● おまけの広場 ●
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2007年5月12日(土)
流砂の絶佳 四十一

趙雲は孔明の馬車から離れると、自分は自邸のほうへと向かった。
この世界に召喚されてから、すぐにおのれの屋敷の様子を見に行ったが、安堵したことには、おのれの昔と、ほとんど差異がなかった。
大きな厩舎もそのままだったので、趙雲としては、なつかしい馬たちに会えるのがいまからたのしみである。
孔明の屋敷に身を寄せるにしても、すこしは厩舎に顔を出す余裕もあるだろう。

にぎやかな大路からはなれ、自邸につづく細い道にさしかかったとき、趙雲は、馬の足をとめた。
すると、それを追い越すようにして、背中に籠を背負った農夫ふうの男が、かるく趙雲に目礼をして、脇をとおりすぎていく。
「おい」
趙雲が声をかけると、男はびくりと身をふるわせて、ふり返った。
「なにかあたしに御用でございますか」
「逆に聞きたい。俺に何の用がある」
すると、男は、笠のしたの顔をおどろきでゆがめた。
「なんのことでございますか」

とぼけるのがうまいなと、趙雲は変なところで感心をした。
顔をまじまじと見るが、知っている顔ではない。
とはいえ、襲われた瞬間に、すぐさま斬ってしまった刺客もいるから、こいつはそのなかの一人だったのかもしれないな、とも考える。
せっかく平和な三国時代(まさかそんなものが存在するとは、孔明から仕事の話を聞かされるまで、想像もしていなかったのだが)に召喚されたのであるし、こいつも物騒な仕事をしているとはいえ、あまり手荒な目にあわせたくない。

「俺に嘘は通じぬぞ。おまえは平西将軍の屋敷から、ずっと俺たちをつけてきた。そして、俺と軍師がわかれたとき、おまえはすこしためらって、それから俺のほうを選んでついてきた」
「…………」
「想像するに、軍師よりも、俺のほうが危険性が低いと判断したからではないか。ということはつまり、おまえは平西将軍の屋敷で、俺たちのしていたことを見ていたのだ」

すると、男は、それまでの戸惑いの表情を消し、顔をきびしくして、趙雲のほうをまっすぐと見据えた。
顔の細長い、泥鰌ひげの男である。だが、目は猛禽のようにするどい。
「なら、こちらも単刀直入にたずねる」
と、男は乾いた声で言った。
「あんたたちは何者だ。諸葛孔明に見えるあの男が手にしていたものは、なんなのだ」
「それには答えられぬ」
趙雲がいうと、背中の荷物を無造作に地面に落とし、つま先をじり、と趙雲のほうに向け、拳をかまえた。
「教えられぬというのであれば、力づくで聞くまで!」
いいざま、男は地を蹴って、鷹のように飛びかかって来た。


※なにやら晴れているのに冷えますね(^_^;)ここは仙台。ちょっぴり北国。それはともかくとして、アンケートにご協力くださった方、ありがとうございます。コメントも楽しく拝見させていただきましたー(^^♪ こちらの結果もアップしていく予定ですので、どうぞお楽しみにー。でもって、まだまだ投票受け付け中です♪ 本日は二本立てで早めの夜のアップを目標にしています。どうぞお越しくださいませm(__)m

2007年5月13日(日)
流砂の絶佳 四十二

馬上から落とすためであろう。
男はおどろくべき跳躍力でもって、趙雲に向けて蹴打をあびせようとする。
しかし、アストラルである趙雲には、そのうごきは、男がいかに高い調練を積んでいようと、まるでスローモーションをながめているかのように、ゆっくりとしたものに見えた。
男の蹴りを馬上にて難なくかわし、同時に肘でもって蹴りをうけて、そのまま反動をつけて跳ね返す。
ふつうならば肘の骨が折れてしまうところであるが、そこもまた、只人とはちがうゆえに、打撃をまったく受けることはない。
男は激しく地面に打ちつけられるが、仰向けの姿勢で、なんとかして起きようと
身体を動かす。
趙雲は、その鼻先に向けて、槍の穂先を突きつけた。

「い、いつのまに?」
男が狼狽するのも無理はない。
趙雲は、たしかに武装していたものの、槍は最前まで手にしていなかった。
武器といえば、腰にさした剣だけだったのである。
もちろん、あらわれた槍は、霊力によって瞬時に生み出した槍である。
「せっかくよい世界に生まれたのだ。命を粗末にするでない。
おまえの主につたえよ。俺と諸葛孔明には手をだすな。おまえたちがいかなる手段を用いようと、いまの俺たちには決して敵わぬ」
「思い上がりは足元をすくわれますぞ!」
低くうめく男に、趙雲はさらに言った。
「思い上がりではなく、事実を告げたまでのこと。
おまえは魏か、呉か、それとも尚書令より雇われたものか」

尚書令の名が出たところで、男の頬がわずかにぴくりと動いたのを、趙雲は見逃さなかった。
わずかな変化であったから、趙雲が只人であったら、見逃していたかもしれない。
いま見逃さなかったのは、圧倒的に優位なため、冷静に観察眼がはたらくためである。

「尚書令か。なにゆえ俺たちを尾行する?」
「あんた方を見張っていたのではない。平西将軍を見張っていたのだ」
「なるほど」
趙雲はだいたいの見当をつけた。
この世界においても、尚書令である法正の力は孔明を上回る。
いや、自分たちの時代よりも、法正のほうがつよい(なにせ入蜀が平和に行われたために、法正が思うさま政敵を屠る機会がなかったので、世間の評判も落ちずに、人気も上々。皮肉にも、かえって権勢を多くふるえるようになったのだ)。だから孔明をいちいち見張る理由はない。
むしろ、法正は、馬超を警戒しているのだ。

※昨日はたくさんのご訪問ありがとうございました(^^)/ こうなると調子に乗ってくるのがワタクシ。さて、今週のアップは平日に二回できたらなー、などと思っていますが、さあてどうなるか? 一回目の状況で出来るか否かわかるかと思いますので、そのときまたお知らせさせていただきます(^^ゞ

2007年5月14日(月)
流砂の絶佳 四十三

「平西将軍が、大恩をわすれて蛮族どもと呼応し、謀反を起こそうとしていることは、左将軍府とてつかんでいるはずだぞ」
男がいうのを、趙雲は、なるほど、と納得しつつうなずいた。
「あやしい動きを見せているのは知っている。この世界の三国時代は、漢族にとっては、すこしばかり情勢が不安定な時代だが、周辺諸民族には、あまりいい時代ではなかったのだったな。
漢が乱れていることを見てとった異民族同士が手を組んで、独立をねらって兵を起こしたのだったが、あっさりと国内がおさまって、三国鼎立がなってしまったため、すばやく反撃されてしまい、異民族の同盟は瓦解したのだった」
「なにをいまさら。そのようなこと、子供とて知っておるわ」
「そういうな。いまのは俺がおさらいしたかったのだ。
異民族同盟の長としてまつりあげられていた馬超は、曹操と袁紹の軍に大打撃を受けて、そのままわれらを頼って逃げてきたのだったな」
「曹操が、なんとしても馬超の首をよこせと申し入れてきたのを、袁紹側に大量の賄賂を贈って、曹操にとりなさせる、という策を主公に献じたのは、わが主人であるぞ! 
おかげで馬超は生きながらえたのだ!」
うんうん、と趙雲はうなずきつつ、答えた。
「じつに尚書令らしい、実効性は高いが俗っぽい策だ」
「わが主人を莫迦にするな!」
と、男が槍の穂先にもかかわらず、くってかかってこようとしたので、あわてて趙雲は槍を男から離すと、素直に言った。
「すまぬ、莫迦にしたわけではなく、なにやらなつかしくなっただけだ」
「なにを言うか。年寄りでもあるまいに」
「見た目はこれだが年寄りは年寄りかもしれんな。なにせあと百何十年かで二千歳だ。
それはともかく、尚書令に伝えよ。われらは貴殿の敵にあらず、とな。そちらが仕掛けてこないかぎり、俺たちもおまえたちには関わらぬよ」
「信用できるか!」
「してもらわねばならん」
と、槍の柄で、肩をたんとんと叩きながら、趙雲は言った。
「馬超の動きをひきつづき見張れ。ただし、馬超本人を容易に敵と見做すな。あれは人がよすぎるので、大人数から頭を下げられると、いやとはいえない性格なのだ。
そこをつけ入られて、ふたたび同盟の主に祀り上げられようとしている」
男は、尻餅をついた姿勢のまま、絶句した。
「なんと、左将軍府は、そこまでつかんでおったか!」
「つかんでいたというか、なんというか。ともかく、馬超に害をなしてはならぬ。その後の歴史がかわってしまうからな。
馬超の動きはわれらが止めるゆえ、おまえたちは、われらがよしというまで傍観しているがよい。馬超の背後にいる者には、おまえたちは決して敵わない」

※次回、キツネのおはなしです。今日はすばらしい五月晴れ(^^♪ 会社に行きたくなーい、ってな気分もなくなるほどです。おー、やる気が出てきたぞ~!(^^)! 次回のアップはずんだ関係を予定しております。いつになるかは、もう少々お待ちくださいませ(^^ゞ

2007年5月15日(火)
流砂の絶佳 四十四

「なんと、趙子龍が、そのような不遜なことを申したというか!」
法正は、それこそ歯をぎりぎりと噛みしめ、怒りのあまり、だんだんと足を踏み鳴らしながら、細作の報告を受けた。
「なーにが、決して敵わない、だ! たかだか翊軍将軍のくせに! 
おまえもおまえだ! なぜにそのまま『ハイ、そうですか、伝えます』と素直に帰ってきた!」
細作の男は、法正の剣幕に、すっかり身を縮めながら、答えた。
「申し訳ございません、ご主人様。趙子龍はもともと腕のたつ男でありましたが、今日は、なんといいましょうか、格段と腕がすさまじかったのでございます。おそらく再度、攻撃をしかけておりましたなら、わたしの首は胴と離れていたでしょう。
しかし、わたしは、平西将軍の屋敷で見たことを、なんとしてもご主人様におつたえせねばと思いましたので、悔しいながらも、身を引いたのでございます。なにとぞ、その心情を汲み取りくださいませ」
「ふん、わたしは井戸の水を汲み取ることもきらいだが、人の心を汲み取ることも苦手ぞ、面倒だからな! わたしは面倒はきらいなのだ!」
「そこをなんとか!」
「なんとかもかんとかもないわい!」
怒鳴りつつ、法正は、顔を茹でたタコのように赤くしながら、どっかりと椅子に座った。
「しかし面妖な。諸葛孔明は、平西将軍の家人になにをしていたのであろう?」
「まさに妖術のようでありました。騒ぎ立てている家人に、軍師将軍が袖にかくしたなにかで煙を吹きかけますと、とたんに大人しくなるのです。
それはもう、おそろしいほどの効き目でございました」
「あやしい、あやしいと思っておったが、やはりあやつは人間ではないのかもしれぬ」
「ご主人様もそう思われますか!」
「冗談ぞ!」
「申し訳ございませぬ。いますぐ笑います!」
「笑わずともよい! ええい、どいつもこいつも。盗賊騒ぎ以来、すっかり笑いものであるし、いいことがちっともないわい。
時の翁の社にたっぷり供物をはこんでおるのに、ちっともご利益がない。なぜだ!」
「ご心情、お察しもうしあげます」
「いらぬわ! しかし状況がつかめぬ。平西将軍の屋敷に、二人の諸葛孔明と趙子龍が入っていったというのだな? 
そして、平西将軍が招いていた蛮族の長たちは、二人目が入っていったあと、忽然と姿を消した、と」
「隠し部屋があるのかもしれませぬ。軍師将軍に踏み込まれたことで、蛮族どもを平西将軍がかばった可能性はございます」
「たしかに、平西将軍は意外に知恵がまわるからな。
よし、引きつづき、平西将軍の屋敷を見張れ。ただし、人数は増やせ。それと、軍師将軍と翊軍将軍のところにも」
「はっ。あのう、お咎めのほうは?」
「たわけもの! わたしは面倒がきらいだと申しておったであろうが。一部始終を見ておったのは、おまえだけ。おまえがいなくなったら、だれが状況をみなに説明するのだ。
よいか、おまえがみなを指揮し、今日のことは挽回してみせよ」
「ありがとうございます! かならずや!」
じわりと感謝の涙を目に浮かべる細作の姿に、ふん、とつまらなさそうに鼻を鳴らす法正。
この世界においても、法正は、やはり身内にはやさしいのであった。


※次回、お話はバルさん側にもどります。雨だという予報ですが晴れている仙台であります(^^♪ 早起き効果が少しずつあらわれているようでして、つづけなくちゃなーと思う次第。いや、それより、ハイ、アップですが…まだ目途が立ちません(>_<) 鋭意準備中。もう少々お待ちくださいませ~(^^ゞ

2007年5月16日(水)
流砂の絶佳 四十五

孔明と趙雲の前には、ひとりの男のプロマイドがある。
でっぷり太った男であるが、その目じりは下がり、唇もうっすらとやさしげな笑みを浮かべている。
孔明はそれを見て、ちいさく眉をひそめた。
となりの趙雲はというと、同じく、感心しない、という表情を浮かべている。
来哲こと、エウゲニー・バルエフスキーはそんな二人を、興味深そうに見つめている。
どうやら、どんな反応がかえってくるか、だいたいの想像はついているようであった。

男の耳はたいそうな福耳で、耳たぶがたっぷりと大きかった。
みごとに整えられた口ひげは、くるりと器用に上に跳ねられており、それが当世の上流階級の流行なのである。

「すこし、主公に、似ている、かな?」
孔明が慎重にことばを選びつつ言うと、趙雲もそれに同意した。
「そうだな、輪郭はだいぶ崩れているが、目じりの雰囲気や耳が似ている。
だが太りすぎだぞ。どうしたらこれほどに太れる」
と、怒りのこもった声で、趙雲は言った。
古代の人間からすれば、その男の肥満の度合いは、理解しがたいものであった。趙雲は、、民草が粗食で労働に耐えているというのに、どれだけの食糧がこの男の胃袋に消えたのかと憤りすらおぼえているのである。

いま、三人は、『流砂の絶佳』の首都の、さらに中心部のなかにいる。
天と地が、黄土色と青とにいさぎよく分かたれているこの世界の中にあり、三人のいる建物は、ところどころに太陽と時計を重ねて具象化した紋章が彫りつけられている。
ドームに守られた緑地のほかは、ありとあらゆるところに砂の堆積した街は、緑を守りあうようにして、ドームを中心に街が形成されている。
砂が建物に堆積するのをおそれ、凹凸のない壁面をもつ建物が主流であり、その前面を、さらに砂の付着がしにくいように加工された特殊ガラスが覆っている。建物ばかりではなく、道のすべても同じようにガラスに覆われているため、俯瞰してみる街の光景は、透明な人間の内臓をながめているかのようである。
建物の内部はコンピューターによって空調が整えられており、市民は、決められた時間でなければ、ガラスに覆われた世界から外に出ることはゆるされていない。

「あれは?」
直射日光をやわらげる効果ももつガラスに覆われた道の内部は、コンピュータによる空調管理がなされているため、熱すぎることもなければ、寒すぎることもない。
バルエフスキーを先頭にして歩く孔明は、道の途中に見えた公園(これもまた、ドームに覆われた、大きな植物園のような地域である)の中央にある彫刻に目をとめた。
なにやらどこかで見たことがある姿をしているのである。

※今日はアップを予定しておりますが、夜になるかと思います。リクエスト作品の後編を、と思って作っておりましたが、思った以上に長くなった…(いつものことながら)。校正のことも考えて今日、明日と分けてアップする予定です。お時間のある方、遊びにいらしてくださいませ(^^♪