Give Birth to Heaven・6

※ この話は、「Lost Sunshine・3」のつづきとなります。

光景が、また元のとおりに戻ってきた。
「うわ」
思わずアコは声をあげる。
これまでに見たこともない幻想的な光の渦のなかにいた。
そこで出会った三人の男たちと、白銀の光を纏う神秘的な木々。

が、一転して、いま目の前にあるのは、見なれた光景である。
味気ないアスファルト、コンクリートの校舎、だれもいない街路樹と、その脇に佇立する、元気がないように見える銀杏の木。
冬の、薄青色の空と、地平にたなびく形の消えた白い雲。
よく知る、仙台の、アコの通う私立千台栄華学院であった。
決定的にちがうところは、だれもいない、というところだろう。
たとえ休日でも、部活動のために登校している生徒がいる場所だった。
それが、今日は、文字通り、人っ子ひとりいない。
いや、学校ばかりではない。その周辺も静まりかえっていて、出来たばかりのゴーストタウンに迷い込んだような錯覚さえある。

「建物ってさ、人間がいないと、とたんに生気がなくなるものなんだね」
アコがいうと、その前をてけてけと歩く垂れ耳うさぎのくっきーも、同調してうなずいた。
「人の造りしものは、人がおらぬと生きていけぬように出来ておるのかもしれぬ。いやしかし、まこと寂しい光景であるな。常日頃、人の出入りの激しい場所だとわかっているから、よけいにそう思ってしまうのであろうかのう」

これでくっきーがいなければ、泣きたくなるほど心細くなっただろうなとアコは想像する。
自分たちを乗せてくれたバスも、とっくの昔に行ってしまった。
それきり、道路には、車の一台も通らない。
学校の周辺は空き地と宅地がまばらにつづいている。
普段から、生徒以外の通行人は多くない場所ではあったが、それにしても人が少なすぎた。
駅の周辺にて、轟音をたてて空を飛んでいたヘリコプターも、この郊外までは来ていないようである。

「ヨーコどころか、だあれもいないみたいだね。職員室か事務室にだれかいないかな」
「うむ、連続怪死事件を受けての休校ならば、連絡係として、だれか残っているはずだな」
「でもさ、くっきー、さっき、あの男の人たちがしていた作業って、世界の構築とかなんとか。
それが遅れていて、もしかして、こんなに人がいないんじゃないの?」
「元からいない、と申すか。それはないぞ。さきほど政宗も言っていた、というより打っていた、というべきかのう。明日には宮城全域をカバーできる、と。
つまり仙台のカバーは終わっている、ということなのだ」
「それ、おかしいなって思ったんだけど、さっきくっきーは、この世界に個人データを打ち込んで、現出させている、みたいなことを言っていたじゃない? 
で、悪い人は、そこから除外されているわけでしょう」
「うむ、そなたは賢いのう。世界の状態を、もう把握したか」
「誉めてくれてうれしいけど……でも、矛盾してない? 悪人がいないのであれば、どうして吸血鬼なんてものがいるの?」
「それは、吸血鬼というものが、まさに衣類を噛み切る虫のような存在であるからなのだ。
いかに我らや女神らが世界を完璧に守ろうとしても、やつらは穴をつくって、そこから侵入し、魂を狩る」
「魂を狩る? 血を吸うのじゃないの?」
「うむ、説明が必要だのう。われらがこの場合、言っているのは、ジル・ド・レなるフランスの吸血鬼であるわけだが、こやつは不死人、つまりは人間なのだ。
そなたも知っているような、棺おけのなかで昼間は体を休ませ、夜になると活動する、あれに酷似しており、あやつは三百人ちかい少年を惨たらしく殺したために、当時の司祭たちから不死の呪いをかけられた。
通常の食物では飢えを満たすことができず、人の生き血をすすることしかできぬ。
よくヴァンパイアは美女を狙うが、あやつの場合、変態なので、美少年か美青年でなければ手をつけぬ」
「変態……」
絶句するアコに、くっきーは、さもありなん、というふうに、つよくうなずく。
「うむ、変態ぞ。とくにジャンヌ・ラ・ピュセルに似た金髪の美少年を好む」
「ジャンヌ? それってジャンヌ・ダルクのこと? あ、なんか思い出した。ジル・ド・レって、有名な人だよね。シリアルキラーの元祖みたいな人。でも、ジャンヌ・ダルクは女の子でしょう?」
「そこがそれ、変態らしく屈折しておってのう、男装した美少女のなかに、永遠の美少年像を見たのだな。
そこからが真の悲劇のはじまり。ジャンヌに強烈に恋心を抱くも、政治的な理由から引き離されてしまう。そして引き離されてしまったあと、ジャンヌは敵方の手に落ち、火刑にされてしまうのだ。
以来、ジャンヌ・ダルクの面影を捜し求めるも、出会うのはたいがい偽者ばっかり。次第に神への不審を高め、悪魔崇拝に傾倒する」
「思い込みがつよい人だったみたいだね」
「そう、そのとおり。悪魔崇拝の果てに大量殺人に手を染めるのだが、その共犯となった青年が、なんとジャンヌにそっくりだったという倒錯ぶり。頽廃のきわみであるぞ」
「うわあ。すごい世界。濃すぎてくらくらするね」
「酔うのはまだ早い。この男は、最後は逮捕されて絞首刑ののちに火刑となったのだが、さっきも説明したとおり、司祭の呪いによって不死となり、永遠に満たされぬ渇きのなかで生きることとなった。
ところがめげぬのだな。いつか最後の審判が来て、ジャンヌが復活するまで生きるのだと奮起してしまいおった。
で、人の生き血を吸って栄養補給をしながら、その日を長々と待っていたのだが、ジャンヌが転生することはない。なんたって、アトラ・ハシースになったのだからな。
それを知るや、やつめは悪魔と契約し、世界を渡る力を身につけた。
で、何百年とジャンヌのストーカーを続けているのだが、えんえんとふられっぱなし。それはそうだがな」
「迷惑な……軽く言っているけど、くっきー、昨日の事件は、ジル・ド・レが起こしたってこと? だったら、許せないよね!」
「うむ、許せぬ。が、ちと気にかかるのが、昨日の犠牲者がすべて女であった、ということなのだよ。
ジル・ド・レは美少年趣味なので、女は相手にしないのだ。それが昨日はどういうわけか趣旨替えしおった」
「ほかに仲間がいるってこと?」
「うむ、かもしれぬが、まだなんともいえぬな。ともかく今は、現状がどうなっているのかを把握することだ。
この世界は、あくまで『夢の世界』のコピー。『夢の世界』と対応しており、この世界の異変は、『夢の世界』の異変と見てよい。
向こう側にいるわれらの仲間のために、われらも奮起しなくてはならぬ」
「われらの仲間? まだ仲間がいるの? さっきの三人だけじゃなくって?」
「うむ。いずれ判ろう。そなたは不安になることはないぞ。なにせ、このわたしがついているのだからな!」
そういって、垂れ耳うさぎは、得意そうに、むん、と胸を張って、かかか、と高らかに笑った。

「あれ」
ふと、アコは、それまで人の気配がまったくしなかった見晴らしの良い校庭のなかで、動くものをみつけて、首を動かした。
「人がいるよ、くっきー!」
言いながら、アコは、動くものを追いかけるようにして、走る。
それは、管理棟から飛び出してきて、校舎の裏側、職員駐車場の真ん中を駆け抜け、そして、裏門の街路樹を抜けて、猛スピードで走り去っていく。
走って追いかけたが、追いつくことも、声をかけることもできず、そのまま、見失ってしまった。
が、アコは、逃げていった者のうしろ姿は、はっきりと確認した。
知っている人間の後ろ姿だったのだ。
「シマノだったよ、くっきー」
と、振り返れば、うしろから付いて来ていると思ったうさぎがいない。
見れば、アコから五十メートルほど遅れて、長い垂れ耳をだばだばと揺らしながら、懸命に走ってきているのだった。
駆け比べをしていなかったので気づかなかったが、くっきーは、うさぎにしては、相当の鈍足なようだった(通常、うさぎの脚力はすばらしく、最高で時速40キロで走れる)。
「ごめん、ごめん、抱っこしてあげればよかったね」
息を切らして駆け寄ってくるくっきーに手を伸ばし、アコは謝る。
くっきーのほうはといえば、顔を思い切りくしゃくしゃにしかめて、悔しそうに言った。
「ぬう、うさぎの身ではあるが、半端に力は以前のままぞ。これで霊力を使えばちがうのだが、いまはあまり無駄な力は使いたくないのだ。うう、苦しい」
「水、飲む? たしか保健室の裏手に蛇口があったと思うけど」
「水はいらぬ。アトラ・ハシースの体力は自然回復だからな。で、なんだって、シマノ?」
ぜーはーぜーはーと、荒く息をしながら、くっきーは尋ねてくる。
それを両手でかかえて、シマノの消えた方角を向きながら、アコは答えた。
「うん、シマノだったよ。昨日と同じ格好をしていたみたい。どうしたんだろう、なにか校舎の中であったのかな。全速力で逃げてく、って感じだったみたい」
「ぬう。校舎の中になにかいるのかのう」
と、アコが、くっきーを抱えて、ふたたび校舎のほうに振り向くと、正面玄関のところに、異様なものが立っていた。

白い影である。
非常口のマークの、あの簡素化した人間のシルエットそのままの、白い影が、ぼーっと立っていた。アコたちのほうを向いて。



私立千台栄華学院に愛車(?)のフェアレディZで到着したとき、鈴木剛志と、その愛犬(?)ポニーは、すぐに異様な空気に気づいた。
車から一歩降り立っただけで、なにか、虫の知らせともいうべきものが、悪寒というかたちで、危険を報せてきたのである。
とはいえ、見た感じの学校の様子におかしなところはない。
ちょうど学校に到着したのが、なんだかんだと病院まわりをしたあとだったため、帰宅時間ということもあってか、校舎の外には、多くの生徒たちがいた。
帰宅する者、メールをする者、校庭で部活動にいそしむ者、外へ買い物に出かける者、芝生の上でひなたぼっこをしながら雑誌をめくる者。
平和な女子高の風景だ。
おかしなところは、どこにもない。

「怪談の舞台になっているとは思えない明るさだな。だが、なんだかおかしいな」
「ええ、おかしいわね。威圧感? なにかしら。とてつもなく大きな敵意を感じるわ。でも、霊力は感じない。どういうことかしら」
「おい」
鈴木は、後部座席で身を乗り出し、学校のほうに鼻を突き出しているシェットランドシープドックに言う。
「霊力っていうことは、なんだ、やっぱり幽霊か? そうなのか?」
怯えまじりの鈴木の顔に、ポニーはうんざりした表情を見せて、答えた。
「だから、ここに来るまでにいろいろ説明してあげたでしょう。霊力っていうのは、幽霊の力じゃなくて、この世界を動かしている自然界の力よ。
わたしたちアトラ・ハシースは、世界を動かすこの見えない力を元に動いているの。この力が尽きずにあれば、不眠不休で動くことも可能だわ。食事もいらないの。便利でしょう」
「たしかに便利だ。自然の力を動力にした、永久機関みたいなものか」
「まあ、ちょっとちがうのだけれどね。絶えず動くためには、同じく、絶えず霊力を補給していなくてはならない。
この補給という活動が、なかなか骨が折れるのよ。あまり自分のために汲み取ってしまうと、世界のバランスが崩れるし、かといって遠慮してあんまり取らないでいると、今度はいざというときに動けなくなる」
「なるほど。不安定なものなんだな」
「そうよ。さっきの話に戻るけれど、わたしが感じている『霊力がない』ということは、つまりは、わたしたちと同じように『霊力を大量に使用して動く存在の気配を感じない』という意味だと思ってちょうだい」
「つまり、敵がいないということだろう。敵というものがなんなのか、俺もよくわかっていないのに、アレなんだが」
「まあ、いろいろアレだわよ。さて、怪談を辿ってここまできたはいいけれど、ずばり言う。この中に入るのはオススメできないわ」

強ばった顔(犬にも表情がある、というよりも、犬の体の中に高度な精神体が宿っているために、表情が異常に豊かになっているようである)を浮かべるポニーに、鈴木は、いまさらか、というふうに苛立った声をあげた。

「さんざん早く行こうと焚きつけて、いまさらそれか?」
「悪かったわよ。あたしに予知能力はないの。まさかこんなふうになっているとは思わなかったんだもの。大量の何者かの気配があるわ。蠢いている」
「蠢いている、とかいうな。余計に気持ちが悪くなるだろう!」
「あーら、仕方ないじゃない。本当のことだもの。あたしが焚きつけたってことが気に食わなくて意地になっているのなら謝るわ。
あなた、せっかく生き延びたのに、ここで死にたくないでしょう?」
仰天して、鈴木は窓から尖った鼻を突き出している犬にたずねた。
「死ぬ? そこまでヤバそうなのか?」
すると、犬のほうは、そのブラックオニキスのようにつやつやした黒い瞳を校舎のほうに向けたまま、優美な毛並みを揺らせて、うなずいた。
「ヤバいわね。向こうがこちらの気配に気づかないうちに、早く撤収したほうがいい」
「撤収して、どこへ行く」
「家に帰りましょう。クロウ、だったかしら? その情報提供者から、またちがう情報が入っているかもしれないでしょう」

それはそうだが、と鈴木は校舎を、もう一度振り仰ぐ。
危険だ、ということは、しゃべる犬に指摘されるまでもなく、本能が絶え間なく警告してきていた。
悪寒と、いやな汗が、さきほどから止まらない。
新聞記者として、いろいろな事件を追いかけてきたその経験からも、これはマズイ、ということは感じ取れる。

とはいえ、奇妙なことではあるが、この初めてやってきたはずのこの場所に、強烈に惹かれるのも事実だった。
理由はわからない。
女子高生が大好き、という、いささか変態めいた理由でもない(嫌いでもないが)。
なにがこうも自分の足を引きとめているのだろう。
無くなった記憶の断片が、この場所に残っているからか? 
それとも、なんだろう、気配? 
何の気配を感じているんだ、俺は。

そうして考えていたとき、連続して起こっていた悪寒のなかでも、とくに強い悪寒が襲い掛かってきた。
なんだ? 
突然、絶対零度の大気なかに放り込まれたような寒気。全身が、がくがくと震えてきた。
「ちょっと!」
背後の犬が、切迫した声をあげる。
鈴木は気づいた。
先ほどまで、校庭や正門、そして正面玄関にいた少女たちの姿がなくなっている。
休憩時間が終わったので校舎に戻った、などという理由ではない。彼女たちのいた痕跡は、そのままその場に留まっていた。
主をなくして、風の向くままにページをめくる雑誌、校庭に、まだ転がっているボール、途中で放り投げられたように横倒しになっている自転車。
消えた。
いなくなったのだ。

「敵だわ!」
いいざま、それまで車内にいたポニーが、車窓の隙間から飛び出してきて、鈴木のまえに降り立った。
アスファルトのうえにその四肢をかまえ、だれもいなくなった空間を睨みつける。
「敵? 敵って、なんだ?」
「レティクルよ!」
毛を逆立てて叫ぶポニーであるが、しかし、しばらくして、鈴木は、そのポニーの背中も、自分と同じくらいに震えている事に気づいた。
「おい、ポニー? 大丈夫か?」
「大丈夫じゃ、ないわよ」
乾いた返事が聞こえる。
もっとはやくに逃げるべきだった。
舌打ちをして、鈴木は、自分の車を振り返る。
キーはまだささったままだ。
敵だというが、その姿はまだ見えない。
いますぐ、ひとりと一匹でこれに乗り込み、校内から脱出することはできるのではないか。

が、そんな鈴木の心中を読み取ったか、鈴木を守るようにして四肢を突っ張らせている犬は、言った。
「駄目よ、もう逃げられないわ。囲まれた!」
「囲まれた?」
ぐるる、と唸り声をあげて威嚇する犬の、その目線の先には、鈴木には何も見えない。
少女たちの消えた、不気味なほど静かな空間があるだけだ。
彼女たちの痕跡のところどころ見えるその光景は、どこかルネ・マグリットやダリの描くような、シュールレアリズムの絵画を思わせた。

「なんなの、こいつら? 霊力で動いているんじゃないの?」
唸り声をあげるも、どうやらその効果はないらしい。
鈴木は見えない敵を見ようと、必死に目を凝らすが、やはり目の前にあるのは、透明な空間だけである。
「銀の小人どころの話じゃないわ。これがレティクルの新兵器ってわけ? 初っ端から、運が悪いわね!」
「ポニー、敵って、どれくらいいるんだ」
「数え切れないほどよ!」
苛立ちの籠もった声が返ってくる。
「洒落にならないわ。あたし、攻撃型じゃないのよ。
困ったわねー、こういうときに役に立つのって、だれよ?」
「だれか知り合いでも呼べるのか?」
「あたしの作ったキャラならね! といっても、オリキャラに限る」
「おまえが何を作ったのかわからん。というか、もしかしておまえ、漫画家か?」
「ちがうわよ! もー、イマイチ切迫感ないわね! 囲まれてんのよ、わかってんの? 
いいこと、あたしが逃げろって言ったら、あなた、校舎の中に逃げるのよ!」
「校舎の中? 車で逃げるんじゃないのか?」
「駄目よ。正門からここまで、何百って数ね。びっしり埋もれているから、車で突破しようとしたら、きっと飲み込まれるわ」
「なにに? 敵か? 敵って透明人間かなにかか?」
「あたしにもわかんないわよ。なんなのこれ? 霊力で動いていないけど、すっごい敵意……いえ、悪意ね。それをびしびし感じるわ。
只人だったら、この気に当てられて、正気を失いかねない」
「どういうことだ?」
「いいから! いいわね、さあ、いまよ、校舎に逃げて!」

ポニーの声に応じて、鈴木は正面玄関に飛び込むようにして足を入れる。
すると、校舎の中に一歩入ったとたん、体も心もほぐれ、どころか、羽毛のようにふわりと軽くなったように感じられた。
「なんだこれは」
それはそれで、異様な感覚である。
そして、外にはだれもいなくなっていたが、中に入ると、やはり少女たちはそのままで、飛び込んできた男の姿に、目をぱちくりとさせている。
片手にパックのジュースを手にしていたり、あるいは帰宅のため靴を履き替えていたり……ふつうの光景だ。

あまりにふつうの光景がそこにあったため、つい笑いたくなった鈴木だが、われに返って、振りかえった。
すると、そこに見えたものは、すさまじい光景だった。
悪意、とポニーは表現したが、まさにそうとしか言いようのない、地獄絵図に登場するような亡者たちそっくりの姿をした、何百というおぞましい姿の者たちが、一匹の犬にいっせいに襲いかかろうとしていた。
犬の姿は真白い光輝に包まれているが、ほとんど全裸で、体型も崩れてしまって、人間らしい造形ですらなくなっている者たちは、それを目当てに、奇声やうなり声をあげてかまわず襲い掛かる。

「ポニー!」
たしかに、逃げろと言われたが、しかし助けるな、とは言われなかった。
しゃべるうえに、口にすることは非常識なことばかりの不思議な犬だが、悪いものではない。
現に、あの不気味な連中から、俺を助けようとしてくれた。

見捨ててられるか!
そう思ったとたん、腹の底から勇気が沸いてきて、恐怖が消え去った。
鈴木はふたたび校舎の外へと飛び出していった。

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※ この話は、「Give birth to Heaven・7」につづきます。