Give Birth to Heaven・5

※ この話は、「Lost Sunshine・2」のつづきとなります。

連続怪死事件の影響は、町のあちこちに出ているようである。
幹線道路には、業務用やタクシー、バスばかりが目立ち、自家用車の姿はすくない。
関連の掴みづらい怪死の原因が、ウィルスによるものという、マスコミの流した仮説が、人々を屋内に閉じ込めているようであった。
アコは、ヨーコの家のある錦町から移動して、仙台駅西口にあるバスプールへと向かった。
いつもならば人の絶えないその場所も、めずらしく人影がまばらである。
客待ちのタクシーも列になってつづいていて、ほとんど動きがない。
空っぽの箱に見えるバスは、混雑がない道路を、すいすいと移動する。
人がいないというほかは、町並みに特に変化はないというのに、なぜか信号の赤と青が目につよく訴えてくる気がするのが、ふしぎであった。

いつものバス停でしばらく待っていると、おなじくいつものバスがやってきたのだが、やはり乗客の姿がない。
アコが座席を選んでいると、灰色のロップイヤーラビット(音声つき)くっきーが、隠れていたバスケットの蓋からひょこりと顔をだし、小声で囁いた。
「一番奥にするのだ! 貸切り感が味わえるぞい!」
アコとしては、反対する理由もなかったので、バスの最後部座席、多人数掛けになっている座席に腰かける。
ほかに乗客がだれもいないため、車内はがらんとしていて、怖いくらいに視界がよい。
かえって落ち着かないなあとアコは思うのだが、くっきーのほうはそうではないらしく、バスが動き出すと、運転手に気づかれないだろうと判断したのか、バスケットから顔を出して、そのままアコのとなりに座って、なにやら腕と足を組み、ふんぞりかえって見せる。
「空いているバスでは、これをやらぬとのう」
と、むかしは偉い人だったはずのうさぎは、満足そうに言った。
くっきーの毛が座席シートに残らないように、降りるまえに掃除をしなくちゃな、と几帳面なアコは思う。
くっきーのほうは、アコのそんな心配もしらず、鼻歌などを歌いながら、バスの揺れに身をまかせている。
ペット同伴は禁じられているので、運転手に見つかったら、怒られることはまちがいないが、アコは、もしそうなった場合は、これは日本の最先端技術によって生み出された、リアルなうさぎ型ロボットだと言い張ろうと決めた。

腕時計を見ると、五時間目がちょうど終わったころである。
SHRもそうじの時間も終わり、帰宅中の生徒たちとすれちがう時間に学校につく計算になる。
学校の正面玄関へ向かうまでの道は一本道である。そこを逆行するかたちになる。
帰宅する生徒の群れのなかに知った顔がいると、ちょっと困るかな、とためらいもあるが、アコは、それでもともかく、ヨーコがどこでどうしているのか、確かめなくては落ち着かないのだから、と自分に言いきかせた。
車窓からながめる、閑散とした仙台の街は、黄金色の銀杏ばかりが華やかである。
まるで仙台の町が銀杏に乗っ取られたようだな、想像したら、さびしさもまぎれてきた。
自然環境の悪化に怒った銀杏たちの逆襲。
ホラーである。

「こんな事件が起こるなんて、ついてないね。せっかく、もうじきクリスマスなのに」
と、アコがつぶやくと、うさぎはそれを聞いて、応じた。
「仕方あるまいよ。状況が状況であるからな。ところで仙台という街は、クリスマス近くになると、銀杏並木をイルミネーションで飾ることで有名だと聞いたが」
「クリスマスに近づくとはじまるんだよ。まだ飾り付けをしている段階じゃないのかな。
きっと綺麗だろうね。去年は学校の帰りに、クラスの子と見に行ったなあ」
一年生のときは、まだヨーコたちに目をつけられておらず、アコは平和な学園生活を送っていたのである。
思い出していると、アコのとなりでくつろいでいるくっきーは、なぜだか得意そうに、にまにまと笑う。
「ほほう、そなたはイルミネーションが好きか」
「んー、やっぱり綺麗なのはいいよね」
「そうか、そうか、では楽しみにしているがよいぞ」
と、くっきーは意味ありげにいうと、また、くふくふと声を殺して笑っている。
どうにも怪しさ満載のうさぎである。

やがてバスはアコの通う、私立千台栄華学院に到着した。
通常ならば、帰宅する生徒で歩道は混雑しているはずなのだが、今日は、事件の影響なのか、人影がまったくない。
「あれ、もしかして、午後停業になったのかな」
と、無人の道路を見回し、アコはつぶやく。
すると、人目がないことを確認してから、バスを降りる段階でバスケットに隠れていたうさぎが、ぴょこんと飛び出して、道路に、器用に二本足で降り立った。
「だれもおらぬのう」
「これだけ人がいないと気味が悪いね。部活もやってないみたいだし」
と、アコは校庭のほうを見る。
いつもならば陸上部やラクロス部などが練習をしているはずなのだが、校庭からも、生徒の声が聞こえてこない。
「門は開いているけど、校舎に入れるかなあ。というより、ヨーコはいるかな」
つぶやくアコであるが、となりの灰色のうさぎは、なぜだか、また、にやりと笑った。
「ふうむ、それでは、だれに気兼ねすることもなく、見ることができるな」
「見るって?」
たずねるアコをよそに、くっきーは飛び跳ねるようにして大股で歩くと、早く先へ進むように、というふうに手招きをする。
「どうしたの」
アコがたずねると、くっきーは長い垂れ耳を揺らしながら、月面で移動する宇宙飛行士のようにスキップして、さらに先に進む。
「早く、早くこちらに来るのだ」
「どうしたの、ってば」

アコが問いながらもうさぎを追いかけると、やがて、前方に、信じられない光景がひろがっていた。
アコの学校の、正面玄関につづく一直線の道は、じつに何の変哲もない、コンクリートのゆるやかな坂である。
その左右は、やはり銀杏並木が並んでいるのだが、アコがおどろいたことに、その銀杏並木は、黄金色ではなく、白銀色になって、それがまるで氷の結晶を身に飾っているように、全身をキラキラと輝かせていた。
さながら水晶と氷とで飾られた木立のなかに足を踏み入れたような、すばらしく幻想的な光景である。
並木の周囲に飛ぶ、星のような光の結晶の正体はわからないが、それは独自にゆっくりと軌道をえがいて動いており、なかには、いたずらっ子のように、せわしなく飛び回るように動いているものもある。

あまりのその美しい光景に、アコは、口をぽかんと開けて、立ち尽くした。
前方を歩いていたうさぎのくっきーは、にこにこと満面の笑みを浮かべつつ、くるりと振り返って、言う。
「どうだ、美しかろう。素晴らしかろう。世界樹の木立にようこそ、なのだ!」
「せかいじゅ」
唖然としたまま、アコは、くっきーのことばをくりかえす。
どんな芸術作品や写真をながめても、これほど感動したことはなかった。
電気仕掛けのものにはない、本物だけが生み出せる圧倒的な存在感が、白銀の木々にはある。
いつか夏の夜に見上げた、銀の盆のような月。
その月の光が目の前に降りてきて、目の前で踊っている。
白銀の木々のあいだでふわふわと踊る光は、風に乗って、優しく木々のあいだをまわっている。
光のまたたきを見つめているだけで、どこからか絶え間なくうつくしい旋律が聞こえてきそうであった。

感動のあまり、声もだせずにいるアコに、となりのくっきーは言う。
「どうだ、気に入ったか、アコよ。これはみーんなすべて、そなたのためにあるものなのだぞ」
「あたしのため?」
おどろいてアコがたずねると、くっきーは、ますます得意そうに胸を張った。
「そうだ、そなたのためのものなのだ! ここにある木々は、そなたのために冥府の女神たちより贈られた世界樹なのだよ。
これがあるかぎりは、この世界は存続する!」
なんだかいいことだ、ということはわかるが、アコは意味がつかめず、目をぱちくりとさせる。
「世界って?」
「わからずとも、よい。ただ聞いてくれ。そなたの世界は、そなたの力で維持されている。が、それも限界があるはずだ。
それゆえ、女神たちは、そなたのために力を出し合って、世界の維持のために必要な分の世界樹をつくって、贈ってくださったのだ」
「ありがたいな、ってことは、わかったけど、でも、どうして、あたしのため、なの?」

民話や童話でいけば、人外のものに親切にしてもらえるのは、最初に自分が親切さを見せたからである。
アコは考えてみたが、鶴や蜘蛛のように動物をたすけた記憶もなければ、お地蔵さまに笠をかぶせるといった、粋なはからいをした記憶もない。
こうまで贔屓される理由がわからないのだ。
アコが首をひねっていると、うさぎは、さもありなん、というふうに、うなずいてみせた。
「わからずともよいよ。いずれわかることであるからな。ただ、わたしがそんなことを言っていたと、頭の隅に置いておいてくれ。
そのうちに、役に立つことがあるだろう」
「そうなの? じゃあ、そうするけど……でも、これって、すごいね。世界樹っていうの? こんなにきれいな木、はじめて見た」
まるでこの世のものではないような。
雪を受けて立ち尽くす枯れ木もまた、それなりに凛とした風情を持つものだが、この銀色の木々は、ただただ、美しい。
華やかで、神秘的で、そして優美である。

「葉っぱのあいだに飛んでいる、あの光の結晶は、なに?」
「あれか。あれは、世界中を守る番人の光だ。ちいさいが、かれらがいれば、人工廃棄物から生み出された銀の小人がどれだけ大量にやってきても、木々を守ることが可能なのだ。だから、木々を守るための力を割く必要もない。
まこと、至れり尽くせりのみごとな木々なのだよ。さすがは女神。配慮が行き届いておるのう」
と、女神の代理人とでも言うように、くっきーは誇らしげに言う。
が、この神秘的な光景に呑まれていたアコは、気づいた。
「でも、これだけすごいものを、ほかの人がみたら、大騒ぎになるんじゃない?」
「それは安心せい。そなたがこの木立を見ることができるのは、わたしと同行しているからなのだ。
この木立は、わたしがつくった結界のなかにある。只人がここに到達するためには、わたしの許可がなくてはならぬのだ」
「秘密の花園というか、秘密の木立、っていうわけだね」
「ま、そのようなものだのう。じつに贅沢な秘密であるが」
たしかに、これほどに贅沢な眺めはない。
しかも、これを見ることができるのが、いまは自分だけという優越感は、なかなか味わえないものである。

「けど、くっきーって、すごいよね。ほんとうは、よっぽど偉い人なんじゃない?」
「ぬふふ、まあな」
喜ぶくっきーに、アコは、ずばり指摘してみせた。
「その正体は、久喜新座衛門とか!」
「………く、くきしんざえもん? だれなのだ、それは?」
「えーと、たしか戦国武将、だったかなー」
「ぬ、近松なんたらには記憶にあるが、久喜なんたらには記憶にないのう。
アコよ、あいにくと、アトラ・ハシースやアストラルには、そのような名を持つ者はいないはずだがな」
うさぎは、記憶を探って入るのか、腕を組み、はてなと考え込んでいる。
アコはさすがに気まずくなって、笑って誤魔化しながら、言った。
「あ、ごめん、ごめん。あなたは○○でしょ! って言ったら、勢いで『○○ではない、△△だ!』と答えてくれるかなって思ったの」
「むむ、そなた、見かけによらず、策士だな。交渉人の素質ありと見た。
ベテラン刑事は、立て籠もった犯人に、まず適当な名前で呼びかけて、相手が本名を名乗るように仕向けて、交渉のきっかけをつかむのだそうだ」
「え、そうなの。でも運動ダメだから、警察に就職できないと思う」
「ともかく、わたしの正体は、いまは教えられぬ。その代わり、そなたに紹介しておこうぞ。こちらへ来るのだ」

そう言って、くっきーは、アコの前をふたたびてくてくと歩きだした。
銀の木立のその足元は、アスファルトではなく、きらきらとダイアモンドのような結晶のちりばめられた土になっており、歩くと、霜柱の立った地面を歩いているような、ふしぎな感触がある。
光の結晶の乱舞する空間を、一歩一歩、贅沢をかみ締めるようにしてすすみながら、アコはうさぎに連れられて、やがて銀の木立に囲まれた、ちいさな円い広場にやってきた。
広場の中心には、地べたに直接座った三人の男たちが、ノートパソコンを抱えるようにして、熱心になにやらキーボードを叩いている。
かれらの画面を投影したものか、三人の頭上には、すさまじい勢いで、打ち込まれた文字が現れては消えていた。
一瞬だけ見えるその文字のところどころを読むかぎりでは、どうやらかれらは、何者かの個人データを入力しているらしい。

三人の男たちは、みな小柄で、しかし引き締まった体つきをしている。
三人が三人とも、厳しい生活を送っている者特有の、野性的で、かつ意志の強さの見てとれる面構えをしていた。
三人は、なぜだか商店街の福引会場で係員が羽織っているような、派手なハッピを着ており、その背中には、
「広瀬川にシャケを呼び戻そう」
と、現実的なのだか、それとも、意味がないのか、判別がむずかしい、とにもかくにも、この幻想的な光景に、まったくそぐわない文章が書かれていた。

三人の男たちは、アコたちが近づいても、顔を上げることすらしなかった。
作業にひたすら没頭しており、あたりには、ぱちぱちと、雨音にも似た、キーボードを叩く音だけが響いている。
「この者たちが、この世界樹たちを管理しているのだ。この仮定の世界の不足した部分を、この者たちが補強しつづけている」
「どういうこと?」
「いま、この世界は、仙台市の一部のみだけしかないのだ」
「え?」
ことばの意味がわからず、アコはぽかんとしたまま、垂れ耳のうさぎを見下ろす。
「つまり、仙台は仙台でも、そなたの記憶にある光景しか存在しておらぬのだよ。未知なるものを創れぬのは道理ぞ。
そして、人気が少ないのも、単に連続女性変死事件が影響しているのではなく、ほんとうにいないのだ」
「ほんとうに、って、みんなどこへ行っちゃったの? 昨日は、ふつうだったじゃない?」
「うむ、つまりのう」
と、くっきーは、慎重にことばを選びながら、説明をつづけた。
「この世界を創ったモノは、まずそなたの記憶をベースにした。だから、そなたの見たもの、知る物は再現できた。
が、見ていないもの、知らないものは創れなかった。
この世界はいま、それこそ、中世ヨーロッパで信じられていた地動説の図説のように、仙台市だけが空中にぽっかりと浮いているような状況で、そのうえに、そなたの見た者たちだけが動いているのだ」
「なにそれ、面白すぎるよ!」
面白いというより、怖い、というのが本音である。
アコが混乱しながらもいうと、うさぎは、さもありなん、というふうにうなずいてみせた。
「本来ならば百万はいる人口のうち、そなたの見た(これはもちろん、知り合いではなく、一度でも視界に入った人間すべてなのだな)者しか仙台におらぬなかで、さらには事件のせいでみな引きこもっているから、街にだーれもいないのだ」
「どうしていなくなったの。というより、仮定の世界って、どういうこと?」

混乱が深まるアコに、くっきーは、両手をばたばたと動かして、急いで言った。
「無理して理解しようとする必要はない。ともかく、この世界が半端だということと、半端な世界を、われらが総力をあげて、補修しているので、そなたはなにも心配することはない、ということがわかってくれればよいのだ。
そなたの意志ではなかったかもしれぬが、『夢の世界』の状況を見て、われらはこの『GBHの世界』と『夢の世界』を合体させる方向で動いておる」
「世界を、合体?」
「うむ。わからずともよい。聞いておいてほしい。『夢の世界』は三回目のループに突入したが、敵もさるもの、学習し、世界を巧みに侵食しておるのだ。
『夢の世界』は、汎世界と切り離されてはおるものの、その影響力は、やはり無視できぬもので、基本世界にもじわじわとその結果があらわれはじめておる。
これを阻止するためには、切り離す、などという応急措置だけでは足りぬ。根本的な解決が必要なのだ。
そこで、すでに侵食のひどい『夢の世界』の部分に、この『GBHの世界』で補修した部分を重ね、ひとつの世界にすることにした」
「することにした、って、だれが? くっきーが?」
「わたしは、その監督者に過ぎぬ。決定を下したのは、女神たちに突き上げられた最高府である」
「なんだかわからないけど、えらい人たち?」
「そんなところぞ。で、ここにいる者たちは」
と、くっきーは、説明をしているあいだも、ただただひたすら、カタカタとキーボードを打ち込んでいる者たちを指した。
「世界の補修の最前線にいる者たちだ。かれらが打ち込んでいるデータは、基本世界にあって、この世界にいない人間のデータだ。
かれらの打ち込んだデータは、世界樹に送られ、世界樹はそれを元に、人間を実体化する。コピーではない。この世界のオリジナルとしてな。
そも、この世界の誕生の動機を尊重し、基本世界において凶悪犯罪にかかわったような更生のむずかしいと思われる人物は、この実体化から除外されておる。
ゆえに、基本世界の純然たるコピーではない、あらたな世界が出来上がりつつあるのだ。
まあ、最高府が女神たちの要求を呑んだのも、この世界の誕生によって、汎世界への影響がどれほどのものか、観測しようという思惑もあったのであろうが」

「ふ、ふーん? 最後のほうは、よくわからなかったけど、ともかくすごいことになっている、というのだけはわかったかも。
でも、世界、って軽く言うけど、要するに、地球の何十億っていう人間のデータを三人で打ち込んでいる、ってことでしょう」
「人間のデータだけではなく、町並みや自然を構成する物質や現象のメカニズムも、すべてなのだ」
監督者、というだけあって、なにやら自慢そうに言うくっきーであるが、アコは、ひたすら五本の指を駆使ししてパソコンに向かう三人を、不安げに見やる。
「三人だけで、足りるの?」
「それは心配ない。データを入力といっても、実際にすべてのデータをひとつひとつ三人が打ち込んでいるのではなく、大元のデータベースであるアカシックレコードより、必要な情報を選抜して、入力しているのだ。
ここの三人の能力は、どちらかというと、あまり重要視されておらぬのだよ。どちらかというと、地元選抜で選ばれたというか」

くっきーのことばに応じるようにして、不意に、個人データだけが矢のように浮かんでは消えていた空中に、はっきりと、メッセージが浮かび上がってきた。

『うさぎ、乙!』

「おお、おまいらも乙、なのだ!」
「乙って…」
なにやら、インターネットに繋ぐとたびたび目にする、慣れなければ暗号としか思えない言葉の群れをアコは思い出した。
「作業は順調のようだな、なによりぞ。明日の朝には、仙台市の全域はカバーできそうな勢いではないか」

『地元舐めんな。明日には宮城全域カバー』

「おお、すまぬのう。さすがはみちのくの雄よ。そなたらを選抜して、正解であったのう。監督者として、わたしも鼻が高いぞ」

ほくほく顔でうさぎがいうと、三人の男のひとりが、はじめて顔をあげて、ちらりとうさぎを見た。

『うさぎ、カワユスww』

「お、そうか、かわいいか。誉められても何も出ぬぞい。とかいいつつ、ちょっと差し入れを考えてしまうわたし」

『うさぎ、誉め言葉に弱すぎ、ワロタww』

「なにぃ、いまのは嘘か!」

『なんという釣り。うさぎ、涙目ww』

「釣られたー! というか、某掲示板用語はよせというに! まったく」

ぶちぶちうさぎは言いながら、唖然としているアコのほうに顔を向けて、説明をした。
「こやつら、地元出身のアストラル&アトラ・ハシースなのであるが、久しぶりに現代日本に召喚されるというので、張り切って標準語を学んできたのだ。
ところが、なにやら勘ちがいをして、学ぶ場所を間違えたらしいのだな。しかも微妙に使い方も間違っている気がするし。困ったものぞ」

『そこが仙台クオィティ』

「自分で言うな」

『マジレスすると、日本全域をカバーするのに、あと十日はかかると思われ。それより、レティクルの襲撃がないか心配』
『レティクルというより、例の吸血鬼のほうがヤバス』

「ぬう。この世界樹への対レティクル防護は完璧といっていいが、吸血鬼どものほうは、たしかにまずいな」

「まあ、ひとりだけとかなら、おらほでなんとかするだども」
と、ちょうど、アコの真正面で、背中を向けていた男が、くるりと振り返り、口を開いた。
その男、隻眼である。
「二人以上になると、やばいべ。くっきーどんも知ってのとおり、おらも小十郎も、攻撃型でないし。常長にいたっちゃ、あれよ、探索型で、攻撃はだめだあ」
「との、訛り、訛り。そこのめんこい女子に笑われます」
『との』と呼ばれた隻眼の男は、三人のなかでも、のっぺりとした現代的な顔をした童顔の男に言われると、アコのほうをちらりと見て、それから、悲しげに、ぽつりと言った。
「やんだごだ。おら、武蔵の言葉さ、すかね」

『2ちゃん用語使えば使ったで、よそで叩かれるし、もうどうしろと。死んでくる』
『生㌔』
『生きればいいと思うよ』

「なんだか、話し言葉と打っている言葉とに、すごくギャップのある人たちだね」

『っていうか、世界を補修できんなら、改修もできんじゃね? 日本の標準語を仙台弁にするってどうよ』
『それいい』
『激しく同意』

「こるぁ! 勝手な真似をするなっ! そんなことは許さぬぞい!」
くっきーの声に、三人の男は振り返るも、ふたたび沈黙のまま、モニターに顔を戻した。
「まーったく、コンプレックスの強い連中よ」
「伊達って言葉の裏返しにあったものは、コンプレックスだったんだね……」
「訛りがあろうとなんだろうと、フツーにしておればよいものを、どうしても都を意識していじけてしまう、そこがやっぱり仙台クオリティ。
おい、政宗、万が一、吸血鬼がここに来た場合の対策も早急に講じておくゆえ、そなたらは作業に打ち込むがよいぞ」
「あんがとさん」
そういう『政宗』であるが、空中に浮かび上がった文字には、こうあった。

『うさぎに期待。』

と、三人の姿は、やがて空気に溶けるようにして、次第に薄くなっていき、同時に、その周囲に銀の光を燦々とたたえていた世界樹の群れも、やがてすうっと消えて行った。

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※ この話は、「Lost Sunshine・4」につづきます。