● おまけの広場 ●
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2007年5月27日(日)
流砂の絶佳 五十六

「止めるのはアトラ・ハシースが行う。あなたがたには、この世界にて果たしてもらわねばならん役目がある」
二人の会話にそのまま割り込むかたちで、オッペンハイマーが口をひらいた。無作法な、とむっとした孔明であるが、オッペンハイマーのほうはかまわず、つづけた。
「わたしは社交辞令の類いは好まないから、ずばり本題を切り出させていただくが、あなたがたが過去に戻ったところで、相手は悪魔だ、どうにもなるまい」
「いま、この世界も悪魔に襲われていると聞いた。わたしたちがここにいる理由もないのでは。
ならば、より責任を負っているわたしたちの世界にもどって、責務を果たしたいのだ。そのことに、問題があるのだろうか」
孔明の明朗なことばに、オッペンハイマーはひるむことなく、むしろ好意的に受けとったか、わずかに口はしに笑みを浮かべて、言った。
「過去における人は、悪魔に対して無知で無力だった。だが、いまはちがう。われらは世界の仕組みも知っているし、われらのいる世界とアイオーンの乙女たち、そしてアトラ・ハシースとの関係も知っている。
われらは乙女たちと編み出した科学を持っている。すくなくとも、われわれが本気を出して悪魔と対峙したなら、かれらを追い払うことは可能だろう。
しかし、バルエフスキーから話を聞いただろうが、いま、この『流砂の絶佳』は政治的に非常に危機的な立場におかれており、国際的にも孤立した状態だ。
この状況を変えるためには、個々の協力がひつようなのだ」
「で、わたしを魔法使いにまつりあげて、みなをまとめようというのか」
孔明が皮肉をきかせて言うと、オッペンハイマーは、背の高さには見合わぬなで肩を、ひょいとすくめてみせた。
「下手なごまかしもしない。協力を願いたいところだ」
孔明と趙雲は、顔を見合わせた。

たしかに自分たちがいる世界は未来であるようだが、ここもまた、自分たちがいる世界(過去)と同様に、複雑な政治問題をかかえているらしい。
いや、過去よりも、もっと面倒かもしれない。
孔明の脳裏には、『狩り』だといって、多くの人々を捕虜にして嬉々としていた国王の顔がある。
異相のもち主であったが、そのまとう雰囲気は奢侈と怠惰にまみれた人間特有の、腐敗した果実に似ていた。
強烈な甘さと、毒をそこに含んでいるような。

「回りくどいことを好まないというのなら、ずばり答えてほしい。
この国の問題とは、悪魔のことだけではないというのなら、ほかには、なにとなにがある」
趙雲の、これまた簡潔な問いに、オッペンハイマーは気をよくしたようである。
わかりにくい内気な男だが、悪人ではなさそうだと、孔明は判断した。
「問題は多いが、代表的なものを挙げていこう。
まずは王位継承問題。国王には双子の王子と、ひとりの姫がある。
国王の様子をみたなら、精神的に問題があるということは、すぐにわかっただろう。国際連盟
(注・この世界はWWⅡを知らない。そのため国際連盟が瓦解することはなく、現在に至っている)から、退位の申し出が何度と出ているにもかかわらず、王は王位に執着して、皇太子すら立てていない。
そのため宮廷を中心に、国は王子派と姫派に分かれている。
つづいて、これも王位に関連しているのだが、王が周辺民族を定期的に『狩り』と称して襲撃し、これを非人道的にあつかっているために、『流砂の絶佳』では、周辺民族のテロが絶えない。
テロが起こる理由はほかにもあって、この世界は、温暖化を止められず、いま急激に砂漠化と、海水の上昇のための土地の水没化が進んでいる。
流砂の絶佳の周辺民族は、そうした理由から、緑地をもとめて移動してきた人々だ。
むかしは50億ちかい人口をほこっていた人類も、いまや総人口は10億を割った。この流砂の絶佳の首都・成都も、クロノス機関を中心とした都市計画によって、なんとか100万の人口を守っているにすぎない。
環境がいい成都に、地方から人口が集中していることも、問題のひとつだ。
こうした地球規模の問題を見据えて、ナジエ姫は首都移転を提案している。
もちろん、ただ移動するだけではなく、成都を、住む土地をなくしてしまった周辺民族に譲渡し、いままでの悲惨な過去から生じている関係を修復させようとするのも狙いなのだ」

※今週はちょっとばかり説明がつづく形になるかと思います。そして一日分が長くなる予定。ちなみにこの未来に飛ばされた孔明と趙雲は、存在する世界がわれわれの世界より平和、という設定のため、気性も本来よりだいぶまろやか風味という設定です。でも基本は変わってません(^_^;)

2007年5月28日(月)
流砂の絶佳 五十七

「おまえと来哲は、姫のほうに味方をしているのだな」
孔明の問いに、オッペンハイマーは腕を組み、うなずいた。
「そのとおり。双子の王子は王としての品格がどうとかいう問題より以前に、人間性に問題がある。
強制収容所のなかに『神農府』なる研究所をつくって、おぞましい実験を毎日のようにおこなっているそうだ。
姫のほうは、先代の王の血をもっとも受け継いでいるせいか、たいへん聡明で、女ながら王にふさわしい。それに、われわれクロノス機関の思想と、彼女の思想はじつに共通点が多い」
孔明は首をかしげた。
「ふむ? よくわからぬのだが、クロノス機関というのは、国の機関ではないのか」
「いいや、国際連盟に所属する、アイオーンの乙女たちの補佐を目的とした国際機関だ。
乙女たちとちがって、外界に出ることはできないが、乙女たちの管理する汎世界に移動可能だし、時間を遡ることも許されている」

オッペンハイマーの説明に、それまでじっと沈黙を守っていたエピファニーが、顔をくもらせて、やんわりとことばをはさんできた。
「ヘル・オッペンハイマー、それは機密レベル4に属する知識です。過去からのゲストには開示してはならないことになっています」
オッペンハイマーは、ちいさく首をかしげた。
この男、どうやら自分の背の高いことを気にしているらしく、首も前かがみで、姿勢にしてもなにかに寄りかかり、つねに身体を斜めにして、自分を低く見せる癖がついているようだった。
「君の言うとおりだが、しかしエピファニー、この知識を与えずに、どうやって現状を説明する? 
過去にいるアトラ・ハシースは、外界からのアトラ・ハシースだと説明したほうが、かれらも納得するだろう」
「たしかにおっしゃるとおりですけれど、処罰対象になりますよ。罰金だけではすまないでしょう」
「強制収容所送りかな。わたしはなにをされるだろうね。
この細腕では、とてもじゃないが肉体労働はムリだ。となると、『神農府』で脳みそを開かれるのだろうか、それとも、かれらの悪魔の実験に手を貸せと強要されるかな」
「笑えない冗談です、ヘル・オッペンハイマー」
「すまない。悪趣味だったな。このところ連日の悪魔の襲撃で、システムの修復に追われて気持ちの余裕がなくなっているのだろう」
オッペンハイマーが素直に謝ると、エピファニーは慈愛にあふれた笑みを浮かべた。
「いいえ、気にしておりません」
「ありがたいことだ。君はほんとうに人間ができている。
さて、かれらの年代は、外界についてどれだけの知識を持っているのか、教えてくれ」
「アイオーンの乙女たちの言葉をあつめた聖典のなかで『彼岸』とだけ触れられている程度です。
相当の知識人なら知っている単語で、一般的とはいいがたいものです」

「俺はしらん」
と趙雲は率直に答えた。
孔明のほうは、たしか司馬徳操だか劉巴だかが、そんなことばを口にしていたと思い出していた。しかし内容は覚えていない。

「彼岸とは、われわれの世界の外にある、われらの世界より歴史の古い、オリジナルの世界のことを指す」
「われわれの世界の外にも、まだ世界が?」
孔明も趙雲も単純におどろいたが、あまりに壮大な話に想像力が追いつかず、ことばがつづかない。
オッペンハイマーはつづける。
「その世界はわれわれの世界より、はるかに野蛮で兇悪で、無知な世界だ。
恐ろしいことこのうえないが、生存競争の厳しい世界のなかにあれば、人はどうしても猛々しい性質を得る。
そうした尚武の世界において、さらにアトラ・ハシースとして昇格できる人物のすさまじさというのもが、あなたがたに想像できるだろうか? 
かれらはまさに、神の使者として戦うために存在する強大な戦士だ。
おそらくそのひとりの戦力は、一国の攻撃力に匹敵することだろう」


※なんだかショックなニュースがつづいた今日…たいせつに一日一日を生きなくちゃな…。なんかじわじわとあとから来るなあ…ショックだ…
さて、週明けの気力のあるうちにと、更新用の作品をてけてけと準備中。なんともうじき10万になりそうですし、今週は早めにアップできるようにしたいです(^^ゞ

2007年5月29日(火)
流砂の絶佳 五十八

「さて、だいたいの状況を飲み込んでいただいたところで、まずはクロノス機関成都支部を簡単に説明しておく。エピファニー」
オッペンハイマーにうながされて、エピファニーは、手にしていた絵本とは別の、ノートほどの大きさの端末を取り出した。
それに軽くペンで触れるだけで、なにもなかった部屋のなかに、成都支部という奇怪な砂蟻の巣のような塔の構造図が、ホログラムで浮かび上がる。
その構造図のなかに、たえず動き回っているものがあり、それはどうやら、職員の所在地を示しているようである。
「この構造図は、現在の職員の所在地を示すのにも使用されているものです。
あとでお渡ししますが、この端末さえあれば、だれでも自由に閲覧することが可能です。
赤い点が職員、ゲストの方が緑、というふうになっております。たとえば」
と、エピファニーは、手にしたペンで、二つの赤と二つの緑が点灯しているところを示す。
すると、空中に、ポップアップで画面があらたに生まれた。
そこにはこうある。

『ゲスト。重要度S。S-Rank、U。詳細情報未公開。接触不可。代理接触者・エウゲニー・バルエフスキー参謀、番号07、システム名Belinda・O』

「これは、あなた方のことです。単語に慣れないかもしれませんが、接触不可とは、この場合、同志バルエフスキーを介してでないと、あなたがたには接触はできない、もし接触を求めるときは、同志バルエフスキーのシステムBelinda・Oにまず連絡をしてください、という意味です。
重要度とS-Rankというのは、ゲストに関する待遇がどれだけ高いかを示したものです。あなたがたは重要度がSpecialですので、国賓待遇で迎えられます。
S-Rankはスピリチュアル・ランクのことです。残念ですが、これに関しては、機密レベル4のため、詳細をお教えすることはできません」
「つまり、俺たちの待遇はそう悪くない、保護者はバルさんだということが、これでわかる、というわけか」
簡潔を好む趙雲は、略語を多用したこの表示を気に入ったようで、ふむふむと納得しながら、画面を見入っている。
「クロノス機関の職員は赤で示されますが、われわれと同時代のゲストの場合は青で表示されます。
成都支部の三階までは一般に解放されており、ギャラリーやカフェなどもあります」
エピファニーのいうとおり、1階から3階までは、多くの青いランプが表示されていた。
「3階以上は、それぞれの階級や所属によって、出入り制限があるエリアとなります。あなたがたは委員会によって、行動範囲が決められております。
機密レベル2までの開示は認められましたので、行動範囲はわたしとほぼ同じとなります。ただし、移動するさいには、わたしか、同志バルエフスキー、あるいは同等以上の階級に所属する士官の随行が必要になりますので、ご注意ください」

孔明は、オッペンハイマーのほうを見た。
この男はどうなのだろうという、単純な好奇心からであったが、オッペンハイマーのほうは勘よくそうと気づいたらしく、答えた。
「わたしは成都支部の全システムの管理者だ。階級はバルエフスキーより2階級上。
気が向いたら声をかけてくれ。こちらも仕事が詰まっていなければ、散歩に付き合おう」

「あら」
淡々と説明をこなしていたエピファニーであるが、ふと、手をとめて、顔をしかめた。
「ヘル・オッペンハイマー、この黒い点は? どうやらこの近くの大回廊に出現しているようですが」
エピファニーがペンで指すところを見れば、ほかとはあきらかに動きのちがう黒い点が、もぞもぞと移動をしているところであった。
それを見て、オッペンハイマーは顔を曇らせ、顔をひきしめた。
一瞬で、部屋に緊張が走る。

「エピファニー、また現われたようだ。悪魔だ。憑依型だな。
全職員に通達、大回廊のすべての通路をシャットダウン。これより防御作戦に入る。
管理局はシステム保全を最優先に行動。3F以下の職員は一般人保護を最優先、そのほかの非戦闘職員は至急、シェルターへ移動。防衛部隊はただちに現場へ急行」
「攻撃レベルはいかがいたしますか」
エピファニーの問いに、オッペンハイマーはマップ上に浮かぶ黒い点を見据えて、答えた。
「攻撃レベルF。殲滅せよ」


※時間泥棒をさがせ、と探すまでもなく、いけないのは、はさみのの予想の甘さだ…もう日付が変わりそうですね…うう、こんなはずでは(-_-;) お待たせして申し訳ありません、明日はもうちょっと早くアップしますー。

2007年5月30日(水)
流砂の絶佳 五十九

馬超の屋敷で見た、奇妙な小男たちが悪魔というのなら別であるが、ほんものの悪魔という物を、孔明は見たことがない。
幼いころから知るものがたりのなかでは、かならず善が勝ち、悪は滅びた。
いかなる困難にあろうと、最終的にはアイオーンの乙女たちがあらわれて、救ってくれるのである。
それでも、悪はしつこく善に戦いをいどむので、この世界の人々の心のなかには、自然と、悪というものは愚鈍なものの成れの果て、という印象がつよく刻み付けられている。
だからこそ、孔明も、これまでの人生で悪魔をつよく意識して、恐れたことはなかった。
悪魔に負けるはずがない、ということが『わかって』いたからだ。
しかし、孔明は、未来に来て、そのシステムや社会構造、世界の外にもまだ世界がある、という話を聞くにつけ、それらに影響をあたえることのできる悪魔というものは、どうも思っていたように単純なものではないらしい、ということに気づきはじめていた。

孔明と趙雲、そしてエピファニーの三人は、非常階段を上へ、上へと登っている。
カンカンと、大きな靴音をさせながら、エピファニーは息も切らせず、ふりかえって言った。
「申し訳ありません、エレベーターが使えたらよかったのですが、いまは防衛部隊が使用する可能性があるため、わたしたち非戦闘職員のエレベーター使用は禁じられています。あなたがたのためのシェルターはもうすこし先です。がんばってください」
「まるで山を一気に駆け上っているようだな」
息を切らせながら孔明が応じると、それまで後ろについていた趙雲が、孔明を追い抜いて、その手を引いて階段を登りはじめた。
「ありがとう。すこし楽だ」
「ほんとうにもう駄目だと思ったら言え。おぶってやる」
「それはすこし情けないかな。そうならないように、がんばるよ」

階段の上下から、さまざまに靴音が聞こえてくる。どうやら悪魔の襲撃にそなえて、職員が階段で移動をしている様子だ。
緊迫したなかでも、ときおり笑い声をふくんだ声が聞こえてくるところが、職員が悪魔の襲撃というものに慣れている証左である。
「悪魔というが、そんなものが簡単に入ってこられるのか」
武将らしく体力のあるところを見せて、速度を落とさないまま趙雲がたずねると、これまた汗すらみせないエピファニーは答えた。
「悪魔と一口にいっても、さまざまな種類があります。システムからの情報によれば、いま大回廊にいる悪魔は、憑依型の悪魔のようです。悪魔も、アトラ・ハシースを真似ているのです」
「憑依型、というと、ふつうの人間に取り付いた、ということか」
「憑依型は下級悪魔が一般人にとりつくものです。下級悪魔なので力は弱いのですが、かれらは巧妙です。一般人にとりついたあと、潜伏期間として何ヶ月も以前と変わらぬ生活を送ります。
そして、タイミングを見計らって、攻撃拠点に潜入し、正体をあらわすのです。いままでのデータによれば、十年もの潜伏期間ののちに行動を起こしたパターンもあります」
「さすが悪魔というべきか。おそろしい話だな」
感嘆する趙雲に、孔明は息を切らしながら言った。
「他人事ではない。われらの成都とて、おなじように悪魔の攻撃にさらされようとしているのだ、ぞ、って、エピファニー、まだか」
「すぐそこですので、ご辛抱ください」

階段はまだまだつづいていたが、エピファニーは踊り場の途中でそのまま直進し、壁とほぼ同質になっている扉へ向かった。
エピファニーが両手を扉に当てると、扉は消失した。
押したのでも上がったのでも、左右に自動的にしまわれたのでもなく、消えたのである。
扉の向こうは、孔明たちに馴染み深い、漢族の一般的な居室であった。


※TVでは紀香と陣内の披露宴を中継中です。まさに宴もたけなわ、といった雰囲気でありますが、さて、めでたくも本日、10万HITを達成することができました!(^^)! みなさまありがとうございました。
そして、アップですが、本日、ちょっと遅い時間になはりますが、一本アップをする予定です。お時間のある方は遊びにきてやってくださいませー(^^♪

2007年5月31日(木)
流砂の絶佳 六十

扉をくぐると、すぐにそこには、扉の痕跡はなくなり、ほかとおなじく漆喰の壁に変じた。
出るときはどうするのだろうと、はげしく息を切らせながら孔明が不安に思っていると、それまで、階段を趙雲よりも早く駆け上がっていたとは思えない平静さで、エピファニーが言った。
「ご安心ください、あなたがたにはさまざまな制限がかかりますが、わたしたちには、あなたがたを軟禁するつもりはありません。
もし外出をのぞまれるなら、いまのような緊急事態以外であれば、いつでも外出が可能です。
端末をご用意させていただきましたので、もし用事がありましたら、いつでもわたしをお呼びください」
と、エピファニーは、緊急事態を忘れさせるような、穏やかな笑みをたたえて、自分が持っているのと同じノート型の端末を、孔明と趙雲のそれぞれに渡した。
「摂取していただきましたチップの補佐によって、使用方法は理解されているはずです。それでも不明点があったらおっしゃってください」
好奇心のつよい孔明は、見た目よりもずっと軽いノートを、すぐに使用したい誘惑にかられたが、それよりもまず、確かめなければならないことがある。
「来哲は外出したのだったな。悪魔に遭遇しなかっただろうか」
孔明のことばに、エピファニーは、慈愛に満ちた笑みを浮かべてみせた。
「同志バルエフスキーは、王宮へにつづく地下通路を使用して移動していますから、悪魔と遭遇してはおりません。ご安心ください」
「ならばよかった。しかし、君の体力はすさまじいものがあるな。
子龍はわたしの手を引いていたとはいえ、それでも全力を出していた。その子龍よりも早く動けるのだからな」
孔明のことばに、それまでにこにこと穏やかに笑っていたエピファニーの顔が、困惑の含んだものに変わった。
「お言葉ありがとうございます。けれど、そちらの趙子龍さまの体力が、わたしより劣っていた、ということではありません。
じつは計測させていただいたのですが、趙子龍さまの走力は、クロノス機関の全職員の最高記録をはるかに上回るものでした。
いままでさまざまなゲストの方がいらしたのですが、そのなかでも優秀な成績かと思われます」
「さまざまなゲストというが、だれだね」
好奇心に目を輝かす孔明であるが、エピファニーは、これまた穏やかな笑みを浮かべて、子供に駄目だといいきかすように、ちいさく首を振った。
「それは機密レベル4です。お答えできません」
「いろいろ秘密があるのだな」
「申し訳ありません」
「では、これはどうだ。われらは悪魔というものを見たことがない。実際に動く悪魔というものを見てみたいのだが、それは可能だろうか」

駄目でもともとだと思って提案した孔明であるが、意外にも、エピファニーはあっさりと言った。
「わかりました。システムの監視カメラに接続してみます」
そして何度か自分の端末を操作したあとに、部屋の中央に、大回廊とおぼしき空間が浮かび上がった。

※週末あたりに、またお話は『過去』に戻りまして、うさぎの登場となります。というよりも、しばらく当HPはうさぎだらけになるかもしれません。うさぎは福を呼ぶ、というわけで(?)しばしご容赦くださいませ。