うさぎが観察日記Ⅱ・5
ぷらちなCookie

※このお話は、ずんだGAMEの番外編で、「とらとらとら」「うさぎ」「しろくま事件」「うさぎが観察日記」「うさぎが観察日記2」「うさぎが観察日記3・前編」「うさぎが観察日記・3 後編」「うさぎが観察日記・4」「うさぎが観察日記・5前編」「うさぎが観察日記・5後編」「うさぎが観察日記・6前編」「うさぎが観察日記・7後編」「うさぎが観察日記Ⅱ・1」「うさぎが観察日記Ⅱ・2」「うさぎが観察日記Ⅱ・3うさぎが観察日記Ⅱ・4」の続きとなります。
○月×■日

最高府の最高傑作である『ヘルメス』。
その名の元であるヘルメスとは、ギリシャの太陽神アポロの子にして、俊足と泥棒の神としてしられる。
ヘルメスタイプは、きわめて洗練されたデザインの白銀色の甲冑の騎士、といったところだ。
性能が高いうえに生産性がわるいため、量産されることはなく、わたしもはじめて、現物をみたほどだ。
体中にぎっしりと、耳無し芳一のごとく、黒とグレーの色合いでもって、全身にくまなく対霊力用呪文のほどこされた、マーブル模様、しかも見た目もグロテスク、質感もなんだか、どうぶつの『なまけもの』ににて、じめりとした雰囲気をもつケルビムタイプとは、まったくちがったうつくしいゴーレムである。
ゴーレムという、堅苦しい、そしてどこか生臭い印象より、むしろ『機械人形』ということばがぴったりくる動きかただ。
こやつには言語能力があるのだが、『塔』の管理人のイーさんとちがって、対話は不可能。
つまり、『ヘルメス』は任務遂行のための警告しか発さない。
緊急車両が一般道で『緊急車両が通ります』と警告する、あれとおなじだ。
顔は白銀色のマスクにて覆われており、かたちのよい鼻の先と、引き締まった口元のみが見える形だ。(マスクの下は、元となったヘルメス神の顔を冠しているそうであるが、その顔をわたしは見たことがない)。

優美な曲線をえがく甲冑をまとった、白銀の、まさに宝石のようですらあるヘルメス号は、がちゃりがちゃりと音をたてて、むりやり開かれた扉から、わたしたちに向かって歩いてくる。
そうして、液晶体で覆われた目のなかで、センサーらしい赤いものがしばらく左右上下に動いたかと思うと、部屋の片隅で、おびえるわたしたちを見つけ、ぴたりと止まった。
そして言う。

『発見』

なにが! 
そんなツッコミすら言葉にならないほどの威圧感に押されて、わたしと仲達は、たがいにその手を取り合って、部屋の片隅で固まっていた。
なぜかといえば、ヘルメス号の背後には、あの大嫌いなマーブルの、ケルビムタイプのゴーレムたちが、何匹も何匹も何匹も何匹も……それこそもう、ゴーレム祭でもあるのかというくらいの数があつまっていたからである。

おびえ、震える、こんなわたしよりも、仲達のほうが、よほど気丈であった。
仲達は、わたしをかばうようにして前に立ち、がちゃり、がちゃりと音をひびかせて近づいてくるヘルメス号を。敢然と見据える。
わたしは、はじめて、こやつが晋の始祖であると認めたね。
ヘルメス号は、わたしたちの前でぴたりと止まり、そしていきなり腕を伸ばしてきたかと思うや、なんと、わたしには目もくれず、仲達を見ると、
『発見。捕獲する』
とだけ、みじかく言って、むんずと仲達を片手で持ち上げた。

さすがにわたしも、おびえるのをやめて、持ち上げられそうな仲達を奪い返そうと手を伸ばしたのであるが、しかし、ヘルメス号のほうが早かった。
わたしのほうを見ると、ヘルメス号の目が、青白く光った。

しまった!

まともにその眼光を浴びてしまったわたしは、とたんに身動きがとれなくなる。
霊力による金縛りである。
うぬぬぬ、動けぬ、動けぬぞ!
なぜ仲達を奪っていくのだ? 
仲達は、それこそ『召喚奨励キャンペーン』に参加していただけで、むしろ最高府にとっては、優良な生活をおくっていたはずだろう。
それがこのように、罪人のようにして連れて行かれる理由はないはずだ。
やはり、子龍の身になにかおこったのか? 
いいや、もし子龍が原因だとしても、なぜ仲達だけで、わたしはそのままなのだろう。

なんとか金縛りを解こうと、わたしは全神経、そして全筋肉に力を集中させる。
しかし、体はまともに動こうとせず、ほんのすこしだけ揺れる程度である。
そんなわたしの両耳に、せつない仲達の声が聞こえてきた。
「諸葛亮―! たすけてくれーい! 諸葛亮―! こわいよー!」
うぬぬ、待っておれと言いたいところであるが、むしろいまは、わたしが助けてくれだ。
そして、動かぬ体のうちがわで、必死にもがいていたわたしであるが、その目のまえで、ヘルメス号が踏みつけたものに目が入った。
それは、仲達が、せっせと、わたしのために……いじわるしかしなかった、わたしなんぞのために、いっしょうけんめいにつくってくれた、チョッキをつつんでいた、あのかわいらしいピンクのリボン。
そして、おそらくはわたしの名の書いてある手紙であった。

ヘルメス号は、仲達を掴んだまま、わたしに背を向けて、リボンと手紙を踏みつけにして立ち去っていこうとする。
とたん、わたしの怒りのスイッチは最大限まで起動した。

「ふんぬー!」

金縛りは一瞬にして解け、立ち去るヘルメス号のうしろ姿めがけてとびすさる。
待てい! このプラチナのアシモもどき!
しかし悲しいかな、ヘルメス号は、わたしのほうをちらりと見るだけで、止めようと、その片足にしがみつくわたしを、そのまま乱暴に背中の皮をつまんでつまみあげ、壁にしたたかに打ちつけた!
ふつうのうさぎであれば、骨が弱いので死んでおる!
というか、壁に全身を打った衝撃で、わたしの視界は真っ白になる。
だから痛いのはイヤなんだ。
もうどこが痛いのかよくわからないほどに、全身で痛みをおぼえながら、床にずるずると落ちたわたしであるが、脳震盪をおこして気絶しなかっただけでも、めっけものだろう。

「諸葛亮―! 無事か!」
と、ヘルメス号の腕のなかにいる仲達がわたしに呼びかけてくるが、わたしにはそれに応じる気力もない。
なんとか立ち上がろうとするが、両腕の力が入らぬ。
しかも、痛みよりも痺れが先に来て、体がどうなっているのかすら、わからぬのだ。
そんなわたしを見て、仲達は、ヘルメス号の手にがっちりと胴体をつかまれながらも、果敢に抵抗をみせる。
「ええい、離せ! 離せというのだ! このう、司馬真拳! ちょんわ! ちょんわ! ちょんわ! ちょんわ!」
と、仲達は胴体をつかまれたまま、司馬真拳をくりだし、ヘルメス号の白銀の指を拳でなぐるのであるが、もともと、ヘルメス号に痛覚があるのかナゾだ。
わたしは立ち上がろうとするが、その両腕のあいだに、なにやら生暖かい感触がある。
なんであろうと見れば、鼻血を出しており、それが床に垂れ落ちているのであった。

鼻血がでるほど、体を打ち付けられておったか…
血を見ると、たいした怪我をしていなくても、なんだか重傷者になったような気がしてしまうものであるが、わたしはそこでひるまなかった。
鼻からぽたぽたと血をたらしながら、両腕で何とか起き上がる。
そして、起き上がったわたしの目の前に、飛び込んできたものがあった。
それは、供給所において、ほんの一瞬だけわたしたちのまえに、ふしぎな効力をみせてくれた霊具『逆転のドリーム・キャッチャー』であった。



中央都市の中央にある、アトラ・ハシースの住まいたる『塔』。
本日は白亜の装飾もなにもないエーゲ海ふうである。雲ひとつ無いうつくしい青空に、白亜の塔はすばらしく映えた。
その中の一室で、おもての青空に目もくれず、カーテンを締め切った、あやしい部屋がひとつ。
カーテンの締め切られた真っ暗な部屋には、カシャ、カシャ、と機械的な音がくりかえされるものがある。
音がするたびに、部屋にあつまった男たちの声からは、恍惚のそれにも似たためいきが、ほう、と吐き出されるのであった。
あまり健康的ではない。

一枚目。
かじり木をけんめいにかじる、もなか。

二枚目。
黄色のひなぎくのよこで、たたずむもなか。

三枚目。
夕陽をながめて、たそがれるもなか。

四枚目。
はじめての海にびっくりし、貝をしげしげとながめるもなか。

五枚目。
ガーデニングの飾り用の三輪車に乗る、くっきーともなか。

六枚目。
ラジオ体操に興じる、はりきるくっきーと、眠そうなもなか。

七枚目。
昼寝をするくっきーともなかの愛らしい寝すがた。

それらを目にするたびに、ため息をついていた劉備は、力を入れていた肩から、ほっと力をぬいて、言った。
「いいのう」
それに応じるようにして、スライドを動かしていた趙雲も、まったくそのとおり、というふうにうなずく。
「やはり、うさぎは最高かと」
「子龍、写真の撮り方が上達したのではないか。この、海風のかおりまで感じ取れるような四枚目は、じつによい。パネルにして飾っちゃおうかなー。ネガある?」
「は、光栄でございます。ただちにパネルにしてお届けいたします。きっともなかも、主公のお心遣いに感謝することでしょう。それでは、つぎの作品をば」
そんなことを語り合いながら、八枚目を投影しようとした趙雲であるが、とたん、それまでソファの一角で、じっとおとなしくしていた男が、ばっとたちあがると、そのまま窓辺に寄って、がっ、と部屋のカーテンが開いた。
「やめろ、やめろ、てめぇら! さっきから、ずーっとうさぎばっかり! こんなふうななあ、身内が趣味で作った、ろくに可愛いとも思えねぇよそのガキの、見知らぬ小学校での運動会のホームビデオみたいなのを、何時間と見せられるくらいのつらい気持ちを味わっている、、こっちの気にもなりやがれってんだ!」

張飛は、その特長である、濃いもじゃもじゃの毛を逆立て、大きな目を、さらに大きくして、劉備と趙雲に叫んだ。

しかし、その抗議はむなしくひびき、劉備と趙雲は、しれっとした表情で、口をとがらせて言う。
「いきなりなんなのだ、スライドのつづきが出来ないだろう。カーテンを閉めろ」
「空気読めよな、空気―! わしらがこんなに盛り上がっているのに、なんでおまえはひとりだけ、そんなに怒っているのだよ。
うさぎを見ろ。かわいいだろうが。あー、なごむ。子龍、気にせず八枚目をたのむ。あ、張飛、カーテン閉めて」
「御意」
「まだ見せるか! 心の底から、いい加減にしろおまえら! うさぎばっかり、もう見たくねぇ!」
いきりたつ張飛に、趙雲はあきらかに気をわるくし、劉備は淹れたての緑茶をまえに、ぶうぶうと口をとがらせた。
「おまえ、カルシウムが不足しているのじゃねぇのか。ほーら、おまえのために供給所からもらってきた、チーズおかき食べろ、チーズおかき」
と、劉備は、うるしのおぼんにのせたチーズおかきを勧めるが、張飛はそれには目もくれない。
「チーズおかきの問題じゃねぇ! 今日はなんの集まりだ? 野球だろ、野球! 野球チームをどうするかの話だろ? 周瑜率いるスワンローズにどう対抗するかの真剣な話し合いの場じゃなかったのかよ? 
それがなんだって、『子龍のところのうさぎ、かわいいでショー』になっているんだよ!」
「実際に、かわいいからだろうが。というか、仕方ねぇだろ、『蜀漢フォー・ザ・モーメント・ラビッツ』のメンバーはこれしかいねぇんだし」
「長ぇ! なんだ、そのチーム名!」
「うん? 意味? てきとうに訳すと、『蜀漢とりあえずうさぎ』。仮名だよ、仮名。姜維と馬超のやつらもそうだし、じいさんどもも仕事中。これじゃあ、ミーティングになりゃしねぇ」
「だからって、『うさぎスライドショー』をすることはないだろ」
「だって、うさぎのスライドを見たかったもん」
「もん、じゃねぇよ! こっちの身にもなれ! せめて、野球に関する映画とかに替えようぜ!」
「ええ? 映画かあ? とうもろこし畑で神の声を聞いた男の話とか、へっぽこチームががんばる話とか、最近、そういうの食傷気味なのだよなー。
それじゃあ、多数決で決めようぜ。うさぎのスライドショーをみたいひと」
当然のことながら劉備と趙雲が手をあげる。

とたん、やってやれっか、とばかりに、張飛が、かぶっていた野球帽を地面に叩きつけた。
「あー、もうやってられねぇ! つーか、こういうときに場を仕切るヤツはどうした! いまもって行方不明か、子龍!」
水を向けられ、写真を丁寧に、指紋がつかないよう手袋まではめてあつかっていた趙雲は、顔をくもらせて答えた。
「いまだに連絡はないな。たぶん、元気だとは思うが」
すると、それまで興奮しきっていた張飛であるが、自分で叩きつけておいた野球帽をひろって埃をはたきながら、なにやら気味の悪いものをみるような目で、趙雲を見た。
「なんだよ、いつになく冷静だな。むかしなら、軍師、軍師と、それこそ汎世界中をかけずりまわってでも、探しまわるだろうによ」
問われて、趙雲は、スライドを片づける自分の手をぴたりと止めるが、しかし眉をしかめる程度で、さほど奇異な表情にはならずにこたえた。
「俺もそうなるだろうと思うが、なぜだか、今回は大丈夫のような気がするのだ」
「大丈夫のようなって、なんだそりゃ」
「言葉どおりだ。きっと、孔明は無事で、元気でやっているような気がする。だから、なぜか探す気にならんのだ」

へえ、と張飛は、すこし小馬鹿にしたように言うと、近くにあった椅子に、どっかりと腰をかけた。
「二千年近くかけて、趙子龍は諸葛孔明から卒業したってか? それはそれで祝杯をあげるべきかな。なあ、兄貴」
うさぎスライドショーに対するいらだちが、そのまま、趙雲いじめの気持ちに移行した張飛が、ジャイアン的な意地悪さをみせて、しぶい顔をして緑茶をすすっている劉備に言う。
が、劉備の表情がしぶくなっているのは、なにも茶が渋すぎるせいではない。
「いいことじゃねぇだろ。俺だって心配しているのだぜ。なんつーか、奇妙なものだよな。今回にかぎっては、孔明は元気にしているっつーか、ミョーにそばにいる気がする。だから、わしとしても、なんだかあんまり騒ぐ気になれないのだ。
そうだ、奇妙といえば子龍。おまえのところに毎朝くる、ナゾの迷惑メール、どうなった」
「まだ、毎日のように参ります。あいかわらず空メールなのですが、やはりアストラル専用プロバイダか、サーバに相談してみるべきでしょうか」
「俺は相談したんだけれど、対応がわるくてよ、まだ返事待ちなのだよな。宛名はいつも『鳳仙花』。おまえのところもそうなのだろ。
なんだか意味ありげだよな、『鳳仙花』。ほうせんか…いまさら島倉千代子じゃねぇだろうし。つーか島倉千代子、生きているし」

うさぎから、今度は、自分には届かないメールの話になったので、やはり張飛は、機嫌がわるそうである。
「なんだよ、それじゃあ、チーム名、蜀漢バルサム(鳳仙花)にすりゃいいじゃねぇか。なんかつよそうだし」
「あ、それもいいか。あの派手好きの西涼の大将がそれでいいって言ったら、そうすっか。けどよ、あいつらも、派遣されてから、ずいぶん長いな。連絡もちっとも寄越さないし。
特別区域でも、西涼の大将はうさぎで大人気なんだろうか。さすが特別区危機というだけあって、情報が俺らにまったくまわってこないところが、こまったところだが」
「馬孟起ならば、どこでもたくましく切り抜けておりましょう」
と、さほど根拠はなしに趙雲が即答した。

実際に、意外に神経のこまかい張飛や、プライドの高すぎる関羽、そして偏屈で頑固すぎる黄忠よりも、馬超のほうが、臨機応変にうごくことが要求されるアストラルに向いていると、趙雲は見ていたのである。

「そうだ、いま大人気になっている、おまえのところの五本指のうさぎ、垂れ耳のほうはくっきーとか言ったっけ、もなかもくっきーも、両方ともオスなんだっよな」
と、唐突に張飛がいった。
「そうだ」
趙雲が答えると、張飛が、自分の、脱いだ野球帽子のひさしの部分をつまみながら言う。
「あれを繁殖させないかって話が出ていてさ、ほら、耳が垂れているほうの、『召喚奨励キャンペーン』にかつぎだされているくっきーのほう。ロップイヤーラビットとかいうんだろ。ああいうのがほしいってやつがいてよ」
いやな予感とともに、趙雲はたずねた。
「ほしいと言っているのは、女だろう」
「んー、まあなー。でさ、いろいろ調べたけど、やっぱ五本指のうさぎってのは、おまえのところ以外には、いないみたいなんだよな」
「それはそうだ。俺も散々調べつくしたのだから」
「うさぎは二匹いるわけだよな。で、どうだろう、子龍、一匹を、解剖して、どういう構造に成っているか医学的にたしかめてだな、そこからクローンを一匹…」
作ってみたらどうだろうと、言いかけた張飛の横顔に、強烈な趙雲のパンチがとんだ。

「へぶなーっしゅ!」

奇声をあげて、椅子ごと床に倒れる張飛。
そんな張飛を、痛むこぶしをかかえつつ、趙雲はしんじられないものを見るような、抗議のまなざしをむけていた。
「ゲシュタポ並みの鬼畜な言葉! 見損なったぞ、張飛!」
「なーにしやがる、提案だろ、提案! あいかわらず、動物と孔明には、あきれるほどの、あふれる慈愛をしめすやつ! 観音さまか、おまえは! つーか、これ傷害だろ、傷害! ゴーレムが来るぞ、ゴーレム!」
と、大騒ぎする張飛なのであるが、劉備は奇妙にしずかに、塔の窓辺にたって、開かれたカーテンのむこうがわにひろがる、雲ひとつない青空なんぞをながめている。
そうしてつぶやいた。
「静かだなあ」
「そこ! 今度は俳句でもひねるつもりか、兄貴! 
子龍が俺を理不尽に殴った! 見ていただろ、これ、傷害だよな? 煉獄行きだよな? ゴーレムに連れて行かれるよな?」
「あー、すまん、肝心なところを見ていなかったから、証言してやれんわ。つーか、ほんと、静かすぎると思わねぇか」

劉備にうながされるようなかたちで、張飛をちらちらと、敵意もおさめることなく気にしている趙雲と、みごとに晴れ上がった片側の頬をかかえた張飛は、ひとり、のどかな劉備の、そのとなりにならんで、塔からみえる、シルクスクリーンのように張りつめた、ひたすら青だけがひろがる空をみつめた。
鳥すら飛ばぬ、うつくしい群青色である。
しかし、あまりに動きがなさすぎて、見るものに緊張感を強いる、完成された美術品のようにも見えた。

空を見上げつつ、劉備は言う。
「なんにも事件が起こっていなくても、ふつう、警吏用ゴーレムってのは、なんか事件がないかと、いっつもどこかでパタパタと飛んでいるものだろう。
なのに、今日にかぎっちゃ、一匹もいやしない。いまだって、たしかにゴーレムが来てもおかしくはないわな」
「ほらあ! 見ていたんじゃねぇか!」
張飛の抗議の声を無視し、劉備は真摯な顔を空にむけて、ぼそりとつぶやいた。
「なーんか、いやな予感がするな。なにかあったんじゃねぇのかな」



そう、なにかあったのだ・
そして、下宿先中のゴーレムは、ほかならぬヘルメスタイプのゴーレムを中心に、趙子龍の家に、全員があつまっていたのである。
その目的は、どうやらくっきーらしいのであるが、模範的ともいえる生活をしていたくっきーが、なにゆえ警吏用ゴーレムに捕縛されねばならぬのか、それはわからない。


腕にぐっと力をため、立ち上がったのは、わたしの名をよぶ仲達の声が、助けをもとめるそれではなく、わたしを励ますものに転じたからである。
わたしは動くたびに、ぽたぽたと落ちて、ベージュの絨毯をよごす鼻血を気にしながら、こんどはぐっと肘にちからをこめて、上半身を起き上がらせた。
見れば、ヘルメスタイプは、仲達を回収したあと、わたしに背をむけて、さっさと帰ろうとしている。

わたしは判断した。
かれらの目標は子龍ではないのだ。
どういう理由かはしらぬが、仲達なのだ。

「しょかつりょー!」
わたしを案じて、ヘルメスの腕からのがれようともがきつつも、けんめいに顔をうごかして、わたしをふりかえり、声も枯らし、さけぶ仲達。
ヘルメスタイプが、背を向けて扉に向かおうとするのとあわせるように、わたしはふらふらになりながらも、立ち上がった。
すぐそばには、たまたま、かじり木の横で、なにかのはずみで霊力が復活するかもしれないと、ベージュの絨毯の、日あたりのよい場所に置いていた、『逆転のドリーム・キャッチャー』。
祈るような気持ちでもって、わたしはそれを手に取った。

最弱を最強にする霊具。
いまこそ、おまえの力があれば!

そのときである。

まさにその祈りが通じたのか、それまではなにをしようと、それこそ水をやっても、聖油をぬりつけても、蹴ろうと曲げようと引っ張ろうと、悪口をいってみようと、なだめてみようと、なにをしてもうんでもなければすんでもなかった霊具が、きらきらと七色の光を発しはじめたのだ。

ドリーム・キャッチャーが、本格始動する!
同時に、わたしは、全身のちからが満ちてくるのを感じていた。
霊力満タン! 
アトラ・ハシース、諸葛孔明の復活である!
※うさぎのものがたり、佳境に向けて動き出しつつあります。まだまだ波乱はつづく! どうぞお見逃しなく!
泉屋のクッキーとオレンジペコを片手にご観賞いただくことを、強くオススメしたい気分もありますが、普通の緑茶と黒あめでも、水とバナナでもOKです。ともかく、楽しんでいただけたら、これほどうれしいことはありませんですm(__)m

うさぎが観察日記 つづく

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