● おまけの広場 ●
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2007年5月17日(木)
流砂の絶佳 四十六

「あんただよ」
と、あっさりとバルエフスキーは言った。
公園には休息する市民や、公園が保護しているどうぶつなどが遊んでいるのであるが、その中央でハトにたかられている彫像は、たしかに格好は孔明であった。
が、その彫像の顔をみたとき、孔明はおおいに不満をおぼえた。
「わたしは、あんなに気むずかしい顔はしておらぬぞ」
彫像の顔は、彼方をにらみつけているのであるが、それは『睥睨している』と表現するよりも、『気に入らないことがあってむずがっている』という表現がぴったりな、すこしばかり迫力に欠ける表情をしていた。
だからあんなにハトにたかられているのだろうと、孔明は判断した。
彫像の下では、『ハトのえさ』を売っている者までいるが、あまり人気はないようだ。

ちなみに市民の風俗はじつにシンプルで、孔明たちのように、男性で髪を結っているものは見当たらず、みなほとんど短髪にそろえていた。
まとう服は、砂と風から身を守るためか、肌を露出させるものではなく、ゆったりとしたデザインのものが主流で、色も自然の風合いを生かしたものが多く、派手な色は好まれていない様子である。
男女の服装に大差はなく、髪型や装飾品、体型によって、男女を区別する、というふうだ。

孔明の不満そうな声に、それまで、じっとプロマイドを見ていた趙雲は、顔をあげて彫像をみやると、これまた孔明がむっとするほどにあっさりと言った。
「そうか? たまにあんな顔をしているぞ」
「子龍、聞いた話によれば、さいきんは感心にも、夜も油代も惜しまず読書にはげんでいるそうだな」
「なんだ、唐突に。たしかにそうだが」
孔明は、その答えを聞くと、不満げに唇をゆがめたまま、さもありなん、とうなずいた。
「だから目を悪くしたのだろう。わたしがあんな顔をしているように見えるとは」
「あの彫像は、俺らの先輩が、あんたの時代に行ったとき、物陰からこっそりとあんたを観察して撮った写真をもとに作られたもののはずだぜ」
来哲のことばに、趙雲は笑いかけて、孔明と目が合い、とりやめた。
「わたしの具合のわるいときだ。盗み撮りとは不届きな」
「そういうなよ。それだけ人気があるってことだ。
あの公園でぼーっとしている市民全員に、いま、本物のあんたがここにいると聞いたら、きっとあのハトみたいに熱烈歓迎してくれると思うぜ」
「ハトのようになら、うれしくない」
「ところで趙子龍、あんたはそのプロマイドがずいぶん気に入ったようだが」
来哲に問われると、趙雲は、たしかに、というふうにうなずいたが、来哲を見る趙雲の目線には、まだすこしばかり警戒心が残されている。
「なぜか気になるのだ」
みじかくこたえる趙雲に、来哲は答えた。
「それはそうだろう。その男こそ、現国王の劉玄徳十六世だ」


※昨日はぎりぎりのアップとなりまして、申し訳ありませんでしたー(>_<) 今日は最終回+おまけのアップとなります。なるべく早めにアップしたいと思っています(^_^;) 今日は雨ですね。あとすこしだ、がんばって行こうっと。

2007年5月18日(金)
流砂の絶佳 四十七

「劉玄徳?」
「十六世?」
鸚鵡返しにして目をぱちくりとさせる二人を、来哲はおもしろそうに見やりつつ、答えた。
「ああ、そうだ。まずは喜んでくれ。中華という国は三すくみのまま、えんえんとつづいたのさ。あんたらの蜀漢(シューハン)は現世にいたるまで滅びず、途中で革命が起こったりクーデターが発生したりしたが、『流砂の絶佳』と名前がかわってもなお、実質上はつづいている。
歴史書によれば、なんだかんだとちいさな揉め事はたびたびおこったようだが、国の歴史にぴったり沿うようにして、劉王族と、馬王族も代を重ねて、たがいに婚姻をくりかえしながら、いまにいたるまで国家の中心として存在している」
「待て。劉王族というのはわかるにしても、馬王族とは、どういうことだ」
「おや、蜀漢が滅びない、というところはあまり喜んでくれないようだな」
来哲がからかうようにいうと、孔明は、むしろ胸を張って答えた。
「あたりまえだ。わたしの国だ。わたしだけではない。有能な士が、こぞって作った国だ。残らぬはずがない」
「そいつは失礼。五十年ともたずに滅んだ世界もあるのだが」
「なに?」
「いや、聞き流してくれ。さっきのあんたの質問に答えよう。馬王族というのは、三代目の国王の従弟を始祖にもつ、劉玄徳の血と、馬孟起の血をひく王族のことだ」
そのことばに、孔明と趙雲は思わず顔を見合す。
「よろこんでよいのかな」
「いいだろう。馬孟起が漢と周辺民族の宥和に、みずから買って出た、ということだろう。おまえの策ともみごとに一致する」
「たしかに。疲弊しきった漢を三つの地域にわけて、それぞれ力を拮抗させながら国力を回復させるのがわが策だ。
ただし蜀はとくに周囲を異民族にかこまれているので、かれらとの宥和こそが大事だ。だからもろもろの民族に、それぞれ和平の使者をだし、講和を持ちかけているのだ。かれらとの関係が良好なうちは、蜀の地に揉めごとは起こらない。で、三つのうち、もっとも安定した国力をもつところが、ふたたび漢の中心になればよい」
「ま、それが『俺らの世界のあんた』の天下三分の計だな」
来哲のことばに、孔明は思わず眉をしかめた。
「さきほどから、なにか気になることばがつづくが、ここは未来なのだったな。わたしの策は、つまりうまくいったと見てよいか」
「ま、うまくいった。というより、うまくいきすぎた。あんたの時代に、奇跡としかいいようがないほどに、蜀という国は、国家としての基盤が磐石なものになる。
あまりにそれがしっかりしすぎていたために、三すくみ状態はずーっとつづき、いつしか、それが『常態』になっちまったのさ。あんたからすれば、そんなはずじゃなかった、というところじゃないかい」
来哲のことばに、孔明はしばらく腕を組み、まさに公園のハトにたかられている彫像そっくりに顔をしかめていたが、やがて答えた。
「いいや、それで平和が保たれているというのなら、わたしはわたしの策にこだわらぬよ。むしろ、わたしの、世に早く平和をもたらしたいという志を、後進が受け継いでくれたものと、心強く思うが」
「それでこそ、諸葛孔明、さすがだね」
口調こそ軽いが、来哲はほんとうにそう思っているらしく、歩きながら、この世界での敬礼のまねごとをしてみせた。
と、来哲は顔をあげて、蒼穹をにらみつける。
なんであろうかとつられて抜けるような青空を見上げた孔明と趙雲、ふたりの目に、ふわふわと、どこか力強さの足りない加減で、黄色い魚のようなものが隊列を組んでいるのが見えた。
「噂をすればなんとやら、王族だ」
と、来哲は、その短いことばのなかに、まるで尊崇の念をにじませずに言った。


※なにやら午後から鼻がむずむずしてたまりません(>_<)アレルギーでありますように。風邪でないように~。みなさまも身体には気をつけてくださいませね。うう、ティッシュどこー?

2007年5月19日(土)
流砂の絶佳 四十八

孔明と趙雲は来哲から与えられたチップによって、連れてこられた世界についての知識を得ているのであるが、それでも、はじめて目にした鳥以外の空飛ぶものに呆気にとられた。
翼をもたない、レモンイエローに塗られたダニのような、どこか滑稽ではあるが、奇怪にはちがいないその飛行物体をぽかんと見上げていると、ぽーん、と鼓膜に響く音がして、町のあちこちから、Belinda・Oと同じ低めの女の声で、こんなアナウンスが聞こえてきた。

『流砂の絶佳の市民のみなさまへご連絡いたします。
ただいま、国王陛下が行幸から成都へもどってこられました。
市民のみなさまは、なるべく外へ出て、偉大なる指導者・劉玄徳十六世さまをお出迎えしましょう。
特に用事のない方で、出迎えに参加されない方は、後日、当局に、詳細な理由を記入した『不参加始末書』を提出しせていただくか、罰金10万クロー、あるいは実刑禁固三ヶ月の処罰の対象となります。
くりかえします、ただいま国王ヘいかが行幸から成都へ戻ってこられました。
市民のみなさまは、なるべく外へ出て、偉大なる指導者・劉玄徳十六世さまをお出迎えしましょう』

ぽかんと空を見上げながら、孔明は、となりの、冷めた目で見上げている来哲にたずねた。
「行幸とは?」
孔明の問いに、来哲は、空を見上げたまま、こたえた。
「国王陛下の趣味は狩りなのさ。ああして、取りまきや息子たちを飛行船で連れて行っちゃあ、流砂の絶佳の周辺地域へでかけている」
「周辺地域? となると、そこは領土ではあるまい」
「そうさ。領土じゃないから問題なのさ」
「とくべつな獣でも追っているのか。ほら、たとえば虎なんぞも、あちこちにいる獣ではないから、狩りをするにしても、遠出をするであろう」
趙雲がいうと、来哲は首だけ動かして、何度か左右に振った。
「そいつは、あとで説明するよ。いや、説明するまでもないかな」

来哲のことばをふしぎに思っていると、黄色い飛行体は、ぴたりと停まった空から、ゆっくりと、しかし確実に孔明たちのもとへと垂直に降りてくる。
空に浮いているときは、その丸まるとした奇妙な形状のほうが印象がつよく、大きさをあまり感じさせなかったのであるが、降りてきた飛行体は、孔明たちがいる通路や、公園を多い尽くすほどの大きさであった。
不意に、なにやらなつかしさをすこし感じさせる声が、空に響き渡った。

『あー。テステス。本日は晴天なり、本日は晴天なり。いや、本日も、か? 
国民諸君、お騒がせして申し訳ない、余はみなに愛されし国王劉玄徳十六世なるぞ』
いったいだれに声をかけているのかと孔明が周囲をみまわせば、公園でくつろいでいた人々が、黄色い飛行体にむかって、なんとなくおざなりな雰囲気ではあるが、手を振っているのだ。
『そこにいるのはクロノス機関のエウゲニー・バルエフスキーか? ファ参謀総長からの報告によれば、われらが敬愛せし高祖に仕えし伝説の魔法使い・諸葛孔明が来臨していると聞いたが、まことであるか』

「は? 魔法使い? だれだ?」
うろたえる孔明をよそに、飛行体の腹の部分がぱかりと開いて、それこそ魔法のように、赤い絨毯の階段が、地上までするすると降りてきた。


※ちょっと風邪なはさみのです。祭だというのに、大雨だった仙台。なんて間が悪いんだ。そういうところも含めて仙台らしいなあ。ところで国際音楽コンクールがはじまりました(^^♪ どんなふうになるかしらん。楽しみだなー。

2007年5月20日(日)
流砂の絶佳 四十九

赤い絨毯の階段から、丸いボールが転がってくる、と錯覚した孔明であるが、しかしそれが近づくにつれ、人間なのだということがわかった。
人間がここまで太れるのかと感心するほどに、太った男である。体型はほぼ球に近い。頭と足のことを考えると、ボールよりたまねぎに似ている。
「おおおおおお!!」
奇声を発して男は地面に降り立つと、孔明を見るなり、その周囲をぐるぐるとまわりはじめた。
男は、体型のわりには背丈はちいさい。孔明の肩ほどしか慎重がないのである。
プロマイドに映っていたころよりも、もっと太ったのだということが、実際に本人をまえにしてみれば判る。
顎と首の境目がなくなっていて、肉の首飾りをしているようだ。
顔も肉に埋もれている、というふうであるが、しかし目だけはきょろりと大きく表情ゆたかで、この人物の特異さを雄弁に物語っている。
異様にぎらぎらした光を宿した双眸なのだ。

なるほど、プロマイドよりも、もっと主公に似ているな、と思った孔明であるが、落ち着きのなさにはあきれた。
自分の周囲をぐるぐるまわっている男の年齢は、あきらかに五十を越している。
孔明も、そのとなりにいる趙雲にしても、劉玄徳十六世に対し、対応に困りつつ、黙って様子を見ている。
国王のほうはといえば、うれしそうに興奮して孔明のまわりをぐるぐる回っていたのであるが、やがて飽きたのか、ぴたりと動きをとめて、孔明の正面に立った。
そして、頭にかぶっていた、ちいさなふちのない帽子を取ると、西洋ふうの、
ていねいで優雅なお辞儀をしてみせた。
「ごあいさつが遅れましたな。劉玄徳十六世と申します、われらが偉大なる魔法使い。
わが朝の危機にあって、こうしてご来臨してくださったとは、感激のきわみ。民にかわって礼を申し上げます。
どうぞこの国を、貴方様がたの生まれ故郷と思って、ゆっくりお過ごしくださいませ」
「丁寧なごあいさつ痛み入ります。しかし陛下、おことばを返すようではあるが、わたしをどなたかと間違っておられるのではないでしょうか。
わたしは魔法使いなどではございませぬ」
孔明のことばに、きょとんと驚いた顔をしてみせる国王。
子どものような顔だと思う反面、その相貌のそこかしこに、この人物のもつ狡猾さ、猜疑心のつよさなども読み取れてしまう。

いや、それより魔法使いとはなんなのだ、と孔明がちらりと来哲のほうを見れば、来哲は、国王のほうではなく、国王が乗っていた飛行船のほうを気にしている。
孔明もつられて顔をあげると、黄色い飛行船から、稚魚のようなちいさな飛行船が出て行くのがみえた。どうやら運送用のものであるらしく、じっと見つめていると、荷台のなかにはたくさんの人が蠢いているのが見えた。
どれもちいさな船のかなに押し込まれている様子である。
来哲が苦々しく答えた『狩り』の意味を、孔明は理解した。


※いいお天気でしたねー。関東のほうも晴れていたようですね。いやはや、斉藤ゆうくんの『調子が悪かった』といいながらの好投、この子の精神力には尊敬してしまう。見習わなくちゃと思いながらの日曜日でありました(^_^;)

2007年5月21日(月)
流砂の絶佳 五十

孔明が柳眉をひそめると、それは国王にも伝わったらしく、国王は、巨体にくらべればちいさな手足をばたばたとさせて、言った。
「おお、すっかり忘れておりました。魔法使いさまにお教えせねば! 今日も狩りで、見事な成果をあげることができたのでございます。今日は百人ほどでございます」
「百人というと、あれは人でございますか」
孔明の口調には棘があるのだが、国王は無頓着に、ほこらしげにうなずいてみせた。
「わが国土にたびたび侵入し、テロを行おうとする不届き者どもでございます」
「どうなさるのです」
「昔は収容所に送っておりましたが、いまは人口も減る一方で、むやみやたらに人を殺しては、国際社会の批判を浴びまする。
そこで、かれらを脳科学研究所に送りまして、生れ変わらせて、労役につかせることにしております」
「脳科学」
「つまりは、外科手術を受けさせて、わが国民としてふさわしい落ち着きと、従順さを身につけさせてやっているのです。
そのおかげで、わが国『流砂の絶佳』は、他国にくらべて犯罪率も低く、労働力が十分にございますので、世界でもっとも美しい砂漠の宝石と呼ばれているのでございます。
そも、この国がシューハンから『流砂の絶佳』に変わりましたのも、徹底した衛生観念を我輩をはじめとして、国民ひとりひとりが身につけているからこそ。
国民への教育が徹底しているのも、やはり他国とくらべて余裕があるからにほかなりません」
「待たれよ、つまりはこの国は、王がみずから狩られている奴隷の力によって、美しさが保たれているとおっしゃるか」
「奴隷ではございません。かれらはすすんで脳科学研究所へ向かうのです」
「収容所に送られた者に自由があるのですか」
「いいえ。ただ担当官が、ニ拓を迫るだけでございます。
野蛮な異邦人として収容所ですごすか、それとも教化されたわが国民のひとりとして過ごすかと。
後者をえらんだ場合の条件が、脳科学研究所行き、というわけでございまして」
「その条件は、いつ知らされるのです」
「収容所を出たときに」

孔明は、おもわず趙雲と顔を見合わせた。
チップで得た知識から、国王が平然と、おそろしく非人間的な行為を語っていることが理解できる。
つまり、国王みずからが奴隷を得るために、テロ撲滅というお題目のもと出かけ、異国民を狩っている。
そして、かれらを従順にさせる方法として、脳の外科手術を強制的に受けさせて、人格を破壊して、さらにこれを使役しているというのだ。
こんな人物が、劉玄徳という、『人の心のうえに志を立てたい』と願う男の子孫だと思うと、孔明は唖然とするほかないのであった。

※今日は一日早かったなー。もう九時ですね。五月も残りわずかとなりました。アップの予定はまだたっておりません。決まり次第お知らせいたします(^^ゞ