Give Birth to Heaven・4

※ この話は、「ループ3・二日目の朝 3」のつづきとなります。

上空に報道のヘリコプターが、はげしい羽音を、駅を中心とした仙台の町に落としている。
TVの報道で、犯行現場を俯瞰図にして紹介した映像を思い出しながら、アコは、マフラーの影に顔を隠すようにして、報道陣の脇を足早に通りすぎた。

報道陣が犯行現場に群がってくれていたのは、アコにとっては幸いだった。
かれらがちょうど壁の役割を果たして、犯行現場を見ないですんだからである。

集団的犯行か、それともあらたなウィルスか……無差別の変死事件に、いまや上も下も大騒ぎ、といった感がある。
市内のほとんどの小中学校が学級閉鎖となり、商店のなかでも、とくに飲食店などは、変死の原因がウィルスであった場合にそなえて、自主的に休業しているところもあるようだ。
『お正月より人がすくないな』
というのは、アコが仙台駅までやってきたときに思ったことである。

ヨーコの自宅のある錦町は、仙台駅より北側の、県庁や市役所などのある本町の右手に位置する、小さいが閑静な高級住宅地である。
昔ながらの素朴な木造建築もあれば、どこかのホテルかと思うほどに豪奢な屋敷もあり、また、高額所得者の多い界隈であるため、そうした顧客を目当てにした、こだわりの趣味の店なども点在している区域でもある。
平地であるから、散歩には最適なのであるが、かつて武家屋敷の並んでいた区域ということもあり、道はせまく、一方通行が多い。
さらには官公庁から近い区域ということもあって、人の姿はすくないものの、道路を行く車の量は多い。
であるから、いささか歩きづらいという面もある。

アコは、仙台駅のバスプールを通り過ぎると、まず、一旦は千台アエラの前を北ヘ直進し、仙台を代表するビルのひとつである花京院スクエアまでいくと、そこで西に向かって歩いた。
花京院スクエアのまえに走る道は、仙台ゴールデンポークスの本拠地である宮城球場方面へむかう国道45号線が走っている。
国道沿いに歩き、最初の信号の手前で左折し、そのまま直進をつづけると、国道界隈のさわがしさが嘘のように、あたりは静けさにつつまれる。
蔦の絡まる白壁の古い洋館の脇を北にまっすぐ進み、生活のにおいの濃くなる住宅地をひたすら行くと、やがて一階に洒落た審美歯科の入っている、新しいマンションが見える。
この区域が、千台家のある錦町である。
仙台でも、もっとも地価の高い場所なのだ。

コンクリートの打ちっぱなしの真新しい社宅や、昔ながらの旅館、さらにはいまにも崩れそうな古い平屋なども並んでいる、高級住宅地というには、いささか統一感のない町ではあるが、新興住宅地にならぶ建売住宅とは一線を画した、個性的な住宅が並んでいるため、どの路地を通っても目に楽しい。
千台家はそうした界隈のなかでも、大きな塀にぐるりと囲まれた、某ファミリーレストランに似た外観を持つ洋館で、ちかくにある旅館の二倍はある、大きな屋敷だ。
敷地のなかにはふたつの建物があり、一方は一階がガレージとなっており、二階部分にもう一方の建物とつながっている通路がある。
来客にそなえて、玄関の前には車回しがあり、広い庭の向こうには、建物に合わせたデザインの東屋がある。

白樺の木に囲まれた黄土色のタイルの屋敷には、ヨーコのほか、アコも通っている千台栄華学院の理事長をつとめる、母のナミと、警察の本部長をつとめる潮、その弟夫婦と、その息子のタケシの六名が住んでいる。
広い屋敷の家事は、通いの家政婦が、二人交代でやってきているということだが、午後の早い時間にすぐ帰ってしまうらしく、アコは彼女たちと顔を合わせたことがない。
屋敷の外壁の色に合わせたのか、特徴的な白い格子をもつ大きな窓のそれぞれには、クリーム色のカーテンがかかっているのだが、アコが知るかぎり、そのカーテンが開いていたことは、めったにない。
ヨーコの部屋は、母屋の二階の、バルコニーをもつ角の部屋で、白樺の木が大きく育って、その頑丈な枝を窓のすぐ手前まで伸ばしているのを利用し、ヨーコは何度もそれをハシゴがわりにして家を抜け出している。

「いつ来ても、人の気配のない家だなあ」
千台家の家紋を、さらに抽象的にデザインした文様が彫金されている、凝った門のうえから、アコがひょいと顔を伸ばしても、だれかが出てくるというふうでもない。
呼び鈴を押そうとしたとき、それまでバスケットに隠れていたくっきーが、ぱっと顔を出すと、するどく言った。
「待て! 触れてはならぬ!」
「へ?」
アコがぽかんとしていると、バスケットから器用に這い出てきたくっきーは、バスケットのヘリを土台にして立ち上がり、アコに、自分を門に近づけるよう、手ぶりで示した。
くっきーの指示どおり、アコは、その灰色の毛もじゃをかかえて門に近づける。
「なんなの? 罠でもあるの?」
アコの問いにも、くっきーは答えず、その指先を、そろそろと呼び鈴に持っていく。
よくよく見れば、くっきーの、うさぎらしからぬことに五本の指をそなえている手は、小刻みにふるえているのであった。
「怖いの、くっきー?」
同情してアコがたずねると、くっきーのほうは、門扉をまっすぐ見据えながら、またも鋭く言う。
「黙っていてくれい。集中せねばならぬ!」

そうして、くっきーは呼び鈴を押そうとしたのであるが、その指先がプラスティックの釦に触れるか触れないかというときに、突如として、指先に蒼白い閃光がぱっとはじけた。
とたん、くっきーは、見えない大きな手で思い切り押し出されたように、門扉に向かったままの姿勢で、背後にむかって弾き飛ばされた。
「くっきー!」
思わず叫ぶアコであるが、さらにおどろいたことに、うさぎはそのまま背後に向かって飛ばされながらも、空中でくるりと見事に回転し、姿勢をととのえた。
そして、道路の向かいにある家の壁をクッションのようにして足で蹴り、さらには、またくるりと宙返りをして、忍者か、さもなくば水泳の高飛び込みの選手のようなあざやかさでもって、地上に降り立った。

「すごい、くっきー! なんなの、その、うさぎらしからぬ、アクロバティックな動き!」
アコが感心すると、無事に地上にもどってきたうさぎは、照れくさそうに、両の手をあたまの後ろで組んで、片足をもじもじとさせながら、言った。
「ええ? そうかのう、アクロバティックかのう」
どうやら、誉められると弱いらしい。

「ともかく」
にこにこと笑っていたくっきーであるが、表情を引締めると、千台家を振り返った。
相変わらず、千台家は沈黙をつづけている。
そも、門から屋敷までの距離がありすぎて、果たして門扉でのこの騒ぎが、中に聞こえているのかどうかすら、たしかめることができなかった。
「いま、なにが起こったの? 門に電流でも流れているとか?」
刑務所の塀がそんな仕掛けになっている、とかいうアクション映画があったなあとアコが思い出しつつ、門扉に近寄ろうとすると、くっきーはそれを制した。
「待て、いま門には、結界が張られておるのだ。いまのそなたが触れたら、わたしと同じく弾かれてしまうぞ」
「なにそれ、結界って?」
思わず門扉から後退するアコ。
灰色のうさぎは、床に大理石の敷き詰められた門扉の前で、むずかしい顔をして、千台家を見やる。
「結界というのは、霊的なバリアーのようなものだな。一定区域を保護するセキュリティシステムと思えばよろしい。
近づいただけで、いまのように弾かれてしまうものもあるし、あるいは使い魔があらわれて、攻撃を仕掛けてくるものもある。使い手によって、その種類はさまざまなのだ。
これは、結界といっても、まだ穏やかなほうであろう。なかには、触れただけで五体がバラバラになってしまうものもあるし、結界そのものが霧や雷雨といった自然現象と結びついている場合もある」
「へえ? よくわからないけど、セコムみたいなものかなあ」
「んー、まあ、判りやすいのなら、そう考えてよろしい。ともかく、千台家には、結界が張られていて、これに入ることはできないとだけ覚えておくがよい」
「覚えるのはいいけれど、どうして結界がヨーコの家に張ってあるの? ヨーコはこの中にいるのかな? 携帯に電話を架けてみるね」

そうしてアコは、携帯電話でヨーコに電話を架けてみたが、やはり昨日と同じ状態で、メールをしても、返信がくる気配がない。
「結界って、電話やメールも遮断するとか?」
アコがたずねると、くっきーはしかめっ面をして、考え込んだ。
「むー、そういう種類の結界も存在するが、千台家に張られているこの結界は、種類としてはたいへんオーソドックスなもので、電磁波を妨害するとか、そういう複雑な性質はもっていないように見えるぞ。まやかしが掛けてあるようにも見えぬ」
「それじゃあ、この中にだれかいるのか、わかる?」
「うぬ、だれもいない、ということがわかる」

アコはがっかりした。
ヨーコが家にいるのなら、安心できると思ったのだが、そうではないのなら、いったい、どこへ行ってしまったのか、探す当てがなくなってしまう。
くっきーはというと、千台家をあらためて振り返り、うめくようにつぶやく。
「しかし、なんという恐るべき力か。クロの世界から力を飛ばして、GBHのこの世界の千台家をも守るとは。
単純な術であるからこそ、かえって強い力を発揮しているのであろうか。もしかすると、基本世界の千台家、いや、汎世界すべての千台家を守れているかもしれぬな」
「どういうこと?」
アコが不思議に思ってたずねると、くっきーは、
「いや、気にするでない」
と言いながら、門扉を離れた。



ちょうど時間は昼休みに入る頃であった。
アコは、ヨーコの家からほど近い場所にあるK杉公園に移動して、家で準備してきたサンドイッチをベンチのうえでひろげた。

夜に起こった連続怪死事件の影響か、普段ならば、抜け道としてタクシーなどの往来が絶えない道も、ほとんど車の影はなく、もちろん、通行人の姿もない。
そして公園にも、ほかに人影がいないことがわかると、くっきーは、アコと並んでベンチに腰かけると、バスケットの蓋を椅子代わりにしてサンドイッチを一緒に食べだした。

上空では、師走の青空のなかを、かわらずヘリコプターが轟音をたてて移動している。
が、その下の、黄金色に葉をつけた銀杏にかこまれた公園は、遊ぶ子どもいなければ、ひなたぼっこをする老人の姿もなく、静かなままである。
ヘリコプターの轟音のほかは、かさかさと、枯葉のこすれあう音だけが、公園のなかで目立って聞こえていた。

「ウィルスかもしれないから、みんな外に出てこないのかな」
サンドイッチをむしゃむしゃと食べながら、ヘリコプターを見上げてつぶやくアコのよこで、くっきーもまた、サンドイッチを頬張りながら、苦々しそうにつぶやいた。
「まったく、マスコミにも困ったものよ。この変死は、ウィルスなどではない。もしウィルスなどであったら、いまごろ県どころか国が動いて仙台市を封鎖しておるわい。
おそらく捜査本部が被害者の死を発表していないから、やたらと騒ぎたてているのであろう」
「どうして死因を発表しないの?」
アコが興味を引かれてたずねると、くっきーは足をぶらぶらさせながら、答えた。
「混乱の元になるからだと考えたからであろうな。しかし、ウィルス説がこれ以上広まるようならば、発表せずにはおられまい」
「死因はなんなの?」
「言ったであろう。霊力の糧として、魂を抜かれてしまったのよ。外傷もなく、内臓の疾患もなければ、新型のウィルスの痕跡もない。傍からは、ただ心臓が停止しただけのように見えるはず。
只人に、死んだ娘たちの真の死因はつかめぬであろうな。
だれが想像する? この世界にあらわれた悪霊ともいうべきものどもが、人を襲ってその命を奪ったなどと」
「想像しないね」
と、相槌をうちながら、しゃべるうさぎの存在も、だれも想像しないだろうなとアコは考えた。

なにかがおかしい。
が、そのなにかがわからない。
ボタンを掛け違えてしまっていることに気づいているのに、いろいろと邪魔が入って、なかなか直せないでいるような、妙な苛立ちが腹の中にある。

「悪魔じゃなくて、悪霊っていうくらいなんだから、くっきーが追いかけている人たちって、以前は人間だったのでしょ? 
くっきーは、悪霊がどんな人たちか知っているの?」
「その器ではないのに、神に選ばれてしまった男と女だ」
「ふうん?」
怪訝そうにアコが小首をかしげると、その横で、くっきーはつづけた。
「英雄はみずからの器を知り、生涯をかけてそれを完成させたものだとわたしは思っている。
悪霊になってしまう者たちは、冷たい言い方をするようであるが、おのれの器量を最後まで正しく測れずに、見果てぬ夢をみつづけたあげく、最後は無念の死を遂げたものなのだ。
まさにその典型といえるのが、あわれなメアリ、そして、その騎士とはなっているが、心の定まらぬシグルトではなかろうかのう」
「メアリとシグルト?」

おや、なにか聞き覚えがあるな、とアコは思ったのだが、どこでどう聞いたことがあるのか、わからなかった。
第一、メアリなどという名前は、あまりにありふれたものだ。
「人が生きるのはむずかしい。そして死に際を選ぶのもむずかしい。
わたしなんぞは、幸運にも完全燃焼の人生だったと思うておるが、そうでなかった者の無念たるや、すさまじいものがあろうな。
古来、人は、そうした者たちの心を鎮めるために、かれらをあえて神として祀り、魂を昇華させ、その祟りが自分たちに及ばぬようにしたものだ。
悲劇は、多くの者の同情を引く。しかし、そこにも運不運というものがあってな、派手な悲劇と地味な悲劇とあって、あまりにありふれた悲劇というものは、どうも見過ごされがちなのだよ」
「そうなの?」

かわいらしい外見をもつ垂れ耳うさぎであるが、むずかしい話をするなあとアコが思っていると、くっきーは、ぶらぶらさせていた足の動きをとめて、うつむきかげんに切り出した。
「さっき、マンションを出るときに、そなたは昔のいじめられた時のことを話していたであろう」
「うん」
「正直に言おう。わたしも、かつて人であったころ、似たように、弱い者いじめに加担したことがあるのだよ。
もちろん、弱いものいじめなぞしてはならぬし、そうした行為を率先して行う者を、心から軽蔑しておる。
けれど、わたしは一家を支えなければならない立場で、当時は派閥だのなんだのとしがらみがいっぱいあって、そのなかで潰されないようにするためには、したくないことも、まわりに合わせてしなければならなかったのだ。
だが、決して率先していじめをしたことはないぞ。弱い者いじめを見てみぬフリをしていただけなのだ」
と、くっきーは顔を上げるが、アコと目が合うと、すぐにまた顔を伏せた。
「わたしからすれば『だけ』なのだが、ひどい目に会わされていた者にとっては、わたしもほかの者と同罪であろうな。
ほんとうに、このように罪を重ね続けてきたわたしが、よくアトラ・ハシースになれたものだと思う。
いいわけかも知れぬが、わたしは、いつも弱い者が虐げられているのを見て、こう思っていた。
『いつかわたしは、ここにいるだれよりも力を得る。そのときまで、そなたの無念を、決して忘れぬ。力を得たそのあかつきには、そなたの無念を必ず晴らそうぞ』と。
なるべくそうしたつもりだ。弱い者いじめをする者なんぞ、健全な組織にとっては不要であるし、たいがいが、たいした才能のない凡庸な者たちばかりだからな。
しかしのう、なんの因果か、わたしが苦労して、腐敗しはじめていた組織を立て直したにもかかわらず、うちの孫から先の子どもたちは、どういうわけだか、みなして欲に走って、弱い者いじめをしおってのう。
あっという間にわたしの夢は費えてしまったのだ」

「くっきーの夢って?」
「天下万民が、なにに怯えることもなく、すこやかに暮らせる日々を取り戻すことであった。
そのために、あれやこれやと改革をしたのだが、わたしの残した財貨を受け取るものはいても、心まで受け継いでくれた者はいなかったようだ」
「でも、くっきーは、いじめられている人のことを忘れずに、その人たちがいじめられなくてすむ環境を作ろうとしたんでしょう?」
「うむ。うまくいかなかったがのう」
「うまくいかなかったとしても、時間はかかっても、ちゃんとその人たちのために動いたんだから、それは見てみぬフリをした、というのとはちがうんじゃない? 
そんなに自分を責めることないよ、くっきー。そういうくっきーだから、アトラ・ハシースだっけ? そういうのになれたんじゃないかな」
「そうかのう」
くっきーはつぶやくと、ちいさくちいさくため息をついた。
「そう言ってもらえると、すこし心が休まるな。
なにせ、わたしのライバルたる諸葛亮というやつは、わたしとは真逆でな、もしだれかが虐げられているのを見たら、派閥だしがらみだなんだというのを飛び越えて、正々堂々と、不正をするなと注意したであろう。
怖い者をあえて怖くないという。意地っ張りといえばそれまでだが、見栄や損得勘定ぬきに、自分の守りたい者たちのために、とことん意地を張れるその強さは、わたしにはないものだ。
いや、あの時代、地位や名誉に最後まで目をくらませることなく、意地を張り通せた者は、あやつだけだったのではあるまいか。
同じ時代を生きながら、こうも違うと、わたしも落ち込んでしまう」

「うーん、むずかしいけれど、どちらが正義、ということもないんじゃないかなあ。
正々堂々と止められる人は、そうしなくちゃ自分の気が治まらないからそうした、という面もあると思うの。
くっきーと諸葛亮さんってひとは、問題の解決方法がちがうというだけで、根本にある心は一緒じゃないのかなあ」
「そうかのう」
「そうだよ。いじめられているわたしが言うんだもん。うちのクラスにも、黙っているけれど、ほんとうはわたしの味方をしてくれている、くっきーみたいな人がいるといいな」
「………」
「みんな黙っているだけで、ほんとうは心のなかで、わたしを応援してくれている人だっているかもしれないものね。
うん、すこし勇気が出てきた。ありがとう、くっきー。」
アコが言うと、垂れ耳うさぎは感激屋であるらしく、つぶらな瞳をうるうるとうるませて、言った。
「ありがとうなどと言うな。泣けてくるではないか」
「だって、言うべき時に言わないと、もしかしたら、次はないかもしれないでしょう?」
「え?」
「うちは両親が事故で亡くなったんだけど、あとから、『あのときに、ああいえばよかったな』って思うことがたくさん出てきたの。
だから、なるべく言えるときに言えることを言うようにしているんだ。
ヨーコやシマノたちにはうまく言えないんだけどさ、でも、ちょっと頑張ってみようかな」
「う、うむ」

「それにしても、ヨーコはどうしちゃったのかな。学校に行っているのならいいけど。昨日のシマノの態度も気になるしなー」
つぶやくアコに、くっきーは、アコの腕時計を覗きこんで、言った。
「そろそろ13時になるのう。移動時間を考えれば、学校につくのは14時すぎになるかな」
「たしか今日は五時限目で終わりだから、今日、学校は休みってことになっちゃうか。
あ、でもいまから移動すれば、ヨーコが学校に行ったかどうかくらいはわかるね。
学級閉鎖してるんだったら、きっと連絡網がくるはずだけど、来てないし。
くっきーはどうするの」
「もちろん、わたしも同行するぞい。気づいたか、アコ」
「なにが?」
「千台家に人の気配はまったくなかった。無人なのだ。それどころか、ほかの生物の気配もまるでしなかった」
「引っ越したってこと?」
「いいや」
と、垂れ耳うさぎは大きく首をふって、千台家のある方向を見据えた。
ちょうど、銀杏並木の向こうに、ひときわ目立つ白樺の木と、それに囲まれた千台家の屋根が見える。
「結界によって守られていることを、吉と見るべきか、凶と見るべきか。
クロの世界の影響か、はたまた、Give Birth to Heavenの世界だからこその誤差なのか、それを確かめるためにも、ヨーコの状態を知らねばなるまい。
学校に行くぞ、アコ」
「悪霊のほうは、追いかけなくていいの?」
「そなたに手をつけられないとなれば、悪霊はヨーコを狙う。あれも霊具を持っているから、たやすくやつらの手に落ちることはなかろうが、この状況はどうも不自然ぞ。
最悪の場合、ヨーコは、人質にとられているのかもしれないな」
「人質? だれに対しての? 諸葛亮さんって人の? 悪霊って、誘拐までするの?」
「悪霊は、悪いから悪霊なのだ。殺人も誘拐もするわい」
「ああ、そうだね、なるほど」
「すべては繋がっておるのだ。さあて、そうと決まれば、さっそく学校へ向かおうぞ!」
と、くっきーは、ぴょん、とベンチから飛び降りると、勇んで仙台駅のほうへと歩きだした。

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※ この話は、「ループ3、二日目の朝・4」につづきます。