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「これはたまらぬぞい!」
と、孔明の懐に入っていた垂れ耳うさぎが、さらに手でおのれの耳をかばって叫んだ。
「浄化させる! 冥き海、死せる空、もろもろの光を失いし世界より、恨む者、憎む者、生きとし生ける者の呪詛を我に集めよ。
出でよ、わが盟友・湧天剣! さまよいし魂を浄化させるのだ!」
孔明の伸ばした手のひらの先で、丸い光が生じたかとおもうと、そこから太い光の線が伸びだした。
光はそのまま、ねずみのように素早い動きを見せて、そのものがまるで生き物かのように、悲しげな声をあげて泣きつづける赤ん坊めがけて矢のように飛んでいった。
光は、さらに沼から這い上がろうとしていた泥の赤ん坊の咽喉もとめがけて炸裂し、それに弾かれるようにして、赤ん坊の姿を為していた泥は、四方八方に飛び散った。
泥の塊があちこちに跳ねる音は、まるで雨音のようにあたりに響きつづけた。
やがて、それもおさまると、沼には不気味なほどの静寂がもどってきた。
月もふたたび黒雲におおわれ、柳の木のうえにいた悪魔の姿もなくなっている。
ほっと一息ついた孔明であるが、まだ仕事は終わっていないことに気がついた。
文偉と黄忠である。
いまのやりとりから、自分たちが、この世界の孔明ではない、ということがわかってしまったはずである。
記憶消去のスプレーをかけるしかないな、と思っていた孔明であるが、趙雲に守られるかたちで木の根元にて尻餅をついていた文偉が、目が合うと、はっとなって、こちらに四つんばいになって近づいてきて、そのまま地面に平伏した。
「軍師のお姿を借りた、アイオーンの乙女さまでございますか!」
おや、そういう推理もあったかと孔明は戸惑いつつも、趙雲のほうを見た。
見れば、趙雲のとなりにいる黄忠も、平伏こそしていないが、孔明にたいして拱手をしている。
「危ないところをお助けいただき、まことにありがとうございます。
よもやこのような山ぶかい片田舎に、悪魔なるものが潜んでいるなど夢にも思わず、乙女さまにはわれらの情けない姿をさらす結果になりまして、まことに恐縮至極でございますれば、しかーし、われらの実相といいますのは、もっともっとちがうものでして、ハイ、えーと、つまりでございますね、わたくしどもはほんとうは、もっときっちりしているのでございますよ!
そのあたりをご考慮いただきまして、なにとぞわれらの名誉挽回の機会をお与えいただきますよう、ひらに、ひらーに申し上げる所存でございますれば、色よいご返事をお聞かせいただけましたなら、この費文偉ならびに黄漢升、ますますあなたさまを崇拝することと思われますが、如何なものでございましょうか。いや、これはほんとうでございます!」
孔明のふところにいるうさぎは、文偉の長い口上を聞いて、あきれている。
「こりゃまた言いわけの長い若者だわい。さすがそなたの部下である」
文偉の一族は、蜀の滅亡時に、やはり多くの死者を出している。
その滅亡におおいにかかわりのある一族の祖である仲達にいわれる、というところで、いささか孔明もカチンとくるところがあったが、そこは呑み込んで、答えた。
「文偉は文偉、ということだな。これ、そなたの屋敷では、いま宴が催されているはず。なにゆえ宴に参加せぬのだ」
問うと、それまで平伏していた文偉は、顔を挙げると、頭をぽりぽりとかきながら、胡坐をかいて、答えた。
「たしかに宴が催されておりますが、なにせ年寄りばかりで、退屈で仕方がないのです。
きれいなお姉ちゃんがいるというのならともかく、みな堅物なものですから、ジミ~にぱちぱちと囲碁ばかり」
と、ここまで口にして、文偉ははっとすると、ふたたびがばりと平伏した。
「またまたくだらぬことを口にいたしました! お許しください、乙女よ!」
「乙女ではないのだが…しかし、本当に、文偉は文偉だな…」
※とうとうこうせいニッキのファイル数が100を超えつつあります。うーむ、これは初期のこうせいニッキを順繰りに消していくしかなさそうだ…(-_-;) そして、本日アップの日ですが、まずは先行してニッキのみアップいたします。
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