5000HIT記念企画
しんねんかい。 

 ※この先を読まれる、お釈迦様のようなお客様へ。この御礼企画は、特に須弥山サイズに心の広い方に特に推奨いたします。

某巨大病院の待合室…

病院へ来るのは、献血でパンを一斤分けてもらったとき以来だな、と思いつつ、びんぼう書士・費文偉は、親友の董休昭がそこにいる、と聞いてやってきた。
どこもかしこも消毒液の臭いと、スリッパのぺたぺたという音の響く、複雑な機構を持つ建物のなかをしばしきょろきょろとして、ようやく、目当ての董休昭を見つけた。
地味ながらもこざっぱりした姿をした、いかにも育ちの良さそうな青年。それが董休昭である。
董休昭は、背もたれの無いソファにひとりぼっちでつくねんとしていた。

しかし様子がおかしいことに、待合室のほかの人々は、董允のほうをみて、なにやらひそひそ、くすくすと忍び笑いをしているのである。
聞こえる言葉は
「…もん」というものだ。『門』? 水戸黄門? 


俺の親友になんなのだ、と費褘はムッとしつつ、人々の嘲笑を追い散らすような勢いで、大声で友に声をかけた。
「休昭、大事ないか?」

「大事ないとも。それにしても文偉! お前というヤツは!」
「なんだ」
「都合よく盲腸になんぞなりおって。どうしたら忘年会や新年会に合わせてそんなに上手に病を得ることが出来るのだ? 教えてくれ」
「…その様子だと、新年会、おそろしい有り様だったのだな」
…話したくない
おやおや、と文偉は思いつつ、休昭のとなりに腰をかける。
「さきほど公琰どのにもお会いしたが、やはりお前と同じように暗い顔をされておった。いったい何があったのかと尋ねたら、『休昭に聞け』とそんなふうだ」
…公琰どのはズルイ
「まあ、そう拗ねるな。話せばかえって気が楽になる、ということもあるぞ。俺は忘年会の有り様もだいたい判っているし、心の準備は出来ておるぞ。さあ、ドンと話せ!」
うーむ、と休昭はしばしためらったあと、ぽつりぽつりと話しだした。

「そもそも会場からしてまずかったのだ。また栄耀飯店だぞ」
「またか」
「そうだ。忘年会と新年会をセットで会場予約すると、割引率が高くなり、予約人数全員にソフトドリンクがつく、というサービスつきであったのだ。
そも、会場が栄耀飯店、と聞いたところで嫌な予感はしていたのだよ。
それでも例によって例の如く、主公の歌から始まって、最初は良かったのだ。
ちなみに主公が今回唄われたのは、
『マツケンサンバⅡ』だ」
「いきなり〆に入ったようなものだな。盛り上がっただろう」
「毎度思うのであるが、紅白のように大トリは最後に残すべきではないか? 
ともかく紙吹雪は飛んで料理にかかるわ、紙テープをまともに顔面に食らって、一緒に踊っていた伊籍殿が救急車で運ばれるわで、たいそうな盛り上がりであった」
「伊籍殿はちと気になるが、盛り上がったのであればよいではないか。で、次は前回MVPか?」
「いや、今回は関羽殿が次に歌われた。義弟の張飛殿に触発されたか、今回は新しいところで
平原綾香の『Jupiter』だ」
「ええ? 前回が谷村新司の『昴』で今回『Jupiter』? 星つながりか?」
「我ら下っ端で行ったトトカルチョでは、軍師将軍が歌うかもしれない歌としての一番人気であったのだが、関羽殿であった。意外だろう。
しかもどこでどう聞きつけたか、曹操がわざわざ許都より、美女ばかり集めた楽団を派遣してきたのだ。ほれ」


と、文偉は携帯に保存してあった写真を見せる。

「十二人いる! もしかして、噂のアレ?」
「フルオーケストラで歌ったのだぞ。美女はいっぱいいるわ、しかもあの低音であの歌詞だ。上手い下手以前になんだか感動した」

「奥の深い方だ…まあ、いつものことながら、そこまではよい。後続は?」
「これに負けじと黄忠&厳顔コンビが登場し」
「ふむ、前回は冬ソナの主題歌であったから、今回は『美しき日々』か?」
「残念でした。
ORANGE RANGEの『ロコローション』
「若っ!」
「最初は森山直太朗の「桜」で行く予定だったのだが、片方がピアノ担当になり、目立たないから不公平、ということで、急遽変更したらしい。
ちゃんとあのヘンテコな眼鏡を自作で持ってきたのだから恐れ入る」

「カッコイイ…しかし、今回はずいぶんマトモだったようだな」
「たわけ、ここからだ。山で言うならば、まだ登山口に立っただけだぞ」

「山に喩えるな。『マークスの山』を思い出してしまう。ともかく、それからどうなった」

「非常に和やかなうちに新年会は進んだのだが、馬超殿が登場したあたりから雲行きが怪しくなってきた。
馬超殿と馬岱殿がお笑いをするらしい、ということは事前情報で掴めていたのだが…」
「インパルス? アンジャッシュ? スピードワゴン? ドランクドラゴン?」

「いや、
ヒロシ
「ヒロシ!」
「馬岱殿が後ろでBGMの『ガラスの部屋』を歌い、馬超殿がネタを披露するのだ」
「おもしろそうだが…」
「ネタを聞いてから言ってくれ。こんなふうだった↓
孟起です。まだ本人を見ていないのに、馬においてある鞍を見て、その武将を好きになるとです。
孟起です。誰でもいいから援軍が欲しい、と言っていた人(張魯)から、振られました。
孟起です。それは難民じゃなくて、うちの従弟です!
孟起です。オレが好きになる女の人は、みんな敵の手に渡るとです
孟起です。このあいだ飲み会で、主公にタメ口きいたら、めちゃくちゃ怒られました。
孟起です。オレの領土がありません!
孟起です。成都から臨沮くらいまでだったら、歩きます

孟起です、孟起です孟起です
重い。笑っていいの? いけないの? しかも半分、紛れもない史実ではないか」
「おかげでその場の全員、ツンドラの空の下のオットセイ状態だ。
馬岱殿が実は歌が上手い、ということだけはわかったので、それは収穫であったが」
「馬岱殿はピンで生きたほうが、出世が早くないか?」

「言うな。人にはそれぞれ幸せの尺度というものがある。で、びゅうびゅうと寒い風の吹くなか登場したのが、魏延&李巌コンビ」
「うわ、デイ・アフタートゥモロー到来!」
「ちなみに登場時、トイレに立った人がもっとも多かったこのユニット。唄ったのはモーニング娘。の『涙が止まらない放課後』
「よせ! こちらこそ涙が止まらぬ。なんだ、その選曲は!」

「当初はダブルユーでいく予定だったのだが、紺野あさ美の写真集を偶然に目にしたふたりが、あさ美で行こう! と盛り上がり、そうなったらしい。
前回が前回だけに、見るものの心構えもできていた、というか、舞台にバナナの皮が投げられることもなく無事に終了した」
「みなが無事なのはよいことだ。しかしそのあとに続くのは、むしろ幸運だな」
「そうとも、ここでいささか持ち直す。
前回、『おどるポンポコリン』で、場を魔空空間に引きずり込んだ南蛮一座に出番が回ってきたのだ。彼らは彼らなりにきちんと反省会をして、今回は切り札を出してきた。
唄ったのは祝融&美女軍団による安良城 紅 『Here Alone』
ちなみに今回のMVP賞は彼女らに贈られた。彼女たちのパフォーマンスを撮影した動画が、いま1ダウンロード千円で売りに出されている。買うか?」

「千円! 高!」

引き気味の文偉に、休昭は己の携帯で動画を再生する。
そこにはきわどい衣裳を身にまとい、見事な舞いを披露する美女たちの姿が…
「ナニコレ! デスチャも納得の超高度パフォーマンス!」
「だろ?」
「すいません、やっぱりダウンロードさせてください」

「いやはや、嫌な宴にも我慢して出るものだな。思わぬお年玉だ」
「おまえが元締めかい。いや、それはよい。で、持ち直したのならば、そのままで終わったのでは?」

「たわけ、蜀の宴を舐めてはならぬ。祝融夫人のおかげで大いに盛り上がったところへ、次が
趙将軍の手品だ」
「つまりお前の出番、ということだな。で、どうであった?」

「どうもこうも…趙将軍、何故か私に酢を飲んでおけ、と言っていただろう」
「そうであったな」
「当日になって理由がわかった。趙将軍は、マジックの練習をなにもしていなかったのだ。
しかも種を明かせば、あれは所定の位置に人が寝て、所定の位置に剣を差す、というものだ。絶対に人体に傷がつかないように、計算されている」

「うむ」
「ところが、趙将軍が持ち出したのは、フツーのダンボール! しかもその日のお昼に、弁当を買うついでにスーパーの裏手から小母ちゃんたちに貰ったものだというのだ。
慎重で賢明と名高い趙将軍が、ここまでぶっつけ本番だと誰が思う? 私はてっきり、趙将軍が、真新しいダンボールに目印をつけるのだと思ったさ!」
「訛っているぞ、休昭…で、ちゃんと目印はつけたのであろう?」

「いいや。趙将軍は私にダンボールに入るようにいうと、ほとんど目算だけでタンボールに剣を突き立て始めた」
「おいおい」
「おいおい、はこちらの台詞だ! しかも小声で『危なかった』『奇跡だ』『次はマズイかな』などと禁句をぼそぼそと連呼しているのだよ! こちらは生きた心地がせぬわ! 
酢で柔らかくなった体を賢明に捻って、思い切り助けをもとめて叫びまくったとも!」
「そうなれば、さすがに軍師将軍がお助けくださるであろう」
「それが、軍師将軍は伊籍殿の付き添いで救急車に乗り込んでしまい、そのときはまだ戻っていなかったのだ」
「なんと間の悪い…しかしこうしてお前と話が出来ている、ということは、たとえ目算だけだとしても、趙将軍は素晴らしい腕を持っている、ということではないか?」
「違う! 私は今回のことでよくわかった。あの方は、文明人の仮面をかぶった野性の獣だ! 万事、勘だけなのだ! 
見た目に騙されてはならぬ! そもそも、あの軍師将軍と対等でいられるということ事態、異常なことではないか!」


「落ち着け、休昭。血管が切れる。で、そのあとはどうなった?」
…気絶したからおぼえてない
「…そうか。しかしそんな拷問ショーもどきの後も辛かろう。誰であったのだ」
「さらに悪いことに父上だったのだ。しかも唄ったのが夏川りみの『涙そうそう』! 死んだのか? 私は死んだのか? 古いアルバムめくってようやく思い出してもらえる存在が私なのか?」

「どうどう! 落ち着け! しかし恐るべきは蜀の宴よ。これ以上の悲劇は、もうないだろうな?」

「甘い。父上が妙な具合に場を盛り上げてしまったあとで、登場したのは法尚書令と劉巴殿だ。
彼らとしては、いつまでも荊州方といがみ合っていてもなんだし、そろそろこのあたりで仲良くしておこうかな、と思ったのだろうが」

「が?」
「凄まじかったぞ。天井から釣り下がった法正どのが、総電飾のエンタープライズ号みたいなびかびかの衣裳をまとって登場したのだ。唄うは小林幸子の『想い出酒』」
「ムリして飲んじゃいけないと、のアレ?」
「ムリして飲んじゃいけないと、のアレだ。歌と衣裳の関連性がまるでないのがご愛嬌であるが、たしかに豪華絢爛で素晴らしかったとも。だがな、間奏で衣裳が展開し、長―いスカート部分が広がって、スクリーンになったのだ」
「スペクタクル!」

「そして映し出されたのが、なんと劉左将軍の事績をスライドにまとめたもの。劉巴どの渾身の作であった。
歌にあわせて、桃園の誓いからはじまり、関羽殿の関所越え、三顧の礼、そして赤壁…」
「ほお、下手な映画を観るより、ずっと良さそうであるが」
「演出は悪くなかったとも。さすが宮本亜門。ところがな、歌詞が悪すぎた。『想い出酒』のサビの部分を唄ってみろ」


♪あのひとぉー、どぉーして、いるーぅかーしーらー♪
「ちょうどそのときに、なんの手違いかはしらぬが、曹操の顔がドアップになってしまったのだ」
「劉巴どの…」

「主公は怒るに怒れぬし、さすがに天井から下がったままでは法尚書令もしらんぷり、というわけにはいかぬ。
結局最後まで唄いきったが、その頃にはもう、新年会、というよりは、偲ぶ会、という雰囲気であった」
「…胃が痛くなる話であるな。で、それでお開きか?」

「いいや、最後に大トリが登場した。『しけてやがるぜ!』の一声と同時に、出てきたのが張飛&諸葛孔明による、ゆず『恋の日曜日』!」
「はあ? 女装したのか、軍師将軍!」

「いや、女装したのは張飛殿。実は張飛殿は、髯をなくすとワイルド系のいい男なのだということが今回判明した。
それはともかく、歌の上手い者同士の超意外ユニットだ。

張飛どのも劉巴殿にはひと言物申すところがあるから、負けてなるものかと、えらい張り切りようであった。
おなじ女装でも、前回の魏延&李巌のゴリエとは雲泥の差だったぞ。あれはただ気持ち悪いだけであったからな。キャラって大事だと思わぬか」
「軍師が女装じゃないのか…」
「軍師が女装しただけでは意外性がなかろうが。で、彼らが歌ったのはそれだけではない。続けて浜崎あゆみの『INSPIER』、さらに続けて、ラルクの『Ready Stedy Go』
「おいおい、笑いの要素がひとつもないな。本気だったのか」
「ちゃんとハモってたところを見ると、こっそり練習したのだよ、あの二人で! 
その様子を想像すると、また違った意味で感動できるだろう。
しかも軍師将軍は、メインボーカルを張飛どのに譲り、自分はハモリ専門に回ったのだ。その奥ゆかしさがまたさらに印象を良くして、まさに内助の功の諸葛孔明の面目躍如であったぞ。
いやはや、私的には今回のMVPはあの二人であったな。
おおいに盛り上がったところで、最後に全員で坂本九の『上を向いて歩こう』を歌って宴を締めたのだ」


「終わりよければすべて良し、という言葉もある。それで終わったのならば、万事OKではないか」
「そうであったら、我らはここにはいなかろう」
そのとき、赤い『手術中』のランプが消えた。
そうして、手術服をまとった華侘が、マスクを外しながら手術室から出てくる。
「先生!」
「あ、趙将軍に拷問された人」
「董和の息子の董休昭です! 先生、郭攸史の容態は」

「いかんねぇ、パンダウイルスに陽性反応が出た。パンダ化が激しく進んでいるようだ。
臥竜の中華パンダ園で、しばらくパンダと一緒に過ごしていたって? 飼育係としてかね」
「…パンダらしき物体Xとしてです。今回の新年会で、途中で中継ということで、蒋琬殿が司会をして、郭攸史がパンダ園から
『パンダがなんだを歌う予定だったのですが…」
「中継って、紅白じゃないんだから。でも私も宴に出ていたけれどね、中継なんてなかったよね?」
「自分のパフォーマンスが気になるあまり、中継があることを忘れた進行係が、蒋琬殿にカメラを振るのを忘れていたのです。
それに腹を立てた郭攸史は、笹を自棄食いしてしまい、いつのまにか、体に毎度おなじみの黒いブチが!」
「困った進行係だねぇ、で、だれだったの?」

…軍師将軍です…
「…そう…
死ぬことはないと思うけど、人の言葉を忘れているようでねぇ、しばらく時間がかかるよ、あれは」

「郭攸史…気の毒に。せっかく軍師将軍からお年玉を預かってきたのに」

お年玉袋には、孔明がコンビニで、たまたまおつりでもらった『長野五輪記念500円硬貨』が三枚ばかり入っていた。
現在の価値は一枚六百円ばかし。もしかしたら、未来に値上がりするかもしれないが…
しょんぼりと病室を後にする董休昭&費文偉。

費褘がぼやく。
「毎度毎度、犠牲の多すぎる宴だな。しかし今度こそ、年末まで静かになるだろう」
「どうだろう。春には新人の歓迎会がある、という恐ろしい噂を聞いたのだが」
「俺はそのころには、重度の花粉症で寝込むことにしよう…」

パンダ化の進んだ郭攸史は無菌室に隔離されたさびしい日々を送っているが、唯一の楽しみは、孔明から毎日メールで送られる、言い訳をつらつらと連ねた『ごめんねメール』に文句を言うことだという。
劉備は『マツケンサンバⅡ』で張り切りすぎ、腰を痛めた。
法正は、豪華な衣裳は、公的費用の流用で賄われたのではという疑惑の渦中におり、このたび正式に、国会への証人喚問が決まった。
この疑惑の影に、孔明の姿があるかどうかは歴史の闇の中である。

曹操からプレゼントされた後漢版女子十二楽坊は、関羽のオルゴール代わりになって、関羽のご機嫌に大いに貢献しているという。
               
                もしかしたら、またつづく…