ナント! 13000HIT達成! 記念作品

ニューシネマ ぱらだいす。


※ このお話は、キャラの破壊度がいつになく進行しております。吟遊詩人の琴の音のように典雅な精神とひろーい度量をお持ちの方に、特に推奨いたします。

前回までのあらすじ?


びんぼうな新米官吏・費文偉は、ゴールデンウィークのあいだ、食糧難をなんとかするべく川に泥鰌を釣りに行ったが、キャンプ中の陳一家に邪魔をされ、泥鰌を釣ることができなかった。
遊びに行くにもお金がなくて、ひもじいばかりなので、短期のアルバイトをすることを決意。
そして栄耀飯店の経営するDVDレンタルショップへ足を運ぶのであった…

まずは、ごあいさつ。

やけのやんぱちになった費文偉は、家の鏡で、懸命に『店員用スマイル』を学習し、身なりも仕事にいくときよりこざっぱりとさせて、さっそくDVDレンタルショップ『ニューシネマ ぱらだいす 成都店』へやってきた。
成都一の歓楽街・長星橋の一角にある、大きな三階建てのDVDレンタルショップである。
一階がアジア映画、二階が洋画、三階がおとな向けという内訳だ。
一本が一週間で480円と高値だが、ほかに競合する店がないのと、品揃えが豊富なのとで、なかなか繁盛をしている。

駐車場へやってきたとき、ふと、立派な馬車のとなりで、荷台に背をもたれさせ、いかにも高級そうな絹の服を身にまとった同年輩の少年が、じゃらじゃらと、あきれるほどにストラップのたくさんつけた携帯でもって、どこかと話をしているのが見えた。
一見しただけで、垢抜けており、いかにも贅沢になれているといったふうの、費文偉としては反発を抱く類いの少年である。
卵型の顔に通った鼻梁の特長的な、聡明そうな少年だ。
だが、目つきがよろしくない。
吊り目ではなく、むしろたれ目なのであるが、奇妙にきつく見える、ある意味まったく余裕のない内面が、そのまま目の表情にあらわれているような、見る者を追いつめるような目をしていた。
さらに口は冷笑的に歪んでおり、性格の悪さ、自己中心的な性質を、これまた端的に示していた。

「パパぁ、いったいいつまでこっちにいりゃあいいの? なんにもなくて、チョー退屈なんだけどー。
山登りー? 疲れるだけじゃん。こっち田舎だから、ロープウェーもないしさー。
ジャングル探検? 冗談じゃないよ、変な病気になったらどうすんの? 漢帝国の大いなる損失だよ、そ・ん・し・つ! 
ほんっとうに、むかつくほど田舎なんだよなー。人間もダセぇし、食事はやたら辛いばっかだし、湿気はあるわで、すぐべたべたしてくるしぃー、全部むかつくってかんじー」

『あまり係わり合いにならないほうがよさそうだ』
文偉はそう判断し、駐車場を行き過ぎると、店内に入った。
「こんちわー、今日からお世話になります費文偉といいます」
と、カウンターにいた、『臨時日雇』という腕章をつけた店員が振り返る。
なんのことはない。
「休昭、おまえもか!」
カウンターには、妙に店員用エプロンのよく似合う、親友の董休昭がいた。

父親がいまをときめく軍師将軍・諸葛孔明の片腕ということもあり、費家よりはいくらかましな生活をしているのだが、父親の董和というのは、弱いものを助けるために、日々生きているような人で、そういう人のところへは、どういうわけか、本当にどうにもならないほど困っている人がやってくる。
董和は、困った人をほっとけない性質ときている。
そこで需要と供給がうまくかみ合って、董家は、人助けびんぼうとなっていた。

「ゴールデンウィークは地上の楽園へ行く、とか言って、自慢してなかったか」
「…『ニューシネマ ぱらだいす』…嘘じゃないぞ」
「最近は、さすがに食べるのには困らなくなったといって、この間も、うちにおこわを分けてくれたじゃないか。なのに、跡取り息子みずからが、大型連休に働いている、というのも悲しいぞ」
「生活するぎりぎりのところは大丈夫なのだ。だが、余裕がない。じつは、一ヶ月ほどまえからバイトをはじめていたのさ。もうすぐ、父の日だろう」
「あいかわらず、父親孝行なやつだな。で、プレゼントをするための小遣い稼ぎをしている、と。
事情はわかった。俺としても、知り合いが同じ職場にいる、というのはありがたい。よろしく頼むよ」
「一ヶ月とはいえ、だいたいの仕事はおぼえたから、頼りにしてくれ。
ところで駐車場を通ってきたのだな? あの嫌味っぽい子供、まだいたか?」
子供、などと言ってはいるが、世間一般から見たら、十七歳の童顔の休昭は、似たようなものである。
「うん? あの派手な携帯で、『パパ』とやらに、蜀の悪口を言っていたガキか」
「そうそれ。わたしは別に愛国心が特別強い人間じゃないが、それでも、よそ者にああいうふうに悪口を叩かれると、やはりムッとするな」
「話したこともないのにアレだが、なんだか仲良くなれそうにないガキだ。
こういうときは、無視するにかぎる。ところで、俺は何をしたらいいのだ?」

カウンター業務 その1

返却用DVDの棚には、さまざまなジャンルのDVDがずらりと並んでいる。
「まずは返ってきたDVDの仕分けだな。階数ごとのジャンルに分けてくれ。
そのあと、所定の場所に返す。汚れているものがあったら、布巾で綺麗にしておいてくれ。意外に汚れていたりするぞ」
『となりのトトロ』の隣に『かまきり夫人』がある、という光景も、なんだかシュールだな」
「ああ、そこにあるアダルトDVDの一群、主公が借りたものだから」
「へ?」
「すごいよな。堂々と本人が返しにきたぞ。天真爛漫というか、自分に正直、世間にも正直、というか…」
「大物だなぁ。おや、いらっしゃいませ」

見ると、趙子龍が、DVDの専用バック片手に店に入ってきたところであった。
カウンターにいる、毎度おなじみのコンビを見て、ほんの一瞬、顔をこわばらせる。
とはいえ、その表情の変化も、ほんとうに一瞬のことであったから、見分けることができるのは、そのひととなりをある程度まで理解している人間だけであったろう。
趙子龍は、DVDの袋を休昭に返却すると、ではな、と短く言って、そのまま踵を返してしまった。
「あれ? 借りにきたのではなかったのか…」
「休昭」
文偉は、親友の服の袖をつんつんと引っ張る。
「中! 中身見たい! DVD袋の中身。開けていい?」
「そりゃあ、見てもいいけど…っていうか、開けないと仕事にならないだろ。なんだってそんなに興奮しているのだ。怖いぞ」
「だって、気になるだろ、あの方がどんなDVD見るのか」
ちらりと文偉は、劉備が返した、ろくでもないDVDをちらりと見て、言う。
「もしかしたら、とか!」
「うーん、それはそれで、人付き合いが変わりそうでイヤだなー。というより、おまえ、なにを見ても、店を出たら、だれにも言っちゃダメだぞ」
「守秘義務だな? わかっているとも。さー、なにが出るかなー?」
一本目。
『世界遺産紀行一・フィレンツェ編』
「フツーだ」
「フツーだなぁ…」
二本目。
『イースター島紀行・モアイのなぞ』
「うーむ」
「………」
三本目。
どうぶつのあかちゃん・子馬編』
おわり。
「………ナニコレ」
「……うーむ、あの人のイメージなら
『ロボコップ』なんだがなぁ」
「そりゃ、『趙将軍が見そうなDVDのイメージ』じゃなく、『趙将軍に近いイメージのDVD』だろ? うちの職場でさ、趙将軍があんまり完璧で人間らしくないので、じつは新野時代に、軍師将軍が魔術を駆使して製造した、フレッシュゴーレムじゃないかって噂があってさ、俺、いままで否定派だったけど、いま、肯定派になったわ…」
「いや、それは否定してさしあげるべきだろう。しかし、なにがおもしろいのかな、このラインアップ…」
「趙将軍とTVを共有できそうにないな、俺…」

店内清掃

「モップでもって、店内の床を掃除するんだ。結構汚れているから、気合で磨けよ」
と休昭に言われ、文偉は、店内のモップ掛けをはじめた。
店内には、ちらほらと見知った顔がいる。
『うーむ、何も考えずに時給で決めたバイトであったが、こうして見ると、意外な人の意外な趣味がわかって面白いものだな』
ふと目をやると、軍師将軍・諸葛孔明が、真剣そのものの顔をして、DVDのパッケージを見ていた。
立っているコーナーは…
『ホラーコーナー』
なんとなく、見てはならぬものを見てしまった気がして、文偉は掃除をてきとうに切り上げて、カウンターへ帰ってきた。

「休昭、軍師が来ておられるぞ。ホラーコーナーにいた」
「へえ? あの方はたしかに会員だが、ホラーなんてのは珍しいな。いつもは本当に、普通の作品ばかり借りていくのだがな」
と、休昭は、顧客管理画面を休昭に見せる。
なるほど、そこにはごくごくポピュラーな作品ばかり。
『ライムライト』、『グランドホテル』、『北北西に進路を取れ』、『サウンド・オブ・ミュージック』などなど。
「渋いなぁ、名画ばかりではないか。でもなんだか、あの方の趣味じゃなさそうな」
「このリストにたまーに入っている
『スヌーピーベストコレクション』やら、『あらいぐまラスカル』やらは、喬どのがお好きなのだそうだよ」
「なんで知っている」
「ご自分でそう仰っておられたからさ」
「あのひとが、自分で? へぇ?」
と、ふと何気なく新作コーナーを見て、文偉は愕然とする。
「あっ! 最後に一本だけ残っていた、あとで借りようと思っていた
『ターミナル』がない!」
「それなら、さきほど劉巴どのが借りられていったぞ。なんかさ、パッケージのうしろの『STORY』をじっと読んでおられたのだが、それだけで目がウルウルしていたなぁ」

トム・ハンクスとS・スピルバーグ監督が組んだ『ターミナル』は、東欧の旅行者がNYにやってくるものの、母国が突然、クーデターを起こして帰国できなくなってしまい、アメリカへの入国許可も下りないまま、ある『約束』を果たすため、ひたすら空港から出る日を待ち望みつつ、やむをえず空港で日々を過ごすことになる、という、心温まるヒューマンドラマです。
劉巴の目がウルウルしていた理由が分からない方は、こちらをドーゾ。

「うーむ、コメントはあえて差し控えさせていただく」
「ほんと、ウチの国は、色んな事情を抱えた人間がいるよなぁ」

カウンター業務 その2

「お、董家と費家のガキどもじゃねぇか」
と、店内中に響き渡るような声で、のしのしとやってきたのは張飛である。
「ちょうどよかったぜ、聞きテェんだがよ、このあいだからずうっと貸し出し中になっている、
『あなたに降る夢』、いつ返って来るんだよ」
「お待ちを……えーと、それは延滞になっちゃっておりますねぇ」
「なにぃ? どこのどいつが、かえさねぇんだよ。名前を教えな!」
と、張飛は目を剥いて、どん、とカウンターを叩く。
「わたくしどもを威嚇されても困ります。個人情報ですから、お伝えできません」
「ちぇっ、しょうがねぇなぁ。今日はこれだけにしておくか」
張飛が取り出したのは、
『アメリ』、『初恋のきた道』、『恋愛小説家』
「あっ、なんだよその顔は、娘が借りて来いっていったんだぞ。娘が! おれぁ、こんなもん観ないからな。こういう生ぬるいものは、女子供が観るもんだ!」
「そういうわけでもあるまい。『恋愛小説家』などは、さすがアカデミー賞を取っただけあり、ジャック・ニコルソンとヘレン・ハントの演技はすばらしいものがあった」
口を挟んできたのは、うしろに並んでいた馬超である。
馬超は、店に入ってくるなり、新作コーナーにまっすぐ行って、そのまま、ぱぱっと作品を選んでカウンターにやってきた。
片手には
『オーシャンズ12』、『東京タワー』、『Ray/レイ』
「なんだよ、おめぇか。統一性のないモン借りているなぁ。新しけりゃ、なんだっていいのかよ」
「新しい情報を常にチェックするのも、大将としての勤めだ」
「DVDでかぁ? うん? なんで六本も持ってやがる」
「こちらは、馬岱に借りて来いと頼まれたものだ」
と、もう一方の手にあったのは
『太陽がいっぱい』、『クライング・ゲーム』、『ブエノスアイレス』
「……大丈夫か、おまえの従弟」
「? どういう意味だ?」
「いや、ワカンネェんならそれでいいや。それじゃあな…」
(張飛と同様、意味がわかった方は、馬岱のこれからのためにも、沈黙を守ってあげましょう)
そうして、会計をすませた張飛と馬超は、店から出て行った。
「なんだか怖くなってきたな、このバイト」
文偉が休昭に話しかけると、休昭はあきれ顔をして、顧客管理画面を見つめていた。
「どうした?」
「張将軍の借りてったDVD、あれはご本人が観るのだろう」
「なぜわかる」
「お嬢さんも、この店の会員なのさ。借りているものは
『ハリー・ポッター』『エイリアンVSプレデター』などのファンタジーやアクション系ばっかり。張飛殿の名義で借りられているものを見ろ」
なるほど、そこには
『ピアノ・レッスン』、『メイド・イン・マンハッタン』、『ウェディング・プランナー』、『めぐり逢えたら』、『サブリナ』、『あなたが寝てる間に…』などなど。
「お嬢さんは活発な方だから、自分で見たいものは、ちゃんと自分で借りに来る。つまりいまの三本も、ご自身で観るために借りたのさ。乙女だよなー、趣味が」
「張将軍が乙女趣味だったとは……本当に怖くなってきたな、このバイト」

お客さんの仲裁

しばらく淡々と仕事をこなしていると、フロアで喧嘩している声がする。
見ると、ほかならぬ孔明が、さきほど文偉が駐車場でみた「いけすかないガキ」と、はげしく口論をしているのであった。
孔明は、文偉や休昭には、彼らが年齢的にも一回り下、ということもあり、かなり気安い態度をとるのであるが、ここまで激昂しているところを見せたことはない。

「ダメなものはダメ! 棚に返して来い!」
「なんだよ、ケチ! いいじゃん、こんなのいつも観てる、っつーの!」
なんじゃらほい、と文偉はカウンターを出て、孔明のところへと向かう。
「どうなされましたか」
「おや、文偉、なぜこんなところで働いているのだ? まあ、それはよい、これを見てくれ」
と、孔明が差し出したのは、パッケージからしてえぐい
『サンゲリア』、『マンホールの人魚』、『八仙飯店之人肉饅頭』
『あー、なるへそ。だからさっきホラーコーナーにいたのか。この子が選んだDVDの内容を確めていたのだな』

孔明は、目の前にいる、ふくれっつらの少年に向き直る。
「精神衛生上、まったくよろしくない! 別なものにしなさい!」
「うるせぇなー。いいじゃん、借りてよ、叔父上」
「叔父?」
と、孔明と容姿がまったく似通っていない生意気そうな少年を、文偉は見る。
なるほど、傲慢なまでの押しの強さは共通しているところかもしれないが、孔明にある柔和さ、傲慢そうでいて、実は細心なまでの気遣いをみせる優しさが、この少年からはまったく感じられない。
「兄上の長子の恪だ。ゴールデンウィークなので、こちらに一人で遊びに来たのだよ。恪、こちらは費文偉だ。ごあいさつなさい」
「よろしくー」
ふて腐れているのもあらわに、まともに文偉に顔を向けずに、挨拶をする。
とたん、孔明のげんこつが、恪の形のよい頭に炸裂した。
ごーん、と除夜の鐘のようによい音が店内に響き渡る。
「そんな挨拶の仕方があるか!」
「痛ってー! これ虐待だよ、虐待! いくら叔父上でも、訴えるよ!」
「訴えるなら訴えよ。裁判長はこのわたしだ」
「ひでぇ!」
「まったく、兄上はおまえにどういう躾をなさっておられるのだろう。ここ数日間、かなり我慢しておまえを見てきたが、もう我慢ならぬ。
こんなおどろおどろしい映画ばかり観ているから、人に対する接し方も、おまえは剣呑なのだ。もっと心温まるものにするのだ。
そう、
『ベイブ』にしなさい、『ベイブ』に!」
「ブタじゃん! ブタなんか、どうでもいいよ!」
「ブタ、ブタとバカにするな。ベイブは、普通のブタじゃないのだぞ! 夢を叶えたブタなのだ!」
「ヘンだよ、叔父上…」

すると、そこへ、トコトコと喬がやってきた。
「ん? おまえも決まったのか。見せてみなさい。ふむ、
『パットン将軍』『カサブランカ』か。あいかわらず、趣味がよいな、おまえは。よろしい。会員証を持っていきなさい」
喬は素直にうなずくと、会員証を持って、カウンターへと向かって行った。
そのうしろ姿を見送りつつ、文偉は思う。
『やっぱり、名画は喬殿が観ていて、スヌーピーやらラスカルやらは、軍師将軍が観ていたのか…』

「なんだよ、喬ばっかり! 僕にも貸してよ、会員証!」
「ダメ! 
『ベイブ』にするか!」
「ブタはどうでもいい、って言っているだろ! 百歩ゆずって、ポケモンでもイヤだ!」
ふたりのやり取りを聞いて、文偉は口を挟めず、あきれるばかりである。
『なんだか同じレベルだ。血族なんだなぁ…』
孔明と恪は、しばらくにらみ合っていたが、やがて恪のほうが譲った。
「わかったよ。じゃあ、
『エイリアン』でいいよ!」
「ダメ! 似たようなものだろうが!」
「じゃあ、アクションで我慢する! 
『トゥルーライズ』!」
「バカみたいに核兵器が平気で発射されるからダメ!」
「それじゃあ、古典の映画化でいいよ。
『タイタス』!」
「内容が暗すぎる。きっとシェイクスピアは、執筆当時、欝状態だったにちがいない」
「あー、もう! それじゃあ、
『時計じかけのオレンジ』!」
ダメ、の言葉を想像していた恪と文偉であったが…

「いいよ」

「他に思いつかないよ……って、え? アレ? いいの?」
「最初から、そういう映画を選べばよいのだ。いまのおまえにはとても有益な映画だぞ。しっかり鑑賞するがよい。
ふむ、自らそれを選ぶとは、すこしおまえを見直した」
「……有名だから、なんとなく選んだけど、もしかして、まちがいだった?」
「いいや、まちがいではないとも。喬、兄上に、会員証を貸してさしあげなさい」
「叔父上、なんだか『ベイブ』でよくなってきた…」
「いーや。
『時計じかけのオレンジ』にするのだ! 文偉、会計を頼む」

恪は顔をひきつらせつつ、『時計じかけのオレンジ』を借りていった。
養父子と甥の三人は、とりあえず仲良く店を出て行った。
「あんな風刺の効いたもの観て、かえって逆効果にならないといいけどなぁ…」

ちなみにスタンリー・キューブリック監督作品『時計じかけのオレンジ』は、人殺しをした罪悪感のかけらも持ち合わせない少年が、当局に逮捕され、洗脳を受け、『人畜無害』な少年にされて解放されるも、自分の犯罪の被害者に、凄惨な報復を受けるという、非常に深いテーマの名作です。

店じまい

「さーて、そろそろ閉店だな。文偉、有線を切って、『蛍の光』を流してくれ」
休昭の指示どおり、店内に『蛍の光』を流すと、DVDを借りようというお客がぞろぞろとカウンターにつめかけてきた。
最後の忙しさも乗り越えて、店内の掃除に入った文偉と休昭であるが…
「ん? なんだか、物音がしなかったか?」
「嫌なことを言うな。もう表は閉めてあるし、裏口だって鍵を掛けているのだぞ」
しかし、そのとき…

ガタリ。

物が倒れる音がして、見ると、カウンターのほど近くにあるイ・ビョンホンの立て看板の真となりに、うずくまる物があった。
近づいて見ると…
「あっ! 郭攸史! なぜこんなところに! どこから入ってきた?」
ずっと…
「へ?」
ずっと、会計を待っていたのに…気づいてもらえなかった…
「ずっとだと? いったいいつからだ?」
開店直後…
「なに、それでは一日中ずっと待っていたのか。なぜ声をかけてくれなかったのだ?」
郭攸史は、震える手で、カウンターに貼ってある紙を指した。そこにはこうあった。

『レンタルをされるお客様は、係員が案内をいたしますので、しばらくお待ちください』

待ちすぎ…こんな出番ばっかり…もうイヤだ………ガクリ
郭攸史―!
「ここ一年、こいつのマトモな出番は一度もなかったな…」
「これからも、こんなだぞ、きっと。俺らだって、どうなるかわかったものじゃない」
二人と、一人の屍
(でもすぐ生き返る)の嘆息は、成都の夜にひそやかに流れていくのでありました。

ちなみに郭攸史の借りたDVDは
『耐えられない存在の軽さ』でした。


おしまい。

あいかわらずのおバカ企画、ご読了ありがとうございましたm(__)m 
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