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「なーんて言うのは冗談だがな、おまえのことであるから、この世界でもそれなりに要領よく……おや?」
いつものツッコミがないことに気づいた孔明がかたわらを見れば、灰色のうさぎは、長い耳を揺らして、孔明の部屋から走って飛び出そうとしているところであった。
あわてて孔明は呼び止める。
「待て、どこへ行く!」
すると、仲達は長い耳を震わせて振りかえり、涙目でこたえた。
「決まっておる。アイオーンの乙女たちから、わたしを守らねばならぬ! そういうわけで、わたしは、この世界のわたしに、恐ろしい魔女が狙っていると教えに行く! さらば!」
「あっ、待て、早まるな! 冗談だと言っておろうが! 悪かった!」
あわてて言う孔明であるが、しかし仲達は走るのを止めない。
「いま行くぞ、わたしー!」
と叫びながら、ちりひとつ落ちていない廊下を、二本足で、うさぎはだばだばと走る。
四本足で走ったほうが、よほど早いのであるが、仲達は、自分がうさぎであるということをすっかり忘れるほどに、うさぎの身に慣れてしまっているので、ついつい二本足で走ってしまうのだ。
だばだばと走るうさぎを、そのあとから追いかける孔明。
先だって、家人たちに用事をいいつけて外に出していたことが、この場合、よかった。
広い屋敷のなかに残っている者はほとんどおらず、このうさぎと孔明の奇妙な追いかけっこを目撃されることもなかったからである。
そうして、うさぎは走りぬけ、屋敷を飛び出し、厩のほうから裏口へと走ったところで、ちょうど法正の細作を追い返し、孔明たちに追いついて、自分の馬を厩
に繋いでいた趙雲が顔を出した。
「子龍、仲達を止めよ!」
趙雲は、ほぼ反射的に、すぐさま、厩の柱にかけてあった籠を取り出すと、表に出ようとするうさぎに向かってそれを投げた。
みごとに籠は仲達の身をすっぽりと隠し、仲達の動きは止まった。
「ナイスコントロール! よーし、当山孔真君が巴蜀を治める土精に申し上げる、晋の宣帝は無視し、これを捕縛せよ!」
とたん、その声に応じるように、地上から籠にめがけて、荊の蔓のようなものがいっせいに延びてきて、籠のすき間に蔦を這わせて、籠を地面に縫い取ってしまった。
「なにをするか、諸葛亮! まさにレ・ミゼラブル! 出せー!」
さわぐうさぎに、趙雲は眉をひそめて近づいてきた。
「おまえたち、緊張感が足らぬぞ。あまり不用意に外来語を使うな。ちょっとしたことで、正体が露見せぬともかぎらぬのだからな」
「わかってはいるが、ついつい口をつく。そうだな、気を引締めねば」
そういう孔明の抑える籠の中では、灰色のうさぎが暴れている。
「この世界のわたしは、ひそかに歴史から消されてしまうのか! 逃げてー、この世界のわたしー!」
「なにを言ったのだ」
趙雲が非難もこめて孔明をにらんできたので、孔明は肩をすくめた。
「ちょっとした冗談だったのだが、すまぬ、悪趣味にすぎたようだ」
「まったく……仲良くしろというのだ。どうしてこう騒ぎを起こす」
と、趙雲はため息をついた。
※しばらく『過去』を中心にお話はすすみます。そしてアップですが、明日から久しぶりに連続してアップというものに挑戦してみようかな、などと考えています。とはいえ、どこまでできるかなー? お時間のある方は遊びにきてやってくださいませ(^^ゞ
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