七夕フェスタ リクエスト企画 生まれ出(いず)る心に・おまけページ2 
クッキーとカルビ

※このお話は「生まれ出る心に」のおまけであり、『説教将軍シリーズ(?)三連プリン』の続編でもあります。お時間のある方は、両方とも是非ドーゾ。(初見の方へ。タイトルどおり、時代考証は明後日の彼方に行っております。あらかじめご了承ください)
偉度の屋敷は長星橋よりほど近い、雑多な界隈からすこし外れた、奥まったところにひっそりとある。
以前の家人が隠居するというのを聞いて、そのあとを引き継いだのである。
古い家だが、手入れが行き届いていたこともあり、一人者の偉度には十分快適な住まいとなった。
家屋よりも庭が広いので、庭師をたまに入れる。これが簡単な大工仕事もしてくれる男だったので、屋敷の管理はほとんどまかせ、毎日の食事と洗濯と掃除は、よく似た顔をした中年の寡婦の姉妹が、通いでやってくれる。
偉度の金払いがよいこともあり、彼らは文句一ついわず、もくもくと毎日の仕事をこなしてくれていた。
住み込みの者はおらず、夕刻を過ぎれば、偉度は屋敷に独りになる。
そのほうが、『兄弟たち』との連絡を取るのに適していた、ということもあるが、結局のところ、偉度が独りになりたかった、というのが一番大きいだろう。

夕餉の支度をおえた姉妹が、いつものように愛想なく挨拶をして、屋敷を去っていくと、偉度は憂鬱なため息と共に、腫れた頬を気にしながら、さきほど仕立屋がおさめた着物を眺めていた。
それは孔明が、偉度の見合いのために用意したもので、あとで軍師将軍さまもいらっしゃるようです、と仕立屋は伝言して去っていった。
ますます現実味を帯びてくる見合い。こちらは、とてもそんな気分になれやしないというのに。軍師と顔を合わせても、まともに応対できるだろうか。しかも忌々しい、この頬ったら。
と、ひとり苛苛していると、去っていく寡婦の姉妹すれ違うように、軽い足音をさせて入ってくる者がある。
足音で誰がやってきたのか、だいたいの判別をつけることができる偉度は、ああ、間の悪い、あいつか、と思いつつ、対応に出た。
「また独りか。おまえ、いい加減に、だれか伴をつけて歩くようにしろ、危ないだろう」
顔を見せた途端、手に包みを抱えていた銀輪は、言葉をなくして、ぽかんと偉度を見入る。
そうして、偉度は、片側の頬に手を当てる。あの寡婦の姉妹は、こちらにまったくの無関心だから、人からどう見えるかまでは忘れていた。
「喧嘩したの?」
「似たようなものかな」
一撃目は殺しても構わない勢いで、二撃目は怒りと愛情をたっぷりこめて、それぞれ喰らったのである。殺意と愛情の入り混じる痛み、などと哲学的に表現してみるものの、痛いものは、痛いのであった。
「痛むでしょ?」
銀輪が眉をしかめるのを、うるさそうに遮って、偉度は言う。
「成都は大きい町だし、商人の出入りも多い。おそらく許都よりもいろんな人間が集っているだろう。中華の通商の玄関口だからな。民族もちがえば、考え方もちがう。中には、いかがわしい連中だってたくさん混じっているんだ。そういう中で、おまえみたいな、見てくれだけだと十六くらいに見える子供が、独りでうろうろしていたら、危ないだろう」
銀輪は、しばらく沈黙し、それから口を尖らせた。
「偉度っちって、たまーに人の言うこと、ぜんぜん聞かなくなるよね。そういう時って、めちゃくちゃ機嫌悪いんだよね」
「わかっているじゃないか」
「ずっとお仕事をお休みしてるっ、ていうから、風邪かと思ったのに、喧嘩して、怪我したからだったんだ。心配して、損しちゃったよ」
「心配に損はない」
「あるよ。でもさ、そんなに腫れているなら、堅いものは食べられないよね」
なあんだ、と言いながら、銀輪は持っていた包みに目を落す。どうやら、お手製のお菓子をまた持ってきたようである。
偉度としては、このあいだは、大人気なくも泣かしてしまった、ということがあり、本当は独りになりたいところであるが、仕方ない、と自分に言い聞かせ、答えた。
「毎日粥ばかりさ。でも歯は折れていないから、片側の頬で食える」
それを聞くや、無理しなくていいよー、と言いながらも、銀輪はうれしそうに庭に回ると、庭師が丹精にしてくれている、偉度の庭が一望できる縁側に腰かけた。

「こんどねー、学校であたらしいクラブが出来て、銀ね、お菓子作りクラブに入ったんだよ」
「そうかい」
「黄色い花が好きなの? あの木に生えている黄橙色の花、かわいいね」
「別に。前の住人が好きだったのだろう。名前も知らないし」
「知っているよ。あれ凌霄花(のうぜんかずら)って言うんだよ」
「ふぅん、放って置いたら、知らない間に増えていたんだよな。庭師の親父さんも、これが気に入っているみたいで、そのままにしているみたいだし」
「そのままにしておきなよ。可愛いもん。それじゃあ、お花見しながら、食べようね」
と、銀輪が包みを開くと、そこには武骨な形をしたキツネ色の小麦粉の塊があった。
「かりんとうか」
「クッキーだよ。初めて作ったから、失敗して、固くなりすぎちゃった」
「茶がいるな」
言いながら、偉度は慣れた手つきで茶器を一式持ってくると、銀輪の前でお茶を淹れる。その手際の良さに、銀輪は感心して言った。
「偉度っち、すごいねぇ。いいお嫁さんになるよ」
「わたしは嫁になんかいかない」
「じゃあ、婿に行くの? 長男じゃなかったっけ」
「まあ、普通ならば、嫁をもらう立場だろうな。だが、そんな気はない。まったくない。これっぽっちもない」
だから見合いなんぞしたくないのだ。偉度がしつこく繰り返したので、銀輪は、わかったよ、と、また口を尖らせた。
熱いお茶を銀輪に出し、自分は、傷が沁みるので、水を飲みながら、銀輪手作りのクッキーを頬張ってみる。
たしかに固くて、咀嚼するのに一苦労であったが、味付けは悪くなかった。
銀輪はというと、お茶も飲まず、自分のお菓子にも手を付けず、じいっと偉度を見ている。
この腫れた顔が、そんなに面白いのかなと思いつつ、偉度は菓子を頬張った。
あえて質問する気力が、そのときの偉度にはなかったので、物問いたげな銀輪の表情に、気づいていたが、黙っていた。
すると、銀輪の方が、いつになく大人びた顔をして、口を開いた。
「お見合いするんでしょ?」
「そういうことで話が進みつつあるらしいな。わたしが相手を決めないので、許長史が出てきて、顔相で相手を決めたのだ。名前も知らない」
「冷たいのー」
「変に関心を持って、知らなくていいことまで知ったら、断りづらくなるだろう」
「断るつもりなんだ」
「嫁を貰う気はない。子供も欲しくない。家名が絶えるなら、絶えればいい」
「ふうん。相手のひと、わかってくれるかなぁ」
「判ってくれなくても、別にいいさ。こちらの評判は悪くなるだろうが、それだって構わない。もともと、出世するつもりもないのだし」
ふうん、と相槌を打つ銀輪であるが、しばらく、縁側で足をぶらぶらさせて、黙っていた。

こいつ、今日は妙に大人しいな。頬の傷に気を使って、静かにしているのかな、と思った偉度であるが、ふたたび銀輪が口をひらく。
「でもさ、相手の人が、偉度っちのこと、大好きになっちゃって、絶対にお嫁さんにしてください、って言ってきたらどうするの?」
「そう言われないように努力する」
「どうやって?」
「目一杯きらわれるようなことをするのさ。ま、そういうことにはならないだろう。まともな女なら、わたしに近づきやしない」
「そうかなぁ。じゃあ、銀は?」
「おまえは子供だから」
銀輪は、ふぅん、と言ったが、その声には、あきらかに不満がにじみ出ていた。
「でも、そんなこと言って、じつは偉度っち、楽しみにしてたりして」
「なにを根拠に」
「だって、そこに掛けてある衣、晴れ着でしょ? それ、銀、見たことないもん」
銀輪のいう晴れ着は、淡黄色と水浅葱色を組み合わせたもので、孔明が仕立て屋に命じ、偉度のためにととのえたものであった。
「あれか。あれは軍師が選んで、寄越したものだ。いい趣味しているよな」
「綺麗な衣だね」
「まあ、軍師からすれば、見合いをするなら、それなりの格好をしておけ、ってことなんだろうけれど」
「じゃあさ、軍師が結婚しなさい、って言ったら、やっぱりそうするのかな」
偉度はすこし考えてから、答えた。
「それが、どうしても必要なら、仕方ないな」
「仕方ないって、結婚するってこと?」
「あのひとが、そういうことを言うとは思えないけれど、そう言うことをもし言ったとしたら、それは、よほどのことなんだろうさ。だから」
「結婚するの?」
「そういうことかな」
銀輪はまたも黙り込み、じっと沓で地面を蹴りながら、なにやら思いつめたような顔をしている。
なに臍を曲げているのやら。
ああ、そうだ、まだ菓子を誉めていなかった。
「固いが、味は悪くない」
銀輪はしかし、偉度の言葉に顔をあげず、むっつり黙ったままである。

だんだん、表も暗くなってきた。
家にはだれもいないし、かといって、この顔で表に出るのは億劫だな。
だれか、こいつを無事に家に届けてくれる人間はいなかったかな。

偉度が考えていると、銀輪が口を開いた。
「お見合いなんて、しなければいいのに。結婚をするつもりがないくせに、お見合いにいくなんて、相手の人にも失礼だし、変だよ」
「それはそうだが、断れない事情があるんだ」
「最初が断れないのに、その後も断れるとは思えない」
「まあ、それはなんとか」
「なんとかならないよ! シガラミに縛られてさ、したくないお見合いしてさ、欲しくないお嫁さんもらってさ、欲しくない子供に囲まれて、偉度っちの人生終わるんだよ!」
「人の人生を、勝手に簡単にまとめるな」
「だって、軍師がそうしなさい、って言ったら、そうするんでしょ?」
「まあな。しかし、それは有り得ないと思うのだが」
「そんなの、わかんないじゃん。大人の事情って、ころころ変わるし! そうやって、イヤだった、ああだった、こうすればよかった、でも軍師の命令だからしょうがなかった、って愚痴ばっかり言いながら、人生が終わっちゃうんだ! 偉度っち可哀相! 
でも、そんなの、偉度っちの責任だからね! パパのせいでお見合いなんてことになって、困ったなって思っていたのに、偉度っち、ぜんぜん平気なんだ?」
「平気じゃない」
「その晴れ着も、ぜんぜん似合わない!」
「そうか? 衣に関しては似合うと思うが」
「ううん、似合わないよ! バイバイっ!」
「おい!」
偉度が呼び止めても、銀輪は振り替えず、俊足をみせて、庭から飛び出してしまう。
あわてて追いかけるが、銀輪はすばしこく、肩を掴むこともむずかしい。

そこへ孔明があらわれた。
玄関に、ちょうど壁のようにたち塞がる形となった孔明だが、銀輪は、孔明に飛び込む形になっても、ひるまず、半べその顔をつよくして、孔明を見上げる。
事情のわからぬ孔明は、懐にいきなり飛び込んできた相手が銀輪とわかると、顔を和らげた。
「おや、銀輪か。しばらく見ないうちに、大きくなったね」
「きらい」
「うん?」
「偉度っちにお見合いさせる軍師なんて、きらい!」
孔明は、おやおや、と言いながら片側の眉だけを器用にあげるが、銀輪はそれだけ言うと、さらに表に飛び出してしまう。
孔明は、上役を出迎えるべきか、銀輪を追いかけるべきか、そわそわと迷っている偉度にいった。
「しばらく見ないうちに大きくなったと思ったら、しばらく見ないうちに嫌われていた。わたしがなにをしたというのだろう」
「まあ、いろいろと」
と、偉度は事情を説明しようとするのであるが、うまく言葉が続かず、苛立ちまぎれにためいきをつく。

子供相手に気を遣って、なにをしているのやら。
今日の来客は、ひとを苛立たせるために、わざわざやってきているとしか思えない。
銀輪を追いかけ、孔明に謝らせなければ。
いや、その前に、なんだってあんなに怒っているのか、その理由を聞かねばならぬ。子供はこれだから。

偉度の様子を見て、だいたいのところを察した孔明は、表に待機している御者と従者に、銀輪を追いかけて、無事に自邸に送り届けるよう下知した。
しかし逆に、自分の耳で、銀輪に、怒った理由を聞く機会を失った偉度は、憮然と言う。
「ありがとうございます。それと、申し訳ございませぬ」
「なぜ謝る」
「いえ、あれが無礼を」
「子供の言うことだろう。しかし、あの子を幼子の時から知っているが、大きくなったものだ。ずっと幼子のままだとばかり思っていたのに、他所の子は成長が早く感じるよ。それに、あの子は十二になったのだっけ。十六、七に見えるが」
「聡明な性質でして、口も回りますが、まだ礼節を知らないので、きらいと言ったことは、その場の感情に過ぎませぬ。大目に見てやってください」
ふむ、と孔明は答えつつ、偉度を見る。
「なんです」
「いや、おまえが女人をそんなふうに庇うのは初めてだな」
「あれは子供です」
「しかし女であることにはちがいない。まあ、それはさておき、腫れはどうだ」
「見た通りでございます」
孔明にからかわれたと思った偉度は、むすっとして答える。すると、孔明は朗らかに笑いつつ、持ってきた小さな壷を見せた。
「腫れを抑える軟膏だ。早くその顔をなんとかするがいい」
「顔が元通りになったら、吉日を選んで見合い、でしょう」
「予定では」
「わざわざのお運び、ありがとうございます。それでは」
と、偉度はくるりと背を向け、自邸に入っていく。
銀輪に手紙を書くか? しかしなんて? 
この自分が、なんであの子供にここまで気を遣う必要が?
銀輪の残したクッキーをまとめて奥に持ち去ると、偉度は孔明を見送りもせず、そのまま、塞ぎこんでしまった。

偉度はこれで、なかなか礼節にやかましいところのある青年だ。無礼と知りながら、そんな態度をとるのは、かなり臍を曲げている証である。
こういうときにたしなめても逆効果だということは、経験で孔明は学んでいたので、本当は、衣を纏ったところを見に来たのであるが、仕方がないとあきらめて、偉度の屋敷をあとにした。
それにしても、主公は、偉度の様子を見に行ってやれ、とずいぶん気にしておられたが、あとでご報告を差し上げる際に、明るい話も持っていけそうだ、きっと喜ばれるであろうと、孔明は思った。




「それはたしかに珍しい」
「だろう。叔至の言葉に釣られて、偉度にはよいことだと思って、見合いの話を進めてきたが、今回は見送りにしようかと思うのだが」
「なぜ。先方には伝えてあるのだろう」
「相手が偉度だとは、まだ伝えていなかった。あれも、ああいう仕事に就いているわけだし、万が一を考えて、ぎりぎりまで、報せないほうがよかろうと判断したのだが、いい勘をしていたとは思わぬか」
「おまえの勘はともかく、では、だれかを代理に?」
「そこだ。話の種に、代理を務めてみないか」
「ぶん殴るぞ」
「………おばか企画なのに、そんな真剣な顔をして睨むことないじゃないか」
「今回は、あんまりおばかじゃない、おばか企画だからな。代理の話はよそへ持っていけ。だが、叔至がそれで納得するかな」
「思うのだがね、叔至は、偉度が気に入らないのではなく、銀に近づく男、すべてが気に入らないのだろう。しかし、いい加減、子離れせねば、銀も、あとにつづく三人も、あっというまに行き遅れになってしまう。叔至はそれを考えておらぬと見た」
「考えていないだろうな、あれは。で、おまえの考えは?」
「偉度と銀輪の話を進めようと思う」
「どうやって」
「どうやってもなにも、年の差は九つあるが、それくらいの年齢差の夫婦ならば、世間にざらだろう。叔至がごねるかもしれぬが、そこはなんとか策を講じよう。偉度は、いつまでも同じ仕事をさせておくには惜しい。いずれは一軍の将にと考えている。となると、妻を娶るにしても、それなりの武将の娘が望ましいと思っていた。
許長史が選んでくださった娘は、悪くないが、益州豪族の息女だからな。苦労しらずの箱入り娘とは、偉度は合わないだろう。それに、偉度の過去を知り、なおかつ理解できる舅がいる、というのは心強いとは思わぬか」
「それはそうだが。銀はまだ十二だぞ」
「なにも、今日明日にでも祝言とは考えていないよ。とりあえず、許婚として、形を決めてしまえばよかろう」
「よかろうとはいうがな、それも当人同士の気持ちがあればの話だろう。おまえの印象だけで、性急に話を進めてよいのか。そのあたりの見極めは大丈夫だろうな」
「しばらくは様子を見るさ。ただの子供の気まぐれなら、許婚の話も流す。まあ、自分のことはまったく見えないのに、人のことはよく見えるのは、困ったところであるが」
カルビ焼を咀嚼しつつ、孔明は笑った。
「そんなに楽しいか。そこ、焼けてきた」
「ありがとう。こういったことに関わるのは初めてだからな。叔至や許靖殿が、やたらと月下氷人をしたがる理由がわかった気がする」
「ほどほどにしておけよ。偉度は、変なところまでおまえに似て、気むずかしいからな。おまえが乗り出していることを悟れば、照れて、かえって銀に冷たくするかもしれぬ」
「わたしのことを気にして、見向きもしなくなる相手ならば、ただの子供としか見ていない、という証左でもあろう。というわけで、協力を頼む。タレを取ってくれ」
「野菜も食え。出来ることであれば協力する」
「頼もしいことだ。ところで説教将軍」
「俺の名は趙子龍だ。説教将軍ではない」
「子龍、さきほどから、まったく食べていないじゃないか。せっかく食べ放題の焼く肉屋に来ているわけだから、存分に食せ」
「あのな」

偉度のことで相談があるといわれて、付き合った先が、お一人様五千円の食べ放題焼肉屋。
値段設定が高めだけあり、肉も上質、野菜も豊富、ドリンク、デザートもひとしきり揃っている。
しかし、紙エプロンをしたこの琅邪出身の元お坊ちゃま、まともに肉を焼けないのである。
自分で誘っておきながら、なんなのだ、と文句を言ったら、
「給仕がすべてをやってくれると思っていた」
と、とぼけた返事が返ってきた。だからおとぼけ軍師などと言われるのだ、と胸のうちで悪態をつきつつ、バイキング形式の食べ放題において、給仕に徹する趙雲であった。
そうしないと、孔明は、片っ端から、肉を炭に変えてしまうからである。

「それは、まだ赤い。牛肉だからといって油断するな。この季節、肉をきちんと焼くのは基本だぞ」
「そうなのか。このかぼちゃは?」
「表面が焦げてきたからといって、焼けたとは限らぬ。よくみろ、まだ黄橙の部分の色が薄いだろう。もっと赤みが付いたら取れ…おい、キムチを焼くな!」
「焼肉というのは、ただ網に並べて焼けばよいものだと思ったが、奥の深いことだな」
「おまえにはな。そこ! 上ミノが焦げている! 上ミノを粗末にしてはならぬ!」
「すまぬ。ところで、子龍も食べるがいい」
「食べる暇があるならな。このしいたけはよい」
「しいたけは要らない」
「好き嫌いをするな! 万年貧血はレバーを食え」
「レバーも嫌いだ。食感が気持ち悪くて」
「だから貧血なのだ。野菜が切れてきたな。取ってくるから、そのあいだ、肉が焦げないよう、くまなく見張れ。そろそろ危ないと判断したら、すぐに網から引き上げ、食べるのだ。焦げたら勿体ない」
「出来るだろうか」
「普通は出来る」
わかった、と孔明はいささか緊張した面持ちで、肉を生真面目に見張りはじめた。
焼肉は、これほどに緊張する料理ではなかったはずだが、と趙雲が首をひねりつつ自席に戻ろうとすると、なぜだか目の前を、消火器を持った従業員が横切っていく。
嫌な予感がしてみれば、孔明の網が、ぼうぼうに火をおこして燃えているのであった。
「なにを焼いた」
「この真っ白い塊、肉じゃなかったのか」
「ラードだ。どこから持ってきた…」
どうやら、それなりに役に立とうとして、なにか焼いておこうと、首を伸ばしたところに従業員カウンターがあり、ちょうど焼きそばを焼くための鉄板の隣にあったものを、サービス品の肉と勘違いしたのだという。

店に弁償金を払い、孔明を引っ張って撤収した趙雲は、これほどに家庭的なものに疎い孔明に縁付けられてしまう偉度と銀輪が不憫だと思い、同時に、なにやら嫌な予感を抱いたのであった。。

見合いの代理はまだ決まっていない。
孔明の思いつきで、あみだくじをやめて、ダーツで決めることになったらしいが…それはまた、後の話である。
※ まだ続くらしい…そして、「生まれ出る心に」はこれにて完結となります。見合いの相手は? そして孔明の全国ダーツの旅はどこへ行き着くのか? あきれ企画、次回をお楽しみに?

「にげろ! たいやきくん」につづく…
七夕フェスタマップ
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