで、消防車やパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
ふたたび腕輪を外すと、なんともない仙台駅が見える。

なんだ、これは?

うろたえていると、しょんぼりとうなだれて、尻尾を下げて帰ってきた陳寿犬の姿が見えた。
亮は犬に駆け寄っていく。
「諸葛亮って人、見つかった?」
「残念ながら。あー、どうしよう。オレ様のせいですでに丞相は消滅してしまっていたのかしらん。お許しくだされ、丞相さまー!」
わおーんと遠吠えが響き、観光客が、怪訝そうに、亮と犬を振り返る。
亮はあわてて陳寿犬を宥めつつ、尋ねた。
「この腕輪、なんなの?」
陳寿犬はどうでもよさそうに顔を上げる。
「見事な腕輪でございますな」
「気の無い返事をしないでよ。しっかり見て。君に青葉山に行け、と言っていた人は、この腕輪のことをなにか言っていなかった?」
「腕輪のことは、ハテ?」
と、陳寿犬は白い頭をビクターの犬のように傾げてみせる。
「腕輪、腕輪…聖剣のことならば」
「それだ! ジョージも聖剣アスカロンがどうとか言っていたもの。これ、変なんだよ。ねぇ、君には仙台駅がどう見える?」

亮は、これまでの経緯をかくかくしかじかと説明し、展望台へ陳寿を連れて行った。
「いつもの仙台駅でございます」
亮は、犬の足首に腕輪を填めさせてみた。
すると、陳寿は全身の毛を、ざっと逆立たせる。
「テロテロテロテロ! 仙台駅が燃えている! おまわりさん、おまわりさんに言わなくちゃ!」
「落ち着いて。腕輪を外すと、なんでもない風景に戻るから」
陳寿犬は素直に従う。
周囲の観光客は、「犬だ、犬だ」と珍しそうにこちらを見るが、陳寿犬の言葉を人語に聞き取れるのは亮だけであり、くわえて陳寿犬のご面相が、いまひとつとっつきにくいものであったので、ちょっかいを出されることなく、ふたりはモミの木立の下、仲良く展望台に立って、腕輪の効果をたしかめていた。

「なんでそんなものが見えるのだろう?」
「亮殿、これはおそらく、未来の光景ですぞ」
「なぜわかるの?」
「仙台GPフルキャストスタジアムにアドバルーンがございます。そこに、『本日12/19(日)仙台GP対予備売ジャイアンツ対戦』と」
「二週間後? 二週間後に仙台駅がテロに遭うってこと?」
口に出して、亮はぞくりと背筋を震わせた。

「亮殿、これはとんでもない代物ですぞ。貴方様は、どなたからこれを? って!」
と、陳寿犬は、何かに気づき、足踏みをしたまま、器用にぐるりと回った。
周囲の観光客が、何事かと、くるくると駒のように自転をはじめた犬と、傍らにいる亮を怪訝そうに見比べる。
陳寿犬は、ぎゃうぎゃうと言いながら(傍からは、人ごみに喜んで興奮している、ちょっと躾のなっていないおバカな犬に見えていた)くるくる回っていたかと思うと、ぴたりと足を止め、叫んだ。
「なんたること、忘れておった! K杉山小学校に戻らねば! 趙将軍をお助けせねば!」
言うや、ふたたび勢いよく走り出す陳寿犬のあとを、あわてて亮も追いかける。



青葉山からK杉山小学校まで、歩いて一時間はかかる。
陳寿犬は走りだしたものの、さきほどの仙台市立博物館のあたりまでくると、足がもつれてへろへろになり、そのままぱたり、と倒れた。
「大丈夫?」
陳寿犬はゼイゼイ言いながら、
「寄る年波…寄る年波…」
と、呪文のようにつぶやいていた。
つまり、年だからもうダメ、と言いたいらしい。
幸い、亮のポケットに、叔父が、万が一のために持たせてくれているクレジットカードが入っていたので、それでタクシーに乗り込むと、陳寿犬と一緒に、K杉山小学校へ向うことにした。

K杉山小学校へ戻って見たものの、校庭にはだれの姿もなかった。
陳寿犬はこわごわと校舎を見あげるが、校舎は、窓にぼんやりと愛宕上杉通りの街灯を映し出すばかりである。
真っ暗なままで、なにかがいる気配もない。
ただ、鉄棒のところには、趙雲が短刀で切ったロープの一部が、いまだにぶら下がって風に揺れていた。
陳寿犬は、趙雲が出現したところへと行き、さめざめと泣いた。
そこにはたしかに、血の後がわずかに残っていた。
「虎威将軍、おゆるしくださいませ、陳寿は、貴方様のご命令を達成することができませんでした…マジでごめんなさーい!」
うおんうおんと泣きつづける陳寿犬が、すこし落ち着いたのを見計らって、亮は声をかけてみた。
「家族と一緒に来たのでしょう? 他の人たちはどこへ行ったのかな?」
「あいつら薄情だから、用が済んだので、家に戻ったのでは」
「君の代わりに、孔明に出会ってしまった、という可能性はない?」
「丞相さまの狙いは私でございます。丞相さまは無為な殺戮を好まれませぬ」
「たしかに喋る犬、というのは珍しいけれど、ふつうは、なにも殺そうなんて思わないよ」
「それは私が『ケルベロス』だからでは」
「それ知ってるよ。ギリシャ神話に出てくる地獄の番犬だよね」
と、亮は陳寿犬を見るのであるが、三つの頭を持つという恐怖の犬ケルベロスと、老いた雑種の陳寿犬は、似ても似つかない。
ともかく家に戻ってみよう、ということになり、亮は陳寿と一緒に、陳寿犬の家へと向かった。

陳寿犬は、自分の家が近づいてくると、あきらかにほっとした様子で、足取りも軽く、足早になる。
「こちらでございます」
と、意気揚々と紹介したのであるが…
そこにはなにもなく、ぽっかりと空き地があるばかりであった。
たったいま整地されたばかりのような、草木一本ない空の土地である。
「なにゆえ! 家がない!」
オロオロする陳寿犬であるが、ふと、空を見て、そのままあんぐりと口をあけたまま固まってしまった。
亮も、その視線をたどって、夕闇の迫ってきた仙台の空をともに眺める。
「もしかして、あれ?」

亮が上空を見上げる先には、なんと空中に、風船のようにぷかりと浮かぶ一軒屋があった。

陳寿犬はうろたえて叫ぶ。
「ナニコレ! いつの間にこんな凄いリフォームしたの? 
ビフォアーアフターの匠の仕業? それとも天空の城ラピュタ? ラピュタは本当にあったんだ!」
「これは凄いな…」
どういう理屈でこうなったかはわからない。
しかし、陳寿の家が、上空へお引越ししたのはまちがいない。
そして、陳寿が家に帰れない、ということもはっきりした。
陳寿犬は上空に向かって遠吠えをしてみたが、家が地上に戻ってくる気配は一向にない。
もしかして聖剣の効用かと、例の銀の腕輪を填めたり外したりをしてみたが、まったく変わりはなく、家はぷかりと浮いたままだ。
夕闇にシュールに浮かぶその家をながめていると、明かりが消えたりついたりしているので、中に人がいるらしい。
これまたシュールなことに、ふつうに生活しているらしいのだ。

陳寿はしばらく家から離れずに、じっとお座りをしていた。
「うちの家族はうっかり者が多いので、宙に浮いていることを忘れて、ふつうに外へでて、真さかさまに地上に落ちてしまうかもしれませぬ。そうならないよう、ここで見張らねば」
「その心配はなさそうだよ。ほら」
と、ちょうど上空に浮かぶ空の庭に面している窓が開き、そこからお母さんらしき女性が、庭に下りるように、ふつうに空中に下りてきた。
が、そのまま透明の板の上にでも乗ったように、空中に立った。
よくよく見ると、物干し竿も空中に浮いており、そこに干したままの洗濯物を取り込んでいるのだ。
風に乗って、こんな会話が聞こえてきた。

「お姉ちゃん! 洗濯物を取り込んでって言っておいたでしょう! なんでやってないの! またゲームしてたの?」
「ごめんなさーい」
「返事ばっかりいいんだから、まったく!」

「……元気そうだな」
「どういう現象かわからないけれど、彼らは無事だということがわかったんだから、今日はうちへおいでよ。このままここにいて、また例の銀の小人が現われないとも限らないし」



亮は道すがら、これまでの事情を詳しく話した。
陳寿犬のほうも、同じく事情を説明する。
「お互いの話を総合すると、いま仙台は外界から隔絶した離れ小島みたいになっていて、時間すら、12月で止まって、ループしている、と。
で、君はループした中でかならず家族と一緒にK杉山小学校へ行き、そこで『諸葛亮』と遭遇したり、『趙雲』と出会ったりしている。
諸葛亮というのは君の前世の故郷の偉い人で、趙雲というのは同じく偉い人で、二人は仲良し。最初に遭遇した『諸葛亮』は、いまわたしが持っている聖剣アスカロンを所持しており、君を殺すために現れる。
君を狙う理由は『ケルベロス』だから。
でもケルベロスがなにを意味するのかはわからない。それを阻止するのが金髪美少女だが、阻止の甲斐もなく、君は死ぬ。
そうして再び目覚めた君は、まったくおなじ経緯でもってK杉山小学校へ向かうが、前回の記憶が残っていたために、中に入ることを渋る。
そして趙雲と遭遇することになり、世界がループしていること、今日の12月4日、『諸葛亮』が聖剣アスカロンを手にするが、レティクルに襲われ、取り込まれてしまうから助けてやれと言われる。でも青葉山に来てみたら、襲われていたのはわたしだけで、『諸葛亮』はいなかった、と」
「そこが変なんだよなー、亮殿、名前が超紛らわしいんだけど、本当に丞相さまじゃないの?」
敬愛する諸葛亮でない、とわかってからは、陳寿の言葉はどんどんくずれてきている。
「わたしはどう転んでも女だし、絶対に違うよ。ジョージもわたしを男だと思いこんで、『諸葛亮』だと信じたんだ。
でもこれで一つわかったことがあるよ。ジョージは腕輪を『彼女に渡せ』と言っていたけれど、それは『金髪美少女』のことだ。そうすれば、すべてがうまく行くようになるんでしょう?」
「そうであればよいのですが…」
家に帰れないことが相当のショックらしく、陳寿犬は、とぼとぼと亮の隣を歩く。
そうして木町通りの亮の家(つまりは叔父の家)牛タン専門店「たんたかタン」まで歩いてきたのだが、店の前には、なぜだかパトカーが止まっていた。

このつづきは、「仙台ゴールデンポークスの章・1」につづきます

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