● おまけの広場 ●
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2007年5月22日(火)
流砂の絶佳 五十一

「やや、魔法使いさまは、お疲れの様子かな。顔色がよろしくない。そちらのお方は、魔法使いの従者の趙子龍さまでございましょう」
従者、といわれて、趙雲は複雑そうな表情をうかべた。
しかしまたもそれに頓着することなく、国王はいう。
「さっそく東の離宮にてお休みいただこう。ほれ、我輩の飛行船で移動いたしましょうぞ」
と、孔明の腕をとる国王であるが、その前に、来哲が進み出てきた。
「お待ちを、陛下。お二人は、まだクロノス機関の監視下にございます。委員会の許可がないかぎりは、お二人の身柄はこちらでお預かりいたします」
「む、庶民出の成り上がり者めが、おまえの才能に目をつけて、奨学金をあたえて大学院まで出させてやった、この我輩の恩を忘れたか」
「忘れてはおりません。しかし、規則は規則。クロノス機関の決定事項は、ありとあらゆる国家の決定事項よりも優先する。この原則をお忘れか」
国王は、来哲をにらみつけ、来哲のほうも、一歩も引かぬかまえで、国王の目線を受け止めた。

ぴんとはりつめた緊張のなか、折れたのは、国王のほうであった。
「クロノス機関なんぞ、ただの乙女の使い走りであろう」
「だが、この世界は、そのものが、乙女の意志でできたものですよ」
来哲のことばに、国王はおおきく鼻を鳴らした。
「乙女がなんだというのだ。地球のこれほどの荒廃にも、なんら手を打たず、人口の激減にも助言すらしない、それで女神なのか! 
みな口にしておらぬだけで、ほんとうはそう思っているはずだぞ」
「乙女の意志がどこにあるかなんてのは、それこそ昔から議論の的だった。
それよりも陛下、たしかにお二人の顔色は悪い。委員会に顔を出して、それからすぐに休ませてさしあげたいのですが、よろしいでしょうか。
なにせ委員会は、さっきからずうっとお待ちかねで、そろそろ痺れを切らす頃合なのでね」
急になれなれしい口調になった来哲に、国王は屈辱をおぼえたらしく顔をあからめるのであるが、反論はできないらしく、歯をぎりぎりと噛みしめながら、答えた。
「委員会に、お二人のおもてなしそのほかのお世話に関しては、ぜひ宮廷にて執り行いたいと国王が言っていたと、伝えてくれ」
「わかりました。それでは、失礼いたします」
と、踵を向けながら、来哲は、孔明と趙雲の両方に、ついてくるようにと、顎で合図をしてくる。

それに従いながら、ふと上を見れば、赤い絨毯のうえを、国王によく似た、やはり巨体の二人の若い男が、ころがるようにしてやってくる。
かれらは口々に、
「バルエフスキー、不遜であるぞ! お二人をおいていけ!」
と騒いでいるのであるが、来哲はそれをまったく無視して、二人を先導し、街の中央にある、大きな建物のなかに入っていった。

※五十回目を越えても主要人物そろってないって、どんだけー(とたまには流行をとりいれつつ)。たぶん塔よりも長くなりそうなこの連載、みなさま、お付き合いいただけたら幸いであります(^^♪

2007年5月23日(水)
流砂の絶佳 五十二

建物の内部は、わざと複雑な構造をかくさず、ダクトや配水管などをむき出しにしている、工場のような建物であった。
とはいえ、無秩序ではなく、縦横無尽に走っている強化ガラスの通路の配置にしても、きちんと美的に計算された設計になっている。
隠しがちなものを露出させることで、逆に秩序と構造物そのものがもつ美を訴えているデザインであるようだ。

「ずいぶんがっかりなさったんじゃないですかい。残念ながら、あれが劉玄徳の直系の子孫なんですよ」
まるで自分のミスでそうなってしまったかのように、自嘲気味の笑みをうかべて言う来哲に、孔明はたずねた。
「異国民をずいぶんと虐げているようだが、それでよく周囲から批難を受けないものだな」
「批難は受けていますよ。国王が言った、よその国より犯罪率がひくいとか、外観がうつくしいっていうのはほんとうだが、ここ数年、国際社会に広がった『流砂の絶佳』商品のボイコットや、輸入出の制限なんかで、国力はがくんと落ち込んでいます」
「国民はそれを耐えているのか。なぜだ」
と、憤懣やるかたない、というふうに口をはさんできたのは趙雲である。

趙雲もまた、こうした理不尽な話には我慢がならない性質だ。
孔明も同じ気持ちであるが、いま自分の状況もつかめきれていないなかで、騒ぐのは得策ではないと考えているために、自戒しているのである。
そのぶんを、趙雲が怒っているのだ。

「耐えるしかない。たしかに首都は安定しているが、地方都市では、悪魔からの攻撃がひどくて、『流砂の絶佳』は、建国以来の危機をむかえている。国王の暴政に不満をもって、叛乱を起こす余裕すらないんです。
悪魔ってのは、ご存知でしょうが、人のマイナスの感情につけいってきますから、叛乱したら、悪魔に魅入られてしまうのではと、みんなそれを恐れているのです」
「たしかに魂が悪魔の貯蔵庫に溜め込まれてしまうおそろしさを思えば、多少のことは我慢したほうがいいと思ってしまうのだろうが、それにしてもひどすぎる。
せめて王権交代を考えないのか」
「だから揉めているんですよ。『流砂の絶佳』は、いまボロボロだ。
アトラ・ハシースに言われて、とっさにあんたたちを連れてきちまったが、もしかしたらこれは、いい策だったのかもしれない。
国民は、あんたたち伝説の魔法使いが目のまえにあらわれたら、このままじゃいけないのだと考えを変えてくれるかもしれない」
「待て、魔法使い、魔法使いとさっきから言うが、わたしは魔法使いなんぞではないぞ。だれかとまちがえていないか」
「いいや、まちがいなくあんたのことでさ」


※WEB拍手くださったかた、ありがとうございました(^^♪ おかげで身体の調子はなんとか回復。けれど状況が落ち着かないため、更新準備ができなくなっています(>_<) けど、ぎりぎりまでがんばってみます。

2007年5月24日(木)
流砂の絶佳 五十三

「いつから魔法が使えるようになった。おまえにそんなかくし芸があるとは思わなかった」
趙雲のことばに、孔明は小首をかしげて、言った。
「わたし自身すら知らない芸のことは、かくし芸といってよいか」
「いまから開眼して魔法使いになるのかもしれない。
で、俺が従者だと? どういうことだ、バルさん」
「なんだい、バルさんってのは」
趙雲の呼び方に、それは困るというふうに顔をゆがめる来哲に助勢するように、孔明も言った。
「バルさんではない。来哲だ」
「来哲なんぞと立派な名前は必要あるまい。いきなりこんな世界に連れてこられて、まずーい飴を舐めさせられたあげくに、主公の子孫らしい、感じの悪い男があらわれた。
で、おまえはどうやら俺たちを利用して、なにかを企んでいるようだ。
軍師はお人よしゆえ、おまえの思惑にほいほい乗るかもしれないが、俺はだまされぬぞ」
「いや、わたしもほいほい乗るつもりはないぞ。
どちらにしろ、来哲はわたしたちをすぐに元の世界に戻すつもりはないらしい」
「なぜだ」
凄んで趙雲がたずねるのを、来哲はすこし趙雲から距離をとってから、答えた。
「いまあんたたちを元に戻したら、過去に『諸葛孔明』と『趙子龍』が二人存在してしまうからだよ」
「わたしがこちらに来る直前に見た、わたしたちのことか」
孔明の問いに、来哲はうなずいた。
「悪魔はアイオーンの乙女たち同様に、時空すらも自在に動き回ることができる。いまこの世界も攻撃を受けているが、過去世もおなじく攻撃をうけている。
悪魔たちの狙いは、まずは劉王族と馬王族の最初の結びつきが、そもそもない状況を作ることだ」
「莫迦な。もしもさきほどおまえが言っていたことがほんとうなら、この国の歴史は大きく変わってしまう」
「そうでさ。国の歴史が大きく変化する、そのひずみで押しつぶされる魂を、悪魔は一気に狩りたてようとしているんです。
だから俺は過去に行って、悪魔を追い出そうとした。ところが悪魔のほうがもっと巧妙で、法孝直の骨董好きにつけいって、さっそく歴史に介入しようとした」
「そうか、読めたぞ。だからおまえは、法尚書令が骨董品自慢をしたときにその場にいた者たちの家をまわって、記憶を消していたのだな」
「そのとおり。法尚書令が黄金の腕輪を買った、という事実そのものを、消すつもりだった。
ところが悪魔はもっと活発で、すでに馬孟起に取り入っていた、というわけさ」
「もどらねば、たいへんなことになるではないか!」
声を荒げる趙雲に、来哲は言った。
「たしかに事態は重い。けれど、過去にはアトラ・ハシースがいるのだったら、そのほうが安心だ。
かれらのほうが、俺たちクロノス機関なんぞより、はるかに攻撃力は高い」
「おお、あの二人は、われらに化けたアトラ・ハシースさまたちであったか」

この世界において、アトラ・ハシースとアストラルの存在は、仙人や仙女のようになじみのある存在で、神秘の象徴であり、人生の目標、尊崇の対象である。

「あー、いや、化けていたかはともかくとして、むしろヤバイのは現世のほうでさ。
だから、あんたたち魔法使いがやってきてくれたと、王は喜んでいたんです」
「だから、その魔法使いとは、なんなのだよ」
「あとでゆっくり説明しますよ。Belinda・O、お二人のために、『流砂の絶佳』の魔法使いに関する、映像でも絵本でもなんでもいいから、用意してくれ」
来哲のことばに、どこからともなく、わかりましたという声が聞こえてきた。
趙雲や孔明にしてみれば、そんな来哲のほうこそ、よほど魔法使いにみえた。


※ちょっぴりですがアップしました。たわいもない話ですが、ひさしぶりに力を抜いて書けたものです。お時間のあるかた、見てやってくださいませ(^^ゞ

2007年5月25日(金)
流砂の絶佳 五十四

通路を抜けて扉がひらくと、孔明よりも背の高い、プラチナブロンドの男が、かべに背をもたれかけて立っていた。
案山子のように足が長く、片足を投げ出し、もう一方の足は膝のうえで数字の四のようにひねっている。
鼻が長く高く、金縁の片めがねが印象てきである。
いかにも学者肌の、気むずかしそうな男であった。さきほど、孔明たちがボードの中で見た男であった。
その男の背後には、孔明も趙雲も見たことがないほど、肌の色の黒い、縮れ毛の、これまた背の高い娘が立っていた。
目のぱっちりとした、おだやかな笑みを唇に浮かべた娘で、ふしぎとしっとりとしたなつかしい雰囲気をただよわせている。
娘は両手で大きな絵本をかかえており、そのタイトルは、
『諸葛孔明ものがたり』『シューハンの魔法使い』『みんなの伝記・きせきの魔法使い』といったものである。
絵本の表紙には、ハトにたかられていた銅像とおなじく、ほんものとほぼブレのない姿をした孔明が描かれていた。

男のほうに、来哲はしたしげにいう。
「めずらしい。おまえがわざわざラボから出て俺たちを出迎えてくれるとは」
来哲がいうと、エドゥアルト・オッペンハイマーは蒼白い顔に表情をまったく浮かべないまま、肩をすくめた。
「しかたあるまい。本物の英雄を出迎えるのに、ラボの警備員ではまずかろう。上からどやされるのも面倒なので、やってきた」
「おまえらしい理由だな。さて、あらためて紹介しよう。こいつは『流砂の絶佳』のほこる天才科学者・エドゥアルト・オッペンハイマー博士。
そして、もうひとり、俺の優秀な秘書嬢、エピファニー・コヴァルスキだ。
やあ、システムに接続してくれてたのに、返事をしなくてわるかった」
来哲がエピファニーにいうと、エピファニーはその長いまつげをたたえた目を伏しがちにして、答えた。
「いいえ、無事に戻ってくださっただけで十分です」
「委員会に提出する、書類だ手続きだなんだと、面倒なことは、ぜんぶエピファニーがすませている。おまえはさっさと委員会に顔を出せ。
それと、ファ参謀総長が、急に態度をころりと変えて、お二人を晩餐に招待したいと言ってきた。どうするね」
オッペンハイマーのことばに、来哲は、こまったね、と頭をかいた。それを見て、エピファニーが遠慮がちに口をはさむ。
「ファ参謀総長は言い出したら聞かない方ですが、王族がかかわると態度を変えられます。同志バルエフスキーはナジエ姫殿下と面会されるのでしょう。ナジエ姫がお二人を先に晩餐に招待なさっているので、ファ参謀総長には遠慮してほしいと申し入れてはどうでしょう」
「ああ、そいつはいいな」
エピファニーのことばに、神経質そうにひとことひとことにうなずいていたオッペンハイマーも同調した。
「姫のほうが融通がきく。お二人が疲れているのであれば、晩餐も取りやめることもしてくださるだろう。
さて、同志バルエフスキー、おまえはすぐに委員会に行って、しばらく口を出すなと釘を刺してこい。そのあとに姫と作戦会議をしろ。
わたしとエピファニーが、あとはお二人の相手をする」

来哲は、孔明たちに、心配することはない、という内容のことばをかけたあと、別室に去っていった。


※大雨の仙台であります。帰宅中に濡れてしまったので、すぐにシャワーを浴びました。ああ、生き返った(^_^;) 明日はよい天気だそうで、外出日和ですなー。おっと、HPのほうもがんばって準備中でございます♪ 明日アップを予定しています。

2007年5月26日(土)
流砂の絶佳 五十五

わけのわからない状況のなか、知らず、孔明は来哲にだいぶ依存していたらしい自分に気がついた。
エドゥアルト・オッペンハイマーという長い名前のマッチ棒のような体型の男は、こちらがなにか切り出すことを待っているようであるし、エピファニー・コヴァルスキという名前の、背の高さが威圧感に結びつかない、可憐な印象のある女性は遠慮しているようであるし、孔明のすこし後ろに立つ趙雲も黙り込んだままである。
奇妙な沈黙がながれた。

「おい」
オッペンハイマーとエピファニーのほうから目を離さず、趙雲が孔明のほうに、一歩、足を進めてきた。
「さっきのやたらまずい飴の効能か、状況がわかってきた。
俺たちは未来にいる。主公の子孫が支配する王国。まるで外観がかわってしまっているので、すぐにわからなかったが、ここは成都だ。
それでまちがっていないか」
「うん、まちがっていないよ、子龍」
孔明がうなずくと、趙雲は腰に手をあてたまま(すぐに手を伸ばして剣を抜けるようにするためである)、孔明のほうに顔をむけた。
「おまえはたいがいにおいて人がよすぎるし、しかも全体的にとろいが、こういったわけのわからん状況では、やたらと頼りになる。
いまの状況では、互いに味方といえるのはお互いだけなのだから、なるべく離れないようにしよう」
「それは喜んでよいのだろうか」
「誉めたつもりだ」
「ああ、そうかい。それじゃあ、あなたの言うとおりにしよう。
そのまえに基本を決めておこう。わたしたちは、なるべく二人で行動する。
で、目的はどうする」
「目的?」
怪訝そうに眉をひそめる趙雲に、孔明はこくりとうなずいた。
「われわれは、本来いるべきではない世界にいる。ただし、こうなったのは、アトラ・ハシースの意志であるようだから、そう不穏なことにはなるまい。
われらは未来では、尊敬されているようだ。ありがたい話ではある」
「うむ」
「だが、いるべきではない場所にいる、という事実は動かせぬ。
われらがもといた場所に戻らねばならないのは、間違いのないところだ。で、そのためにどうするかだよ。
ひとつは、アトラ・ハシースの指示を待ち、この世界で大人しくする。
もうひとつは、来哲に言って、早急に元にいた世界に戻してもらう。
どうもこの世界でも揉め事が起こっているらしいが、過去のほうがもっと深刻なようだ。
馬一族と主公の子孫のあいだで婚姻がむすばれるのはよいことであるが、悪魔がそれを邪魔するべく、この両者のあいだを決裂させようと画策している。
だが、生半可な方法ではそれはできまい。なにせ、馬孟起には、主公に大きな恩義がある」
「曹操や袁紹から馬孟起を庇ったのは、われらだからな」
「そうだ。そういう恩義をも無視できてしまう状況に、悪魔は馬孟起を追い込もうとしているのだ。
血が流されるぞ。これは止めねばならぬ」


※なんと五十回目を越して、ようやく世界の全貌が見えてくるという…まったく「どんだけー?」な話であります(使いますよね、「どんだけー?」。使い始めたヤスコちゃんに乾杯!ナイスセンス)。来週、やったら忙しいのですが、切れ目ないように(でもって妙に暗くなったりせず)乗り切りたいものです。さー、がんばるぞ。