仙台、ふたたび・6

※ この話は、「仙台、ふたたび・5」のつづきとなります。

「この怪談の興味深いところは、仙台の街のいまの状況が、少なからず反映されているということだわ。
浅野が口にしていたサイレンは、まちがいなく、
『青葉山に向かって橋を渡ると、空襲警報が聞こえてくる。警報が鳴っているあいだに隠れないと、命を落とす』
のことでしょう。
ほかに空間が虫食い状態になっている五橋に関しては、これね、
『五橋のジェイソン。遭遇した時に質問にYESと答えると殺される』
、これは前回のループでのイスメトのことを表わしている、とも読めるわ。ジェイソンさんが何者なのか、そのあたりにも注目ね」
「ラ・ピュセル、あんまりオススメはしないが、TUTAYAのホラービデオコーナーに行けばナゾが解けるぜ」
「そうなの? それじゃあ、行ってみるわ、ありがとう、ラ・イール。物知りね」
「いや……すまん、いまのナシ。ジェイソンのことはまったく気にするな。これはいわゆる『マクラコトバ』ってやつだ。文章を整えるためにわざと入れる、意味のない単語」
「そうなの?」
「そういうことにしといてくれ」
ラ・イールは、自分がピノキオだったら、伸びた鼻は壁を突き破っているだろうなと想像した。
「この怪談は、なんなんだろうな?」
「世界が再構築された際に、話が歪んだのかもしれないわね」
「五橋とおなじ状態になっている木町のことがないな」
「これは? 
『国分町に、幽霊高級クラブがある。そこで殺された少年の怨霊がいる』。
国分町と木町は眼と鼻の先でしょう? 
今回は発生していない連続男児殺傷事件を示しているともいえるし、前回のループで、わたしが氷の巨人と戦ったことを示唆しているのかも」
「場所が違うだろう」
「そこは気になるわね。あれは『いろは横丁』だった」
「となると、こっちだ。
『いろは横丁の呪われたパワーストーンショップ。封印された霊がいる』。
メアリのことかもな」
「女王さまがいたのは、ビルの隠し部屋だったわ。パワーストーンショップは、最上白百合の叔父さんが始めようとしていた店のことよ」

ラ・イールは、モニター画面をしばらくみつめて、ふむ、と考え込んだ。
「つまりは、この幽霊高級クラブと、さいごの『いろは横丁』の話が、だいぶ混乱しているということになるわけだ。どうする」
「この怪談が、いったいどこから発生したのかも問題ね」
「罠かもな」

ジャンヌと、ラ・イールは、しばらくモニター画面の前で沈黙した。
先に口をひらいたのはジャンヌのほうであった。
「誘っているのなら、これに乗ってもいいかもしれないわ」
「また、それぞれ散り散りになって、そのまま全滅、なんてことになるかもしれない」
ラ・イールは、籐の籠のなかにおいてあったオレンジを取り出すと、背もたれに腰掛けて、無造作にそれをむしゃむしゃしはじめた。
ジャンヌのほうは、まったく気にせず、パソコンのモニター画面を真剣なまなざしで見つめている。
「罠だとして、怪談がひとつではないのはどうして? もしわたしたちを誘っているのなら、怪談はひとつにすればよかったのよ」
「すべてに罠が張られているのかもしれないぜ」
ジャンヌは、立ち上がると、ラ・イールと同じように、自分がそれまで座っていた椅子の背もたれに、腰をあずけた。
「思うのよ。いくら大量生産のきく兵を使えるとはいっても、限りがあるはずでしょう。
実質的なレティクル側の兵力は、いくらくらいなのかしら。
これほど市内のあちこちに罠を張れる余裕が、かれらにあると思う?」
「そこがわからん。俺たちはいま、敵の中心として見做していた千台家のキッチンにいる。
けれど、レティクルが千台家を奪還しようとする気配がない」
「かれらも戦略を変えたのかもしれない」
「どういうふうに」
「わからないわ」
「わからないことだらけじゃねぇか」
「だから、すこし動いて、レティクル側を誘ってみようと思うの。
みんなと合流するまえに、なるべく敵の力を正確に測っておきたいし」
「いるのかね、『みんな』は」
「消滅してはいないはずよ。気配がするもの。みんなの気配が」
「ま、そこはあんたに従うが」

いいつつ、ラ・イールは、食べ終わったオレンジの皮を、ゴミ箱に放り投げた。
「で、明日からどうするね。指示をくれ、ラ・ピュセル」
「ええ、あなたは鈴木剛志に注意しながら、平塚八兵衛としての仕事をつづけて。わたしはヨーコといっしょに怪談を追ってみる。
まずは、千台栄華学院の女子トイレの鏡ね。もしかしたら、最上アキラ子のことと、関連しているかもしれない。
だとしたら、あんなに心配しているんですもの、ヨーコに教えて、一番先に確認させてあげたいわ」
「じゃあ、こうしようぜ。これからは俺たちの霊力が弱まる時間帯に入る。
明日の夜明けを待って、俺は平塚八兵衛として、国分町といろは横丁のほうを探ってみる。どうだい」
「そうね、それがいいわ」

ジャンヌはうなずくと、とたん、十九歳の娘の顔に戻った。
そして椅子の背もたれに腰をかけたまま、大きく伸びをすると、ラ・イールに言う。
「さあて、腹が減っては、戦はできぬというじゃない? オレンジだけじゃお腹はいっぱいにならないでしょう? わたしのつくったポトフでも食べる?」
「あんたの料理かい、ひさしぶりだな。うれしいが」
と、ラ・イールは、キッチンの扉のすき間から見える、リビングにある大きなアンティークの古時計に目をやった。
時計の針は、すでに19時を回っている。

家のあちこちは明かりがついているものの、家の中はひっそりと静まり返っている。
千台潮の趣味であるらしく、インテリアはアンティークを中心に、古色蒼然とした雰囲気でまとめられているのであるが、そうした古びたものたちの存在感のひとつひとつが強すぎて、家のなかの不自然な静けさを、よけいに強調していた。

「なんというか、たしかに金持ってる家だな、ってのはわかるが、住みたいとは思わせない家だよな。明るさがカケラもありゃしない。
二階に、人がいるんだろ。ちょうど晩飯時だってのに、だれも降りてこないな。この家の連中は夕食を食べないのかよ」
ラ・イールが言うと、ジャンヌはすまし顔でうなずいた。
「そこも問題だわ。さっき聞いたのだけれど、いつもはみんなバラバラに、自分の部屋で食べるのですって。
それもせっかく家政婦さんがつくってくれたご飯があるのに、コンビニで買ってきたものが主食なのですってよ。
おかしい話だと思わない? どうしてそんな無駄をするのかしら。
もしかしたらレンジで温めたり、鍋を温めたりするのが面倒なのかと思って、ポトフを作って待っていたのに、もういちど、お食事はどうします、って聞いたら、食欲がない、ですって」
「あんたが連中に暗示をかけた後遺症、ということはないか」
ジャンヌは、ヨーコの叔父夫婦が帰ってくると、すぐに、『自分はフランスからやってきた留学生兼メイドで、しばらくホームステイする』と暗示をかけたのだ。

ラ・イールのことばに、ジャンヌは頬をふくらませた。
「そんな後遺症なんて出ないわよ。わたしのポトフに毒なんて入ってやしないのに!」
「いや、それは疑ってない。冗談だよ、怒るなよ」
ジャンヌは、軽く肩をすくめると、ちいさく息をついた。
「でも、たしかにここの家の人は、みんなちょっと、排他的なところがあるみたい。早くわたしに慣れてもらわなくちゃ。
まずはポトフよ。ヨーコは、きっと食べてくれると思うわ」
「ああ、あの子は、なんであろうとガツガツ食べそうだな。
けれど、弟夫婦に食欲がないってのは、ウッシーと連絡とれないってことと関係があるんだろうか」
「ウッシー?」
「千台潮のことだよ。かわいいだろ」
ラ・イールのことばに、ジャンヌは腰に手をあてたまま、肩をすくめた。
「どうかしら。ウッシーの弟夫婦は、あんまりお兄さんのことは気にしていないみたいだったわよ。
それより、ウッシーの奥さんと、タケシが戻ってこないのが心配だわ」
「どうかしらと言いながら、早速使うわけかい」

と、そのとき、まさにジャンヌのことばに答えるようにして、玄関のほうから小鳥の鳴き声がした。
この小鳥の鳴き声は、来訪者をしらせるチャイムの代わりなのである。
ジャンヌが台所にラ・イールを待たせて玄関に向かうと、そこには、すっかりやつれた顔をしたタケシが、重そうな黒いランドセルを背負って、うなだれていた。

ヨーコはこちら側についた。さて、この子はどうだろう。
千台タケシ。この子はどういう子なのだろうか。
友だちになれるといいけれど。

「おかえりなさい!」
ジャンヌが声をかけると、タケシは目のまえに人がいると思わなかったようである。
ぎくりと身体を震わせて顔を上げるのであるが、ジャンヌの姿を見るなり、その顔は、恐怖にこわばった。
「は? なんでまたガイジン? しかもキンパツ!」
ジャンヌは、タケシが混乱しないうちに暗示をかけようと考えたのであるが、タケシのおびえ方が尋常ではないため、とりやめた。
「怖がらないで、友だちになりましょう。わたしの名はジャンヌ。あなたはタケシでしょう?」
ジャンヌが一歩近づこうとすると、タケシの顔はますます強ばって、目じりに涙さえ浮かべて、叫んだ。
「そうだけど、友だちにはならないぞ! 俺は伯父さんみたいにならない、おまえたちなんかに負けるもんか!」
タケシはそう叫ぶなり、靴を脱ぎ捨て、ランドセルを放り投げると、2階の自室に逃げ込んだ。



さて、ここで時間を巻きもどさねばならない。

場所は仙台市青葉区。
仙台駅から青葉城に向かった場合に、右手に目立つ高層ビルが仙台アエラといい、仙台でも有名なビルのひとつである。
1Fから4Fまでが店舗となっており、それから上の階はオフィスや診療所となっている。
最上階の31階には展望台があり、また、全国に支店をもつ有名な中華料理店も、テナントとして入っている。
交通の便がよいことやネームバリューなどから、テナントは常に予約状態となっている、人気のビルだ。
このビルには上の階へ上がるためのエレベーターが12基ある。
うち、ふたつは店舗用のエレベーターで途中の、仙台市が使用しているフロアにまでしか行かないが、のこりの10基は、それぞれ利用階数に合わせて分けられて使用されている。
つまりは10基のうち5基は、地下から20階までに行くエレベーター。
のこり5基が20階に向かうエレベーターとして使用されている。

このアエラの5Fには、仙台市によるメディア提供スペースがある。
そのなかにインターネット閲覧サービスもあるのだが、その予約制の1台のPCのまえに、なにやら興奮気味の小学生がひとりと、迷惑そうな眼鏡の小学生がひとり。
千台タケシと夏目マナブであった。

マナブは困り果てていた。
というのも、学校が終わるなり、タケシにつかまってしまい、むりやりアエラに連れてこられてしまったからだ。
今日は早く帰ると母親に伝えてあったので、そのことをマナブは気にしていたのである。
一方のタケシはというと、ネットをひらいて興奮しきっている。
いったいなににそれほど興奮しているのかといえば、タケシは窮地に立たされていたからだ。
タケシという少年は、自分を大きく見せることが癖になっている、尊大な少年なのである。
が、いつもは余裕ぶっていても、ふだんから背伸びをしているため、ふとしたときに足元がぐらつくと、とたんに混乱におちいる。
いまがまさにそれで、タケシは明日、登校するまでに、なんとしても幽霊を捕まえなければならなくなっているのだ。

発端は、大人が聞くと、じつにばかばかしいところからはじまる。
マナブとタケシの担任の体調が急にわるくなり、図画工作の時間は、自習となった。
タケシは勉強もスポーツもクラスでいちばんでき、そのうえ小学生にはあるまじき大金を、好きなだけつかえる男子なのであるが、性格のわるさゆえに、クラス中から、ひそかにきらわれていた。
マナブがいるからいいものの、おなじようにいじめられたらたまらないと、子供心にみんな思っているため、表立ってそうだとは言わないが、タケシはつねに、クラスメイトから煙たがられる存在だった。
本人は、それを知ってか知らずか、『天才とは孤独なもの』などとうそぶいている。
ともかく、タケシはきらわれており、それは思春期に入ってから、とくに女子を中心にひどかった。

というのも、タケシは調子に乗ると、心にもないことを平気で口にしてしまう、ヨーコと同じく、ろくでもない癖を持っていた。
あるとき、ほかの男子にあおられて、女子を『ブス』だの『デブ』だのと言ったのがわざわいし、以来、女子からすっかり嫌われてしまっている。

マナブは、むりやりホワイトデーのプレゼントを代理で用意させられたことがあるので知っているのだが、タケシは、同じクラスの美少女・小川アヤに想いを寄せていた。
ところが、うまくいかないことに、この小川アヤは、タケシの傍若無人さが大嫌いで、タケシを完全にシカトする女子グループのリーダーでもあった。
さらに付け加えると、小川アヤは、やはり同じクラスのタカナシが好きで、これはスポーツだけしかできない(マナブはそれでも十分だと思っているが)三枚目である。
プライドが邪魔をして三の線はねらえないタケシは、つねづねタカナシの凋落を狙っているのだが、タカナシという少年は、タケシよりも数倍、頭の回転のはやい少年で、いじめられても、それを笑いのネタにしてしまうほどの強さを持っていた。
だから、クラスの人気投票でも、つねにぶっちぎりの一位である(ちなみにタケシの得票は一票。マナブにむりやり入れさせたのがそれである。タケシは自分で自分に一票を投じたのであるが、自分に入れるのはダメ、ということで、それは無効票になってしまったのだ)。

タカナシにも、欠点はある。
それは、よくホラを吹く、ということである。
なにを思ったか、タカナシは、図画工作の時間にぼーっと、体育館の横にある体育倉庫を見ていた。
昼休みにサッカーではしゃぎすぎて、眠かったのだと思われる。
そして、突如として、言ったのである。
「体育倉庫に幽霊がいた! あれってば、ぜってーに、幽霊! きっと『せんちゃんねる』にカキコしてあったやつ。マジでそう!」

タカナシ自身はあまりパソコンに興味がないのだが、父親の趣味がネットサーフィンなので、かたわらで見ていたタカナシにも、ある程度の知識はあった。
タカナシが言うには、『仙台ちゃんねる』こと『せんちゃんねる』(『だい』、を略しただけ)で、いま、ほんとうにあった怖い話が話題になっており、仙台はミステリースポットだらけだというのである。

タカナシがほんとうに幽霊を見たかどうかは、正直なところ、マナブは疑っている。
タカナシという少年は、悪気はないのだが、いつも、みんなが『楽しそうに』きゃあきゃあ騒いでいるのを見るのが好きな、ちょっと迷惑な癖をもっている。
だからホラかもしれないなと、いじめられっ子独特の、すこし一歩さがった視点で観察していたマナブであるが、そこへ、チャンスとばかりに食いついたのがタケシであった。
タケシは、タカナシが嘘をついていると猛然とくってかかったのであるが、みんなが楽しく盛り上がっていたところへ、水を差すかたちになってしまったため、逆にタケシは、みんなから批難を受けることになった。
タケシも、やはり『せんちゃんねる』の怪談のことを知っていたのだが、幽霊が小学校に出るなんて話はそこにはなかった。幽霊がいるとしたら、別の場所だ、と抗議したのだ。
もちろん、クラスメイトは、タカナシのほうに肩入れする。
もしかしたら、ほんとうの嘘つきはタカナシなのかもしれないが、みなが、タケシはタカナシが嫌いだから、そんな嘘を言っているのだ、と決め付けた。

こうなると、タケシは黙っていられない。
ほかならぬ、小川アヤまでが自分を嘘つきよばわりするに及び、とうとう宣言してしまったのである。
「それじゃあ、オレが本物の幽霊を捕まえてきてやるよ! 幽霊を捕まえるまで、オレはぜってー、学校に来ないからな!」
それを聞いたクラスメイトたちは、残酷にも笑顔で拍手喝さいをした。
タケシは、さいわいにも、それを応援の拍手だと勘違いしたようだが、マナブは知っている。
それは、タケシが学校に来なくなることを喜んでの拍手だった。



タカナシやタケシが知っていたサイトは、じつはマナブも、前から知っていた。
『仙台ちゃんねる』は、某巨大掲示板にすこしばかり似たもので、仙台に関するさまざまな情報が(ウソも含めて)掲示されているものだ。
マナブは、母親のPCを借りてこれをよく見ていたが、なぜ見ていたかと言うと、失踪した父親の情報が、なにか載っていないかと思ったのである。
けれど、いつも収穫はなく、『仙台の安い惣菜を売っている店について語るスレ』を読んで、家計を助けるための情報を仕入れるだけで、自分をなぐさめていた。

タケシが話を持ち出した、『仙台の、ほんとうにあった怖い話を語るスレ』は、たしかにいま、大盛況である。
けれど、昨日までは、こんな板はなかったようにマナブは思っているのだが、日付をみると、おかしなことに、今日より以前から、書き込みはなされているのだ。
と、同時に、マナブは、今日よりまえの記憶が、なぜかあやふやになっていることに気づいていた。
いろいろあった気がするのに、しかしいまは、いつもどおりの一日を過ごしている。
証拠に、いじめっ子のタケシは、今日も元気に自分をいじめる。

あんまりいじめられたから、もしかして僕は心がどうかしてしまったんじゃないかと、感受性のつよいところをみせて悩むマナブであるが、一方で、なぜか今日は、朝からどきどきするのだった。
なにか、とてもよいこと、自分にとっての転機がやってくるような、そんな予感がしている。
誕生日にホグワーツ魔法学校に迎えられることになったハリー・ポッターのように、今日は、もしかしたら、だれかが自分を迎えにくるのではないだろうか。
人は、あるとき、だれかが遠くから、
『あなたは特別に選ばれた大切なひとです』
と告げて迎えにきてくれるという夢を、一度はかならず夢想する。
その使者は、退屈で閉塞感に満ちた自分の人生を、一変させてくれる、幸運の使者でもある。
やがて、そんな迎えは来ないということがわかってきてもなお、心のどこかで、もしかしたらと考えている。
まだまだ子どもで、しかも、もともと空想の世界に逃げ込みがちなマナブは、もしかしたら、今日は、そんな誰かが、自分のところにやってくる日なのではないかと考える。
そうであってほしい。
みんなから嫌われているのに気づかないでいる、裸の王様に付き合わされる、こんなうんざりした日常から救ってくれるだれかが、早く来てくれないだろうか。


「ほら、ここに怪談ってあるじゃん? アエラってここだろ? 幽霊って絶対にここにいるんだよ。捕まえる。ぜってー、捕まえる」
と、タケシは興奮して、PC画面を指で何度もつついた。

○ 青葉山に向かって橋を渡ると、空襲警報が聞こえてくる。警報が鳴っているあいだに隠れないと、命を落とす
○ 国分町に、幽霊高級クラブがある。そこで殺された少年の怨霊がいる
○ 私立千台栄華学院の女子トイレの鏡に、少女の霊が映る
○ 五橋のジェイソン。遭遇した時に質問にYESと答えると殺される
○ 仙台アエラの幽霊エレベーター。乗ると異世界に連れて行かれる
○ 青葉城の周辺で深夜になると日本兵の幽霊が行軍練習をする
(注※エリザベスがまだ書き込みをしていないため、パワーストーンショップの話はこの時点ではまだ加わっていない。)

「なんだかあっちこっちに幽霊、いるみたいだよ?」
と、マナブはタケシの顔色を気にしながら言ってみた。
たしかに、これによれば、怪談の名にふさわしく、仙台市青葉区の市街を中心に、わんさか霊がいるらしい。
しかしタケシは指摘されても、もう幽霊を捕まえたつもりなのか(マナブは、どうやってタケシが幽霊を捕まえるつもりなのか、まだ聞いていなかった)すっかりご機嫌で、けらけら笑って言った。
「けどアエラにもいるわけじゃん? すげえ、幽霊エレベーターってどれだろ。異世界ってどこなんだろうな。
ってかさ、ヨーコに聞いたことがあるんだけど、アエラ、夜の22時を過ぎると、エレベーターがだれも乗っていないのに、勝手に動き回るんだって。
絶対に幽霊だよな。きっと霊界につれていかれるんだよ、霊界!」
「戻ってこられなくちゃ、意味ないよ」
ぼそりとマナブは言い添えるのであるが、タケシの耳には届いていない様子である。
「幽霊つかまえようぜ、幽霊! タカナシとか、オレを嘘つき呼ばわりしたやつ、ぜんぶ土下座させる! 謝罪文書かせる。PTAに問題にしてもらう!」

幼稚ではあるが尊大な発言に、同じ歳のマナブでさえ、眉をひそめた。
そして、心の中でつけくわえる。
そういう『面白くない』過激なことを言うから、嫌われるのに。
タケシの場合、賢さは、みごとに本人の仇になっている。

「幽霊をつかまえてどうするの」
「伯父さんに逮捕してもらう! でもって、霊界のひみつをさぐる!」
「霊界のひみつって、どんなの?」
「わからないから、ひみつなんだろ、ばーか!」
それはそうであるが、ばか、と言われながら頭をはたかれたマナブは、なんだか納得がいかない。
そも、なんだってエレベーターの行き先が、霊界なんかに繋がっていなくちゃいけないのだろう。
それにいくら警察のえらい人だからって、幽霊なんて逮捕できるのだろうか。
だいたい、どんな罪で? 騒乱罪? 
ポルターガイストだったら適用できそうだけれど(このあたりの知識は、1Fの丸善の児童書コーナーで立ち読みした『こども怪奇百科』から得た知識をもとにしている)。

「よし、それじゃあ、どこのエレベーターが霊界につながっているか、たしかめるぞ!」
タケシが鼻息も荒く言ったとき、これは、今日は、日が暮れるまでには帰れそうにないなと、マナブはうんざりするとともに、覚悟をした。

ずんだマップに戻る

※ この話は、「仙台、ふたたび・7」につづきます。