● おまけの広場 ●
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2007年6月21日(木)
流砂の絶佳 八十一

その夜、成都の空を見上げれば、うっすらと光る、奇妙な雲を見つけることができただろう。
月が出たり隠れたりをくりかえしたために、その奇妙な雲の正体が地上から見えることはなかったが、たまにあらわれる月光が映し出すその姿は、まちがえようもなく龍であった。
蛇行して風をすすむ龍を先導するように、透明な蜻蛉が群れを為して飛んでいる。
悪魔の臭いをたどって追跡している仲間を、さらに追いかけているのである。
龍の頭部には、ちょこりと灰色のうさぎが座っている。
通常であれば、あっというまに風に吹き飛ばされてしまうところだが、平気なのは霊力によって守られているからだ。

心地よいほどに変転する薄闇の下の蜀の地を見下ろしながら、うさぎは目をほそめて、龍に化けている孔明に言う。
「そなたは風に乗るときに龍になるのを好むが、やはり生前の号を意識してのことなのか」
「空を飛ぶもの、と想像して、最初に思い浮かんだのが龍であったのだ」
「鳥も昆虫も飛ぶではないか。まあ、わたしは面白いからよいけどな。
こうしていると、ついつい歌を唄いたくなるよ。
♪ぼうや~ よい子だ…」
「はいはい。歌はよい」
「つまらぬ。しかし只人と交流すると、いつも実感するのであるが、われらというのは、馬や車や飛行機や船などにまったく頼らず、自力で素早く移動できる。敵に対してどのような作戦を取るのかも、まかされている。
これほどやりがいがある仕事をしているというのに、自由な身の上だというのは、贅沢なことだと思わぬか。
いま、この状態で、只人とおなじ生活に戻れといわれたら、きっと窮屈でたまらなく感じるのであろうな」
「しかし自由というものは恐ろしい。わたしは、おまえとちがって引きこもりがちな性格だから、下手をするとなんでも自分でまかなえてしまうことをいいことに、他者と交流することがまったくない日がつづくことがある。
楽なことは楽なのであるが、知らぬあいだに、偏屈になっていたり、わがままになっていたり、視野が狭くなっていたりする。
自由というのは、それだけ高い自己管理能力も求められていると、つくづく思うよ。
アトラ・ハシースとしての位は、わたしのほうが弱冠上ではあるが、おまえのように、他者との交流がまったく苦ではない者のほうが、じつはアトラ・ハシースとしてすぐれているのではなかろうかと思うときもある」
「おお、それは誉めているのか」
「たまには」

孔明が言うと、うさぎの仲達は、うれしそうに、にんまりと笑った。
「誉められるというのは、いくつになってもうれしいものよ。しかし諸葛亮よ、そなたは、わたしのことを、ずいぶん要領のいい者だと思っているのだな」
「事実、知り合いは多かろう」
「浅く広く、という人間関係を作ることは得意であるが、そなたのように、狭く深く、という付き合い方はできぬ」
「正直にいえば、おまえの浅く広くという付き合い方を、羨ましく思うときもあるよ。どちらがよいのかな」
「さあて。わたしはそなたをずっと羨ましく思っていたが、これはとなりの芝生は青い、の類いの話なのかもしれぬな。
この世界は、たしかにわれらの世界と似ているが、まったくちがう世界なのだ。
知り合いの姿を目の当たりにしたらわからぬが、理詰めで割り切ってしまえるから、いまのわたしは、母国に帰りたいとは、さほど思わぬ。
すべては過去だと思っているからだな。しかし、そなたのように人と深くつながりを持った者は、複雑であろう」
「たしかにな。なぜわかる」
「んー、たまーに、つらそうな顔をしておったからな。あまり無理せぬほうがよいぞ。
この仕事は、早く切り上げるのが正解かもしれぬ」
「そうかもな。さあ、異民族の居住地に来たぞ。たしかに、悪魔の気配がするな」

龍を先導していた蜻蛉たちが、徐々に地上に向けて下降をはじめた。


※ニッキがいつもより遅いアップとなってしまいました、ごめんなさい。これはヨン様を観ていたからというだけではなく……いや、半分はそうだったりしますが、まー、なんといいましょうか、初恋、13話まで観ました。ジウ姫とヨン様の掛け合いが面白くて目が離せません…とかいうのはさておき、日曜日のアップに向けて、鋭意努力中です。面白いものに出会えるといい影響をもらえるので、作品にいろいろ反映できたらなと思っています。

2007年6月22日(金)
流砂の絶佳 八十二

地上では、とある西域の村の広場で、真夜中だというのに、村人が総出であつまっていた。
村の朝は早いから、月がこれほどに高くのぼる頃まで、人々が起きている、ということがめずらしい。
みな、眠い目をこすりながらやってきたのであるが、それというのも、郡の長官の命令書を持ったナゾの男たちが、広場にあつまれと、ドンドンと太鼓を打ち鳴らして家々をまわったからである。
これに参加しない者は、あとで村八分にされてしまうから、みな、昼間の野良仕事でへとへとになっていたけれど、我慢してあつまってきた。

そうして広場にやってきてみれば、郡の長官らしい男はいるのであるが、なにやら、みなを凝視しているだけで、なにひとつ口にしようとしない。
付き従っている部下たちも、いままで村人たちが見たことのない顔ばかりだ。
それは村長もおなじらしく、村の全員があつまったという報告を長官にしたあとも、どうもおかしいと怪しんでいる様子が手に取るようにわかる。
郡の長官のとなりには、これまた奇妙な、ふつうの男の腿くらいしか背丈のない小男がいて、キイキイと甲高い声を張り上げるのであるが、しかし、どうしたわけか、この小男、鬼の仮面をかぶっているのである。
長官はずっと押し黙ったままである。

さて、いったい何事だろうと村人が待っていると、小男が『カモーン!』と、異国のことばで合図をはじめた。
すると、部下のひとりが、どおん、と銅鑼を大きく打ち鳴らした。
いったい、こんな真夜中になにが行われるのだろうと、いぶかしんで、たがいに憶測を話し合っていた村人たちは、銅鑼の音に、ぴたりと静かになった。

「はーい、みんな注目よー!」
と、威厳のまったくない声色で、小男は言った。
「今日は、みんなにナイス…おっと、お得な提案しちゃうわよ! これを聞いたら、よその村より、十倍も二十倍も得しちゃう! 
アンタ、あたしの話を聞いただけで、生活が楽になるわ、家族が笑顔になるわ、痛い腰も治るわで、たいへんな騒ぎなのよー!」
ここで笑いを取る予定だったらしいのだが、村人は、長官をさしおいてしゃべりだした小男に、ぽかんとしている。
自分に目線を集めながらも、しーんとして、にこりともしない村人の反応に、小男は、決まり悪そうに、こほん、とちいさく咳をすると、つぶやいた。
「なによ、ノリがわるい連中ね。ま、いいわ。
さあて、それじゃあ、早速本題といくわよ。ズバリ、あたしは郡の長官にも信頼されているえらーい仙人なのよ! 戦乱の世の中に嫌気がさして、ずうっと山篭りしていたんだけれど、あんたたちの生活が、あまりに悲惨じゃないのさ。見るに見かねて、山を下りてきた、ってわけ。
んで、あたしが提案したいのは、あんたたちが、あたしと契約を結べば、今後いっさいの税金は払わなくていいわよ、ってこと! ほーら、サプライズ!」
小男は、ここで村人たちがどっと沸くことを期待していたらしいが、変わらず、村人はぽかんとしている。
あまりに話がうますぎて、信じられないのである。
「ちょっとちょっと、あんたたち、あたしの言葉が通じているんでしょうね。いっておくけど、契約っていったって、お金を貸してやるわ、とかいう話じゃないのよ。
ただちょっと、アタシが用意した、この羊皮紙に、ちょちょいと名前をするだけで、あーら、ふしぎ、あんたの名前は郡の台帳から消えて、税金を払わなくてよくなるのよー! もう税金の取立てにおびえながら畑を耕す必要、ナッシング。
耕せば耕すほど、ぜんぶ自分のものになる、アモン式永年墾田私財法をおとどけ! さー、サインするひと、いるの?」
しかし、やはり村人はぽかんとしている。
ちゃんとことばは理解しているが、際するの、と聞かれて、山深い田舎育ちの、純朴で内気なかれらは、自分だけが、突出してひとりだけ名乗りあげることがどうしてもできないのだ。
だれか名乗りをあげないかなあと、集った村人が全員思っていたところへ、ちょうどよく上空に、孔明たちが到着した。


「やや、アモンのやつ、やはり西域に移動しておったぞ」
「なるほど、ああして西域の貧しい村を中心に、生活を楽にしてやるということを餌にして、自分と魂の売買契約を結ばせて、霊力を得ようとしていたわけか」
「悪魔の世界でも、アカウンタビリティを実施しないと、契約が成立しないようになったと聞いたがのう」
「そこはそれ、外界で魔王の目が届かぬことをいいことに、法を破っているにちがいない。
どちらにしろ、このままにしてはおけぬ。すぐさま攻撃に入るぞ!」
「ほいきた!」
うさぎを頭上に乗せた龍は、きらきらと七色の透明な羽根をかがやかせるうつくしい蜻蛉の群れとともに、一気に地上に向かった。

※今日は曇り空のせいか、長袖でちょうどいい…というか、あれ? 風邪引いたんじゃなかろうな、わたし! って、ちゃんと日曜分のアップは準備してありますので大丈夫(^^♪ でもビデオにかじりつくのは、すこし控えようと思います(-_-;)

2007年6月23日(土)
流砂の絶佳 八十三

孔明の使い魔の蜻蛉には、攻撃力はない。
悪魔を見つけても、その周囲を飛ぶだけなのであるが、それが一匹や二匹ではなく、何十という数がそろうと、悪魔も無視をするわけにはいかない。
自分の周囲をぐるぐると旋回する、透明な蜻蛉の群れに、アモンはかなきり声をあげた。
「ちょっとー、ウザ! こいつらウザすぎ! キンチョール! だれかキンチョール持ってきて!」
「残念ながら、殺虫剤ごときでわたしの使い魔は倒せぬぞ!」

村人たちは、空から降ってきた声に仰天して顔を上げるが、視界に飛び込んできたものを見て、さらに仰天した。
龍だ。美しい銀の月、あるいは、木漏れ日にかがやく清流のまぶしさを思い出させる、みごとな鱗を纏った龍が、かれらの頭上に君臨していた。
なぜだか、劉の頭部には、灰色の垂れ耳の、子犬のようなうさぎが座っている。
あまりのことに、村人たちは恐れ、その場から逃げようとするのであるが、いちはやく我に返った村長は、異形ではあるけれど、これほど美しい姿を持つ者が、悪いものであるはずがないと判断し、みなをその場から引き止めた。
「これはきっと、神がご降臨なさったにちがいない! みな、逃げてはならぬ。
神様にご挨拶するのだ!」

「なーんか、おかしな具合になっているぞい」
と、灰色のうさぎが、地上を覗きこんで言う。
一方で、せっかく村人たちを言いくるめようとしていたアモンは、あらわれた龍の正体をすぐに看過し、キイキイと怒鳴った。
「一晩に二度もあらわれるなんて、どういう了見よー! そんなにあたしが好きなの、アンタ! あたしはアンタが好きじゃないわよ!」
「わたしとて、おまえが好きではない。しかし見直したぞ、アモン。おまえがこれほどに働き者だとは知らなかった。
というより、それだけ切羽詰っていると見てよいか」
孔明のことばに、アモンは首を上げて、鬼の仮面の下で、ふん、と鼻を鳴らした

「わかりきってることを、いちいち説明して突きつけてくるところが、なんかイヤミよね、アンタ。わかっているのなら、最後まで見てりゃいいのに」
「見ていられるわけがなかろう。村ごとの魂を一気に狩るとは大胆な」
「狩る? あら、そんな乱暴な作戦は、あたし向きじゃないわね。マモンはどうだか知らないけどさ。あたしの計画はもっと遠大。
せっかく来てくれたから、教えてあげる。この羊皮紙には、魂を渡せという内容の記載はないのよ。あたしが管理する牧場で働いてもらうっていう、雇用契約書なのよ。親切なあたし。
この世界のアンタ、あんまりいい政治していないわね。見なさいよ、この村の貧困っぷり!」
「それはこれからだ。まずは中央の情勢を安定させてから、すこしずつ商業ルートなどを整備し、商業を活発にさせながら、各所に屯所を配置してだな、さらには兵卒ひとりひとりの教育をすすめて、屯所の質の向上と……」
「落ち着け、向こうのペースになっておるぞ」
ぺちぺち、と仲達が、その小さな手で孔明の頭を軽く叩いた。
「ええい、ともかくだ! 牧場とはなんだ、おまえがそんなに親切なものか!」
「あーら、それって偏見。というか、これでもくらえ、でっかい蛇!」

言いざま、アモンは袖から丸いゴムボールを取り出すと、孔明たちに向けて放り投げた。
それは空中で光の球となり、まっすぐに龍の身体にぶつかった。

※気がつけば、外は真っ暗。どうも時間の使い方が、また夜型になりつつあります。ううー、いまのうちに取り返さなくっちゃ(-_-;) さあて、明日はアップの日となります。お時間のある方、遊びにいらしてくださいませねー(^o^)丿

2007年6月24日(日)
流砂の絶佳 八十四

龍の身体に接触した光の球は、そのまま大きく破裂して、空中に飛び散った。
痛みはまるでなかったのであるが、孔明は力が抜けていくのをおぼえた。
龍の身体を保っていられないと悟るや、すぐにもとの人の姿に戻ったのであるが、それでも風に乗っていられない。
さては、霊力を弾く力をもつ宝珠であったかと、舌打ちをしながら、おなじく空中に放り投げられるかたちとなっていた、灰色のうさぎを空中でつかむ。
そして、器用に体勢をととのえた。
主の墜落の危機と見て、アモンやその部下たちにまとわりついていた蜻蛉たちは、地上に落ちかけた孔明の身体のクッションとなった。
おかげで孔明はぎりぎりのところで地上に激突しなくて済んだのであるが、落ちた孔明を見て、甲高い笑い声をたてながら、アモンは言った。
「ぶっざまー! 村人たちー、みなさい、こいつは偽者なのよ! 偽者だから墜落したの! こいつは悪い魔法使いで、あんたたちの魂を狩ろうとしているのよ! 神様なんかじゃないのよー」
村人たちは、眩暈のために首を振っている孔明を、ほんとうだろうか、というふうに探っている。

いかん、アモンのやつは上級悪魔なので、霊力を使わないでも、ある程度までは人々を魅了することができる力を持っているのだったと思い出し、孔明は立ち上がると、村人たちに宣言した。
「わたしはたしかに魔法使いであるが、よい魔法使いなのだ!」
朗朗とひびく孔明の声に、村人たちは気圧されて、ふたたびざわめく。
悪魔が人々を魅了することができるのなら、孔明もまた、ある程度までは、自分の容姿や、醸し出す雰囲気によって、相手を説得させられる自信があった。
「あんまりこういうことは言いたくないが、アモンを見よ、みるからに怪しい、そして胡散臭いであろう! 
一方のわたしはどうだ、胡散臭くはなかろう! ちょっと空から落ちたが、そこは気にするな!」

孔明のことばに、村人たちは、さらにざわざわとざわめいた。が、聞こえてくるその内容は、あまりよいものではない。
「あっさり空から落ちた。もしかしたら神様かもしれないが、あんまり力がない神様かもしれない」
「というより、なんだって漢族の姿をしているのだろう。漢族は信用できないぞ」
「いや、漢族の神様が、出張して俺っちの村に来たのかもしれん」
「なんのために。まさか、漢族を助けるためか? 西羌の部族が一斉蜂起を計画しているって噂がある。それを潰すために来たのだったら、俺たちの敵だぞ」
それを聞いて、孔明は冷や汗をかきながら、つぶやいた。
「ううむ、この世界でも、わたしの世界とおなじように、異民族と漢族の信頼関係はガタガタなのだな」

アモンのほうは、孔明不利と見て、ホホホ、と声をたてて笑う。
「ざまあないわねー。あんたが不利。
いっておくけれど、さっきの宝珠、あんたが所有している霊力の八割は砕いたはずよ。残り二割で、どう戦うつもりかしら? 
これでイーブンよね。おとなしく泣き帰りなさい。あとで宅急便できれいなハンカチ贈ってあげるわよ。
ちなみにアモン牧場オリジナル製品。今後ともご贔屓に♪」
「さきほどから牧場、牧場と。どこにある牧場だ」
「ふふん、あたしの領土の一部に決まっているじゃないの。
さー、ついでにみなさーん、説明会してあげる。あたしの牧場は、従業員のみなさんの幸せを、つねに考えている牧場です。福利厚生はもちろんのこと、従業員宿舎や、付随する遊興施設も充実! 
なんとびっくり宿舎は全室、冷暖房完備、温泉つきで、水道光熱費はこちら持ちで、従業員のみなさまからは、びた一文、いただきません! 
ノルマなし! シフトなし! だからプライベートも超充実! しかも年間休暇は150日。有給休暇も年30日。ボーナスは半年分出すわ!」
「ちょっと待て、ありえないほどの好待遇だな!」
孔明のことばに、アモンは得意そうに笑うのであるが、なにやらその声のなかに、邪さが含まれているような。

そして、孔明は気づいた。
「待て! おまえ、そうして人間を好待遇で生活させておいて、魂をいまよりも純化させ、ほどよいところで狩るつもりなのでは!」
アモンは、孔明の指摘にも、余裕の態度をくずさず、ホホホ、と笑うと、答えた。
「アモン牧場物語、いかがだったかしら♪ さー、みんな、この羊皮紙にてきぱきサインして!」
その呼びかけに、今度は村人は、いっせいにアモンのほうへと群がった。

※いやはや、ネットのおかげで引きこもっていてもなんとかなっちゃう今日この頃。土・日は銀行も郵便局もお役所も開いていないから、出かける用事もなし。ちょっと散歩に行って、運動不足をなんとかしようと思います(^_^;)

2007年6月25日(月)
流砂の絶佳 八十五

一方、仲達はというと、孔明に助けられて地上に降りてくると、村人たちの騒ぎをまえにしながら、ぴくりとも動かない郡の長官のほうにと、とことこと寄っていた。
そうして、威厳たっぷりに正装をし、彼方を見やっている山羊髭の男を、まじまじと見る。
「ふうむ、これは知らぬ男だな。諸葛亮も、よくおぼえていない、もしかしたら、われらの世界では知り合う機会のなかった男かも、と言っておった。
でも、あいさつしておいたほうがよかろうのう。
お初におめにかかる。わたくしは、うさぎの姿をしておるが、ほんとうは司馬家の八達のひとり、司馬仲達と申すもの。どうぞよろしくお願い申し上げる。
あ、ついでに、この世界のわたしとも、ちょっと仲良くしてくれるとうれしいのだけれどのう。
きっとわたしのことだから、家族はたくさんいても、友だちはいないと思うのだ。どうであろう?」
と、照れながら提案する仲達であるが、郡の長官は、沈黙を守ったままである。
「ぬ、無視か。巴蜀の人間は、排他的でいかんよ。
もしもし、こちらは名乗ったのであるから、そちらも名乗っていただきたい」

ぐいぐい、と服の裾を掴んで揺らす仲達であるが、長官は、それを払うでもなく、動かないでいる。
ええい、強情者め、と仲達が、さらにはげしく長官を揺らすと、おどろいたことに、その首が、不自然につよく揺れている。

「お、おや?」
目をぱちくりとさせている仲達をよそに、一度バランスを崩した身体は、もとには戻らず、ぐらりと揺れると、そのまま、頭部だけは、人形のように、ごろり、と床に落ちた。
ごとん、ごとんと鈍い音をたてて転がる生首。
さすがの仲達も蒼くなって叫ぶ。
「し、死んでるぅ!」

仲達の悲鳴に、アモンのところに群がっていた村人たちの動きが、ぴたりと止まった。
なんだろうとアモンたちが設置した舞台の、長官のすわっていたところを見れば、なんとその生首が、ごろりと転がって、月光を浴びて、かれらをじっと見つめているのであった。
それまでアモンとの契約を、だれより早く結ぼうと躍起になっていた人々も、長官の生首を見て、一気に情熱を冷ましてしまった。
こんどは、我先にと逃げようとするのを見て、アモンが叫ぶ。
「ちょおっと待ったー! 長官を殺したのは、そこにいる、悪い魔法使いよ! あたしたちが幸せになるのを妬んで、みせしめに長官を殺したのよ!」

そのことばに、逃げ出そうとしていた村人が、孔明のほうを振り向いた。
血気盛んな若者がいて、孔明に向かって、おそらくは夜道の護身用だろうが、腰にさしていた鎌でもって、攻撃を仕掛けてくる。
孔明はすばやくそれを避けたのであるが、若者の行動を皮切りに、ほかの村人たちも、孔明にたいして敵意をむき出しにして、襲いかかろうとしている。

撃退するのはたやすいが、かれらを傷つけたくないと、反撃をためらっている孔明を見て、仲達は叫んだ。
「みな、待てい! 長官の身体からはほとんど血が抜けきっておる! 腐敗を防ぐために、血を抜いたのにちがいない! それだけ時間をかけたということは、だいぶ前から長官と行動をともにした者が犯人ということだ! 
いまさっき村に到着したわれらではないぞい!」
その声に、孔明も意をつよくして、言った。
「おお、まさにそのとおり! わたしにはちゃんとしたアリバイがある。そこな灰色のうさぎが証人ぞ! 
そして、犯人は、おまえだ、アモン! おまえのやったことは、全部すべてまるごとぐるっとお見通しだ!」
びしりと指摘されたアモンは、すっかりあきれてつぶやいた。
「なんなのよ、あんたたちの、そのヘンなテンション」


※余談ですが、現在のブログのスキン、山羊や牛の写真がありますが、ヤギの右、下のほうにいるうさぎが、もなかと同じダッチです。ダッチうさぎって、どんなだろ、と思われた方、ご覧ください(^^♪

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