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「止めるのはアトラ・ハシースが行う。あなたがたには、この世界にて果たしてもらわねばならん役目がある」
二人の会話にそのまま割り込むかたちで、オッペンハイマーが口をひらいた。無作法な、とむっとした孔明であるが、オッペンハイマーのほうはかまわず、つづけた。
「わたしは社交辞令の類いは好まないから、ずばり本題を切り出させていただくが、あなたがたが過去に戻ったところで、相手は悪魔だ、どうにもなるまい」
「いま、この世界も悪魔に襲われていると聞いた。わたしたちがここにいる理由もないのでは。
ならば、より責任を負っているわたしたちの世界にもどって、責務を果たしたいのだ。そのことに、問題があるのだろうか」
孔明の明朗なことばに、オッペンハイマーはひるむことなく、むしろ好意的に受けとったか、わずかに口はしに笑みを浮かべて、言った。
「過去における人は、悪魔に対して無知で無力だった。だが、いまはちがう。われらは世界の仕組みも知っているし、われらのいる世界とアイオーンの乙女たち、そしてアトラ・ハシースとの関係も知っている。
われらは乙女たちと編み出した科学を持っている。すくなくとも、われわれが本気を出して悪魔と対峙したなら、かれらを追い払うことは可能だろう。
しかし、バルエフスキーから話を聞いただろうが、いま、この『流砂の絶佳』は政治的に非常に危機的な立場におかれており、国際的にも孤立した状態だ。
この状況を変えるためには、個々の協力がひつようなのだ」
「で、わたしを魔法使いにまつりあげて、みなをまとめようというのか」
孔明が皮肉をきかせて言うと、オッペンハイマーは、背の高さには見合わぬなで肩を、ひょいとすくめてみせた。
「下手なごまかしもしない。協力を願いたいところだ」
孔明と趙雲は、顔を見合わせた。
たしかに自分たちがいる世界は未来であるようだが、ここもまた、自分たちがいる世界(過去)と同様に、複雑な政治問題をかかえているらしい。
いや、過去よりも、もっと面倒かもしれない。
孔明の脳裏には、『狩り』だといって、多くの人々を捕虜にして嬉々としていた国王の顔がある。
異相のもち主であったが、そのまとう雰囲気は奢侈と怠惰にまみれた人間特有の、腐敗した果実に似ていた。
強烈な甘さと、毒をそこに含んでいるような。
「回りくどいことを好まないというのなら、ずばり答えてほしい。
この国の問題とは、悪魔のことだけではないというのなら、ほかには、なにとなにがある」
趙雲の、これまた簡潔な問いに、オッペンハイマーは気をよくしたようである。
わかりにくい内気な男だが、悪人ではなさそうだと、孔明は判断した。
「問題は多いが、代表的なものを挙げていこう。
まずは王位継承問題。国王には双子の王子と、ひとりの姫がある。
国王の様子をみたなら、精神的に問題があるということは、すぐにわかっただろう。国際連盟(注・この世界はWWⅡを知らない。そのため国際連盟が瓦解することはなく、現在に至っている)から、退位の申し出が何度と出ているにもかかわらず、王は王位に執着して、皇太子すら立てていない。
そのため宮廷を中心に、国は王子派と姫派に分かれている。
つづいて、これも王位に関連しているのだが、王が周辺民族を定期的に『狩り』と称して襲撃し、これを非人道的にあつかっているために、『流砂の絶佳』では、周辺民族のテロが絶えない。
テロが起こる理由はほかにもあって、この世界は、温暖化を止められず、いま急激に砂漠化と、海水の上昇のための土地の水没化が進んでいる。
流砂の絶佳の周辺民族は、そうした理由から、緑地をもとめて移動してきた人々だ。
むかしは50億ちかい人口をほこっていた人類も、いまや総人口は10億を割った。この流砂の絶佳の首都・成都も、クロノス機関を中心とした都市計画によって、なんとか100万の人口を守っているにすぎない。
環境がいい成都に、地方から人口が集中していることも、問題のひとつだ。
こうした地球規模の問題を見据えて、ナジエ姫は首都移転を提案している。
もちろん、ただ移動するだけではなく、成都を、住む土地をなくしてしまった周辺民族に譲渡し、いままでの悲惨な過去から生じている関係を修復させようとするのも狙いなのだ」
※今週はちょっとばかり説明がつづく形になるかと思います。そして一日分が長くなる予定。ちなみにこの未来に飛ばされた孔明と趙雲は、存在する世界がわれわれの世界より平和、という設定のため、気性も本来よりだいぶまろやか風味という設定です。でも基本は変わってません(^_^;)
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