捜神三国志・燭龍本紀

第三十六話 形天VS狂士

「なんだ、この野郎は!」
それが、うす闇のなかに現われた『追跡者』の姿を見た盗賊たちの、第一声であった。
休昭も文偉も、そして赤頭巾や盗賊の首領の陳勝も、最後尾にいた盗賊たちと同じく、その姿を見て、唖然とする。
理解し難い形状の、『人間らしい』生き物。いや、怪物か。
うす闇のなかに立っていた者たちには、首というものがなかった。
胸のうえにすぐ顔があり、肩と頭が一緒になっているので、その影は不気味に丸っこく見える。
顔といっても、顔は人間そっくりであったが、そこには人間らしい表情はない。
敵意もなにも見当たらないが、口からは絶えずうめき声のような奇声が漏れており、裸足の足でひたひたと石畳のうえを歩く。
膝を曲げるということができないらしく、足取りはぎこちない。
内股で、摺るようにして歩くかれらのほとんどは、申し訳程度に衣を纏っているが、中にはそれもずれて、ほとんど裸同様の者もいた。
その数、ざっと20。
手足が長く、その肌には奇妙な文様がびっしりと刺青されている。
刺青が施してあるということは、かれら自身に知能がなくても、だれか文化を持つ何者かが、かれらに刺青や衣を与えた、ということだ。
それがいったいどういう者たちなのか、人がかれらに介在していることがわかるだけに、よけいに不気味である。

首無したちは、手をぶらぶらとさせながら、無表情のまま、ひたひたと近づいてくる。
武器は持っていない。
だが、文偉は、本能的に、かれらの危険性を感じ取った。
だれかが、掠れた声でうめいた。
「この古城はやっぱり呪われていやがる。本物の化け者が出やがった」
まったくだ、と文偉は同意し、おかげで、すこしだけ正気に戻ることができた。
となりにいる休昭は、文偉にしがみつくようにして、その肩の衣をがっしりと握っている。
その両目は、化け者のほうに向けられたままだ。
悲鳴をあげて倒れないだけ、及第点だろう。

「この野郎、化け者か! あっちへ行きやがれ!」
盗賊のひとりが、足元にあった石をひろいあげ、先頭の化け者にむけて放り投げた。
それは化け者の顔のある部分の下、本来なら顎であるが、胸と同化しているので、区分けのむずかしい部分に当たる。
すると化け者はぴたりと足をとめた。
それに倣うかたちで、後続の化け者も、ぴたりと足を止める。

ふしぎな間が生まれた。
化け者たちは足を止めたまま、じっとしているし、文偉をはじめとする盗賊たちもまた、化け者の様子を見るため、じっとして動かない。
そうしていると、唐突に、石をぶつけられた首無しが、奇声をあげて、石のぶつかった部分を片手でおさえ、もう片手を激しく、まるで抗議するように空中でめちゃくちゃに振り回した。
どうしたのだろうとおびえていると、首無しは突如、ぐっと身を屈め、それから反動をつけて、大きく垂直に跳躍した。
すさまじい跳躍力である。
身の丈の三倍は飛んだであろう。
文偉たちは、その大きな飛蝗のような動きに呆気にとられて、ぽかんと宙を見上げた。
古城の深さはいったいどれだけあるのか、第二階層の天井は、とてつもなく高い。

その高い天井に向けて、高く飛来した化け者の姿は、一瞬、闇にまぎれて見えなくなった。
が、やがてまた、姿を取り戻して、同じく垂直に落ちてくる。
落ちてきた化け者は、耳障りな甲高い奇声を上げながら、自分に石を投げてきた男に向かって大きく両方の手を振り上げる。
そして、地上に落ちる、その力を利用して、組んだ両手を棍棒のようにして、石を投げた男の脳天を打ち砕いた。

ぐしゃ、と簡素で、そして無情な音がした。
石を投げた男は、頭を割られて、その場にゆっくりと倒れ、そして事切れた。
それが合図であった。
石を投げた男が倒れると、最後尾にいたほかの盗賊たちも、派手に悲鳴をあげた。ただでさえ、そのおぞましい姿に怯えていたところへ、突然の攻撃である。
しかもかれらに武器はない。
荒くれ者たちが悲鳴をあげたのを合図にして、ほかの首無しの者たちもまた、奇声をあげて襲いかかってきた。
「いけねぇ、坊ちゃんがた、逃げなさい!」
赤頭巾に言われるまでもなく、文偉は、自分の肩の衣をがっしりとにぎっている休昭の手を引き剥がし、そしてそれを手で握り返して、走り出した。
化け者たちは、うしろから追いかけてきた。逃げるのは、まえに進むしかない。
赤頭巾は文偉と休昭を手招いて、はやく、はやくと急かす。
文偉も急いでいるつもりであったが、この突然の襲撃に、足がもつれたようになって、うまく動かない。
とはいえ、ここで下手に倒れたら、手を引いている休昭はどうなる、とおのれを励まして、前へと進んだ。
文偉にとって休昭は、かぎりなく弱弱しい、守ってやらねばならない存在である。

「なんだかわからねぇが、トンでもないモノが現われやがった! 相手も素手だってのによ、一撃で人の脳天を砕くような怪力相手じゃ、戦いようがねぇ! ともかく、走れ! でもって、逃げろ!」
どこへ、と問い返すのは、この場合、愚問だろう。
この第二階層から上へ上がる道を知っているのは、彭恙と、ここへ一度、潜ったことがあるという陳勝ら盗賊たちだけである。
盗賊たちのほうは、すっかり度を失って、あちらこちらへと、蜘蛛の子を散らすように、めいめいが好きなところへ逃げてしまっている。
陳勝は手下たちを統率しようと声を張り上げるのであるが、そうしている端から、首無し男たちは襲い掛かってきて、武器のないその長い鋼のような腕を振りまわし、奇声をあげて盗賊らを打ち倒していく。
盗賊たちのほうは、仲間の仇、とばかりに反撃しようと、手にしていた松明などを投げる者もいたが、首無し男たちは、その肌に松明の火を押し当てられても、まるで頓着しない。
いや、頓着しないのではなかった。
肌の焦げる凄惨なにおいがあたりに広がり始めると、それまで、まったく気にせずに襲い掛かってきた化け者は、突如として、火傷をしたあたりに手をあてて苦しみはじめ、なお一層、兇悪化して盗賊たちに殴りかかる。
どうやら、痛みを感じるのが、ふつうの人間よりも遅いらしい。
攻撃の仕方は、じつに単調で、その両手を、思い切り反動をつけて振り下ろすだけである。
が、腕の硬さと力の強さはすさまじく、一撃でもそれを食らうと、まずまちがいなく致命傷となってしまうのだ。

こうなると、武器をもたない一行としては、ひたすら逃げるしかない。
そうして、みなが前へと押し寄せるかたちになるのだが、ふと、その先頭にいた盗賊たちが、後退をはじめた。
なんだろうと文偉が薄闇の向こうに目を凝らすと、それまで先頭に立って矛を手にしていた彭恙が、沈黙のまま、立ち止まっているのである。
もしや、前方からも敵が来たのかと思った文偉であるが、ちがった。
彭恙は、沈黙したまま、ぐっと、その両手で、矛を握りなおす。
それだけの仕草なのであるが、その無駄な肉のなにひとつない筋肉質な背中からは、すさまじい殺気が感じ取れた。
文偉の脳裏に、赤頭巾が言ったことばが思い出された。
大将の様子が変だ、という。

「おい、大将、どうしたのだい」
殺気を感じ取ってはいるが、それの意味するところがわからず、おずおずと声をかける盗賊たち。
が、彭恙は、急にすばやく、くるりと振り返ると、手にした矛を大きく振りかざし、自分の真後ろにいた盗賊たちを撫で斬りにした。
とたん、ふたたび悲鳴と怒号が上がった。
首無し男たちに襲われている盗賊たちからは、恐怖の叫びが、そして彭恙に突如として襲われた盗賊たちからは、思わぬ裏切りに対する怒りと驚きの叫びが、それぞれに上がる。
まさに阿鼻叫喚とはこのことだろう。
文偉は前後から聞こえてくる悲痛な叫びに、すっかり竦みあがって、足を止めてしまった。
前方に進むこともできなければ、後退することもできない。
「畜生、このクソッタレ大将! 裏切りやがるのか!」
陳勝が悔しそうに叫ぶと、彭恙は、真新しい血にまみれた矛を手に、なんともうれしそうに、にやりと笑った。
「どちらにしろ、おまえたちを殺すつもりだったのだ。追っ手が来たというのなら、そいつらもまとめて殺す」
「狂っているぜ、あんた、俺たちを殺して、なんの得があるってんだ!」
抗議の声を耳にしても、彭恙は動じない。
どころか、ますます狂気にとらわれた男特有の、歪んだ笑みをすさまじくして、答えた。
「殺せば殺すほどに、わが名声は上がるのだ。おまえたちのような雑魚に、人柱としての役目を最後に与えてやるのだ。むしろ感謝するがいい」
「なーにが、人柱だ、コンコンチキ! 手にした武器で、うしろの化け者を倒してみてからほざきやがれ!」
と、横から茶々を入れたのは、赤頭巾である。
赤頭巾の声に、彭恙は、五月蠅く飛び回るハエを見るような目を向けた。
赤頭巾はひるまず、つづける。
「ほんとうは化け者を倒す自信がなくて逃げ出したいのだが、儂たちがいると、彭永年は敵に背を向けて逃げ出したと、そういう噂が立てられちまう。それが怖いから、なんだか適当な理由をつけて、儂たちを抹殺して、それから自分だけトンズラ、と考えているんじゃねぇのか。
見損なったぜ、腰抜け大将! だーから出世しないのだ!」

おそらくそれは、図星ではなかっただろう。
そして、赤頭巾も、彭恙がそこまで考えているとは思っていないのだ。
しかし、赤頭巾の罵倒は、思わぬ効果を呼んだ。
それまで、殺気を漲らせながらも、どこか余裕の面持ちであった彭恙が、ふたたび矛を握りなおすと、顔を憎悪で悪鬼のようにゆがめて、赤頭巾に向けて、獣のような唸り声をあげて突っ込んできた。
目の前にいる、竦んで立ち尽くしている盗賊たちを蹴散らして、赤頭巾ひとりを叩き潰そうとしたのだ。
だが、それを見るや、赤頭巾は、
「まるで虻に刺された牛だな、こりゃ!」
と言いながら、くるりと背を向けて、逃げ出した。
とはいえ、逃げるといっても、前方から彭恙が襲い掛かってくるのだから、後方へ行くしか道はない。
後方には、首無し男たちが、いまも盗賊たちを殴り倒して、凄惨な屍の山を築いている。

だが赤頭巾は、ちらり、ちらりとうしろを気にしつつも、迷わず首無し男たちのほうへ突っ込んでいく。
彭恙はというと、矛をぶんぶんと振り回しながら、赤頭巾を追いかけていく。
そして、首無し男たちのまさに真正面に来たとき、赤頭巾はぴたりと足を止めた。いや、足を止めざるをえなかった。
それを見て、彭恙はにやりと笑うと、赤頭巾のうしろ姿めがけて矛を振り下ろそうとするのであるが、赤頭巾は、振り向くことなく、素早く、さっと身を横にかわすと、ごろごろと床に転がりつつ、彭恙の矛をかわした。
矛の刃先は赤頭巾という目標を失い、むなしく宙を斬る。
ぶん、と大きな風を斬る音に、首無し男たちの目線が、いっせいに彭恙に向かって行った。
「あんたにお似合いの敵だぜ、大将。もし、そいつをあんたが一人で倒せたら、ちょいとは見直してやらねぇでもない。がんばんな!」

彭恙は、赤頭巾のほうを向きかけたが、しかし、前方にいる首無したちが唸り声を上げていまにも攻撃を仕掛けてくる気配をおぼえて、あきらめた。
と、同時に、赤頭巾は、まるで獣を思わせるしなやかな動きで、ぱっと身を起こすと、彭恙と首無したちの対決を目に、硬直している盗賊や文偉たちに向けて、言った。
「さあ、いまのうちだぜ、大将が全部引き受けてくれるあいだに、逃げるのだ!」
叫ぶと、それまで彭恙に集中していた首無し男たちのうち、いちばん近くにいたものが、赤頭巾めがけて腕を振り下ろしてきた。
が、その動きは見えていたのか、赤頭巾は、これもまた、ぱっと身を翻し、逃げ切る。
その見事な動きに、それまで悲痛な叫びをあげて逃げ惑うしかできなかった盗賊たちからも、感嘆の声があがった。
赤頭巾のほうは、息も乱さず、けけけ、と悪戯小僧のように笑いながら、言う。
「儂は昔っから武術をかじってはいたが、どんなに鍛えても腕の力は人並み以上にはなれなかった。けれど生き延びなくちゃならねぇからな。
どうしようかと考えて、ともかく生き残ればいいのだから、相手の攻撃をひたすらかわすことに専念しようと決めたのだ。
おかげさまで儂はどんなやつの攻撃もぜーんぶかわすことが出来るようになった。
こいつらの攻撃だって、あの呂布の檄の速さにくらべれば、秋の蠅くらいにとろく見えるぜ!」
「呂布!」
呂布の名前を知らない者はない。
天下がもっとも乱れに乱れたそのとき、まさに彗星の如くあらわれて、あざやかに最強の武将としてその有名を轟かせた男だ。
その裏切りの数々と、しかしどこか不器用な矛盾した振る舞いは、ただ人を怖じさせたばかりではなく、一種の魅力をもって最強の名とともに人々に存在を印象づけた。
呂布が死んだときには、まだ生まれていなった文偉や休昭さえ、その数々の逸話とともに、その勇名は知っている。
その伝説の男と対峙したことがある、という赤頭巾のことばに、その場の硬直していた空気は、一変した。

「すげえ、もしかして赤頭巾さん、あんた、ほんとうは高名な親分さんなのじゃありませんかい!」
いかにも盗賊らしい感嘆の声が陳勝から漏れる。
陳勝ばかりではなく、ほかの盗賊たちもまた、赤頭巾を尊敬のまなざしで見つめている。
赤頭巾は、それを否定することも肯定することもなく、ははは、と笑いながら、手ぶりで、腰を抜かしてしまっていたり、あるいは怪我をしてしまったりして倒れている者たちに、立ち上がるように示すと、言った。
「くわしいことは、ともかく逃げてからだぜ、陳勝の親分、あんた、ここから一番近い第一階層へあがる階段を知らないか」
「うろ覚えだが、ともかく行けるだけ行ってみよう。さあ、みんな、立ちやがれ! 赤頭巾さんの言うとおりに逃げるのだ!」

陳勝のことばに励まされるようにして、それまで散り散りになって逃げていた盗賊たちは、一箇所に集りはじめた。
そうしているあいだにも、彭恙はつぎつぎと襲い掛かってくる首無し男たちを相手に、矛をすばやく繰り出し戦っている。

奇妙なものだと文偉は思う。
彭恙としては、赤頭巾や陳勝らを助けようなどとは、これっぽっちも考えていない。
むしろ、みんなまとめて始末してやろうと思っていたはずだ。
ところが、『敵に一人で打ち克ち、名声を高めたい』という狂った固定観念にしがみついているために、襲い掛かってくる首無し男たちの攻撃に対し、壁のような役割をになって、一人で戦うはめになってしまっている。
とはいえ、それは文偉たちにとっては、願ったり叶ったりだ。
彭恙が自分たちを助けてくれるつもりなどない、ということは、とっくの昔にわかっていたことであったから、こうなればこの異形の者たちと彭恙が相打ちになってくれるほうがありがたい。
いやいや、非情にすぎるかな、などと文偉は考える。
平穏に過ごしていたころは、自分という人間は、どちらかといえば穏健な方向に流れやすい者だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

「坊ちゃんがた、こっち、こっち! 早く!」
盗賊の一人が、落ちていた松明を拾って、文偉たちに手招きをする。
陳勝らは、すでに第一階層に向かって走りだしていた。
それに応じて、遅れてはならぬとふたたび走り出した文偉と休昭であったが、足元が暗かったために、彭恙に倒されてしまった盗賊の体に、休昭がつまずいて、倒れてしまった。
助け起こそうとして、振り返り、足を止めた文偉であるが、休昭の背後を見て、ぎょっとした。
彭恙が防ぎきれなかった首無し男が、背後から追いかけてきたのである。

うめき声にも似た奇声をあげながら、首無し男は、ゆらりゆらり、と近づいてくる。
間近で見れば、おぞましさよりも、なぜか哀れをもよおす姿をしていた。
首がなく、顔がそのまま肩にのめりこんだような姿をしている。
申し訳程度に服を纏っているが、着る、という感覚がないのは、そのだらしのない着方から見てとれる。
なにより、肩にのめりこんだ、首と顎をもたない顔の、そのうつろなこと。
顔だけ見れば、人と変わらない造作であるのに、目の表情がまるでない。
焦点も定まっておらず、どこを見ているのかもはっきりしないのだ。
長い両腕を、ぶらぶらと揺らすようにして前進してくる首無しは、倒れたまま、動けないでいる休昭と、同じく、助け起こそうとした姿勢のまま、固まってしまっている文偉のほうへと向かってくる。
あたりには、武器になりそうなものは、なにひとつ落ちていない。

そも、文偉にしても休昭にしても、武術をある程度はかじったことはあったが、それを実際に使ったことはなかった。
たまに喧嘩に巻き込まれる程度で、それとて、単純な殴り合いで、命のやりとりには発展しなかった。
だから、こうした場合の応用力が、まるでない。
文偉も休昭も、迫りくる異形の怪物の姿に怖じつつ、身をすくませるしかできない。
赤頭巾らは、とっくの昔にこの場を離れてしまっているのは、その遠ざかっていく足音からわかったが、恐怖のあまり、助けを呼ぶこともできなかった。
目の前に、怪物がやってくる。
駄目だ、ここで脳天を割られて、わたしも死ぬのか。
覚悟を決めた文偉は、ぎゅっと目を閉じ、その最悪の瞬間を待った。

だが、なにも起こらない。

ひた、ひた、と足音が間近に聞こえる。それが、すぐ脇を通り過ぎたのはわかったが、さらに足音は背後に抜けて行き、やがて遠くなった。
文偉は目を開き、まず、目の前にいる休昭が唖然としたまま文偉の肩越しに怪物の背中を見ている姿を見、そして自分も、背を向けて、赤頭巾らが立ち去った方角へ向けて歩いていく怪物を見た。
「なんだ、あれは」
思わず口に出す。
首無し男たちにとって、赤頭巾らと自分たちの差があるのだろうか。
ともかく助かったことはありがたい。

見れば、彭恙は、あいかわらず首無し男たちの一団と闘っていたが、やはり武器を持っていること、そして百戦の勇であることは強い。
二十はいた首無し男たちのうち、その半分ほどが、彭恙の手によって、打ち倒され、死んだ盗賊たちと折り重なって倒れていた。
「いまのうちに逃げよう。立てるな?」
小声で言うと、休昭も、首無し男に無視されたことで、すこし勇気が湧いたのか、うなずいて、言った。
「だいぶ遅れてしまったね。追いつくだろうか」
「追いつくにしても、首無し男のほうが先に行ってしまった。途中で別の道を探して、合流するしかないだろう」
「合流っていうけれど、道はわかるの。みんながどこに行ったのかもわからないのに」

もっともな話で、文偉は、陳勝や赤頭巾が去っていった方角はわかるにしても、さて、どこをどう向かったのかはわからない。
第二階層は、地下にひろがる無人の街のようなつくりになっているのだが、それはつまり、地上にある街と同じように、いくつもの道がある、ということだ。
だが、迷路というわけではない。方角さえわかれば、なんとかなるかもしれない。

「九門古城というところは、もしかしたら地下の街の跡かもしれない。もしここに、大昔に人が住んで、暮らしていたとすると、これだけ広い空間に、出入り口がひとつしかない、なんてことがあるはずがない。
地上にむけて九つの門があるというのなら、少なくとも同じ数の階段があるはずだ。もし赤頭巾どのと合流ができなかったとしても、第一階層に向かう階段は見つけられるだろう。
ともかく、この場から離れることを考えるのだ」
文偉がいうと、休昭も力を得たように、大きくうなずいて立ち上がり、ふたりは、戦う彭恙を気にしつつ、その場を離れた。

三十七話へつづく…
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